29【挿話・王の決意】
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ここ数年、帝国に出稼ぎに出ていた国民が疲弊して戻ってくるという問題に悩まされていた。
脚気のような病に倒れて、働き続けることが叶わず、帰ってきたという事なのだ。
国境の街などには帰国民たちが掘っ立て小屋のようなものを作ったスラムよりひどい集落が出来つつあるという事だった。
そんな中、またしてもファーリィンがその病は脚気じゃなく、過去の病だと言われている〈魔力枯渇病〉のようなものだと一目で見抜き、施療院で治療に当たったとか。
「それはもう、鮮やかな手つきだったのです」
一緒に行動していた騎士のエリスも興奮冷めやらぬという感じで報告していた。
そしてその翌日、余は朝一番にマリアーノ魔法係長を呼び出した。
「マリアーノ、ファーリィンに魔法省跡の設備を見せて、使いたいというなら自由に使わせてやって欲しい。
あれは、お前の助けになるだろう」
「そんな、私はただ魔女として存在しているだけで…」
「だか。余は帝国の前でびくびくするのはもう終わりにしたいのだ」
「ですが⋯⋯」
そして、ファーリィンに紹介した。
「リーン、紹介しよう、魔女のマリアーノ・ド・ウイザールだ。
今現在我がランデルソール王国で通産省魔道具係の係長だ。
この、マリアーノが我が国で魔法を扱うトップということになる」
だが我が息子は、その昼にはもうマジックポーションを復活させていたのだった。
「魔力枯渇病の特効薬ではないですけど、枯渇した魔力を間に合わせに補充するマジックポーションなんです。図書館にレシピがありましたので作ってみました。そして、同じ材料を利用した銀蓬パン。
こっちはさすがに料理長にも手伝ってもらいました」
それから数日後のことだった。
「国王陛下、大変です、市中で両替商が帝国の武器で撃たれました」
「なんだと!
王都に帝国の武器を持ってるものが現れたのか!」
「はい」
街道の帝国に繋がる数か所の国境の入り口では、入国してくる人や荷物に警戒するようにと、大昔から徹底してはいるが、陸続きの国境は完全に管理できているとは言い切れぬ。
国を跨いでいる家もあるからだ。そして警戒しているのは帝国からの荷物であって隣国ではない。それは穴のある防衛とは分かっているが、完全にするには予算が限られる。
「すでに犯人は取り押さえられて騎士団の牢に入れられております」
「うむよくやった、取り押さえたものが騎士ならもちろん他の誰であっても褒章を出すように」
「ですがそれを捉えたのが、武器を向けて撃たれたファーリィン殿下でして。ですからぜひ陛下から…」
「なんだと!
それで、あれは無事なのか」
「はい。傷一つ追わず、犯人をたちどころに無力化して犯人を捕らえたのは殿下です。
それどころか脇腹を打たれて命が危うかった被害者の怪我を魔法で完治させたのです。
被害者は出血による貧血症状が酷いということで一日だけ施療院に収容されました」
「うむ。死者が無くて何より。
だれか、ファーリィンが戻ってきたらすぐにここに来るようにと」
「はっ」
言葉を話すより前から魔法を使い、五歳になるころには騎士団で見習い騎士と同じきついメニューをこなして訓練をしていたファーリィンは、あの武器でも平気だというのか。
まだ八歳だというのに。
「おい、其方は帝国の武器を正面から撃たれても対処できるのか?」
執務室の入り口に立つ近衛騎士に聞いてみる。
「盾があれば防げますが、丸腰では難しいですね。
防弾仕様の鎧を着る必要もあります」
「うむ」
「あれを正面から受け止めるには、身体強化の魔法を体はもちろん目の力まで発動させてなら可能かもしれません。
が、その技術は今の騎士団や軍には失われております」
…もしや、ファーリィンはそれも使えるという事なのか。
落ち着いて座っていられなくて、執務室でウロウロしていた時に、朗らかな声がした。
「ファーリィン只今来ました」
「入りなさい」
その顔を見て思わず彼を抱きしめる。
「わわっ、ドアの横にいらっしゃったのですね。…父上?」
「ファーリィン、無事でよかった。
帝国の武器で撃たれたとか」
「ご心配をおかけしましたが、この通り大丈夫ですよ」
「そうか。知らせを聞いた時は肝が冷えた」
「父上見てください!」
ゴトリ
ファーリィンが自分の肘ぐらいの大きさのそれをテーブルに置く。
「これがその武器です。
エリスに教えてもらって、薬莢というのを外しています」
「うむ。
別に初めて見る物ではない」
「そうなのですか?」
「先代王、つまりお前の祖父はそれを拾った山賊に撃たれて死んだのだ」
「なんと⋯⋯。そうだったのですね」
「ファーリィン、魔法が上達すればそれに打ち勝つことが出来るのか?」
もはや誰よりも魔法に詳しい相手と認識して聞いてみる。
「難しいですね。
戦いに慣れた優秀な魔法使いなら可能かもしれませんが、それ以外は防弾仕様の鎧か盾が必要です」
素直に自分の見解と知識を言ってくれる。
「うむ、それはそちらの近衛騎士にも同じ見解だ」
「それに、魔力を帯びていないので、魔物のように検知に引っかからないと思うのです。
後ろから知らずに狙われたら危なかったかもしれません」
「なんと」
「今回、僕の場合は相手が見えてて、自分から正面に向かったので対処できたのです」
「なんだと!自分から正面に!
お前は、この国の大事な王子なんだぞ」
押さえきれず怒鳴ってしまった。
「父上…ごめんなさい。でも出来ると確信があったから行ったんです」
「その武器を見たこともなかったのにか?」
「はい、弓矢を受け止める訓練はしてますからね」
「は?騎士団ではそんな訓練しているのか?」
思わず護衛騎士に聞く。
「いえ、投げ込まれる石を受けたり避けたりはしますけど」
「あ、それです」
「ところで、ファーリィン」
「はい」
「密談するための魔法は使えるか?」
「遮音結界の魔法ですね。使えます」
「ちょっとその護衛に聞こえぬようしてくれ」
「はい」
そういうと息子は魔法のポケットから小さな紙きれを出し、例の魔石ペンを出して丸い模様を描く。
そして詠唱する。
≪闇の魔女よ、我らの音を隠し給え≫
魔法陣から、シャボンのような虹色の膜が出たかと思うとたちまち大きく膨らみ二人を包むようにして消える。
「これは立ち上がって動くと結界が壊れます」
「なるほど了解した。
さて、ファーリィンよ。
余は魔法省を復活させようと思っている。手伝ってくれぬか」
「良いですけど⋯⋯。一からとなると大変ですよ」
「わかっておる」
「それに、先に帰ってきた民を救済しないとだめですよね」
「うむ、仕事を探すのなら魔法省立て直しの公共事業を考えて従事させよう」
「なるほど」
「その前に、魔法に理解のある薬師を集めて、マジックポーションの生産を手配したい。
そして魔法使いの復帰と新しい魔法使いの発掘だ」
「そうですね。手伝えることならなんでもしますよ」
「いや、ファーリィンが主体でやるのだ」
「僕がですか?」
「お座りが出来た赤子の時から水魔法が使えるお前の他に、誰がやれるというのだ。
招来は魔法省のトップと国王を兼任すればよい。そもそも国王はすべてのトップに立つのだ」
「えーやっぱり僕が王位を継承するのですか?」
「当然だ。
弟のアレファンダはまだ赤子だし、あの母親と後ろ盾の伯爵家は魔法に否定的だ」
「たしかに⋯⋯。でも王妃はともかく、アレン君には魔法の良さを教えたいなぁ。
というか、父上の息子なんだから魔法が使える程度には魔力があると思うのです」
「意識改革か」
「魔法の良さが分かれば…」
「そうかもしれぬが」
「僕、もう少しアレン君とコミュニケーションを取りたいです」
「考えてみよう」
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