33【魔法のABCから】
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「では、魔法の基礎知識から教えます。
これは魔法が使えなくとも、今後一般常識として国民の知識の中に復活させたい事柄です」
通産省魔道具係の食堂で、なぜか今現在このセクションのトップのマリアーノと、現在八歳の俺の三倍の年齢のマリアーノの息子で通産省の職員のサムエル・ド・ウイザール、そしてアズールとスボールに魔法の講義をしている。
そしてどういう訳か冒険者ギルドから、ギルマスに派遣されてセリシャも参加している。
あと二人、孤児院からハオとスウ兄妹も参加してくれている。彼らだけが俺より年下だ。
ちなみに魔女ベルジーヌ魔女は一人製薬室でせっせとマジックポーションを作成中。
銀蓬のパンはまだ人手が足りないので、搾った葉っぱの部分を孤児院に持って行って、孤児院でパンを作らせて王宮が買い取り、手間賃を孤児院に渡している。
そして王宮から、マジックポーションと共に各施療院に配送されることになった。
このフロアにアズールたちを連れてきて、
「彼らに魔法を教えてほしいんだけど」
「お言葉ですが殿下、私は初代マリアーノの著書を読み上げるしかできません」
「えー、それではただの読書会だよ」
「殿下が魔法をお教えくださいませんか?できれば私にも」
ってわけだったんだよな。
教科書は初代マリアーノが書いた〈香櫞緑の魔女リーンによる魔法の基礎学〉だ。
これはまだ魔法が普通に使われていた時に、書写されて、何処にでもあったのだ。
もっと古い魔法の指導書としては〈魔法の基礎学:積層の魔導士 リィーン・ラ・ビブリオー著〉だ。これも図書館には何冊もあった。
内容は同じだが、文章や単語が古いのと、あの頃は言語があまり統一されていなかったので、他国の古語のようになってしまって今のこの国の人には読めないのだ。
翻訳されて今の人が読めるように書き下したものもあったが。書き下しすぎて、詠唱の内容がめちゃくちゃになっているので結局使えない。
〈無詠唱〉の項目を読み込めばなんてことはないのだが。
ま、根は同じ奴(つまり俺)が説いたものなので、今回は新しい方を利用する。
なにしろ図書館には十冊以上同じ本が色々な装丁で揃っていたのである。
それでも初代マリアーノの本も250年は昔の文章なので、機会があったらリメイクしたい!言葉は変わるものだからね。
「さて、自然界に魔素というものが空気や水に混ざって漂っています」
「はい!先生!」
勢いよく手を上げるのはセリシャ。
「はい」
「空気って何ですか?」
え?そこから?まあ五歳児のスウがいるから説明するよ。
「空気というのは気体の一種です。
気体というのは、水を沸かすと湯気になりますよね。湯気も気体です。
例えば今、僕の周りに空気があるわけですが、普段だと存在が分からないですね」
頷いてるけどセリシャは大人だ。しかもギルド職員なんだよ?
序盤からこれだよ。今の人は。
魔法は理の理解が大事なんだけどね。
「では、空気の存在が分かるようにしましょうね。
ここに、ガラスでできた金魚鉢がありますね。ここに水を入れますよ」
金魚鉢は備品かな?倉庫で見つけたのを拝借している。
水魔法の説明で使うかなって思ったんだけど、思ってたより出番が早い。
如雨露で水を入れる。でも如雨露の中の水は魔法で足している。
ここは空気の話なので、脱線しないようにね。
「金魚鉢に水が満たされましたので、代表してスウこっちに来て」
「はい!」
良いお返事。
「じゃあスウ、このコップを持ってね。
からっぽに見えるけど、ここに空気が入ってるんだよ」
スウが持つコップの中を俺の人差し指でかき混ぜるようにしてみる。
「ここに?くうきが?」
「じゃあ、コップをうつぶせにして水に沈めよう」
うつ伏せにするだけじゃ空気はこぼれないからね。
「はーい」
トプン
「あ、ほんとだ!なんか入ってる!」
「傾けてごらん」
ポコン
「あわがでてきた!」
「そう!その泡が空気だよ」
「なるほど、空気ですね、解りましたわ」
「こうやってみるとわかりやすいですね」
一般の人々は多少学んでいても、読み書きと計算ぐらいで、理までは学ばないんだよね。でも生活の中で実感することと結び付ければ理解してもらえると思う。
5歳のスウでもね。
「この空気の中にちょっぴり入ってたはずの魔素は、植物や土、川の水などによって生み出されて漂っています。
わが国には海もあるので、そちらからの魔素も大量に漂っています」
「ふむふむ……」
昔はそんなことは常識だったから、初代マリアーノの本には載っていない。
でも、マリアーノや息子のサムエルならわかってると思うのに、ノートを取ってくれている。
後で見せてもらいたい。
「我々自身も魔素を作り出しています。と同時に大気中から呼吸することによって取り込んだり排出したりもしています」
壁には新たに黒板が取り付けられて、そこへチョークで簡単な図を描いていく。
スウも新しい物語でも聞いてるようにおとなしくしてくれている。良い子だ。
「我々の身体には血管のように体中に張り巡らされた魔素神経というものがあって、関節やおへその下、そして心臓の裏、後は額に魔素を溜めておく魔素だまりという器官もあります。
それは、魔法使いだけでなくすべての人に存在しています。
そしてその魔素神経や魔素だまりの機能については生まれついての個人があるけれど、普段の生活や訓練で高めることが出来るのです」
「ご先祖様の本にそう書いてあるのがわかってたけど、訓練してこなかったな」
「間に合うかしら」
ウイザール母子が言う。
単に名前を継ぐだけじゃだめなんじゃ?
俺の教義はともかく、ご先祖様のお言葉を大事にしてやってよね。
「大人になってから高めるのはちょっと大変ですが、出来ないことはないです」
「よかった」
「そうね」
「はい!殿下。じゃあじゃあ私でも魔法が使えるようになるんですか?」
スボール君が手を上げて聞く。
「はい。まだ魔力量や属性を見てないですけど、少なくとも身体強化の魔法は使えるようになるはずです」
「それは自分も身に着けたいです」
文官見習いの服を着てても〈強さ〉に未練があるアズールも言う。
「二人には、いずれ訓練してもらいます」
「「はい」」
「ハオもやる?」
「もちろん!おれも頑張る!」
ハオもやる気。
「では、次は魔法属性の話に移りますね」
魔法の属性は基本四属性。
そしてそれぞれには色でもあらわされている。
まずは、黄色い風属性、皆がつかみどころがないと思っている空気を操るその風の属性こそが人々に一番多い属性だ。
風属性の魔石は、赤みがかったものから青みがかったものもあるがおおむね黄色い魔石だ。
魔石ペンも黄色くなるしね。
次に水魔属性。色は青だ。
優秀な水魔法使いは、昔から冒険者や旅商人、船乗りに重宝されている。
重たい水の樽や水筒を持たなくても、つねに新鮮な真水を作り出すことが出来るからだ。
さらに、泳ぎが得意だったり、医師ほどではなくても、訓練次第で人の体調を観察したり整えたりすることが出来るようになる。
農園などにこの人がいれば、干ばつ知らずだ。
そして土魔属性。色は緑。
土を制する者は農地を制する。それが管理する畑は常に豊作ということだ。豊作すぎるのを調節することも出来る。
水属性との組み合わせは最強だ。
他には、石や岩にも強いし、粘土なんかを細工するのが上手だったりする。
器用な人が多い。
そして火属性。色は赤。
炎は青い方が温度が高いんだけど、自然な炎は赤かったり黄色みがかった赤だよね。
火属性を持っている人は料理が上手くて旨い。
そういえば、宮殿の料理長にこっそり魔石ペンをくっつけたら、ちゃんと赤かったんだよね。
これらの四属性はもちろん魔力さえ高ければ攻撃魔法が使えるんだ。
魔法が使える人は2〜3属性あったりするんだけど、足りなければ魔道具や魔石で補えるから、属性が自分の望んでいるものと違っても悲観することはない。
そして、肝心なのは属性の組み合わせだったりする。
「そしてこの四属性のうちのどの組み合わせでもいいけど、3属性以上を持っている人は、光属性が発動するんだ。
光属性の魔法は、明るさだけの魔法だから、灯りに応用すれば火事にならない安心な魔道具になるね。
他には、怪我をした時に、止血して組織を繋ぎ合わせる、つまり治癒魔法が使えるのもこの属性だ」
「殿下は先日、治癒魔法を発動したと聞きました!」
「帝国の武器でしょ、被害者は傷跡もなく治ったらしいわ」
「光魔法の治療には限界があります、流れてしまった血液は再現できないのと、欠損するほどの大けがは治療できません」
「まあ」
「ですが、他の属性と組み合わせれば結構使えます。
僕は水魔法を組み合わせて、流行風邪を治療できると思います。まだ実践はしたことはないですけどね」
今生では。
「最後にさらに特別な魔法、闇属性、色は黒。
単語のイメージはあまり良くないですけど、時空を御する魔法です。
闇属性の魔法使いの中には空間魔法が使えるものがいます。アイテムボックスとかね。
この、魔法のポケットのような空間拡張などが得意です」
と、ポケットにさっきの水が入ったままの金魚鉢を吸い込ませるように仕舞う。
「わあ!」
「このポケットは、国王陛下に頂いたものなのですけど、何代か前の国王かそのお友達に空間魔法が使える人がいたのでしょう」
まあ、お友達の俺だけどね。
「空間魔法は、魔法陣もありますので、それを利用することによって、空間魔法が使えなくても、魔法の収納が手に入るわけですけどね」
「なるほど」
「我が家も引き継いだ魔法の鞄があるわ」
マリアーノが言う。
「あれがないと買い物が大変なのよ」
主婦らしい言葉だ。
「魔法の発動にはイメージが大切です。
だから日ごろから様々な目の前の現象や、理を見て、空想でイメージできるようになることが必要です。
たとえば、ここに四角いケーキがあります」
小皿を用意してもらって、そこに、10センチ四方で厚みが2センチのケーキのスポンジを立てる。
いざという時のおやつに隠しているものだけど、ちょうどよいものが他にないからしょうがない。
「わあ」
あとであげるから待ってねスウ。
「これに強い風を当てるとどうなると思う?」
「たおれる…かな?」
「そう!」
詠唱がわりに指を鳴らす。
パチン
ぴゅっ
ぱたっ
「たおれた!」
「でも今の俺の手の動きだけじゃ風で倒したかどうかは分からないね」
もう一度立てる。
「じゃあ、スボール、このハンカチの端っこをもって、俺とケーキの間に垂らして」
「はい」
「んじゃもう一度」
パチン
ヒラッ
ぱたっ
「かぜがとおったのわかった!」
「本当だ!ハンカチがなびいたな」
「つまり魔法による風が力を持ったということですね」
「そう」
「では、この風を鋭く、まるで刃物が通るようなイメージにするとどうなる?」
もう一度スポンジケーキを立てる。
「まあ、刃物ならケーキが切れるって事やな」
「いくよ、皆じっとしてね」
俺はわかりやすいようにカードを投げるようなしぐさをする。
シュッ
「もう一度するよ」
今度は向きを変えて。
「なにもおこらないわよ」
「大丈夫。
スウ、ケーキを触ってごらん」
「うん…
あ、わあきれてる!」
「本当だわ」
「何て鮮やかな」
「縦と横に切れている」
「よっつになっちゃった」
「スウ、食べてもいいよ」
「わあい…あまぁい」
「…剣でもケーキなんて柔らかいものを綺麗に切ることは難しいぞ」
「そうだよね」
「お兄ちゃんにもどうぞ」
「え?う、うん」
「他のお兄ちゃんたちもどうぞ」
「「ありがとう」」
「あ、でんかのぶんがない!」
「僕はまだ持ってるから」
「なら」
「いただきます…」
「ちょっと休憩にして皆さまも糖分を取りましょうか」
人数分のお皿を戸棚から出して、同じケーキをたくさん出す。
「スウたちも、もっと食べるといいよ」
「あたしはお茶をいれてきます」
「私も…」
マリアーノとセリシャがキッチンの方に動いた。
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