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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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19【延長お泊り保育の子供】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 子供達のおふろ、洗濯、そして浴室の清掃と魔道具の掃除が終わった俺。

 隣には護衛でなく、貴族の子女としてこの保育設備つき孤児院での奉仕が終わった男女の騎士が隣のテーブルで、俺が持ってきたクッキーを齧りながら紅茶を飲んでいる。


 周りも同じように子供達がクッキーと、ミルクをワイワイと楽しんでいた。


 食べ盛り・育ち盛りだというのに。みんな痩せぎすで、甘いおやつも俺や他の貴族から手渡しされた時しかありつけないらしい。

 シスターたちも細いから、若いはずなのに老けて見えちゃってる。


 そして気になる二人が視界に入る。


「シスター、あの二人最近入ってきた?」

 男の子と女の子、ちょっと似てるから兄妹かな。


「はい、あの子たちは孤児じゃなくて、預かっているのです」

「預かり?」


「先月まで、家族で帝国に住んでいて、ご両親が帝国の工場で働いていたんですが、お母さんがあちらでご病気で亡くなり、お父さんも同じ病にかかってしまって働けなくなり、この国に来られたのです。

 それで病気のお父さんは隣の施療院に入院しているので、暫くの間二人の子供をこちらで」

「どうしてこの国にきたの?」

「もともとこのランデルソールの国民で、お父さんの方のお祖父さんお祖母さんが王都に住んでいたので、病気療養中に子供達に見てもらうために帰ってきたらしいです」

 

「そんなことが」

「戻ってきたら、もうお祖父さんとお祖母さんは亡くなられていて、家ももう他の方が住んでおられたそうです」

「それで…」

「ただ、幸いなことに、お父さんは冒険者なので、しかもDランクをお持ちなので、病気さえ治ればという事なんですけど」

「どういった病気ですか?」

「〈脚気〉だそうですよ」

「かっけ?」

「帝都で伝染(はや)ってるそうで」

「えー脚気なんて流行る?そもそも感染する病気じゃないですよね」


「殿下は脚気をご存知で?」

「栄養が偏ると患う病と聞いています」

「偏る?」

「過去、両親がふくよかな家系でお生まれになった貴族のお嬢さんが、体型を気にするあまり過度な偏食になって、海の向こうから取り寄せた一定の穀物を主に食べられていて、それはとことん皮をむいて中の白い所だけを炊いたもので、他の品目も両も少なくて。

 結果手足が浮腫んだりしびれたり、膝から下が動かなくなって歩行困難になって…って事例です」


「まあ。

 帝国では、食べるものも工場で作られたものなんですって」

「食べるものを工場で作るのですか?」

「ほら、パンなども工場というかちいさな工房で作るでしょう?」

「たしかに」

「で、働く人の家事や食事を少しでも助けるために、こういうクッキー状の物を大量に作り出す工場が蒸気機関で動いているんですって。

 そしてその食べ物をそのまま食べたり、水やお湯でふやかして食べたりするそうですよ」

「確かにそれは効率的で便利だろうけど」

「ね、家畜じゃあるまいし、食事の情緒さえないのね、帝国って」

「そうですね。

 僕なんか食べるのが好きだから、毎食がそれなら辛いです。

 戦争中や冒険者の遠征中なら理解できますけど」


 俺の話に頷くシスター。


「じゃあ、クッキーはあの子たちにとっては嬉しくなかったのかな?

 ちょっと聞いてこよう」


「こんにちは、僕はファーリィン、さっき紹介されたけどね。

 君達のお名前を聞いていいかな」


「おれはハオ七歳です」

「僕の一つ下だね」

「そうなんですね、で、こっちは妹のスウ」

「スウです」

「宜しくねスウ」


 二人の子供らしからぬ節の浮いた手と握手する。


「あれ?」

「おうじさまのおてて、あったかい」

「わかった?すうの手はちょっと冷たいね」

 思わず数の手を両手で挟んで暖めてみる。

「いつもこうよ」


「クッキー食べた?」

「はい!」

「あまくておいしかった!」

「君たちは帝国でこういう物を食べてるって聞いたんだけど」

「あんなの全然美味しくないんだ。何となく似てるけど、こんな良い匂いじゃないし」

「なんとなくしょっぱいけど、全然甘くないの」

「それに、いつもおんなじ」

「それは飽きちゃうね」

「たべたくないの」


「でも、孤児院のご飯はいいよ!」

「いろいろたべれる!」

「そっか」

「父さんにも美味しいご飯食べてほしい」


「僕、もう一つクッキーの袋を持ってるから、お父さんのお見舞いに行かない?」

「でも、父さんの病気はうつるから近づいちゃいけないって言われてて」

「本当は会いたいの」

「そうだね、じゃあ感染(うつ)る病気かどうか僕が観てそれで決めようかな」

「殿下は医者なの?」

「こどもなのに」


「お医者様じゃないけど、沢山本を読んでいるからちょっと知ってるだけだよ」

「わあすごい」

「父さんにもクッキー食べてもらいたいです!」

「そうだね。

 シスター忙しいところ悪いけど付き合ってくれますか?」


「良いですよ」

「変わりにエリスはみんなと遊んでて」

「はい」

「では護衛は自分が行きましょう」


 もう一人の騎士を伴って隣の建物を訪問することになった。


 

 分院とは言え寺院は大きく、その裏には孤児院と施療院が並んでいる。

 裏路地の細い道からシスターや兄妹と施療院に入る。


 施療院の一階には救急処置と急患受付、普通の外来の受付がある。

 担当医師は王国から依頼された週番制で、毎日いるわけではない。

 特に、今日みたいな週休み明けの月の日は、どの医師も休み中に体調を崩した担当の患者の往診に忙しくていない。


 ここや他の孤児院出身のシスターが簡単な看護をするために交代で二十四時間常駐している。


「こんにちわー」

「まあいらっしゃい王子殿下…みんなもそちらのマスクを一つずつして下さいね」


「「はーい」」


 一緒について来たシスターが俺にマスクを装着してくれる。


 俺はお兄ちゃんのハオにマスクを、ハオは妹に着けている。


 ふふ、繋がってて面白い。


 一階の診療エリアの奥に行く。

 奥は怪我人の病室で、二階が疾病の患者の部屋。

 男女に分かれた大部屋や個室になっている。


 だから今回は階段を上がっていく。

「で、この二人のお父さんの所に行きたいんですけど」

「わかりました…こちらですよ」


 十人部屋の窓際に連れていかれた。カーテンでベッドの周りをそれぞれ囲っている。

 他のベッドも殆ど人で埋まっているみたいだ。

 空いているベッドはカーテンで仕切られていない。それが一つだけだった。



「結構沢山いるんですね」

「みんな帝国から帰ってきた脚気患者です」

「こんなに?」

「はい、流行ってるのです」

「確かにこんなに人がいるのを見たら流行って思っちゃいますよね」

「ええ、女性の部屋にも四人います」

「みんな働けなくなって帰ってきたんですね」

「はい、たぶん国中の施療院にいると思います」


「それは大変だ…」


 初夏の病室で、その人は上掛けを目深にかぶり震えていた。


「さむい…怠い…」


「おとうさん…」

「大丈夫?」

「お前ら…来たのか」


 病室で寝ているのに、寝不足のように目が落ちくぼんでいる。

 この子たちの父親なら、まだ四十歳前後だろうにそうは見えない。


「あなたは?」

「お父さん、ファーリィン王子殿下が慰問に来てくれたんだ」

「今日、孤児院に来てねあなたのことを聞いて」

「いけません、…王子様が…こんなとこに来るなんて。感染…しますよ」


「大丈夫ですよ、お父さん、ああ、座らなくていいですから。横になったままでちょっと左手を出してくれませんか?」

「…はい」


 布団から出して来た左手を握る。


「お名前を聞いていいですか」

「これは失礼をしました、俺はバトマンと言います。冒険者で、Dランクです」

「どうして帝国に行かれたのですか?」

「結婚をしまして、安定した収入を求めて出稼ぎに」

「なるほど。

 バトマンさんの手は冷たいですね」

「もう死んだようなもんです」

「おとうさん!」

「そうですよ、幼い子供の前で弱気な台詞はだめですよ」


 まあお兄ちゃんは俺と一つ違いだが。


「すみません、でも具合が悪くてここでこうして眠っているだけで一向に良くなる気配がしないです」


「うーん…っちょっと待ってくださいね」


 俺は魔法のポケットから魔石ペンを出す。


 最近、革でケースを手作りしたんだ。

 で、そこから摘まんで出す。


「わあひかった。いろいろ~」

「殿下が持ったら光った」

「ガラスペンですか?美しい。虹色に光るんですね」


 革手袋をはめて持ち直す。

「きえちゃった」


「でしょ、ハオとスウも持ってみて」


「うん…あ、水色にひかった…はい、おにいちゃんも」

「うん…すごい、光ったな。

 おれは黄色い、でも殿下に比べればかなり弱弱しい」

「ぼくはめちゃくちゃ光る方なんだよ…でも君達ももうちょっと光らないとおかしいんだけどなあ」


「バトマンさんもこれを握ってみてください」

「ああ…私は光らないな」

「やはり…これは脚気じゃないですね」


「殿下?」

 後ろでシスターが声をかけてくる。

「試しにシスターもこのペンを持ってみて?」

「はい」


「わあ、シスターはみずいろにひかってる!」

「しかも、ぼくたちより明るい」

「殿下ほどじゃないですけど。

 …これはもしかして魔石ペンなんですか?」


「そう、先日文房具屋さんで買ったんだ」


「魔石ペン?どういうことですか?」

「魔石ペンは主に魔法陣を描くために使うものです。インクじゃなくて、自身の魔力を引き出して使うのですけど、その特性から魔力の残量を何となく図るのにも良いんですよ」

「へえ…もしや大昔に問題になっていた」

「はい、魔力枯渇病ですね。きっと。

 魔術師が魔法を酷使したときになっていた。

 シスター、帝国から来た他の患者さんにもこのペンを握って貰ってきてくれますか?

 眠ってらっしゃったら、シスターは手袋越しにこれを持って患者の頸動脈あたりに当てると良いです」

「はい…薄手の革手袋は持ってます…嵌めました。

 ではちょっとお借りしますね」

「うん、慌てなくていいから、女性の方も」


「魔力枯渇病?

 儂らには魔力なんて元々ありませんよ」


「そんなことはありません。

 生きとし生けるもの全てに多少なりとも魔力があるのです。魔力が無いものとすれば、加工に加工を重ねた人口の物…あるいは異世界での話

 …と図書館の本に書いてありました」


 書いたのは司書をしていた俺だが。


「異世界の…」


「奥様も同じ症状だったのですか?」

「はい、私たちは夫婦で、帝国への集団出稼ぎに加わったのです。子供達は帝国で生まれました」


「帝国はどんなところですか?」

「帝国はすべて、人工的なものに囲まれています。

 屋外でも工場で画一的に作られた石による舗装。混凝土と呼ばれる建材で囲まれた建物、そして土がなく水やりのいらない模造の樹々」


「それは、確かに魔力から遮断された環境ですね。

 食べ物も工場で作られたものだとか」


「はい、福利厚生と言われて、家族みんなの分の塩ビスケットが配給されるのです。

 不味いものですよ」


「なるほどわかりました…

 ではいまからバトマンさんにこっそり応急処置を」

「は?」

「今の不快感が和らぐ程度ですが」


 革の手袋を外し、横になっているバトマンの頭の方から手を伸ばして頸動脈に触れる。

 …見つけにくいなぁ…あった。


 そこにそろそろと無属性の魔力をちょっとずつ血流に乗せて流していく。


「ああ、確かにこれは何となく覚えのある感覚です。暖かい」

「その暖かいものを動かせますか?」

「どうでしょうか……ああ、ちょっと動きます」

「では、そのまま体中に巡らせるようにしていてください」


「はい…ありがとうございます」


「とうさん?」

「父さんの顔色が」

「ええ、血色がよくなりました」


 ぐう


 布団の中の方から音がした。


「お恥ずかしい」

「魔力が巡って、胃を刺激したかもしれませんね。ちょっと座れますか?」

「はい」

 

「スウ、はいお父さんの分のクッキー、君からあげて」

 巾着を小さな手に渡す。

「うん!」

「おれ、飲み水もらってくる」

「ハオ、そこのコップとって」

「え?うん。どうぞ」


「スウ、よく見ててね。君は魔石ペンが水色に光ったから」

「うん」


≪水をつかさどる女神よ、我に水を賜り給え≫



「わあ、おふろのときのまほう」

「うん」


コップは小さいから一瞬だ。


「どうぞ」


「あ、有難うございます。

 殿下は魔法使いなのですね」


「内緒ですよ」


「勿論です」


「殿下診てきました…

 あら、バトマンさん座れるようになったんですね。顔色もマシになって」


「殿下のおかげです。

 このクッキー美味しいな」

「でしょ!甘いでしょ」

「ハオとスウも食べるか?」

「おれ達は孤児院で食べてきたから」

「そう。それはおとうさんのぶん!」


「そうか、ありがとうな」


「…で、どうでした?」


「光る人が少ないです。光ってもとても薄っすらで」

「やはり…」


「薬を用意しますね、二日ほど待っててください」

「殿下は薬も作れるのですか?」

「資格が無いから、薬とは言わず、健康食品と言いましょうかね」

「わかりました。お願いします」


「あ、シスター、バトマンさん」

「「はい」」

「医師には僕が介入したことは暫く内緒で」


「「わかりました」」


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