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かつて大賢者だった黒猫は王子に転生しても魔王ひとすじ  作者: 前野羊子


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18【今生の本業】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「冒険者活動は、又従兄のアズールと二人でパーティを組んでやりなさい。

 もちろん、お前の公務や彼の見習い兵士としての活動を妨げないようにすること」


 父上から改めて活動のオッケーが出た!さすがお忍びでご自分も冒険者をしていただけあって寛容で有り難い!


「はい!」


「ただ、それより大事な条件が二つ」

「何でしょう」

「何があっても、アズールや近くにいる者の身に危険があっても、お前は自分自身の安全を第一に行動すること。

 立太子はしていないが、お前が現在、王位継承権第一位の立場であることを必ず心得て行動すること。

 それから、一般の依頼者にお前の立場がばれた場合は、冒険者をやめて直ぐに立太子させるのでそのつもりで」


「それは…」


「無理なら、普段からエリスと出かけるようにさせるぞ」


「わかりました!」

 エリスといつも外出なんて、王子とばれちゃうもんね。


 父上のプライベートな応接室で念を押されていた。


 とはいえ、アズールの休みの前には俺にも仕事があった。


 貴族が使う中でも家紋が入っていないような地味めな馬車でお出掛け中。

 洋服も、地味めな貴族の子供の平服だ。

 それでも朝から乳母と再びひと悶着。


「王子のご公務だというのに、そんな質素な洋服ではいけませんよ」

「だって、行き先の子供達と遊ぶんだよ?綺麗な服で行ってどうするんだよ」

「ですが…」

 時々こうやって乳母バレリアの伯爵令嬢だった常識が出てくる。

 それは、父上がクリサテーモ王妃を迎えたころから顕著だ。

 なんでも、バレリアの実家とクリサテーモ王妃の実家は派閥の違う同格の伯爵家で…つまりライバルになるんだよね。

 だから、バレリアの俺のコーディネートが王妃に舐められないようにしたいらしい。

 でもさ、今日の行き先は孤児院なんだよ。

 王妃の前で張り合う必要はないよね。


 しょうがない。自分の荷物にするか。


 毎回このやり取り。そもそも人前で着替えるのもどうかと思うんだけど。男とは言えさ。


 で、結局ハーフマントのキラキラのセットアップで馬車に乗り込んだ。

 馭者は男性騎士で、エリスも隣に乗っている。


 でも、馬車が動き出したとたんに自分で着がえる。女性の前だけど今は子供だから平気。


 王子らしい服装って、暑苦しいし重い。


「殿下、そろそろつきますよ」

 曲がり角で一時停止中にエリスから声がかかる。近いから急いで着替えなきゃ。

 王子の服の脱ぎ着が大変で、質素な方の服はパッと着れる。


「わかりました」


 撫でつけられていた髪をクシャリと崩す。


「よし」


 馬車の扉が開いて先に降りた軽鎧のエリスの手が差し出される。


「相変わらず変わり身が早い」

「こっちの方がいいでしょ?」

「クスクス、バレリア様には内緒なんですよね」

「もちろん!お願いするよ」


「ようこそおいでくださいました、ファーリィン王子殿下。半年ぶりですかな」


 いつもはシスターが出て来るのに、今日は違って五十代の司祭が出てくる。名前はアドルフ。

 弟のアレファンダが生まれた時に王宮に出向いて彼の洗礼を執り行った時に一度会っている。


 寺院の聖職者はあくまでも神に仕えるものなので、王族に跪くことはしない。

 それが寄付をする相手であっても。


 ここはランデルソール王国の寺院の分院であるが、ここの方が宮殿に近い。

 父、アルコアーズ王によると、俺の洗礼は本院から大司教の方が来たそうな。


 覚えてないだろうがなと言われたけど。本当は覚えてる。あれは、母上の喪が明けた日に、同時に洗礼をされたのだった。


「お邪魔します」

「皆、殿下が来ることを楽しみにしておりましたよ」

「本当かな?まあ、とりあえず甘いものは持ってきたよ」

「それはそれは…」


 寺院の本殿を抜けて奥に行くと子供の声がする。

 裏手は寺院に併設された託児所だった。

 子供の半数は孤児と、家庭の事情でここで暮らしている子供達もいる。


 寺院の場所も、冒険者ギルドより宮殿から離れていて、より労働者階級が多い地域の中にある。より人々の身近な存在の施設である。


 孤児たちも八歳になれば、どこかの工房の見習いになったり、女中の見習いになったりして独り立ちしていく。女の子ではそのまま寺院の裏方に回ってシスターになる人もいる。


 中には冒険者にチャレンジするものも少なくない。


 だからここにいる子供はみなファーリィンよりは幼い。


 だが、日帰りで保育されている子はそうでもないが、ここに住んでいる子供たちは皆一様に薄汚れていて、服もつぎはぎさえ取れて穴になっている。

 それでも輝くような笑顔を自分に見せて駆けよって来てくれる。

 手持ちの服から、出来るだけ質素に見えるものを選んで着こんだのには、その子らが気兼ねなく自分と触れ合えるようにと思っていたからだ。


 俺は七歳の誕生日を迎えた日から毎週ここに通っている。

 いつも休み明けの〈月〉の日に。


「わあ殿下!」

「王子様だ!」

「ファーリィン殿下、俺と手合わせしてくれ!」


「喧嘩してないか?」

「もちろん!」


「王子、あたしこの間の本を読み終わったわ」

「そりゃえらいぞ」


 子供達一人一人に声をかけながら、取り合わないように小分けした焼き菓子の袋を手渡していく。


「後で皆で食べるからね。まだ開けちゃだめだよ」

「「「はーい」」」


「シスターにも、はい」

「まあ、殿下ありがとうございます」

「他に渡したいものがあるんだよ」


 と職員室に入れてもらう。


「赤ちゃん用から七歳児用の古着とおむつとタオルと…石鹸と…それから小麦粉と卵と塩と牛乳と癖が少ないチーズと…」


 父は

「冒険者活動をするならアズールと組んで」

 と言ってたのであって、ただの買い物なら一人でも良いと都合よく解釈して買ってきたのだった。

 大量に買っても魔法のポケットがあるから出来る事ではあるが。


 本来はお金をポンと渡す方が楽ではあるのだが、出迎えてきた司祭が寄付金を着服するという噂を聞いていたので、現物も用意しようということになっていた。


 父のポケットマネーから半分は現金のまま、もう半分は現物を。


「ありがとうございます」


 このシスターも他所の孤児院出身だ。


「僕のチョイスで、ちょっとセンスはどうかなって思ったけど」

「いえいえ十分ですよ!助かりました」

「そう言ってもらえてよかったよ」


「お話し中失礼、王子殿下」


「大丈夫ですよアドルフ司教、あ、そうだこれ父から預かった寄付金です」


 と金貨が入った巾着を渡す。


「これはこれは!……」


 はじめはパァっと笑顔のアドルフが袋の重さを感じて表情が陰る。


「いつも、お金を渡しておりましたが、よくよく考えてみれば日中は赤子を含めて六十人、夜は三十人をお二人のシスターで見ておられるのですから、買い物に行く時間は無いのかな?と、子供達の服を見て前から思ってたんですよ。

 それで、今回は半分現物です」


 チッ


「舌打ちをしたな」コソッ

 男性騎士の顔が少し歪む。

 だめだよ表情を替えちゃ。

「現金が減っているからか」

 エリスも分かっている。

「総額は同じなのにね」

 俺の言葉に二人はちょっと頷く。

 そんな三人の声は聞いているだろうに、必死で顔を取り繕っている。


 権力争いにいそしんでいる貴族の顔と変わらないよね。


「…それはそれは、お手数をおかけしました。

 それでは、殿下、私は用事がありますのでな、ご一緒できないのは心苦しいのですが、失礼させて頂きます」


 巾着を握りしめて下がってしまった。


「そのお金は必ず子供達に使ってくださいね!教会への寄付じゃありませんからね!」


 と叫ぶも


「…はい」


 歯切れの悪い返事だ。


「さてと、屋上からかな」

「はい!手伝います!」

 エリス達もやる気!

 ここはもう護衛じゃなくて、貴族としての奉仕活動だ。


 男性騎士は一階で待機。


 エリスやシスターとたどり着いた屋上に直径2メートル、深さ60センチの丸い木で出来た桶を出す。


「うわぁ!」


 周りは俺以外は女の子ばかりだ。


「いいか!これから見る事は僕とみんなの秘密だよ!

 これは王子としての命令だ!」


 ふん!っと偉そうにポーズをとってみるけど…おっと

 小さい子はすっぽんぽんになっている。


 女の子なんだから!俺が退散するまでは待ってよ!


 そして、もう一回り小さい桶も出す。


「では」


≪水をつかさどる女神よ、火の神よ、我に湯を賜り給え≫


 寺院で祀られているのは太陽の女神しかないけど、イメージだよイメージ。


「「「「わあー!」」」」

「まほう!」


「魔法は神様が私たちに与えてくれた恩恵なのですよ」

 シスターが説明している。


「すごーい!」


 大小の桶に湯がたまったところで手を入れてみる。


「うん、丁度よい湯加減!

 じゃあ!皆、怪我しないように!」


「「「「「はーい」」」」」

「「「「きゃー」」」」


 みんな一斉に小さい方にさらに小さい手桶を突っ込んで体にかけている。


 この孤児院にも浴室はあるけれど、数年前から湯を出す設備が壊れているらしい。


 育ち盛りの子供達を預かる施設にとってこれは大問題だよね。

 不潔は何より病気のもとだ。大昔からわかってること。

 だから、風呂にはいるのが難しい世帯の子供の方が早くに死ぬ。風呂だけの問題じゃないけどね。


「じゃあ、エリスも頼むよ」

「はい!殿下も一階をお願いします」


「うん」


 続けて、俺だけが1階の中庭の石畳の場所に行く。


 そこにも、もう一人のシスターと男性騎士が待っていた。


「皆、どいててね!」

「近寄るのはまだだ!」


 そしてそこにも同じように大小の桶を出してお湯を入れる。


「「「わあ」」」

「「「お風呂―」」」

「「「魔法使い殿下!」」」

「皆内緒だよ!」


 まあ、内緒じゃなくても良いけどさ。この子たちに危害が及ばなければ。


 今日は、日帰りの子も連絡があって着替えを持ってきていた。


 風呂が終わると、石鹸の良い香りになった女の子に呼ばれて再び屋上へ、1階を担当していたシスターと上がる。彼女は洗濯物が入った籠を持っている。

 顔を顰めて。


 大きな桶には底に栓があって、一度湯が抜かれている。


 洗ってから浸かったとは言え、汚れていただろうな。

 何しろ、俺がこういう事が出来るのは最短でも週に一度だ。しかも一番近いここにしか来れない。


 空っぽになった風呂桶は、洗濯桶に変わる。


 さっき皆が脱いだ男女の服が投げ込まれる。


 俺は手元の石鹸を空中に投げると一応の詠唱をする。


≪つむじ風よ、粉のように砕き給え≫


 シャー


 そして、洗濯ものに降り注ぐ石鹸の粉の上から湯を出す。


「うわあー泡だー!」


 実は、三人の年長さんの女子達はまだお風呂に入っていない。

 ここは屋上だからね。大きい子はこんなところでお風呂は無理だよ。

 ここより背の高い建物は


 バチャバチャバチャバチャ


「「「きゃー」」」


 その子たちが一斉に泡だらけの洗濯の上で足踏み。


 楽しそうである。


 その風景を眺めながら椅子を出してもらってお茶を頂く。


 足踏み洗濯の女子を眺めるなんて、そう言う趣味はないよ。俺の趣味はあの人だけだもん。


 俺はこの後のすすぎの水出し係だ。


「はーい、足踏みはそのぐらいでいいでしょう!」

「水を抜きまーす」


 そうやって、すすぎの水を三度だしてたあと、女の子たちが一つずつ絞っている。

 それを端から干していくシスターとエリスやお風呂が終わった女の子たち。


「王子殿下、例の所片付けたんですよ」

「それは!見に行きましょう!」


 湯を出す道具が壊れていたからと、物置にしていた浴室。

 前に来た時は、壊れた道具を見ることが出来なかったのだ。


 この後、あの足踏みしていた女の子たちがお風呂に入ってほしいから、見に行く。


 タイルでできた浴室は少し寒そうだけど、しょうがないよね。お風呂ってこんな場所だよ。


 俺は魔道具を見る前に、浴槽を含む浴室全体を確認…


≪状態確認…≫


 このままじゃ水漏れしちゃうね。

 杖の代わりに魔石ペンを出す。


「殿下?」

「ちょっとひび割れがあるよ」

「まあ」


 ペン先で空に少し渦巻きを描くように唱える。


≪リペア…≫

 このまま直ぐに使うんだから

≪クリーニング≫

 無詠唱でもできるんだけど、“魔法を使ってます”とシスターにアピール。



 緑色と白い光の粒子がペン先から飛び出て浴室内を拭うように流れていく。


「これで良し」


「なんだかタイルごと艶が出たような」

「まあね…で、これが魔道具だね」

「はい」


 壁に四角い箱が張り付いている。それを外す。


「帝国では、石炭で沸かす湯沸かし装置があるらしいのですが」

「へえ」

「高額だし、工事をしないと取り付けられないので、それも合わせるとこの設備では難しいのです」


「そうだよね」


 王都にはその仕組みを利用した銭湯なる店もあるけど、あれは大人の男性が利用するところで、女子供はかまどなどで沸かした湯で行水をするらしい。

 古い家にはこれと同じような魔道具を使う浴室もあるけど、石炭の湯沸かしに取り換えられているのは、富豪や貴族位だ。


 王宮?王宮内と同じ敷地の騎士や兵士の設備は、昔ながらの魔道具が現役だ。

 魔力があるひとも少なからずいるからね。


 というか誰にも魔力はあるんだけどねぇ。


 平民は、風呂を使うにも一苦労である。


 でも、これをケチると伝染病が流行ることを王族は過去の歴史から学んでいる。


「昔は薪窯もあったんだけどなぁ」


「薪窯ですか?」

「そう、外で薪の炎で湯を熱しながらパイプで風呂釜と循環して沸かすんだよ」

「そのようなものが?」

「図書館にあったんだけどね」

「薪なら暖炉用がありますしね、石炭風呂より良いでしょうか」

「…どっちみち工事は必要かもしれないけどね…教会とは別で、子供達は国民だ。父上に相談して、工事を手配してもらおうかな」

「お願いいたします」


「…でもないか。魔道具治ったよ!」


「まあ!」


「魔石の魔力が枯渇していたみたいだね」

 燃料の魔石どころか、操作のための魔石の魔力もなくなっていたよ。


 単純に魔力を充填すれば動き出した。


「使い方は知ってる?」

「はい」

「そ、じゃあいいよね、とりあえず汗だくで足踏み洗濯をしていた彼女たちのためにお湯を溜めようか」

「そうですね」


 シスターは魔道具のスイッチを入れて、浴槽の蛇口をひねる。


 ザアアア


「良かった‥水さえ出なくて」


 すこし涙が滲んでいた。


「早く修理してあげればよかったね。遅くなってごめんね」


「いいえいいえ!これで、お洗濯もここでたくさんできますし!」


「そうだね」


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