37【夏の旅へ】
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無事に国立学園の特別入試ってやつを突破した俺達三人は、入学式までの夏の一ヶ月の間旅行することになった。
アズールの配置換えと、四年も早まった学園入学について本人からの報告と、俺の挨拶を兼ねてね。
それは実はついでで、魔法を教えながら、よりたくさん魔草が生えていそうなアズールの実家のオーレンタ辺境伯爵領に赴くことになった。
魔の森の近くだしね。
魔の森の隣だから俺がディーン様に逢えるかもと期待してると思った?
「えー魔王様のポストって、ヴォーレスタ王国の王都側にあるんですか」
俺の替わりに聞いてくれたアズールが復唱している。
「ええ、だからこのランデルソールに接してる森に行った所で無駄なんですう。
手紙も一旦ヴォーレスタ王国の冒険者ギルドに届けてからの配達となります。ってことになると二回分の依頼料になるでしょう。
一度目の配達は最低ランクの人でも運べますけど、馬に乗れる人でないと何日かかる事か。
そしてヴォーレスタにたどり着いてからあちらのAランクパーティーが請け負うかどうかわからないですからね」
と、俺たち担当のギルド職員のセリシャとやり取りしていた。
「ですよねー」
まあ、知ってたけどさ、何十年も経ってたらもしかして移動しているかもと思ったんだよ。
ディーン様の住まわれる城、つまり魔王城は一国の国土ほどある森の中で、ランデルソールの国境からはかなり離れている。
「それにしても、リーンは本当に魔王様に憧れているんだな」
「そりゃそうだろ?なんてったって魔法使いの最高峰におられるんだよ。
帝国の科学がいくら発達しようとも、あの森を侵すことは無理なのさ。まあ、その間にはヴォーレスタ王国があるんだけどさ」
ってことにしておこう。
〈魔術スキル持ちの俺が憧れてる存在だから、しつこくディーン様を連呼してる〉と。
まあ、憧れてるのは確かだけど…まじでいい加減こっそり会いに行きたいぜ。
「そうだよな、魔の森の中で暮らすとなると魔法を捨てることは、命を捨てることと同じかもしれない」
「だろ」
今日はスボールの冒険者登録に来たんだけどね。
そのうちスボール男爵家にも挨拶をしなくてはいけないけど、オーレンタ辺境伯のところに行くのはいいけど、サバダリファ男爵を訪問するのはだめなんだって、話をしたいなら呼ばなくちゃいけないんだって。
本家のサバダリファ辺境伯のところには出向いても良いらしいが、男爵とは離れすぎていて、家名が同じでももう付き合いが少ないらしい。
レストランスペースで軽食を食べているのは俺とアズールの二人。
「しかし兵士になると行って、家を飛び出してたった半年で軍を辞めて実家に帰るなんて。
脳筋の父上に知られたら根性無しと言われるかもしれない」
って頭を抱えてるけど、辺境伯の五男で、将来の進路が不安で兵士見習いになったんだから、俺が引き抜いたら出世なんだけど。それに、先日のここでの登録もあるしね。
「いきなりDランクの冒険者になれたんだから、いつでも砦で活動できるだろう?
学園だってアズールの本来の予定よりずいぶん早く卒業することになるんだしさ」
スボールがそういうと、アズールはじっとりと俺をみる。
「いきなりAランクになった人に言われてもねぇ。それに、模試だと騙されてやった試験で満点を出す人に言われてもねぇ」
「はははわかる!」
笑いながら戻ってきたスボール。
その笑いは何だよ。
「でも、殿下の身体能力が子どもとは思えない高さなのは確かですしね」
「魔法で身体強化をしてたわけだけど。
それはあの時アズールにこっそり言ったけど、中隊長には言わないでいてくれたんだよね」
「もちろんだよ。
自分も、もっといろいろな魔法強化を極めて、いつかは殿下みたいに中隊長に挑みたいからな」
「私も騎士団長と打ち合ってみたい」
結局脳筋な二人である。
「で、どうだったスボール」
「なんとか、アズールと同じDランクになりました」
彼の後ろにはやっぱりギルマス。
暇なのか?
あらかじめ給仕のキャマレラにはスボールの軽食を頼んでて、運んできているのが目にはいる。
「リーン関連の冒険者は、俺が直接担当したいところだが、普段はセリシャが担当で、要所要所で俺が関わることにするぜ」
「人が多いときはこっそりにしてください」
なのに俺達の席に座ってくる。
「う、うむ、善処しよう。
じゃあ、スボールこれが冒険者ギルド証と、冒険者手帳など諸々だ」
「ありがとうございます」
「で、ギルマス、俺達三人でパーティー申請したいんだけど」
「わかった、パーティーの名前はどうするんだ」
「まだつけなくてもいいだろ」
「ああ、そのうち勝手に名前がつくことあるしな」
「げ…恥ずかしい名前は困るけど」
「わはは、そういうのは本人たちにはどうしようもないからな」
「勝手に名前?」
「二つ名ってやつだ。
たとえばこのギルドで二十年前に活躍していたパーティーがあって、その名も〈プラチナパイレーツ〉って言われていて」
「白金の海賊?」
「ああ、そこのリーダーの髪の色と瞳の色でな」
「それってまさか…」
ギルマスはちらりと俺を見て少し頷く。
「確認したかったら本人に聞け。俺からは言えぬ」
「えーギルマスそこまで言ってて!」
「無理言ってやるな、これ以上言うと、ギルマスの首が怪しいから」
わかってしまったアズールが、フォローにならない台詞を言う。
「へ?」
「冗談だけどな」
「わはは、リーン冗談に聞こえねえが!」
「いてっ」
バンって背中を叩かれた!
父上はそうとう派手にご活躍だったんだね。
身分を隠しても、オーラ出しまくりだったんじゃないかな。
そのうちこっそり〈プラチナパイレーツ〉の武勇伝集めをしようかな。
「さて、
リーンはAランクだがパーティーとしてのランクはC」
「しぃー?」
アズールが素っ頓狂な声を上げてしまう。
「文句あるか?」
「いえ、俺まだ一度も依頼を受けてないのに!いきなりCランクの以来受けられるんですか」
「そうだ、もちろんEまでの下のランクなら受けられるぜ、単独ならな」
「それは手帳で読みましたけど」
すでに読んでるアズールが応える。
「アズールだけじゃないぜ、もちろん俺だってまだ準備を整えただけだ」
「まあな、Aランクで経験ゼロも冗談みたいな話だぜ」
「ははは、とりあえず王宮から依頼してるこれを採集しに辺境まで行ってくるから」
「それなら他にも頼みたいものはあるんだけど」
「魔羊でしょ」
「ああ!」
「だって俺もほしいもん、魔羊皮紙」
「なるほど」
「は?で…いやリーン、魔羊狙い?」
「だって、そこの文房具やさん在庫少ないって言ってたじゃん」
「そうだけどさ、魔羊って象みたいにデカい羊なんすよ。
実家の近くでたまに見かけてさ」
「知ってる」
「また図鑑の知識ですか」
「そ。そうと決まれば買い物だな」
会話の合間にスボールの食事も終わっていた。
まずはスボールの冒険者装備品を買いに、前回訪ねた防具専門店に行く。
「おや君達、一人増えたのかい?今度は少し兄さんだね」
「うん、さん人組になったんだよ。
先日と同じ初心者向け冒険スタート十点セット大人サイズで」
「あいよ」
「支払いは俺が」
「おや、一番年下が払うのかい?」
「まあね」
部下の装備は必要経費だから。
「君たちが着てるそれって、先日売った分だろ?大人サイズの」
「そう!ぴったりでしょ」
「これはまた……失われた技術を使ってるのかい?」
「ふふーん、そういうこと!」
低い鼻を少し持ち上げてみる。
「なら中途半端なサイズの革鎧よりいいのは確かだね」
さすがおばちゃん!昔のことをご存知で!
「名入れはどうするんだい?」
スボールを見上げる。
「私はスボールです。綴りはこれで」
綴りまでは知らなかったから。
「あいよ、じゃあ1時間後にまた取り来ておくれ」
「「はい」」
「はーい」
「次は旅行の準備だね」
「……」
「あれ?どうしたスボール?」
「なんか、殿、いや…リーンは買い物に慣れすぎてないですか?」
「スボールもそう思っただろ。自分も前回びっくりして」
「まだ九歳になってないんだろ?抜け出して買い物するにも限度があるだろうし」
「何言ってんの、買い物シーンなんて物語に散々出てくるじゃない」
「いやいや、読んだからってできるもんではないぞ」
「まあ、出来ちゃったからいいじゃん」
「ははは、そうだけどな」
男子三人のグループ。
前の冒険者リーンのときは男女混合の大掛かりなパーティーを組むのが時々で、いつもは魔の森への単独依頼を遂行していた。
Aランクで一人で魔の森に好き好んでいくのは俺ぐらいで、いろいろな依頼を常に請け負っていた。
だけど男三人の固定の連れ。これはこれで楽しいもんだな。
もう一度ギルドに戻って壁に貼られてる大きな地図を見る。
「アズールの実家まで、徒歩でも馬車でも12日ってとこか、荷物が発生するから馬車だな」
「はい、任せてくださいよ」
「わかった」
「街道を行くとして、途中宿に泊まれる拠点は7つ、そのうち村が二つ。村が空いていなければ野営。でも、納屋とかあるので馬車より良さそうならそっちに。
いずれも全部馬を交換できます」
「なるほど」
「野営地点は他に5つ。井戸があるところは1つだけ」
「わかった」
「今回行きは、俺の魔法を出来るだけ頼らず普通に行く」
「「はい」」
「用意するのはまずは水が入った樽を1つ、野営用の寝具、衣類、保存食とか。そして馬車、それを引く馬一頭、だな」
「そうですね」
アズールがメモを書き出している。
将来側近を兼ねた文官になるための練習として、何でもメモるようにと言ってあるのだ。
「俺は他に腰につける短剣を持っておこおうかな」
「では、軽いものから見てまわりましょうか」
「うん」
「雑貨屋に言ってからマルシェに行くよ」
「マルシェですか」
「うん」
そして、買い物を済ませて、スボールの軽鎧を取りに行ってからギルドに戻る。
「セリシャさん、あさっての朝オーレンタ辺境伯領に向けて出発するから、荷馬車と馬を予約したいです」
「はいはい、聞いてます。
それと、配達をお願いしていいですか?依頼料はありますよ。
それと他に頼みたいことが」
「12日ぐらいで到着する予定ですが、急ぎはないのですか?」
「はい、1つだけ手荷物があります」
「貴重品じゃないですよね」
「はい。一応手荷物は冒険者ギルドの保険に入ってます」
「わかりました」
宮殿に戻った俺達は、厨房の料理長に突撃する。
「空き瓶と、対になるコルク栓はない?」
「ありますよ殿下、ガラスじゃなくてもいいですか?陶器なんだけど」
出してきてくれたのは、陶器のワイン瓶だった。
父上や宮殿あてにいろいろなところから献上されたもの。中身が入ってなくても、凝っていてなかなか芸術品でもあるが、あくまで容器なので、中身がなくなればゴミみたいなものだ。
「わあきれいですね」
「これなんか海の女神のレリーフが彫られているな」
「こっちはイルカが飛んでる」
ランデルソール王国は、西側が海岸なので海にちなんだ意匠が多い。
「ちょっと豪華すぎるけど、まあいいや、これって廃棄予定なの?」
「はい、綺麗ですけど、毎年同じものを税金の足しに領地から陛下に献上されているもので、中身が詰まったものもまだ倉庫にあるんです。
対のコルク栓はこれです」
「コルク栓も残してるんだね」
「もちろんです、ピクルスとかを密封するときに便利ですからね。
そして酒じゃないものを入れたら、何が入ってるかと入れた日を書いた紙を瓶の首にぶら下げるんです」
「なるほど、いちいち蓋を開けて中身を見れないもんな」
「それに、密封方法を誤れば傷んでしまうので、気をつける必要があります。
が、殿下がたはこれで何をするんで?」
「俺達、アズールの実家のオーレンタ辺境伯領に行くから、保存食を作ろうかなと思って」
「なるほどなるほど、では厨房をお使いくださっていいですよ」
「いいの?魔法係のキッチンでやろうと思ってたんだけど」
「遠慮なくどうぞ、むしろ殿下が何を作るのか知りたいのです」
「えー大したものつくらないよ」
「殿下の常識は結構非常識ですもんね」
アズールが料理長に合いの手を言う。
「そうなんですよ、良い意味でね」
「しょうがないなぁ。じゃあ、作業は明日にするから、今日は二人とももう解散ね」
「「分かりました」」
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