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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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26【ランデルソール王国の始まりの時】

二話目に地図を入れました。よろしかったらご覧くださいませ~。


いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「館長、お客様がお越しです。

 応接にお通しております」

 

 昔々、ヴォーレスタ王国には王宮より大きな建物がありました。

 それは〈図書館〉と言われるもので、文字と思われるものなら何でも手に入れ、手に入らなければ複写して集めた場所でありました。

 収集するものは文字だけではなく、図画をはじめとする芸術作品、植物の種子や動物の素材見本や鉱物見本などもありました。


 個人で収集するそれが長きにわたってあまりにも増えて、屋敷に住んでいるというのに、寝室以外は資料に押しつぶされそうになっていた、賢者リィーン・ラ・ビブリオーに、ヴォーレスタ王が図書館を建設して贈呈するからそこに住んでくれと頼まれて、喜んで住み着いているのだった。

 

 そんな彼に、誘致したヴォーレスタ王をはじめ様々な人々が図書館を訪れ、教えを請い、相談を持ち掛け、弟子を面倒見てくれと連れて来られたりしていた。

 しかし、おかげでますます資料が増え、充実した日々を過ごしている賢者だった。


 だが、図書館に常にいるわけではないということも人々は知っていた。


 面会予約をしなければ、賢者は直ぐに魔の森の魔王のもとに出向いているのだ。


 しかし、今日は予約があったので、仕方なく朝から新しい書物の整理をしていた。


「だれが来られました?」

「予定の国王陛下と、ご友人のファンダー様とおっしゃられる方です」

「ああ、なるほど。

 ファンダー様はお隣に国を興されるの方なのですよ」

「国ですか?」

「はい、小さな国の集まりだったところをまとめて一国にするそうですよ」

「帝国の様ですね」

「あんなに力任せにする方ではありませんよ」

「そうなんですね」


 図書館の正面玄関から見上げた最上階に賢者の住まいがありました。


「お待たせしました、国王陛下、そしてファンダー様。

 この度は建国おめでとうございます」


「よしてください、賢者リィーン・ラ・ビブリオーよ。

 建国にこぎつけることが出来たのも、貴方の知恵を頂いたからですよ」


「いえいえ、ファンダー様の人柄ですよ」


 客だというのに下座に座ってる二人を上座にいざなうが首を横に振られてしまったので、仕方なく奥の定位置に座ると、さっき呼びに来た弟子が紅茶のセットをもって入出してきた。


 それらが茶を入れているうちは、ヴォーレスタ国王の美しい王女の話をしていたが、弟子が出ていくと話の続きを再開する。


「それで、国の名前を賢者(あなた)が提案してくれた幾つかの候補から、〈ランデルソール〉にすることにしましたよ」

「それはそれは光栄ですね」

「うむ、わがヴォーレスタ王国は賢者がまだ子供の時に建国したそうだから、名前を貰えなかったから羨ましい事よ」

「何を仰います。ヴォーレスタの初代様も素晴らしい方でしたよ」


「そんな事を言ってくれるのは賢者が二百年以上生きているからであるな」

「二百歳を過ぎているとは信じられませぬ。若々しくて、六十になる私の父より若く見えます」

「これでエルフでないというのだから」

「エルフはこんな耳とちがって尖ってますよ。こう…。

 それに髪の色もプラチナとかブロンドとか明るいですし」

「確かに、賢者は黒髪ですね」

「では、ダークエルフとか」

「ダークエルフは肌が褐色で、目も黒いですよ。とはいえ魔の森のデューク様しかお会いしたことはありませんが」


「あの美しい魔王ですね」

「はい」

「あの方はお幾つなんでしょうか」

「さあ…かなり昔から魔の森で過ごされています」


「では、賢者殿は何故?」

「魔法使いは魔力が多いと長寿なんですよ」

 そう言って、胸ポケットから魔石ペンを抜いて光らせて振ってみる。


「聞いたことあります。賢者である前に魔法使いなんですね」

「賢者と呼ばれることには抵抗があるのですが」

「そうおっしゃらずに、あなたほどの知恵者は今の世にはおりませぬから」

「それに、リィーン・ラ・ビブリオーは民の疑問に答えてくれるだけでなく、ともに考えてくれるのが有難いのだ」

「答えが出ないまま放置するのも不快ですからね」

「普通は答えが分からないから難しい事なのであるが」


「さて、ファンダー・ラ・ランデルソール国王陛下。

 建国の式典には何か持って行きますね」

「では来ていただけるのですか?」

「そのために二人で来られたのでしょう」

「そうだ」

「はい」


「では、また日程が決まりましたらお知らせください」

「わかりました」


 〇●●●〇


「そんなわけで、大魔法使いでもある賢者リィーン・ラ・ビブリオーがこの国の名前を考えられたわけです」

「そうですね」


 あの図書館よりはちょっぴり小さな建物だけど、ランデルソール王国の図書館もなかなか立派だ。

 規模が小さくても蔵書数はあれより多いのは、賢者が住んでいた図書館は、綴じられた本も収集していたが、まだ紙が高価で、綴じる技術も遅く、巻物や、粘土板に掘って焼いたもの、木の板に書き記したもの、細長い木の板の両端を糸で繋げてブラインドのようになったものなど、一口に書物と言ってもかさばるものが多かったのだ。

 もちろんこの王宮にもその時代の資料は残してあるらしいが、紙に書き写せるものはすべて写して綴じ、本棚に納められている。


 そんな図書館の片隅で、ラマーノ先生からの講義を受けていた。


「そこには丁度俺がいた場面だから飛ばしてください」

 とは言えず、そのまま聞いていた。


「ランデルソールの建国王は、当時の他国の王や皇帝より多くの魔法属性を有し、魔力も多く、いやそれ以上に頭も切れていたと言われています」


 大国に囲まれ怯えていた小国群に慕われて王になり、それぞれの小国は領地としての統治が始まったのだ。

 魔法を平和の為に使い、それでも、他国からの争いごとに巻き込まれると、いの一番に駆けつけて、賢くて強い戦いを短期間で終わらせていた。


「魔道具は発達し、夜でも街灯が明るく旅人を照らして人々を誘導し、家の明かりも火を使わないので火事などが少なく。だから家を温かみのある木材で建てる事が出来たのです」


「帝国は大火事があったのですよね」

「はい、帝都は一面火の海になったようですよ。そして、皇帝が強引に区画整理をすすめ、木造住宅を禁止し、鉄筋混凝土という建材で四角い集合住宅を国が建て、そこに国民が入居しているのです」

「一戸建てはないの?」

「一戸建ては貴族の屋敷と豪商の店舗付き住宅ぐらいです」

 

「ランデルソール王国はお祖父様が魔法省を解体されたとか」

「はい。

 帝国は魔法を否定する割には、魔道具を使って魔法を使っているところを察知すると攻撃するそうです。

 先王は無用な争いごとを避けるために、魔法使いの運用を控え、魔法省を解体したのです。

 魔法が使えなくても、国民は生活はできますから」


「まあね。そりゃそうだ。

 でも魔法の使用と体内の魔力はまた別なんだよなぁ」

「そうですな。

 魔法薬も今では幻の単語です」


「それでも、魔法関連の書物を処分しないのは、否定しているわけじゃないからだよね」

「はい、きっと帝国を刺激しなければよいということなのでしょう」


「ファーリィン殿下はマジックポーションを再現されたとか」

「一番簡単なポーションだよ、簡単すぎるから今はマリアーノが作ってくれている。

 娘さんも一緒になってね」

「はい、これで帝国から帰ってきた国民の不調が治ればいいですね」


「でも、魔力枯渇病の治療薬はあれじゃないんだよね。

 材料がないから」

「何が必要なのですか?」


「この、魔女リーンの弟子の初代マリアーノの書物では、魔羊の素材が必要で」

 と、濃い緑色の装丁の本を机の上でなでる。

 中を読むとちょっぴり修正したくなったので、後で書き込もうと思っているんだよね。

 手書きの本はこれがいいよね。


「魔の森に生息していると言われている魔物ですね」

「うん。でもあっちの旧街道が封鎖されているから、どのぐらいいるのか分かんないんだよね。捕獲の依頼を出すにしてもAランクパーティーじゃないと難しいらしいし」

「殿下…早まっちゃいけませんよ。

 陛下にも止められていますよね」

「うん、アズールのランクがAになるまで我慢しろってさ」

「彼はAランクになれるでしょうか」

「実力はありそうだけどね。依頼を沢山こなす必要があるから、なかなか難しいよね」

「そうですな」


「それでも、森からあぶれて人里に出て来た時は、追いやるのではなく狩ってほしいな」

「それなら依頼はできるのでは?

 森に入るのにAランクパーティーである必要があるのですから」

「うん、魔羊はBランクだしね。たまにCランクの魔子羊もいるから」

「お詳しいですね」

「ラマーノ先生を見習って沢山本を読んでいるからだよ。

 でも、魔子羊の傍にはAランクの厄介な母魔羊がいるから危険なんだよね。


 ああ、それにしても魔羊のシチューが食べたいなー」

「シチューですか」


「肉は最高に美味らしいよ」

「煮込んでも魔力が含まれているとか」

「そう、ちょっと魔力を抜かないと、平民には毒になるとかいうけど、最低限の魔力を残せば、マジックポーションみたいになるんだよ。

 不味い薬で治すより、美味しいごはんで健康を維持するほうが絶対良いもん」


「それは良いですね。

 他には魔力が回復するような料理をご存じですか?」


「料理じゃないけど、森のふもととか、郊外に住む方が魔力の病気が少ないらしい。

 昔、貴族で魔力枯渇病になった人は、だいたい都市の魔法省でまりょくを滅茶苦茶使うような仕事をしている人だったし」

「都市でですか?戦争とかではなくて?」

「戦争に使う魔石に魔力を詰め込むんだよ」

「なるほど」


「魔女リーンが魔力回復薬を毎日作っていたのも、戦争があった時だというし」

「そうなのですね」


「今は戦争ではないけど、じわじわと帝国に周りの国の民が取り込まれて、さらに魔力も減らされてるなんて」

「国際的な問題ですね」


「救済案を父上に相談しようかな」


「どうされますか?」

「この宮殿の裏の森に家族で暮らせる仮設住宅を作ってもらって、森から直接魔素を浴びて療養してもらうんだよ」


「彼らの生活費はどうしますか?」

「そんな時こそ国庫を使うか、他の住民から文句が出るならせめて国中の税金を減らすとか…いやいやそれも悪手だよね」

「そうですな」


「公共事業とかはどうですか?」

「朝ごはんの時に父上に聞いてみようかな」


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