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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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39【三人組、街道を行く】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 ゴトゴトゴト

 冒険者ギルドでレンタル幌馬車は冒険者ギルドを出発した。

 一番初めの馭者はスボール。


「おう、悪いな商業ギルドよってくれよ」

 出発したときはギルマス自らお見送りだった。

 大げさだし目立つからやめてほしいけど。


「わかってます」


 荷馬車だからシートはないけど、人が乗るなら荷台の中は定員四人。さらに馭者席を足すと六人乗れる。


 三つの余った座席に、方角が合えば相乗りをさせてあげるシステムだ。そうすると、馬車のレンタル料が割り引かれる。

 今回は料金の問題ではなくて、俺達が子供だからこそ、相乗りする相手は子連れか女性だけの一般の人だ。

 その人達が商業ギルドや冒険者ギルドで待っているんだよね。


 今回は商業ギルドで一人の子連れの女性を拾うことになっている。


 この相乗りは、日を跨いでまではない、夕方までに降ろして、次の日にまた希望者が待っていれば乗せる。


 商業ギルドは、冒険者ギルドより宮殿寄りにある。

 ソッチのほうが銀行や商社などが揃っているからだ。


 ギルドの構えも、冒険者ギルドみたいな荒くれ者がおおい建物とは違って、都市的で整っている。

 地方のギルドに行けばまた様子は変わるけどね。ここは王都だから。この国で展開している商業ギルドを統括している部署でもある。


 その商業ギルドの前で停まって、俺が相乗り者を迎えに行く。


「おはようございますー、街道の相乗りお迎えに来ました」

「ご苦労さまです、こちらお二人です」

 キリッとした女性が示した先には二十代の女性と三歳ぐらいの女の子。親子かな。よく似てる。


「おはようございます。私はリエージュ、この子は娘のピアナです」

 お母さんのスカートの後ろに隠れている。

 うん、人見知りのお年頃だよね。


 俺はかがんで彼女の目線に合わせる。


「俺は冒険者のリーン、よろしくね」

 手を出すと、おずおずと出してきたので握手。


「じゃあ、行こうか、大きな荷物はそれだけですか?」

「はい」

 お母さんの足元には大きなトランク。肩から斜めにも、もう一つ下げている。

 ピアナちゃんも小さなカバンをたすき掛けにしている。

 この子を連れてこのトランクじゃ、手を繋げなかったのじゃないの?カバンの紐でも掴ませてたのかな。



 でも、俺なら片手でひょい⋯おっと魔力強化。結構重いぞ。


「わあ、リーンお兄ちゃん力持ち!」

「そりゃあ冒険者だから!

 じゃあ行こうか」

 もう一度手を出す。


「うん!」


 左手でピアナちゃんと手をつなぐ。


「まあまあ」

 

「リエージュさん、大きい方のお荷物は馭者席の下に置きますけど、いいですか」

「はい」


「おはようございます、自分はアズールです。馭者席にいるのはスボールです」

「おはようございます」


「おはようございます」

「⋯ます」


 アズールが中から手を出してリエージュさんを引っ張ってピアナちゃんも乗せている。


「この上に座ってね」

 野宿用のマットレスを丸めてその上にカバーを掛けてシートにしてある。

「ソファーみたい!ふかふか!」

 ピアナちゃんがその簡易シートに座って、下げていたカバンを膝に乗せる。

「その上に、このクッションを乗せてね」

「上に?」

「ピアナちゃんが小さいから飛んでいかないようにね」

「⋯でもだめなの」

「どうして?怪我しちゃうよ」

「でも⋯⋯」

 とカバンを撫でる。


 にゃ


「もしかしてそこに何かいるの」


 あからさまにビクッとしている。そしてお母さんの方を見る。

「あのね、この子も乗せてくれる?」


 カバンから出てきたのは、ミルク色の猫だった。

「おや、可愛いね」

 手足と耳と鼻先が淡いセピア色のシャム猫美人さん。


「にゃあにゃあ」

 話しかけてみる。通じるかなって思って。

“おれはリィン、君の名前は?”

 すると、



 にゃあん

“あたしは、シャーってよばれてるわ、リィン”


「にゃあ」

“シャーさんね、よろしくね”


「え?リーン、会話してる?もしかして」


「もちろん、この子はシャーさんだね」

「そうよ!お兄ちゃんはシャーとお話できるの?」

「そ!俺のスキルなんだ」

 なにしろ黒猫時代の記憶も残ってるもん、もちろん。


「まあ!」

 

「じゃあ、シャーさんには窮屈だけど、簡易ハーネスをつけてもらって、荷台でゆったりしてもらおう。カバンの中も好きだろうけど」


「にゃー」

“いいよねシャーさん”


“もちろんよ”

 にゃーん


 手持ちの荷物から、俺の三つ編み用の柔らかそうなリボンと紐を出す。

 リボンはまだ切ってないから巻で持っている。


 首を締めるのでなく、両脇から背中でたすき掛けにリボンをかけて、背中の真ん中で紐をつけて、荷台の金具とつなげる。


「これで、ピアナのクッションの上にシャーさんが座ればおっけーだね」


「うん!」


「じゃあ、出発しますよ、リエージュさんも座りましたね」

 馭者席からスボールの声。

「はい!」


「では出発!」


 王都は広く、ここから外壁まで行くだけで一日かかる。だから一泊目はまだ王都の端っこの街で泊まる。



「シャーさんはいくつ?(にゃー)」

“四歳になるわ(にゃー)”

「じゃあ、君のほうがピアナよりお姉さんなんだね(にゃにゃーん)」

“そうなのよ(にゃー)”


 久しぶりに猫との会話が楽しくていつの間にかシャーさんを俺の膝に乗せていた。


「リーンお兄ちゃん、シャーと何を話しているの?」

「うーん、ピアナよりシャーのほうがお姉さんなんだって?」

「そう!」

「本当に会話していたのね」

「ただ、鳴きあって遊んでるのかと思った」

「まさか、ねえ、|ちゃんと会話してるよね《にゃにゃー》」


 頭を撫でる。けどもう返事がない。


「あれ?しゃー、ねちゃった?」


“|この揺れは眠くなるわね《にゃー》”

「そうだね(にゃー)」 


 一時間経って、馬の休憩を入れる。

 スボールが馬車を小さな噴水のあるところへ寄せる 。

 噴水の傍らには、同じような馬に使える桶があった。


「ちょっとまって」

 俺は荷台を飛び降りて、桶を簡単に水洗いしながら、噴水の水を入れるふりをして魔法の水を貯める。


 大昔、こうやって街角の泉の水を飲ませて、腹を壊した馬がいたんだよね。

 念のためにさ。


「よし、飲んでいいよ」


 ブルルル


 皆には樽の水をコップに入れて渡す。この樽の中も、煮沸してから魔法の水を入れている。

「リーンは馬の言葉もわかるのか?」


「まさか、猫だけだよ」

「ねこちゃんだけなの?わんちゃんは?」

「むり⋯あれ?ピアナちゃん、酔った?顔色が悪いね」

「うん⋯う⋯」

 口を抑えている。

「あら大変、トイレに行くついでにスッキリしてきましょう」


 噴水の横にはマルシェ用の公衆トイレがあった。

 そこに行く母子。


「俺も行ってこよ」


「自分も」


 ってアズールが連れションを宣言したときに、嫌な匂いが鼻をくすぐる。


 くん


 これは、帝国の武器の中に入ってる火薬の匂いだな、破裂反応する前の。

「どうした?リーン」

「しっ、ちょっとまって、アズールとスボール、身体強化を全身にかけといて」

「え?あ、ああ」


“どうしたの?(にゃー)”


 紐に繋がれたまま荷台に顔を出すシャム猫。


「|ピアナたちを見守ってて《にゃー》」

“わかったわ(にゃー)”



 シャーから紐だけを外すと、リボンを付けたままトイレの方に跳んでいく。


「なあ、アズール、俺がこめかみを掻いたら思いっきり突き飛ばしてくれない?」

「は?そんな事できないよ」

「いいから!

 うーん、命令だったらする?」

「う⋯わかった」


「じゃあいくよ」


 件の匂いがする男がわかった。

 そいつが俺の後ろを通りがかったタイミングでこめかみを掻く。


「うぉー」

 掛け声いらないよ!


 ドンッ


 その割には弱いんだから!


 でも俺はわざと大きなアクションをつけて男の方に向かってよろめいていく。


「わわーっ」


 ドッシャーン


「おっと、痛ってー何するんじゃこのガキ!」

 押し倒しちゃった。わざと。


「わわ、ごめんなさい!」

 って言いながらそのおっさんの脇腹を抑えて立ち上がろうとする。


「なに?僕大丈夫?」

 一人のおばさんが声をかけてきた。


「大丈夫です⋯俺達に構わないで」

 

 叫びながらも別な方に集中を。

 服越しに確認できた、硬い、覚えのある形状。


「おっさん本当に悪いね」

 と言いながら羽交い締めにして自由を奪う。



「な⋯なにを!って動けん。離せ。クソっ」


 謝らなければいけないのはこのおっさんだがな。


「アズール、こいつの脇腹のポケットから武器を出して」

「脇腹?なんだ?上着の中か⋯あった、これだな」


「さ、触るな!

 何だこのガキのくせに力が」

 体をジタバタさせているけど、拘束している俺の腕は緩まないよ。


「⋯これは!帝国の武器。

 おっさん、なんでこんな物もってるのかな、王都で」

 アズールは俺の意図を組んでくれたんだね。


〔まあ、あんな物もってるのね〕

〔あれなに?〕

〔あれは帝国の武器だ〕

〔恐ろしいものなんだ〕

〔だが、あの子供つよいぜ〕


 ギャラリーにもこのやり取りを見てもらっている。


「そう!持って来ちゃだめなんだぜ!これ。この国には」


 我がランデルソール王国ではこの武器の持ち込みを禁止している。

 だけど、俺みたいに動物並みに鼻が利かないと、隠して持ち込んだものは見つけにくい。

 この武器は他のものと違って小さいからね。


「誰か、詰め所から騎士を一人呼んできて!」



 スボールが周りの人に助けを求めている。

 緊急事態にはそうするように訓練されているのだ。


「なんだなんだ」

「あ、ちょうどよかった」


 誰かが詰め所に呼びに行く前に警ら中の騎士がやってきた。

 

「お前はスボール?」

「はい、友人のリーンが今拘束している男が帝国の武器を持っていました」

「何だと!」

 

「はやくこのおっさんに縄をかけて!」

「よしわかった、申し開きは詰め所で聞く」

「クソっ」


 それでも、誰かが詰め所に呼びに行ってくれたのか、あと二人の騎士がやってきた。


「武器はこれです」

「そうか、協力に感謝する。

 感謝状の手配をするので名前と住まいを」

「いや、俺にはいらないです」

「多少だが謝礼も出るが」

「不要だから!宮殿の騎士団本部で、スボールの連れが捕まえたと言えばわかってもらえるから」

「⋯?そう言えば君は何処かで見たような⋯」

「とにかく、帝国の武器には気をつけないとね」

「ああ」



「⋯リーンお兄ちゃん大丈夫?」


 母子がトイレから戻ってきた。


「二人ともおかえり。お、顔色がマシになったな!」

「うん、もうへいき」

「シャーもお帰り(にゃー)」

 “にゃー”


 ブルルル


 馬も首を振って元気。

 

 再び出発する。


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