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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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36【学友予定のスボール】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「え?スボールってサバダリファなの?」

 騎士団はみな貴族の出だと聞いていたけど、家名まではいちいち聞いていなかった。

 だって、現状の貴族でもまあまあ沢山いらっしゃるのに、貴族でなくなってるかもしれないお家の家名まで覚えられないし、本人も言わないことが多い。

 でも、今回は必要があって聞いた。

 なにしろ俺の専属護衛騎士にするのだしね。え?遅い?



「はい、スボール・ド・サバダリファです。古いだけの傍系なので男爵ですけど、僕はさらに五男なので、騎士を目指したのです」


「いやいや、サバダリファっていえば、元は王族じゃん」

「は?どういうことですか?存じませんよ。

 昔から麦畑を守ってきた庄屋のような貴族だということしか伝わっておりませんよ」


「そうそう、麦の産地で」


 海が近いけれど30メートルは段差のある岸壁だったから、高波や津波なんかの心配はなかったけど、海の恵みを得ることが難しくて、広大な土地に麦畑を作っていた。


 でも潮風が吹いてくるから、塩害対策を相談されたことがあった。


 それで防風林を植えるのを提案して手伝いに行ったんだ。

 海岸の国からはるばる大陸の奥にある俺がいた図書館を訪ねてくれたから、久しぶりに海が見たくてついて行ったんだよね。


 今のこの国で言えば、南の方にあって温暖で、人々も暖かくて陽気で。

 でも、スボールにはそんな感じはない。


 あの頃は、まだ魔法を使うことが盛んだったけど、戦も多くて、ロックボルトと名乗る男が領土を広げ皇帝を名乗り、さらに周辺諸国を力で取り込み広げていた。


 それで、各地の国々もそれに対抗するべく、共和国にしたり、さらに統一国にしたりしていた。


 ファンダーがランデルソール王国を設立した時、友好のあったサバダリファ王が新しい王国の南端の辺境の侯爵として加わったのだ。

 麦の名産地として発展していたそこが加わったことで、ファンダーはますます統一国家として帝国に対抗できる国の統治に励んでいた。


「なにより、サバダリファのパスタは旨いもんな」

「ありがとうございます」


 今でもサバダリファの直系は辺境伯として国境を守っている。


「ってなわけで、地理で言えばスボールのルーツがあるサバダリファ辺境伯領はここで」

「はい」

「アズールのオーレンタ辺境伯領がここだな」

 地図を指差す。


「殿下、今のは歴史と地理を混ぜた学習ですね。そのほうが理解しやすくてよいですね」

「そういえば歴史の話をやってたな」


 なぜ分けて学習するのかわからないよね。紐づけたほうがいいのにさ。


 俺の日々の学習にスボールの入試勉強が加わってきた。

 頼んだのは俺だけど。

 ここに学長でもあるラマールがいてもいいのか問題もあるが、入試や入学担当の教官は他にいるらしいので不正とかそういうことではないらしい。

 一緒にアズールも学んでいる。どうせ学園に行くんだからね。

 まあ俺達が入学するまでには5年の猶予があるけど、さっさと入学してさっさと卒業するのも良い。

 〈一応修める〉のが大事だ。もちろん卒業時の成績も良ければそれに越したことはない。


 俺とアズールも何年かスキップして入学するつもりだ。


 それにしても、マンツーマンの勉強も良いけど、複数人の学習も張り合いが出て良い。


 かつて賢者と呼ばれたことのある俺だけど、最近の地理と現在までの120年分の歴史、そしてランデルソール王国での筆記文章を更新する必要があるからね。まあ、八歳ぐらいまでには更新済みだけど。


「殿下はどうしてその狭い部分だけ苦手なんだよ」

「ほかは詳しいのに」


「図書館の本が古いからだよ」

「おかしいですね、新しい本も入れてるはずなんですがね」


 ごめん、新しい本のほうが読みにくかったから後回しにしたんだよ。


 入試の試験は、〈文字の読み書き〉、〈計算と応用〉、大まかな〈ランデルソール王国地図と出来事〉。


 〈自然の理と化け学〉がないのは、入学してから教えるかららしい。

 確かに実験とかを普通の家でするわけにはいかないよな、いくら貴族でも。


 とりあえず、更新するべき部分は覚え終わってる。


「では、休憩を挟んで、過去問をしましょう」

「「「はい」」」


「ふう、殿下、魔力で強化したら暗記も良くなりますか?」

「たしかに、暗記は難しいかもしれないけど、文章を早く読み込んだり計算を早くするのには役に立つよ」


「なら、できるところはさっさとやって、躓くところをじっくりやって…」

「確認するときにさっさとやるんだよ、すると引っかかるところが浮き上がって見えるようになる」

「なるほどなあ」


「殿下、なんですかそれは!」


 ラマーノ先生に聞かれてしまっていた。


「魔力で脳を強化して学習する話です。

 他の視力や体力などは先日魔法係のフロアで身につけたんです」


「なんと…どうすればいいのですか?殿下、私にも教えてください」


「えー先生に教えるなんて……とりあえずこれを読んでくだされば」


 と初代マリアーノの魔法入門書を渡す。

 最近の子供向きに書き起こしたものではない。


 たけどそこには将来触れるべき事柄も書き足している。


 俺が何度もすることではない。


「よし自分も魔法で脳を強化して過去問にチャレンジしよう」

「うん」


「点数がよかったら二人もスキップ入試しますか?」

「「えー」」

「王族の入試は宮殿ですることになるので、三人供が宮殿で入試を受けられますよ」


「はい!ラマーノ先生」

「はい?殿下」


「魔法の学習はどうなってますか」

「まだ、講師を探しているところです」

「部活動という形ならすぐに出来そうですか」

「はい、もともと魔道具修理クラブって言うのがあります」


「なら、入学しようかな」

「は、え?殿下」


「だって、父上に魔法省の復活を俺に言われてるんだよ、一年でも早く、魔法使いを増やさないと」

「たしかに」

「そして魔道具をもっと充実させて帝国に対抗出来たらいいんじゃない?」


「そうですな、一年でも早く。それは大切かもしれませぬ」

「でしょ。アズールはどうする?」


「どうって…5つ上の兄上が今年入学してるんですよ、そこに飛び級で一年下なんて…」

「しかし、目的が違うから大丈夫でしょう」

「入学はしたいの?」


「はい、ブランカ兄上にも学園の楽しさを聞いたことがありました。まだ自分が物心ついた頃ですが、その時から行くものだとは思っていました。

 防衛学を学ぶためにね」

 ちょっと考えたアズールは目を煌めかせて前を向く。


「そうですね。行けるものなら、父上にも報告してみます」


「そうされるとよいでしょう」


「要は遊んでから勉強するか、早めに勉強を終わらせてその後に余裕を出すかってことだ」


「…よくわからない」

「実感できないですよね」


「そもそも遊んでないから。兵士見習いをしていたんだし」

「そっか」




「では、過去問ではなくて模試を用意しました」


「模試ですか」

「はい、机に配りますよ…まだ伏せください」


「はい」


「次に解答用紙を配ります」

「はい」


「では二時間図ります。途中で立ち上がったらその人は終了です」

「「「わかりました」」」


「では、はじめ」


 バサバサと音がして紙をめくり、カリカリとつけペンの音が始まる。


 そういえば俺は先生と呼ばれたことはあったが、学生を経験したことはなかったかもしれない。

 図書館の司書の真似事をしていた時代は、大人の嗜みとして学問を修めるものだった。

 生活に余裕のある人とかね。

 王族でさえ、子供は公務のために働くことが多かった。

 具体的には王や兄の王族の公務について回って仕事を学ぶだけなのだが、なんのためにそれをしているのかさせられているのか、わからぬまま後を継ぐのも少なくない。

 それを何代も続けば、嗜みとして学問を修めた民衆のほうが数が多いから、即位したものは愚王と言われて政権が終わる。


 そうして、具体的に体系化された「効率的で意味のある学び」は進化していった。


 俺に出来たことは、せいぜい図書館を民衆に開放したり、文盲の人々に文字を教えたり、学者と言われていた賢所と意見を交わすぐらいだが。


 ある時、図書館を作ってくれた友人でもある王が、自分の子供や国の民の教育について相談されたので、学校というものを提案したのだった。


 俺がマンツーマンで教えるのにも限界があったからね。


 いつの時代も、学生同士の交流は楽しそうで、羨ましかった。


 魔女をやってたときは、まだ女が通える学び舎といえば修道院しかなくて、罪を犯した女が自分のしでかしについて学んで、被害者や罪について祈り倒すものだった。


 いや、犯罪してから学ぶんじゃなくて、はじめから道徳を身につけさせようよ。


 もちろん幼い民衆や孤児に読み書きを教えるのも教会の大事な役割ではあった。


 魔女として同じ魔女の弟子たちが周りに増えたときも、魔術より先に常識的な物事の良し悪しを説く事から始めていた。



 学生か、正直アズールやスボールと行動をともにすることも悪くないと思っている。

 生まれ直して、子ども達と会話することも楽しんでいる。もちろん弟のアレンくんとコミュニケーションするときも幸せなんだよな。  


 未経験を体験する予感にちょっとワクワクしている。


 ますますデューク様に会えるチャンスが遠ざかってる気がするな。



 でもさ、何としても会いに行くから!待ってて!

 ただ、今は子供といえども無責任はだめになっちゃってるから。



「はい二時間立ちましたよ・ペンを置いて」


「うえー、脳の魔力強化はやっぱり十分しか持たなかった!」

 アズールが、がっくりしている。


「今やったのか。何処で使ったんだよ?」

「長文を読むところと計算のところで分けたけど」

「うまい使い方じゃないか」

「そう?」


「さすがアズールだな、私はまだ脳の魔力強化は怖くて」

「怖い?」

「頭痛とかしたら嫌じゃないか」

「しなかったよ。魔力を流したのはちょっとだけにしたからな」

「なるほど。しかしぶっつけ本番をしてしまうのは度胸があるというか」

「そうかな」



 翌日、父上の執務室での夕食の席に俺と一緒にアズールとスボールも呼ばれて、一緒に食べることになった。

「わ、私もですか」

「うむ。さて、三人ともおめでとう、この秋から我がランデルソール王国国立学園への入学が許可された。今夜は祝いの席ということで一緒に食べよう。

 本来ならそれ用の食堂でとも思ったが、王妃に何を言われるかわからんからな、こんな部屋で許してくれよ」

「いえ、正直びっくりしておりまして」

「自分はこれから入学試験だと思っておりました」


「昨日、ラマーノが出した試験が入試だと言っておった。

 三人とも合格圏内の成績だったそうだ」


「父上。正直な話、僕とアズールは昨日ちょっとだけ飛び級入学しようかな?って思ったところで、早くても二年後ぐらいと思っていたんですけど」

「しかし合格したのだ。ファーリィンは五歳の時点で入学相当の学力があるとラマーノに太鼓判を押されていたが、体もある程度出来ないと難しい演習もあるからな。

 アズールはオーレンタ辺境伯がきちんと子供たちの教育をしていたようで何よりだ」


「さすが殿下ですね。

 それにしても、ありがとうございます」


「それから、スボールも突然の配置換えからの短期学習で見事合格だ」

「ありがとうございます、これも騎士団で学習させていただいたことと、殿下のご厚意で一緒にラマーノ先生に教えていただいたおかげです」


「うむ」


「とにかく、余はファーリィンが少しでも早く立太子をして、魔法をつかった、帝国の前でビクビクしないで住むような豊かな国を取り戻したいのだ」


「「はい」」

「う…」


 …しまった、アレンくんに王位を継いでもらおうと思っていた計画が…


 王様なんかになったらますます身動き取れなくなるじゃん。


 なんとか広角だけ上げて一緒に喜んでいる風を装って、心のなかで冷や汗をかくファーリィンだった。


 まもなく九歳になる。

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