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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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25【黒猫は知らなかった】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「これがマジックポーションとな!」

「それと、魔力補助パンです」


「この銀蓬というのを採集すればいいのだな」

「はい、これは宮殿の敷地内に生えてるものですけど、たぶん森の入り口の方が多いです。

 ちなみに、普通の蓬がこれで、銀蓬がこっちです」


「なるほど、蓬に比べて銀蓬の方が緑の色が濃くて裏の毛が銀色に光沢があるんだな」

「はい」


 完成したパンとポーションを持ち、マリアーノを伴って父上の執務室に突撃した。


 その時に、一瞬外に出て、また銀蓬と普通の蓬も摘みなおして。


「蓬も食べられるので、混ざってもよいですけどね」

「うむ。しかしポーションにするには混ざらぬ方が良いのだな」

「はい」


「宮殿の銀蓬はいざという時に残しておくとして、冒険者ギルドに依頼をかけよう」

「お願いします!」


「マリアーノがこれを試したとか」

「はい!それは素晴らしいですよ」

 魔法係長のお墨付き。


「では、早速これを施療院に持っていきます」


「たのむ」


「はい!

 マリアーノも付き合ってくれる?」

「もちろんです」


「誰か、騎士のエリスをこれへ」

「はっ」




 歩いて行ける距離の施療院に馬車で向かう。


「わあーでんか!」

「いつもすてきだけど今日は王子さま!」


 着替えずに来たからな。外出着でば無いけど、子供と遊べる服装でもない。遊ぶつもりもないしな。もう夕方だ。


「今日は施療院に行くんだよ。ハオとスウを呼んできて」

「はい!」

 シスターではなくて子供達が動いてくれた。


「殿下、来ました」

「ごよう?」


「お父さんの所に行こう」

「「はい」」


 施療院にいくと、ハオとスウの父親であるバトマンはベッドに座って読書をしていた。

 病室では他の人も座っていて、歩いている人もいる。


「「お父さん」」

「おお、お前達…殿下もまたいらっしゃって下さったんですか」

「はい…昨日よりは随分顔色が良いですね」


「おかげさまで、他の人も随分楽になったと聞いています」

「それはよかった。

 もう一度これを握ってみてくれますか?」

「はい」


 魔石ペンを握ってもらう。


「わあ、お父さん昨日より光ってる」

「そうだね」


「魔力枯渇病だと思ったんだけどな。昨日今日で変化ないなぁ」

 

「昨日はどうされたんですか?」


 俺のつぶやきにマリアーノが聞く。


「きのうはもう布団を被ってても寒がってて、少し痙攣してて、冷たくて。

 しかも奥さんも同じ症状で亡くなられていたそうだ」

「なるほど」

「そこで直接頸動脈からちょっぴり僕の魔力を流したんだけどね」


「殿下が処置された人はかなり改善しているのですが、魔石がかすかに光っただけの人はまだ寝込まれていますよ」

 昨日のシスターが教えてくれる。


「そっか、まだちょっと大丈夫かなって思ったから後回しにしちゃったんだ。

 じゃあ、シスターその人たちに食べられそうだったらこのパンを食べさせて、それからポーションを一つずつ飲ませてくれますか?」

 魔法のポケットからパンが入ったバスケットと一ダースずつのポーションのケースを渡す。

「わかりました」


「私も手伝いましょう」

「有難うございますマリアーノ様」



 バトマンを見ると、スウがすっかり彼の膝に乗って、隣にハオもベッドによじ登って座っている。


「エリス、二人を孤児院に送ってくれないかな」

「わかりました」


「やだ、おとうさんのよこにいる!」

「わがまま言うなよスウ。行こう」

「そうだ、私は殿下と大事なお話があるのだ」

「うん、ごめんね。お父さんがこの通り元気になったんだから、ちょっと聞きたくてさ。

 ほら、もうすぐご飯だろ?」


 クゥ

「きゃっ」


 スウのお腹が可愛く鳴く。


「また明日もちょこっと会えばいいじゃん」

「わかった。

 じゃあ、おとうさんまたあした」

「ああ、また明日。ハオも」

「うん、じゃあ」



 俺は窓の棚の上に座らせてもらう。

 椅子もあるんだけど、座面が低くて、これの方がベッドに座ってるバトマンの視線と合わせやすい。


 病室のベッドってお世話しやすいように、高くなっているからね。


「ねえ、バトマン、ロックボルト帝国ってどういうところなの?」

「工業の街って感じです」

「どうしてそうなったの?百年ぐらい前はそうじゃなかったと聞いているけど」

「いえ、ことは140年前に、帝都にとある男達が台頭したことに始まります」

「男?」


「なんでも、それは魔法どころか魔力が全然ない特異体質で、でも頭が非常に良かったそうです。

 ある時、帝国の草原で突如ある男と他の男四人が現れたと言われています」

「へえ」

「その人たちは五人とも魔力がゼロだったそうです。なんでも異世界から来たとか。

 魔力がゼロにもかかわらず、普通に動いて生活して、なにより五人とも頭が良くて技術も持っていたとか」


「魔力が無くても動ける…?

 そんな人がいるんだね」

「はい。

 魔力というのはかなり個人差がありますよね。とくに平民などには魔力があっても魔法を発動するなどはむりで」

「そうだね。魔力というのは健康を保つためにあるんだよ。血液みたいなものさ」

「血液は誰にも同じぐらいありますけどね」

「そうだね、体格が同じなら量は同じだ。

 でも魔力は個人差があるね。ゼロではないはずないんだけど、訓練次第では増やせるんだけどね」

「しかし、庶民は使えない魔法の魔力を増やすための訓練より、まず日々の暮らしの糧を得るために働くことに時間を費やします」

「うん」


「そして、元来、魔力が多く魔法が優れているものが王になり国を興して来たので、王族や貴族は魔力が多く、庶民には魔法については縁がないと思いがちです」


 あれ?

「ねえ、もしかしてバトマンって貴族だったりする?」

「なぜですか?」

「なんか、勉強してきた人って感じするから」


「…じつはグラズィーラという家名がありまして、最高位は子爵家でしたが、祖父の代には没しています」

「なるほど」

「親も早くに失くしていたのですが、祖父が少ない老後の資金から俺をこの国の学園に進学させて貰いました。さらに働きながら留学もしたのです。

 死んだ妻は留学先のカリドー王国で知り合った後輩の学生でした」

 

「何故、帝国へ?」

「もちろん家族を養う為ですが、〈テクノロジー〉と言う新しい単語に魅力を感じて、出稼ぎの応募に飛びついたのです。

 祖父が亡くなって、身内は祖母だけになっていましたが、俺以外にも直系がいましたので、家を継ぐ発想が有りませんでした。

 しかし、妻が亡くなって子供だけを連れて屋敷で一部屋でも間借りできたらと戻ってきたら、祖母も亡くなっており、残っているはずの直系がその家を売ってしまっていて」

「そういう事だったのですね」

「はい」


 暗くなったのはバトマンの表情かと思ったけど、窓の外もだ!


「ごめんなさい。

 遅くなってきたので、話を戻して、帝国のことを教えてください」

「はい」

「魔力が無い人たちが現れてどうなったのでしょう」

「魔道具ではない道具を作り出しました。

 中でも蒸気機関というものは、ものを燃やす燃料があれば動かせるらしくて、薪や炭、そのほか炭が石になったような鉱物などはさらに効率が良いらしいです」

「ふむ」

「さらに、あの不味い〈総合栄養食品〉というものまで工場で作りはじめたのです」

「その技術が帝国に根付いたのは何故ですか?代々の皇帝は他の王より魔力が多かったはずですけど」


「彼は、武器まで作り出したのです」

「武器を?」

「魔法攻撃ほどの殺傷能力があって、しかも魔法使いではなくても使えるものですから。

 そんなものを工場で作り出して、周辺諸国を蹂躙し領土を拡大したそうです」

「ふむ」

「それで、跡継ぎをめぐる騒動があった時に、皇太子とそちらに着く貴族たちを大勢の平民を使って反逆を装って殺してしまったのです」

「平民を?」

「そして、魔力量が少なくて皇帝になれなかった皇兄に取り入り、その娘を嫁に貰ったのです。皇兄の娘も魔力が少なかったのです。

 しかし、彼のテクノロジーを使えば、平民でも皆生産力のある仕事に携わることが出来て、国力が上がるという触れ込みで。

 とうとう彼が帝国に現れて15年後に皇兄の娘が女帝に就き、皇配として帝国を殆ど乗っ取るような形で改革を進めたのです。

 それまで、魔法中心でこのランデルソールと同じような風景だった帝国は一変し、俺がカリドー王国に留学する前に訪れた時は、未来的な風景にびっくりしたものでした」


「そうだったのですね」


「そして、皇配に着いた男と、他の四人も有力貴族の娘の婿に収まり、たった七十年ほどで、帝国の貴族たちから魔力を使わないどころか、魔法使いや魔女を排除する動きが広がったと言われています。

 それで、防衛に魔法を使うこともタブー視され、もし魔法師団などが残っていたら、殺傷能力の高い大量の兵器で壊しに来ていたのです」


「それで、テクノロジーとかいう技術が無い国は文明が後退しているってわけだね」

「はい。余計に差が際立ちます」


「なるほどねぇ」


 冒険者リーンをやってた時にはもう帝国はそういう動きだったんだな。

 森にばかり行ってたから知らなかったよね。帝国の隣の国だったのさ。


 黒猫だったときは、ほんのたまにしか人里にしか行かなかったから余計に知らなかったよね。



「魔力が無くてもよい…ってことは魔素が無くても良いってことなのかな」

「魔素?」

「人や動植物はね、自然から魔素を取り込んで魔力として体に定着して健康を維持するんだって」

「自然?」

「土とか、川の水とか、緑とか…海とかね」

「帝国にはそういう物はあまりありませんでした。

 道はすべて舗装されていて、馬も歩かず、木や緑はありましたが作り物の緑で」

「作り物?」

「ほら、女性が手芸で紙や布などでお花を作ったりするでしょう?」

「ああ!あんな感じ?」

「それのもっと大がかりなものなんですけど。模造の木も工場で作られていました」


「帝都はすべてそれだと?」

「はい。全く同じ木が沿道に等間隔に並んでいて、落ち葉も無いのです」

「それでも体調が悪くなるのはランデルソール王国出身者だけ?」

「いえ、五人の子孫以外はあまり調子よくないようです。しかし人がいなくても中央の産業は回っているようでした」

「機械が動くから?」

「そうなんです。

 俺や妻はまだ旧式の人手が必要な工場にいたので、機械に合わせて同じ作業を時間いっぱい繰り返す感じでした。

 出稼ぎのポスターがギルドに貼られた頃はそういう生産工場が多かったので」


「で、住むところとあの不味いご飯で、最低賃金で生活して、魔力が枯渇して……

 なんだか怖い所だね」


 思わず自分を抱きしめる。

 そしてぶるっと震えてしまうのだった。


「そして、ここ1~2年のあいだにテクノロジーはさらに進化し、必要だった人手が減ってきたのです。

 それで、少しでも体調を崩したものはどんどん解雇されていき、帰りの交通費ももらえずに与えられていた家も出されるようになったのです。

 

 蓄えていた貯金は妻の治療費に使ってしまっていて。

 まさか私まで倒れるとは思わなかったのです」


「知らなかったよ。家庭教師には漠然と工業の国と言われていただけだったんだよね」


 そうだったっけ?って思っただけで深く考えなかったけどね。

 なにしろ帝国は一つ国を挟んで向こうだしね。

 

 遠い国って感じなんだよ。


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