30【スカウト】
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「おはようございます」
「おはようございますセリシャさん」
「あら、アズールとリーン。登録以来じゃない」
「すみませんちょっと色々あって⋯⋯」
「自分は訓練だけですけど、何かありましたか?」
「まあね」
確かに疲れていそうだ。
「何があったのですか?」
「あたしからは言えなくて」
「ギルマスが君たちが来たら小部屋に呼ぶように言われているのよ」
「それは丁度良かった。俺もお話があったんで」
「わかったわ、二階のここに入ってて」
と、札のついた鍵を渡される。
「わかりました」
冒険者ギルドの二階の北側には四つのドアが密に並んでいる。その一つのマークとカギについているマークが同じだった。
「開きましたよ殿、いてっ」
「俺はリーンだよ、アズール」
「はい、空いたよリーン。
誰もいないから良いと思ったんだけど」
「だめ」
すぐにノックがされて、返事をする前にギルマスが入ってきた。
「で、用ってなんだ?」
魔法のポケットからちょっと恭しいしぐさを意識して羊皮紙を一枚出してテーブルに置く。
「父からの依頼です」
「父ってもしかして⋯」
「はい、アルコアーズです。
依頼内容はこれ」
トントンと文言をつつく。
勅命ではないけど、サイン入り。
「なになに?ギンヨモギの採集?」
「はい!しかも刈りつくすのは禁止で」
「銀蓬なんざ魔草なんだらちょっと残して置いたらすぐに増えるぜ」
「今欲しいのは先っちょだけなので」
「銀蓬で何をするんだ?」
「これを作るんですよ」
とポーション瓶とパンを出す。
「これはもしかして」
と小瓶をかざすギルマス。
「マジックポーションです」
「宮殿から持ってきたのか?」
「いえ、新たに作りました」
「誰が作ったのだ?」
「俺が。ちなみに今は宮殿で魔法係長が作ってます」
「そうか!そしてそれを卸してくれることはないのか?」
おお、前のめりだ。
「もしかして、ギルドにも相談が来てるのですか」
「ああ、帝国から帰ってきて寝込んでいる奴の中には、冒険者もいてな、しかも魔法使いとして登録していた奴が、体調不良の原因が魔法枯渇だと言って、回復する薬を欲しているのだ」
「魔法使いほどともなると、これじゃ足りないですよ」
「そうなのか?」
「これは平民の魔力枯渇病には効きますけど。魔法使いには一時的なものになります」
「しかし」
「その魔法使いって何人ほどいるのですか?」
「十人はいるぞ。
あっちこっちのギルドで相談が共有されている」
「このギルドの近くにも魔法使いはいますか?」
「向かいの宿にいる」
「何名?」
「一人だ」
「魔法使いじゃない人も寝込んでます?」
「ああ、冒険者に登録していたら、安く泊まれる宿だからな」
「なるほど」
「とりあえず、銀蓬の依頼お願いしますね」
「自分達もこれから採収に行く予定です」
隣に座る連れも言う。だけどそれに今決めたことを伝える。
「あ、アズールその前に予定変更で」
「ああ、向いの宿にいるんだ。俺が案内しよう、寝込んでいる帝国帰りを見たいのだろう?」
「ばれてる。だけど良いのですか?」
「ああ、その方が良い」
冒険者ギルドの向かいの宿屋はギルドより古く、かなり年季の入ったドアを開く。
「ギルマスじゃねえか」
「なんだ冒険者に戻ったのか」
「そりゃ大変だ俺らの仕事を取られるぜ」
「まさか!がははは」
「やかましいわ」
ロビー兼食堂のようなところにいる男たちにいじられている。
痩せてるけど元気な老婆が出て来た。
「ギルマスさん、あの魔女を施療院に移せないかね。
ますます動けなくなっちまって、世話が大変なんだよ」
小さい体で、デカいギルマスに文句を言ってる。
「すまんな。もう少し頼む。施療院も満室だったからな」
今はちょっと空いたと思うけど⋯。家のある人は帰ったって言ってたし。
「そっちの子供は?新人かい?」
「はい新人冒険者のリーンです、よろしくです」
「アズールです」
二人でペコリ。
「泊りかい?部屋は空いているよ」
「またいつかお世話になりますよ」
「なんだ⋯いつでも使いなよ」
「「はい!」」
「おい、二人ともこっちだ」
「「はい」」
二階建ての階段を上り切りさらに上に行く。
「屋根裏は宿泊費がタダだからな。食費とかは別に必要だが」
「そうなんですね」
「ギルマス!新人に余計なことを言うんじゃないよ」
老婆が後ろから叱っている。
Aランク以上だと言われているギルマスより強いかもしれないね。
いかにも屋根裏の倉庫の扉の前でノックをしている。
「おい、入るぞ、着替え中じゃないよな」
魔女って言ってたもんな、女性の部屋に入るなら確認がいるよね。
「返事を待つことはないさ。
もう、昨日の昼からは声も出ないのさ」
後ろからついて来た老婆が説明する。
この人がこの宿の亭主で女将だそうだ
「かなりやばいな」
「さあ見てやってくれ」
老婆が開けてくれた扉を皆でくぐる。
鍵さえついていなかった。
「女将、これがベルジーヌ?」
中には女将よりもっと年老いた老婆が横になっていた。
「そうさ、そもそもこの人は八十代だろ」
「ああ、しかしまだ四十代に見えていたぜ。帰ってきたときはもうちょっと疲れた感じだったが、髪もブルネットだったし」
「魔法使いは長く生きますからねえ」
俺のつぶやきにギルマスが振り向く。
「そうなのか?」
「ほら、図書館の賢者も、エルフでもないのに300年以上生きていたと図書館の本には書いてました。しかも晩年まで見た目は若かったと」
でも、ディーン様に比べれば老けたんだよね。
「そ、そう言われれば⋯と言うことはもしかしてリーンお前も⋯」
「やだな、俺が八年前に生まれたのは国民皆がご存じでしょ」コソッ
「そうだったな。あれは盛大だった。式典の警備の依頼もあったし」
「そんなことよりこの人、ベルジーヌさんだっけ?ちょっと起こしてもいいかな」
「ああ、このままでは施療院に移動も出来ぬ」
「そうだね。ベルジーヌさん⋯聞こえますか」
少し頷いた。眠ってるわけじゃないんだね。
「ちょっと首を触りますよ」
筋張った細い首筋に触れる。
脈はあるけど体温がない。
今回も頸動脈からそろそろと魔力を流していく。バトマンよりゆっくり、でもちょっと長い時間をかけて多く。
「はあ⋯楽になって⋯いくよ」
か細い声が漏れる。
「ベルジーヌさん、魔力を動かせますか」
「ああ⋯温かい、優しい魔力だ」
「ふふふ、ありがとうございます」
「そう言えば、医者じゃないのか?子供の声だね」
「そうですよ」
瞼がゆっくり開いて青い瞳が現れた。
体温が上がって顔色も少し改善されていくと、たしかに少し若く見えて来たかもしれない。
でも一度老けたらなかなか元には戻らない。
老けたまま長生きにはなるんだけどね。
若返りとかアンチエイジングの薬づくりに凝る魔女がマリアーノの友達にいたけどね。
「よいしょ、ちょいと手を引っ張ってくれ」
ベルジーヌが座ろうとする。
「おい、大丈夫なのか?」
「大丈夫さぁギルマス」
「じゃあゆっくりで」
ギルマスがベルジーヌの背を支える。
頭の周りは白いけど、なるほど裾の方がブルネットの髪だ。
それを手櫛で整えながら口を開く。
「これは珍しい、魔法使いにしたらずいぶん幼いんだね。冒険者なのかい?」
「はい、リーンと言います、こっちは友人で剣士のアズール」
「リーンか、良い名前だ、アズールも辺境で聞いた名前に似ているな」
「ははは、よろしくお願いします」
「お聞きしたいのですが、ベルジーヌさんはポーションを作れますか?」
「ああ、マジックポーションぐらいなら沢山作れるよ。材料さえあれば」
「帝国から帰ってきた人たちが皆魔力不足になっていて、ポーションが必要なんです」
「あたし達だけじゃなかったんだね」
「はい、魔法を使わない人たちも等しく生命を脅かすほどの魔力不足に陥っています」
「ああ、この世界の人には魔力は健康維持に大事な物さ」
「ベルジーヌさんは、元気になられたらどうされますか?」
「そうさな、どこかの森のふもとでささやかな魔女の店でもやろうかなと」
「帝国に目を付けられるんじゃないですか?」
「魔女ならではの防御方法はあるさ」
「そうなのですね。もしよろしければ、俺の友達の魔女を助けてほしいんです」
「魔女を?」
「今は彼女が一人でマジックポーションを作ることになってまして」
「なるほど、よし、わかった。
荷物を纏めて尋ねるとしよう。この王都なんだろ?」
「はい。
では、明日お迎えをよこしますから。住まいもあるそうですよ」
「それは助かるねぇ」
「それと、ベルジーヌさん、本調子に戻るまでこれが必要だと思うので渡しておきますね」
「これは魔石?こんなにずっしり魔力が入って」
「はい」
「助かるよ。この礼は⋯」
「友達の魔女を助けてくれればいいですよ」
「わかったよ、リーン、それにアズールも」
「いえ、自分は何も」
「そんなことはないよ、アズールが一緒じゃないとリーンは動けないのじゃないか」
良くわかるな。この魔女は何者だ!
「じゃあ、明日迎えをよこしますので」
「失礼します」
屋根裏部屋から出る。
「とりあえず、ほかの帝国帰りの部屋を訪ねよう」
「他のやつらは魔法使いじゃないぜ」
「分かってるけど、この国の人でしょ?」
そう言うとギルマスが頷く。
「こっちだよ」
「ありがとう女将さん」
「なんの、例を言うのはこっちさ。ああいったがベルジーヌは古い友人なんだ、ありがとうな」
宿にはほかに五人の冒険者が寝込んでいた。
冒険者とは言っても、出稼ぎ帰りだから普通の人だ。
皆一様にかけ布団に潜って震えていた。
冬じゃないのに。
「リーン、俺にも魔力があったじゃん?
手伝うことはできないのか?」
俺のそばにくっついて回っている又従兄に聞かれる。
「そうだな、帰ったら練習しようか」
「ああ!ほかの魔法もたのむ」
「わかった」
五人の魔素神経を少しいじって宿の一階の食堂にやってきた。
「助かったよ。お礼にジュースをやろうかね」
女将さんがニコニコと席を勧めてくる。
「お構いなく」
「自分は何もしてないです」
「ジュース位水みたいなもんだから貰っておけ」
レストランコーナーに一緒に座るギルマスが言う。
「なんだって!うちのオレンジはとっておきなんだよ、ギルマス!」
「それは楽しみです」
「待ってな」
「今回リーンのお陰で、助かったぜー。報酬入れとくぜ」
「いえいえ、まだたくさんいらっしゃるんでしょ」
「そうだけど、治る瞬間を見れば希望も見えてくるってもんだ」
「そうですね」
「流石魔術のスキル持ちだな」
そういえば、この人は今は隠匿した俺のオープンステータスを知っている。
「いやぁ⋯」
ゾクッ
褒められて気持ちよかったのに、いやな感じが背中にあたる。
「魔術だと⋯」
ここに入った時から、賑やかな冒険者から離れて怠そうにカウンターに座っている男がいてそいつがつぶやく。
「そうですよ」
「魔法なんて不公平なものこの世には要らないんだ」
「は?」
「魔法が使えるからって大きな顔をしていた王族や貴族は、帝国じゃ民衆に反撃されていたのだぜ」
「魔術師に対してどうやって攻撃していたのですか?」
「数の力さ」
「そうなるように人々を先導した人がいるのでしょう?」
「ああ、偉大なる異世界から来た救世主だ」
「異世界?」
「ああ、そして魔力を使わずとも国力が上がる文明をもたらしたのだ」
「やめなヤコーブ、お前さんはそれにあこがれて帝国に行ったのだろうが現実はどうだったのだ」
「魔力あろうがなかろうが人は上下を作るけどな。そして下の者は搾取される」
「そうだ。だが、冒険者なら収入は不安定だが自分次第だからな。たからお前もギルド証を使ってここに滞在しているのだろ」
「ふん、そういうことだ」
二人に近付いてみる。
「おいリーン」
「大丈夫アズール。
ヤコーブさんですか。新人冒険者のリーンです、よろしくお願いしますね」
「あ、ああ。
なんだ?」
「あなたはどうして帝国にあこがれたのですか?」
「帝国にあこがれたのじゃなくて、この国に失望していたのさ」
「失望?」
「俺も一応元をたどればファンダー王に繋がっているのさ。だが先祖がポカをやったせいで、貴族籍を奪われたどころかずっと底辺にいたのさ」
「ポカとは?」
「言えねえがな」
「言えないほどの事なんですね」
「なんだと!」
「じゃなければ言えば?」
アズールが挑発する。
「うるせえ」
「底辺から這い上がる努力とかされたのですか?」
「⋯⋯そんなもの、日々の暮らしをこなすのに必死なだけさ」
「でも、今は昼前から飲んだくれてここでだらだらしてますけど。」
「うるせえ」
「相手するなリーン。時間の無駄だぜ」
「そうですよ!国が良くなればいいんですよ!
ほら行きますよ」
ギルマスが俺の前に立ち、視界から男の姿を遮り、アズールが手を引いてくれる。
「⋯確かにそうだけど」
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