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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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27【お姉ちゃんとお出掛け】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「殿下、今日はアズールがいないから冒険者活動は出来ませんよ」

「だからエリス姉ちゃんをを誘ったんじゃないか、ワンピース似合ってるよ」

「姉ちゃん…ありがとうございます殿下」

「俺は今はリーンなんだからそれで!弟のリーン。

 いい?」

「ふふふ、わかった、リーン」


 今日はエリスは木綿の質素なワンピース、俺も半ズボンに古着のポロシャツ。

 靴も宮殿で不自然じゃないように泥を塗ってきた。

 洗えば元に戻るよ。

 

「そういえばエリスには弟じゃなくてお兄さんがいるんだよね」

「はい、兄は家を継いでいまして結婚もしております」


「今日も孤児院に行くんですか?」

「今日は予定なし!ぶらぶらするんだよ。エリスもお休みだと思って!

 なんならお小遣いも使っちゃおう!」

「ふふふ、ではおすすめのスイーツ店を紹介しましょう」

「やた!」


 それでも高級商店が立ち並ぶところは今日の出で立ちには合わないので、キョロキョロ見るだけにしながら下町へつながる噴水広場に向かって歩いていく。

 仕立て屋は並ぶ服は展示してるだけで、発注して誂えたりするのだ。縫製は下請けに外注するそうだ。基本的に家来が出入りするかここのスタッフが客のところに出張する。

 王宮内には王族の服装を担当する部署があるから俺は表向きにはここで買うことはない。



 それから家具屋、書店、貴族向けの文房具店、高級靴店、洋品店。

 これらは貴族や豪商なら家名や家紋を入れるので、一部加工したり、オリジナルを頼んだりして配達してもらう。ここも上位貴族なら直接出入りしない。


 高級食材店、酒屋は貴族の厨房スタッフが買いに来るところ、高級レストランぐらいは貴族が出向くことはある。


 銀行や両替などお金を扱う店が並ぶところに近づいてきた。

 用がないから素通りだ。俺の銀行は下町の冒険者ギルドだからな。



 バンバンバン


〔キャー〕

〔うわぁ〕

〔強盗よ!〕


「なに!」

 キリッと騎士の顔になるお姉ちゃん。


「殿下気を付けて!」

「俺は大丈夫、今の音は何?」


「銃という帝国の武器の音です」

「あれが、魔法を使わない武器」

「はい」


 スン…

 知らない匂いが漂っている。血の匂いも少し。 


「よしエリス、剣を渡すよ」

 魔法のポケットに入れてあった俺の手持ちの騎士用の支給品の剣を渡す。

 普段のエリスはもっと良い剣を下げているよ。

「はい、ありがとうございます」

「行くよ」

「いけません!殿下は帰りましょう。警邏の騎士に任せて」

「そういうわけにはいかないよ、怪我人がいたら…」


 タタタッ

 

 俺の視界の隅で見慣れない服装の男が走っていく。手には何やら鉄の道具を持っている。


「きっとあれだよね」

「はい、下がって」

「大丈夫だって!エリスは待ってて」

「そういうわけには!

 しょうがない、お付き合いします」


「気を付けて!」

「お姉ちゃんこそ!」


 黒い上下の少しぴちっとした服を着た男は、下町の方に走っていく。


「先回りしてくるね」


≪身体強化≫

≪ブースト≫


「え?あれ?ちょっと!殿下!」




「退け、小僧、邪魔すると撃つぞ」

 男の正面に出ることが出来た。


「うつ?何を?

 その手に持ってるものって。弓矢みたいなもの?

 小さいねぇ。凄いね」


「くそっ、退かぬなら仕方が無い」


 バンバン


「わわっ」


 金色のちいさな矢じりのようなものが飛んできたものを手で受ける。

 二個飛んできた。

 ブーストのかかった身体強化なら、強弓の矢もこうやってゆっくり飛んでくるように見えるし、籠手をはめた手より硬くなるから怪我無く受けられるんだよね。

 だから本当は鎧なんかいらないんだよね。


「な、当たってるはずなのに」

 

「うん、当たったよ此処に」


 左胸の前に持ってきていた拳骨を開く。


カランカラン


 石畳に転がってよい音。


「じゃあ、お返しだよ」


 こんな奴に遠慮はいらないよね。


≪ウインドキャノン≫


 ドスッ カシャッ


「うわぁ」


 手から離れた銃とかいう物をさっと取り上げて、魔法のポケットから紐を出して男を縛る。身体強化中だからね。大人より力あるよ。


「うっ…小僧お前…魔法使いか…。

 くそっ、ガキのくせに何て力だ!」

 

「鍛えているからね。いちおう冒険者だから、君を捕まえちゃうよ。言い訳は後で騎士団でしてね」

「…リーン」

「あ、お姉ちゃん、警邏の騎士は?」

「後で来るだろう…何て鮮やかな縄掛」

「でしょー、お姉ちゃんたちの訓練をいつも見てるからね」


「おーエリスの連れか?坊主。助かったよ」

 制服姿の騎士が三人駆けつけてきた。

「遅いぞ」


「悪い悪い。

 けが人が出てさ、そっち対応していたんだよ」

「怪我人?大けが?」

「死ぬほどではないが、出血はある」

「連れて行って!

 俺、治療道具持ってるよ」

「エリス、両替商のネグランデだ」

「わかった。

 リーン、私が場所を知っている」

「うん!」


「立て!」

「くそっ」


「リーンこっちだ」

「はーいお姉ちゃん」


「それにしても、なぜあいつは殿下と解らないのだ?」

「エリスをお姉ちゃんと呼んでるからじゃない?」


 弟らしく、エリスの袖を摘まんで早歩き。


「ここだ」


〈ネグランデ両替商〉両替商の印。王国の許可証と分銅の組み合わせを貼り付けたそこには、人だかりが出来ていた。


「ネグランデさんしっかり」

「ああ、出血が!」


「退いて、通して」

「何だ女?とガキ!ああ、エリスか」

「この子を通して、治療できるらしいから」

「わかった」



 強盗除けの格子の向こうに男の人が一人倒れている。


 横の扉が開かれて、そこから二人の騎士が入って対応しているようだ。騎士の一人はいつも訓練に付き合ってくれているスボール君だった。


「すみませんこの子を通して」

「怪我見せて」


「はい、お前は?」

「俺ちょっと治療魔法が出来るんで」

「おお!お願いします」


「銃の音は三つしたよね」

「はい、だが二つは外れて一つだけこの人に当たったようです。幸い脇腹で貫通したのですが」

「わかった」


 左わき腹の服に小さな穴が開いて、その周りが赤黒く濡れている。


「はあはあはあ」


「ネグランデさん、大丈夫ですからね、傷を塞ぎますよ」


 声をかけながら脇腹に手を当てて光魔法を発動する。

「お姉ちゃん、ナイフある?」

「はい」

 人前だというのにスカートをめくって、その太腿のあたりからナイフが出てきた。


「それで、この人の傷の周りの服を破って」

「わかった」

「背中の方までね」


「はい」


「スボール君、これ持って」

 魔法のポケットから、綺麗なタオルを渡す。


「え?何で俺の名前を…ってあなたは殿(でん)フガッ」

 エリスが口を塞いでくれた。良いぞ!

「気付くのが遅いぞ。しかし今は私の弟のリーンだ」

「ううぅ?」

「とにかくそのタオルを持って」

「ぷはっ。はい…わわ、濡れてきた!」

「そのまま絞って俺に渡して」

「はい……

 絞りました!」


「サンキュ」


 絞ってもらったタオルで血まみれの脇腹を拭ってみる。


「弾の後がない」

「背中はどうかな…うん閉じてるね」

「すげー」


「助かりました」

 ネグランデが起き上がろうとするのを押さえる。


「出血が多かったからまだ寝転んでいて。

 だれか馬車を!」

「はい」

「一日だけ施療院で様子見を」

「わかりました」



「やっぱ魔法は良いよな」

「あの子は誰?さっき逃げる強盗も捕まえたのよ」

「その上、怪我も治療できるなんて」


「もうこの人は大丈夫だね、お姉ちゃんもう帰ろうか」

「え?はい」


「スイーツはまた今度だね」

「そうですね。目立っちゃいましたねリーン君」


「ざんねん、買い物も出来なかったよ」


「でも、直ぐに飛び出しちゃうところはどうかと思うわ。

 お父上に相談しなくちゃ」


「え!待って!それだけは!」

「いまさらよ、スボールにばれたんだから時間の問題ですよね」


「うう…なら自分から報告に行くか」

「着いていきますよ」


「お願いおねえちゃん!」

「うっ…殿下、ずるいです」


「えへ」


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