38【ワイン瓶に入れるのは赤いもの】
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「おじさん、マルシェに出せないトマトがあったら買いたいんだけど」
早朝の空は白んでて周りは見えるけどまだお日様は昇ってない。朝市より早くたどり着く。
俺は城を抜け出して、一番近くの農園で夏野菜の収穫をしていた農夫に声をかけた。
「そこらへんのトマトは持ってっていいぞ」
畑の畝の谷間に積み重なっているいびつなトマトを指さされる。
「お金は?」
「要らん、どうせ捨てる分だしな」
「もったいないね」
「わかってくれるか。
だが、もったいないからと俺達が消費するには多すぎるからな」
「ふーん、じゃあ結構貰っちゃうけどいいかな」
「ああ、好きに持っていきな。
何にするんだい?」
「俺、冒険者になったところなんだ、だからお弁当に入れさせてもらおうかなって」
「そりゃ偉いな。なら玉ねぎもいるか?」
「うん!でも時期じゃないでしょ」
「玉ねぎは小屋でぶら下げて、市場に持って行く分だけ出すのさ」
「なるほど、それって茶色いあいつが増えるやつ」
「わはは!よく知ってるな坊主。どれ、玉ねぎを持ってきてやるから、トマトを拾っておきな」
「うん、あ、ピーマンも捨ててあるじゃん」
「ああ、それも持っていくか」
「ありがとう!」
〇●●●〇
「というわけで、朝からゲットしてきたのはこれでーす」
昼食が終わって皿洗いをしている宮殿の厨房の片隅で、エプロンに頭にバンダナのスタイルの俺とアズールとスボールが集まっている。
もちろん皿洗いは新入りの仕事だから料理長も手を空けて見ている。
「じゃあ、まずは玉ねぎのみじん切りからだな」
「げっ」
アズールが嫌な顔をする。ってことは経験あるんだな。辺境伯子息なのに偉いぜ。
って顔で見上げる。一歳しか違わないけど、アズールは俺より背が少し高い。
「や・・・やるよ」
「粗みじんで良いからね」
「わかった」
「まあほかも細切れだけどな」
「なるほど、パスタソースですな」
「さすが料理長」
「多めに作って、ここのストックにもいたしましょう」
「うん」
宮殿の厨房は、王族のご飯以外にも、住み込みの貴族の職員の食事も担っている。
現在宮殿に住んでいる王族は父上の家族四人だけ、その四人のためだけにこの広大な厨房と二十人を超える料理人が勤めていると、手が空くやつが出てくる。
そんなやつに国庫から給料を渡すのは無駄だというのが、建国王からのこの宮殿の方針だ。
そんなわけで、三人分の携帯パスタソースを作る予定が、大量になってしまった。
俺が貰ってきた野菜はそれほどに多かったんだけどね。申し訳なかったよ。
パスタソースを料理長たちに任せている間に俺はシチューを作る。
バターをフライパンで少し焦がしてから薄力粉を炒めてブラウンルーを作っておく。
小鍋に、玉ねぎとにんじんを乱切りにして蓋をし、風魔法でみじん切りにする。
「あー!殿下!ずるい!」
涙を流しながらアズールが喚く。
「ふっふー。これは食材だけをカットする熟練の技なんだぜ」
「熟練って、八歳児の何処に熟練の時間があったんだよ」
「えっと、エアクッキング」
…無理があるかな。
別のフライパンに菜種油を熱して、みじん切りにした玉ねぎとにんじんを加えて、わ、これだけでも目に来るな、炒める。
金色になるまでじっくり。
そこへ赤ワインを加えてアルコールが飛んで、水分が半分ぐらいになるまで煮詰めたら、ブラウンルーを加えてダマにならないように泡だて器を鍋に突っ込んで伸ばす、
さらに、料理長特製のスープストック、ケチャップ、ソースを入れ、宮殿に生えている月桂樹の葉を加えて半時間ほどとろみが付くまで煮込む。
それを粗い濾し器で漉して…
ちょっぴり味見…よし、最後の味付けは後だしね。
「殿下…手際良すぎません?」
「自信なくすわぁ」
大鍋に赤みがかったブラウンの濃厚なソースがたっぷり出来ていた。
若い料理人達が驚いている。
「ふふふ、ちょっと味見る?野菜の旨味ソースだよ」
「ありがとうございます…」
「これ、塩は入ってないですよね」
「そ、バターやケチャップとかソースの塩分だけだよね」
「それでこんな濃厚な味が…」
料理長が近寄ってきた。
「殿下、デミグラスソースですか」
「ケチャップありがと料理長。
俺の得意料理なんだ」
今生では初めてやったけどさ。
「これでシチューを作るんだけど、肉は現地調達だな」
「ツノウサギとか旨いですよ」
「うん!」
本命は魔羊だけどね。子魔羊がいれば解体できるし。
陶器のワイン瓶にデミグラスソースと真っ赤なトマトベースのパスタソースを詰め、大鍋で瓶ごと煮込んでから冷めきる前にこれも煮沸消毒済みのコルク栓をして冷ます。
そして、手紙の封のために持ってる蝋を結構沢山溶かして、コルクの上から瓶の口をコーティング、さらに革と紐で封印。
パスタの瓶は赤い紐。
デミグラスソースの瓶は黒い紐にした。
「これで、野営の料理の準備ができたぜ!」
「すげー」
せっかくだから、牛肉でシチューを作って皆に振る舞った。
もう晩飯の時間に近かったからね。
もちろん、父さんや王妃にも食べてもらう。
デューク様に食べさせてもらったシチューは美味かったよな。猫の舌だったけど。
作ったのは更に昔の俺だけどさ。
味と香りで懐かしく思い出して鼻の奥が変になる。
流石にもう食べきってるだろうから、作りに行ってあげたいな。
いつになるんだろう。
かなぐり捨てて別なルートへ旅立ちたい衝動を抑える。
「パンと一緒に食べるシチューが旨い!」
「おい、レシピメモったか?」
「もちろんっす」
旅の荷物を軽鎧入れだった背負子と魔法のポケットに仕舞う。
衣類、タオル、救急セット、カトラリー、器にコップ、洗面器。
寝具、クッション。
水筒は明日湯冷ましを入れてもらう。
弓矢と、短剣、投げナイフ、帽子、バンダナ、ローブとロープ。
革手袋もいくつか追加で買ったんだよね。
不揃いな野菜、美味しかったよな。
夕飯の席では父上にも褒めてもらえたし、アレンくんもスープストックで伸ばしたシチューを喜んでいた。
王妃は相変わらず否定的だったけどさ。
もしかしてあの人料理できないのでは?まあ伯爵令嬢だもんな。
無心でパッキングをしながら、他のことも考えてしまう。
パスタソースとかデミグラスソースとか孤児院で作るのもありじゃね?
その夜企画書を作りかけて夜更かしをしてしまっていた。
翌朝出発なのに。
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