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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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21【会議テーブルディナー】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「お忙しい所、ごめんなさい父上」

「いや、構わぬ。

 きょうは公務に行って来てくれたのだろう」

「はい、いつもの孤児院へ」


「そうか。

 それで?話はその時のことか」


 国王の広い執務室では、会議に使うテーブルと椅子があって、そこに食事が運び込まれていた。

 テーブルクロスじゃなくて、お盆ぐらいの大きさの四角い布を敷き、そこに一人分の夕ご飯を全部揃えて出される。

 主菜、副菜、穀物、汁物、そして飲み物。

 忙しい国王の普段の食事スタイルだ。

 でもファーリィンはこの食べ方も好きだ。

 肉料理と交互にサラダを食べるのはサッパリしていて良い。


「はい、僕が先週訪ねた後に入ってきた二人の子供の親が隣の施療院に入っていて、なんでも帝国へ出稼ぎに行っていて、体を壊して働くことが続けられずに帰ってきた人で」


「うむ、なんでも帝国で脚気が流行っておるときいている。余も最近はその帝国帰りの者の対応に追われているのだ。

 のうウォーガン外務大臣」


同じテーブルには、四十代の貴族も食事をしていた。

くすんだブラウンの髪に、口髭と顎ひげを蓄えている。


「はっ」

「ウォーガンよ、ファーリィンを見た目通りの子供だとは思わず大人だと思って対応してみろ」

「は?はい。では改めまして、ファーリィン王子殿下。

 外務大臣を拝命しておりますウォーガン・ド・ルイヤールと申します」


「はい、よろしくお願いします」


「まずは帝国…つまりロックボルト帝国と申しまして、我が国からは隣のカリドー王国を挟んだ東にございます」


「はい、家庭教師のラマーノ先生から地理で習いました」


「それはそれは」

 豊かな鬚に着いたソースを拭いてから話し出す。


「帝国ではそれまで機械と言えば魔道具だったこの世に蒸気機関という力強い画期的な動力が発明されて導入され、あらゆるものが工業化されたのです」


「食べるものまで工場で作られていると聞きました」

「そうですね」


「その大量の物を作るのに、工場などを乱立して稼働するのに急速に人手不足に陥りました」

「はて?効率の良い生産なのに人手が必要なのですか?」

「それほどに工場を作ったということです」

「なるほど、それで?」


「二十年ほど前から、近隣諸国にも出稼ぎを募集するようになり、賃金は安くても家族分も食と住は提供するから、現金は丸々残るのだからと。

 そしてこの国からも安定した収入を求めて家族ぐるみで帝国に移住するものが多くいたのです」


 移住は出来るけど国籍を変えるかどうかはその人次第だ。

 でも、帰ってきた人はみなロックボルト帝国の国籍にはしなかったようだ。


「はい」


 それも習いました。


「ところが、ロックボルト帝国の水が合わないのか、労働が過酷なのか、体を壊す者が増えているようで、さらに半年前から〈脚気〉という病気が流行り、中には亡くなるものまでいるとか」

「はい、脚気も酷いと死ぬ病気ですから…でも伝染する病気じゃないですけどねぇ」

「ええ、食生活の偏りが原因だと衛生大臣も専門の医学者から聞いたそうです。

 しかし、かの帝国の工場で作られる、〈総合栄養食品〉は、労働や人の生活に必要不可欠な栄養とエネルギーは十二分にとれるものだから、食事が原因ではないというのです」


「その、〈総合栄養食品〉というのを食べたことはありますか?」


 外務大臣なら?と期待してみたが、父の方から声がかかる。


「食べてみたいのか?ファーリィン」

「美味しくないと聞きましたから…見たいだけです」

「ここにあるぞ」

 と、アルコアーズが食事を中断して立ち上がり、傍らのキャビネットを開く。


 食事中にウロウロすることが出来るのも、食堂ではないからこそだ。


「ほら」


 箱にしては薄目の紙で包まれた四角いものをファーリィンに手渡す。

「これは?」

 それは片方が開けてあって、もう幾つかは減っているようだ。


「昨日ウォーガンが帝国から帰ってきて、土産にくれたものだ」

「良いものではないですよ。話のネタです」


「父上は食べてみたのですか?」

「うむ」

「どうでしたか?」

「うむ…食べてみなさい。

 だが…一口にした方が良いぞ」


「では」


 一つ取り出す。

 食事が終わっていて、これがデザートになるか?ってところだ。


 商売人が暮れる名刺(ネームカード)位の大きさで、厚みはかなりある。

 クッキーよりさらにパサパサしているイメージだ。

 だが表面は緻密な模様が型押しされていてなかなか綺麗なのではないか?


 香りを嗅ぐと、小麦粉の香りもなく植物油脂の香りもしない。

 パッケージをみると、主原料が〈でんぷん〉となっていた。二番目は〈抽出油脂〉でんぷんも脂も元の原料が何かわからない。そして塩化ナトリウム、他には〈複合活素〉…家畜の飼料よりひどい表示だ。

 砂糖が少し入ってるようだな。

 


「殿下、それは、土産用なのですよ」

「土産用?」

「国民に配給されているものにはそんな綺麗な模様がありません。砂糖も入っていませんしね。

 それは一度焼いたビスケットを、粉に砕き、型に入れて突き固めるそうです」

「は?何て手間な?」

「それが効率が良いんですって」

「…訳が分からない…とりあえず食べてみます」


 両手でちょっと捻ってみる、パラパラと粉を落としながら割れた。

 なるほど、粉を固めた感じはする。


 そのちいさな方を口に入れる…


「これは…フゴフゴ

 口の中の水分が……持っていかれますね」


 思わずテーブルの水を口に入れる。


「であろう」

「しかもほんのり塩味しかしない」


「ああ、これにバターやサワークリームをつければ食べられない事はないと思うが、これを毎日とは過酷だと思わないか?」


「はい、人間は、平民でも一日で一番楽しみなのは食事のはずです」

「だがこれは楽しみにできるものではない」


「そうですね。

 一日工場で働いて、帰ってきて食べるのはこれなんて」


「しかも一定数のエネルギーを保つのには数回に分けて、一日にその一包みを食べる必要があるらしい」

「大人一人ですか?」

「うむ」


「確かにこれを食べて水を飲めば、腹持ちは良いかもしれませんが」

「そもそも食べれぬ」


「ですです」


「ふう…きつかった。

 口直しにこれを出しちゃお。

 大臣もどうぞ」

 

 俺様手製のクッキーを、スープのボウルを避けた受け皿に綺麗な布巾を広げてカッコ良く並べて真中に置く。


 父上がベルを鳴らして侍女を呼ぶ。

 入室した次女は、何も言われずとも食事の終わった皿を引き、クッキー以外を片付け、新たにお茶を入れてくれた。


「これは?」

「ファーリィンはなかなか料理が旨いのだ」

「どうぞ、工場の食べ物よりいけますよ」

「では…ほんとうだ、バターが香り良くて程よく甘くて…レーズンが入っていますか?」

「そう、ブランデーに浸けてちょっと刻んで混ぜているんだよ」

「思えばお前が五歳の時のミモザ祭りで出してくれたミモザ風のスクランブルエッグが、余が初めて口にしたファーリィンの料理だったな」

「あの時は今よりさらに手が小さくて力が弱くて、フライパンさえ振れなかったのですが…」

「こうして殿下のクッキーを頂くと、工場の食事がいかに食べづらいかわかります」

「あんなのを毎日何年も食べるとか、どこのお坊さんの苦行かと思っちゃいますね」

「修行中の聖職者でももう少しましだろう」


「これは脚気になるのもやむなしと思うだろ?」

「そうですね…ですが、

 今日施療院に見に行った患者は脚気じゃありませんでした」


「脚気じゃない?では何だ?」


「おそらく、魔力枯渇病です」


「なんですと!そんな病気が、この魔法が衰退した現代にあるのですか?」


「魔力は文明や文化の発展と関係ありません」


「と言いますと?」

「魔力は多かれ少なかれ、この世界の動物にはあります。人にもね。

 それは魔法を使うためではなく、健康を維持する血管の血流のような物。

 まあ、そこで魔力をたくさん持ってるものを魔物、人を魔法使いというわけですけど」


「言われてみればそうですな」


「文明の変化に合わせて人々のましてや体の構造が変わることはないですよね」

「そうだな、変わったところで百年単位で時間がかかるものだろう」

「なるほど」


「その、帝国の脱魔法化が進んだところで、もともと我々の身体に魔力が巡っているのは間違いない事なのです。

 それは、魔法が使えなくても、体の中の魔力はあって健康を維持しているのだと、図書館の本にあるのです」


「うむ、余も冒険者としてステータスを見れるようになって、魔力があるのを知っているぞ」

「父上は今も魔力がおありですよね」

「うむ、使えはしないが多い方だと言われている…」


 と、襟元から青い登録証を出す。


「ステータス…うむ余の魔力は150ある」

「父上、それほどあれば何か魔法が使えますよきっと」

「そ、そうか?」


「そこで施療院でこれを使ったのですが」

 と件の魔石ペンを出す。


「それは?」

「魔石ペンです、魔法を使うためにあるペンなので」


 と革のケースから摘まんで出すと


「おお虹色に光るな」


「父上も触ってみてください」


「うむ…赤と黄色が混ざって光っておる。ほれ、ウォーガンも持ってみろ」


「私がですか?では……青と緑に光ります…殿下お返ししますね」


「これは魔力をつかって特殊な紙に線を引くことが出来るペンです。

 持つ者の魔力を引き出してインクの代わりにするので、握るとそのものの魔法の属性に反応して光ります。光の色が何であれ、ペンとしての機能は変わらないんですけど」


「しかし、それを握って光れば、魔力があるかどうか分かるというわけだな」

「はい。しかし大抵の人は光ります」


「殿下、そのペンは何処で購入されたのですか?」

「これは冒険者ギルドの並びの文房具店です」

「誰でも出入りできるような店に売ってるという事か」

「ただ、誰も買わないからか、埃まみれの箱に入っていましたけどね」


 温くなったミルクティーを飲む。

 まだ子供舌だからやっと飲める。


「で、話を戻しますけど、施療院で帝国から帰ってきた患者は殆どがこのペンが光らなかったのです」

「なんと」


「つまり……ロックボルト帝国で暮らしているうちに、魔力が枯渇したものと思われます」


「なるほど…それで魔力枯渇病だと」


「魔力残量を測るには魔道具が必要だからな」

「それか鑑定のできる魔法使い」


「父上、この国にそう言う魔法系の病の治療に詳しい医師や魔法使いはいませんか?」

「…いないとおもうが…聞いてみよう」

「施療院の人たちのことを思うと急ぎます」


「殿下じつは…」


 外務大臣はさらに深刻な顔で俺を見る。


「どうされました?」


「余から言おう。

 ファーリィンよ、帝国から帰ってきて体調崩して寝込んでいるものは帝都の施療院だけにいるわけじゃないのだ」


「まさか…」

「我が国中の施療院にいるのだ、とくに街道沿いの町などは、施療院以外に宿にもいる。

 宿代は国が特別に用立てているのだがな。出来るだけ早く解決したいのだ」


「そのために陛下は連日こちらで夕食を召しあがっておられるわけです」


「そうだったのですね」


「しかし、ファーリィンよ、よく気が付いてくれた」

「はい」


「もしかして、この後どうすれば解決するかも知っているのか?」

「まあ…一応」


「なんと、二百年前は魔力枯渇病の薬が流通していたらしいが、今は幻といわれているのだぞ」


 二百年前に薬を作ってたのは俺…魔女のリーンですから。


「でも、魔力枯渇病だと公表して大っぴらに対処するのも問題があるのですよね」


「…確かに…だが何としても解決しなくては、最悪国民が減る。

 このまま帝国に使いつぶされて死ぬなどあってはならぬ」


「もちろんです。父上、僕も出来ることなら何でもします」


「たのむ、

 だが今日は遅い、続きは明日朝食後にもう一度話し合おう」

「はい!」


 俺の返事に少し笑顔を浮かべて、父上はクッキーを齧った。


「ファーリィン、他にお前が得意なレシピはあるのか?」


「得意になるかどうかわかりませんけど、明日お昼から厨房を借りる予定です」


「何を作るのだ?」

「銀蓬パンを」


「何ですかそれは?」

 大臣も聞いてくる。


「成功したら教えますね」


「うむ、楽しみに待っているぞ」


 プレッシャーかけないでよ。


「ちなみにですが、父上は魔石ペンで、赤と黄色に光ったので、火と風と土の属性がありますね」


「なんと!三つも」

「しかも攻撃魔法使えると思いますよ」


「それは…!今度教えてくれ」

「僕がですか?魔法師団長みたいな人は今はいないのですか?」

「魔法師団は前王のころに解散になっておる」

「ずいぶん前ですね」

「うむ」


「ところで、ウォーガン大臣は、水と土の属性ですね」

「それは外務大臣というより農業が合いそうですな。そろそろ息子に家督を譲って、領地で農業をしたいと思っていたので嬉しいですな」


「そうですね!

 水が出せるとこのように…」


 ピチャン


 と空になったティーカップに水を魔法で入れる。


「何処でもお水が飲めますよ」


 ごくごく。


「ファーリィン殿下、差し支えなければ教えていただきたいのですが…いつから?」


「これは赤子のころから使えるのだ」

 どや顔で言うのは父の方だった。


「…知りませんでした」


「言ってないですからね」

「うむ、内密にな」

「わかりました」


 父上が魔法に否定的じゃないと分かったから、見せたんだよね。


 ここには王妃がいないから。


「よし、余の方でも魔法の担当に動いてもらおうとしよう」

「はい!」



お疲れさまでした!

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