23【団子のリズムでパンパン】
21話をすこし修正しております・・
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宮殿のメインの厨房は、俺や父上の部屋がある奥館の1階と地下にある。
一階には厨房の他には、配膳室。洗濯室、洗濯仕上げ室、縫製室、侍従や侍女の執務室や控室、魔道具ではない備品の管理室もある。
宮殿を支えてくれている大事なセクションである。
「殿下昼食も此方で用意しています」
「ありがとう!」
「すみません料理長、私の分まで」
「いえいえ!マリアーノ様には魔道具をいつも見て下さってますからな」
この厨房の魔道具もおもに照明と冷蔵庫だ。
焼く設備は薪オーブンだ。
国際的な来賓を呼ぶ大がかりなパーティーにもなると、外にもある薪オーブンもフル稼働していることがある。
もちろん大人のパーティーにはまだ出席したことはないよ。
パーティーメニューの凝ったお料理は、晩御飯に食べさせてもらったことはあるけどね。
従業員用の食堂で、料理長も一緒にランチに参加してもらう。
今日は馬鈴薯でできたニョッキが入ったトマトスープ。
平民の代表的なランチだ。
「殿下こんなので申し訳ない」
「お昼はワンプレートがいいよね」
「まあ、ファーリィン殿下は庶民派なんですね」
「もちろん!
王子やるのって肩凝るんだよ」
「八歳の肩こりなんぞ聞いたことないですが」
「ないかなぁ」
「それにしても〈総合栄養食品〉ですか」
「そう、外務大臣のお土産を食べさせてもらったんだけどね」
「はい」
「たぶん、市販の猫の餌の方がマシかも」
「猫の餌ぁ?」
「うん」
「殿下は猫は飼われてないですよね」
「まあね」
前世で、デューク様の客で手土産に俺に持ってきた人がいたんだよね。
あの時は魔王城に年に一度くるS級冒険者が一人いたんだよね。
その人がもう亡くなったと聞いたけどさ。
なにしろ六十年前の話だし。
「そんなご飯だけを与えられて安い賃金で働かされるなんて」
「すぐに帰ってきたらよかったのに」
「毎年、年末に帰れる交通費が作れないほどぎりぎりの賃金だったと、この国にいた時からあったお金で戻ってきた友人が言ってました」
「ひどい話だ…」
「すみません、食欲のなくなる話をしてしまって。料理長だというのに」
「いいよいいよ、僕も今はその話で頭の中がいっぱいだから。
でも、ニョッキのスープ美味しかったです」
「はい。ご馳走さまでした」
マリアーノも笑顔だ。
「お粗末様です」
「さて、ではお料理しようかな」
「はい…厨房へどうぞ」
「その前にエプロンと手洗いを。マリアーノも料理は出来る?」
「人並みには…こう見えて二人の子供を育てましたから」
「そうだった、でもマリアーノは貴族なんでしょ?」
「名前だけですよ」
「そうなの?」
「あの部署に行くために数代前のマリアーノが男爵位を頂いたのです」
「なるほどですね」
小さくなったとはいえ、魔法の部署には防衛のための秘密もあるのかもしれない。
貴族には、爵位を貰った君主に誠意のある忠誠を求められているのだ。
さて、エプロンをつけて頭髪も大きなハンカチのような布でまとめ、手を洗って俺だけこっそり光魔法で浄化をかける。
本当は皆にもしたいけど、これから作るものは焼くからいいよね。
「殿下、昨日伝え聞いたように、パンの材料は揃えておりますよ」
「ありがとう」
「はい!」
「じゃあまずこれを茹でようかな」
「あれって?その笊の草ですか?」
「そう」
「ヨモギのようですけど…」
「そうこれは銀蓬と言って、おとなしい子だけど一応魔草なんだよ」
「魔草ですって?」
「うん、宮殿の端っこに生えてた。あっちの方にね」
と何となく方向を指差す。
「普通の蓬ではないんですね」
「うん。裏を見て。
蓬みたいに毛が生えてるけど、ちょっと銀色の艶があるでしょ」
「たしかに」
「明かりの下で見るとわかりますね」
「それが見分けるコツかな」
「ほう!で、これは何の材料になるのですか」
「魔力回復薬だよ」
「まさかこれが?」
エプロン姿の魔女が驚く。
「あれ?マリアーノの本に書いてなかったかな?
基本の魔法薬なんだけど」
「あれには〈銀の女神草〉が材料と書かれていて何のことか…」
「マリアーノ殿、普通の蓬のことを月の女神と言いますよ」
「本当ですか?料理長」
「はい、蓬も健康に良いですからね」
「そうそう…じゃあ、茹で方は蓬と一緒だから…」
「ってことは、クッキングソーダが必要ですな」
「いや。ゆで汁も使うから、こっちの鍋で茹でるね」
そうして、製薬室から持ってきた錬金鍋を厨房の一人のスタッフにキッチン用の石鹸をつかって水洗いしてもらう。
なにしろいつから使われていない鍋か分からないからね。
その間に、魔羊皮紙に二種類の魔法陣を描く。
「殿下、もしかして魔法陣も習得されているのですか?」
「まあね、独学だけど」
「しかもそれは、魔力を調整する魔法陣ともう一つは味を調整する魔法?」
「さすがよく知ってるね」
「それは私のセリフです」
「あはは。まあこれがクッキングソーダの代わりだ」
「それであく抜きをするんですな」
「うん」
つぎに銀蓬を笊ごと持っていって流水で洗う。
枝とかゴミとかはもう取り除いているから洗うだけ。
鍋敷きを借りて、その上に錬金鍋を置き、魔法で熱湯を入れる。
「本当はもっとコソコソやるべきなんだろうけど、いまは急ぐから内緒だよ」
「勿論です、王宮の厨房の中はこう見えて部外者は入れません。何かあってはいけないですから」
「そうだよね」
「殿下、急ぐとは?」
「気休めだけどさ、魔力枯渇病は命に係わるから。
これでせめて一時でも命を繋ぐことが出来たら、あとは何とかできるかも」
「そうですね」
「あ、マリアーノはレシピをメモってね」
「ノートとペンをどうぞ」
料理人がすかさず渡してる。
「ありがとう!」
「自分はまだ見習いなんで、いつも持っているのです」
「あ、君、ちょっとこれを煮沸しておいてくれない?」
見習い君に、空のポーション瓶を三ダース渡す。
一ダース毎、箱に入ってたんだよね。
「わかりました」
「中を開けて出してね。ケースは後で使うから破らないでね。
あとはこれとこれも煮沸して」
と小さな漏斗と柄杓も渡す。
「はい!」
「蓋は小さいから…光魔法で浄化しとこうかな…よし」
「わあ殿下の手が光った!」
「きょうは初めて何度も直接魔法を見たぜ!」
「魔道具は使ってましたけどね」
は?
四十代の料理長が初めて見たとは…どれだけ魔法から遠ざかってるんだよ。
お祖父様、流行に乗りすぎです!
そのまま手から魔法で加熱しながら二つの魔法陣を放り込む。
「その紙は入れちゃってもいいのですか?」
「はい。これは魔羊皮紙ですので」
「魔羊皮紙?」
「魔の森にいる魔羊の皮から作られた羊皮紙なんですけど、魔法薬の粉薬を飲むオブラート代わりにもできますよ。これの方が魔力を調節するための薬の服用に効果的なのです」
「魔力のですか…」
「マリアーノ、ご先祖様の本を読み返しておいてください。図書館にもありますよ 」
「わかりました!」
魔法陣を入れて光り出したけど、それが治まったので加熱も止める。
「じゃあ、この鍋から葉っぱと煮汁に分けます」
注ぎ口の嘴のようなものが付いているちょっと大きめの片手鍋と濾し器を借りて、分ける。
お玉で上からぎゅうぎゅうと押さえて…さらに手で魔力を込めながら絞る。
「熱っつ!」
「殿下火傷しますよ!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと油断しただけ
料理長バターロールの生地を作り始めておいて」
「了解です」
「汁のほうはそのまま蓋をして置いといてね」
「はい」
「マリアーノ、この葉っぱをみじん切りにして下さい」
「わかりました…って何この葉っぱ、光ってます」
「そりゃあね、魔力を帯びているから。
汁のほうもちょっと光ってるよ」
「そんな…すごい」
みじん切りを待つ間に煮汁に取り掛かる。
緑色すぎるけど…しょうがない、
製薬室からもってきた乾燥ミントの葉っぱを未使用のペッパーミルで粉砕しながら追加する。これは無くても良いけど、あった方が飲みやすい。
苦くならない程度にちょっと入れるのがコツ。
そして、煮沸してもらったポーション瓶を口の縁を触らないように、専用のスタンドに立てていく。小さいからこれが無いと難しいんだよ。
一ダースしか立てられないんだね。
ミントを足した煮汁をさらにネルで濾して違う容器に移し替える。
そして一つを瓶に入れてふたを閉める。
まだ、温かいから、これで冷めたら密封される。
みじん切りが終わって手を拭っている彼女の顔の横にポーション瓶を持っていく。
「やっぱり。
マリアーノの瞳の色になってたら成功なんだよ。」
「は?」
「おや、本当ですね」
「ね!」
「そんな…」
「本には何のことかと思ってたけど…」
って言うのは嘘。いつも弟子のマリアーノの前でそう言って作ってた。
彼女もそう言われてよく自分でも作っていたんだよね。
「これが…マジックポーション」
「うん、初級だけどね。後で効き目を試してみようね」
「はい!」
このマリアーノもポーションづくりが得意になるといいよね。
「ポーションの方のレシピは大丈夫?」
「はい、ですが魔法陣が不安です」
「それは、慣れるまでは僕が用意しよう」
「お願いします」
「殿下パン生地が出来ましたぞ」
「じゃあ、みじん切りにした銀蓬を混ぜ込んでいってね」
「水を少なめにと言われたのが分かりました」
見習い君が言う。
「そうだ、普通の蓬パンのレシピと同じだ」
「普通の蓬パンですか」
「王都のパン屋さんにはありますね。春のパンです」
「庶民向けのパンだからな。ここで作ることはないが」
「えー普通の蓬パンも健康に良いので作ってください。
父上もきっと食べますよ」
冒険者してたんだからさ。
「そうですか?」
「はい!」
「…ではこれで一次発酵します」
「はーい」
「待ってる間にポーションを瓶に詰めていきましょう」
「うんお願いします」
なにしろ漏斗と柄杓は一つずつしか持ってきてなかったんだよ。
俺だけ紅茶を頂いている間に作業が終わる。
「ポーション36本詰め終わりましたよ!」
「わあ、感動です!」
「はい」
「では、冷めたら空瓶が入っていたケースにいれて。ケースのここに〈マジックポーション初級〉って書き込んでください。」
「これってそれを書き込む場所だったんですね。知らなかったです」
「場所はともかく書いておかないとね」
「そうですね」
「殿下一次発酵終わりました」
「んじゃガス抜きをして…」
「はい」
「殿下はパンも作れるんですか?」
「うん!」
「殿下のパンは美味しいですぞ」
なんせ、魔女の時代に料理に嵌ってたからね。パンも得意。
「じゃあ、小さく丸めようかな」
パン生地用の刃の無い包丁で等分等分と分けていって、ちょっと細長い三角に広げてから、丸めていく。
一つ直径三センチぐらい。
「結構小さいパンなんですね。お団子みたい」
「マリアーノ様、これは膨らむんで、二倍近くになるんですよ」
見習い君が教えている。
「まあ」
「うん、出来るだけたくさんの人に配りたいからさ」
「これも魔力が回復するんですか」
「そう、しかもポーション服用前に食べると相乗効果があってね」
「まあ」
「魔草と言われても、蓬と変わりませんな」
「でしょ!こんど銀蓬をたくさん積まなくちゃ。春は過ぎたけど、先っちょだけなら柔らかいから」
「そうですな。これは銀蓬の処理さえしていただければあとは私どもでも焼けますかな」
「うん!」
話しながらも手を動かす俺と、同じく見習い君もパン生地を丸めてくれている。
二人で競うように丸めてはポンと天板に並べていく。
「殿下は相変わらずお上手ですね」
「そう?ありがとう」
「殿下じゃなきゃスカウトしたいですな」
「ちょ、料理長なんてことを…不敬ですよ」
マリアーノはまじめだなぁ、あの子に似ているよ。
「良いんだよマリアーノ。
ぼくは全然!もしものことがあったらいつでもパン屋でも料理人でもしちゃうよ」
「本当ですか!」
「食べるの好きだから料理も好きだもん」
「でも、もしもなんて考えないでくださいよう」
「ははは」
「たしかに、もしもは無いですな」
「ふふふ」
暫くしてバターと青い香りが混ざった良い香りが厨房に充満する。
「いい匂い!」
「ですね!」
「焼けましたよ!」
「わあ」
「旨そうだな」
鉄板には緑色にちょっと粉が吹いて焼き目のある小さいロールパンが出来ていた。
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