16【お湯の魔法】
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「お帰りなさいませファーリィン殿下、それにアズール・ド・オーレンタ坊ちゃま」
「ただいまバレリア…ほら、アズールも入って」
「お邪魔します」
アズールに借りてきたままの見習い兵士の服装のままで使用人用の裏口から自室に入る。
いつも訓練後の汗だくの時はここから出入りしているんだ。
草や土だらけの靴だったりするし、大臣とか外国の大使とかに会うと気まずいしさ。
「殿下、お湯をお持ちしますか?桶だけで良いですか?」
「桶だけでいいよ。二つお願い。
アズールにも魔法の適性があったから見せようと思って」
「それはそれは、さすが王家の血筋ですね」
「でしょ」
「ではお二つ持ってきます
「王家の血筋?」
「うん、
もともと、どの国でも魔力の高い人が国を興して王様をやってたんだって。だから王族は魔力があるんだ」
「ほんと?」
「そう」
「現辺境伯爵は父上の…つまり国王陛下の従兄が婿入りして当主になったんでしょ」
「ああ。王都で働くより国境を守ることにやりがいがあるって思ったらしい」
「素晴らしい人だよね」
「田舎にあこがれただけらしいけどさ、憧れと現実は乖離しているとぼやいていたよ」
「隣の芝生が青く見えるってやつかな」
「ははは」
「まあ、それは置いておいてね、だからお兄さんのブランカ子爵も魔道具のフロートが操作できるんだから、アズールだってね。
アズールが持ってる属性とは違うけど、魔法を見るのは良い刺激になると思うんだ」
「うん。魔道具を使うぐらいしか見たことがないから」
「だよね」
「坊ちゃんがた、持ってきましたよ」
「じゃあ…見てて」
久しぶりに詠唱をしてみようかな。
≪水をつかさどる女神よ、火の神よ、我に湯を賜り給え≫
何もない所からというよりそう言う世界があってとイメージするのがやりやすいのだと、入門用の魔導書に書いてあるのだ。
しかし、俺が魔導書通りにしたのはいつだったか…まだ魔導書が壁に掘られていた時か、動物の皮に刻まれたものだった時か。
タプン
一つの桶に八割ぐらいにお湯を張ることが出来た。
柔らかな湯気の舞。
「……すげ…」
「さ、手を洗って、顔も洗ってもいいよ」
「う…うん…」
バシャバシャ
「うわ気持ちいい」
「そりゃよかった、じゃあこっちにもお湯を」
「はいアズール坊ちゃま、タオルをどうぞ」
「ありがとうございます」
「いやだわ、アズール様、私の方が身分が下ですのよ」
「でも…」
「父上の前できちんとすればいいんだよ」
「それはもちろんだけど」
「この後父も晩餐だらしいから、アズールも一緒に食べようよ」
「…緊張するけどわかった」
「まあ、ほほほ。
ではアズール坊ちゃまの晩餐用の衣装も持ってきましょうかね」
「はい」
宮殿には子供服も男女サイズを取り揃えてある。
ガーデンパーティーに連れられてきた子供が転んだり食べこぼしたりしたときに、親の貴族と共に出来るだけ恥ずかしい思いを少なくするように準備されているのだ。
もちろん、大人もワインや料理でこぼすときもあるのでそれにも対応できるようになっている。
だが、城で衣装を借りた貴族は、後日別の衣装で返すしきたりだ。それは綺麗であれば中古でも良いのだが、恩を感じた貴族は見栄もあって新品を持ってくるらしい。
俺は自分の部屋なのでクローゼットから晩餐用の服を出してきていた。ここのをアズールに貸せたら速いのだが、アズールは俺より背が高い。
着がえ始めて、朝着ていた自分の服とアズールに借りた服を傍らの籠に入れる。
「アズールの脱いだ服もここに入れなよ、洗濯したら兵舎に届くと思うから」
「うん」
だって。兵士の服もぜんぶ名入れされている。
それはもしもの時に着ているものが誰かに分かるようにするためだそうだ。
同じ理由で冒険者の装備も名入れをするんだね。
中古はそこを削って次の名前を入れるんだ。
だから本当は今日みたいにうかつに貸し借りしてはいけないんだけど…任務中じゃないから危険じゃなかったしね。
「さあさ、持ってきましたよ」
貴族の服一式に着替えて髪を整えたアズールを見て…
「あらまあ…やはり何となく雰囲気が似かよりますね」
「本当ですか?」
「そりゃあ又従兄だもの」
「じゃあ行くか」
「はいファーリィン殿下」
きちんと切り替えてきた。
「久しぶりだなアズールよ。
背が伸びて逞しくなったのではないか」
「ご無沙汰しております」
「宮殿にいることは知っていたが、やっと会えたな。」
晩餐の席では、いつも以上に父上がにこやかだった。
アズールの父、つまり父上の従兄とは仲もよいらしい。
「は、本日は晩餐をご一緒させて頂きありがとうございます」
「…アズール、其方は余にとって又甥にあたるのだから、このような身内だけの晩餐というよりただの晩飯の席では父親のように接すると良いぞ」
「それはそれで難しいですが…わかりました…」
「うむ」
普段忙しい国王陛下は、プライベートな食事ではコース式でなく、デザート以外の料理を一気にテーブルに出させることになっている。
給仕の手間も省けるしね。
サラダとスープ、肉料理、魚料理がおのおのの前に広げられ、パンとパスタが大皿に盛られているので、両方、あるいは好きな方を取り分けてもらっておく。
「父上、アズールは冒険者登録でいきなりDランクなんですよ」
「それはすごいな。
冒険者は見習い兵士なんかより強いからな、辺境にいたころから鍛錬してきたのであろう」
「ええ、まあ。
ですがファーリィン殿下はいきなりAランクですよ!」
あ、君から言っちゃう?
「は?どういうことだ!」
ガタン
取り繕うことを忘れて立ち上がる国王。
「まあ…恐ろしい」
聞こえてるよ王妃殿下!
「後で言おうと思ってたんですけど、僕もいまいちわかってないんです…
どうやら魔力測定に引っかかったらしくて」
「なんだと?」
「今は隠匿してありますけど、魔術のスキルがあったようです」
「…そうか。
お前の乳母から、ファーリィンが魔法を使うとは聞いていたが、実際この目では確認しておらぬからな。
いつか見せなさい」
「…わかりました」
「しかし、外では出来るだけ人前では使わないようにな」
「心得ております」
デザートと寝る前の紅茶を楽しみながら辺境伯領のことを聞いてみる。
「家庭教師から、旧街道が使えなくなってると聞いたんだけど」
「はい。
魔の森は文字通り魔物の森でして…あそこを通る道が隣国ヴォーレスタ王国へ行く近道だったのですが、道に設置されていた魔道具があちらこちら破損しているらしくて、Aランクの魔物もよく出て来るので、おいそれと使えなくなったんですよね」
「うむ、魔道具の破損はちょうど余が王になる前に顕著になって、前王が崩御する前に国境の所で通行止めにしたのだ。
ヴォーレスタ王国側の入り口も今は封鎖しておる」
「父上、森の境目の国境はどうなのですか?」
「国境には魔物を寄せ付けない、アーティファクトが仕込まれた城壁と砦がある」
「そのメンテナンスはどうなっているのですか?」
「まだメンテナンス用の魔石の在庫があるから、ファーリィンが王を継いでもも大丈夫だ」
継ぐ気はないけど…魔石が残っているのなら、ちょっと安心だね。
頷く俺に父上が話を続ける。
「そしてそれを守るのがそもそも辺境伯の役目でもある。
オーレンタ辺境伯領は我が国にとっても防衛の要の一つだ。もちろん国としても他の国境と同じように守っているがな」
「はい、ですから自分も将来はその砦の兵士の一員として守りたいのです」
「うむ、無理をしない程度にかんばりなさい」
「はっ」
父上、アズールごめんなさい。城壁の守りもちょっと壊れていたらいいのにって思ってた。
魔法が使えるって言ったからさ。
「国境の守りが壊れていたら見に行かせてください!」
って言うつもりだった。
デューク様。
まだお顔を見に行くには時間がかかりそうだけど。
暖かいご飯食べれていますか?
ご飯シーンが多いです…。
お読みいただきありがとうございました!
また明日♪




