【21】世界の管理者・裏
――――side:ティルダ
世界を映す管理者の間。ひとりそこにこもれば、ふと漏らす。
「……デイル、お前は世界を旅することを選んだか」
(そうだよ。世界を旅しながらも管理はできる)
誰もいない空間にもうひとりの管理者の言葉が響いてくる。
「どうして世界の管理者は2人になったのだろうね」
(兄ちゃんはずっとひとりで管理者をしてきたんだろう?)
「正確には代々の私だよ」
(生まれ変わってる?)
「そんなものだ。管理者とは女神が産み出したもの」
(俺たち2人とも親などいない。兄弟2人きりだった)
「そうだね」
永遠と続く世界の中で管理者が2人になったのは初めてのことだった。
最初はひどく狼狽した。自分に弟がいることを。しかし同時に愛おしいと思った。
「世界で唯一、私と台頭であれる子。私の隣に立つことが許された子」
(兄ちゃんはさ)
「何だい?デイル」
(仲間って、作ろうと思わないの?)
「私は世界の管理者。イスキオスの総帥だ。あるのは部下と駒のみ。そんなものはいない。世界の管理者とはひどく孤独な孤高の存在なのだ」
(でも今は俺がいるでしょ?)
「……」
それでもデイルがいる意味を知らぬわけはない。世界の管理者は前任者のように世界の管理者に抗えるもの【勇者】によって本来代替わりするべきだった。
それをさせないためにデイルが生まれた。私は前任者の生まれ変わり。ずっと繰り返してきた。
「デイル、お前は勇者だよ」
(勇者はジルでしょ?)
「違う。お前が持っている妙な世界の記憶」
(地球の記憶?)
「そうだ。そのさらに前。私は前任者の時にお前に会っている」
(どう言うこと?)
「それは……」
※※※
古い記憶だ。その勇者は『デイル』と言った。
「魔王!今度こそお前を倒す!」
『無駄なことを!我を倒したところでまた第2、第3の魔王が後を継ぐだろう!』
「それでも負の元凶をここで倒すんだ!」
魔王に果敢に挑んだ先代勇者。そして仲間の聖女、賢者、ファイター。
デイルは魔王を倒した。
そして管理者の間に招かれた。
『ゲームクリア、おめでとう。勇者デイル』
「あんたは……誰だ」
『私は世界の管理者。ゲームマスターだ』
「げーむ……って、さっきから何を言っている」
『だからこれは全部お遊戯と言うことだ。君が聖剣を手に旅立つことも。仲間と出会って冒険することも。魔王を倒すことも。全て全て世界の管理者の予定調和だったわけだ』
「は……?」
『つまり君は私の掌の上で遊んでいただけというわけだ』
「遊びだと?俺たちの戦いが、冒険が、全てお前の……」
『憎いだろう?許せぬだろう?なら私を倒すといい。このゲームマスターである私を』
「お前こそいいのか」
『は……?』
「こうして俺がゲームをクリアすることを延々と見る。それがお前のやるべきことで本当にいいのかよ」
勇者とは異物である。世界の異物である魔王を唯一倒せ、ゲームマスターをも倒し女神のもとへと辿り着ける異物。
異物は私の中に存在しない何かを押し付けてきた。拒否しようにも何故だか上手くいかない。
「俺がお前を倒せば全て終わるのか。お前のその役目も」
『そうだよ。そのために君は最後の剣を振るう。そして世界は……また繰り返される』
「くそおおおおぉっ!!」
ガキン、と剣が突き立てられる。私はまた決められた役目を終えることができた。そしてまた繰り返されるのだ。延々と繰り返される世界の管理者と言う役目を。
※※※
天上から神聖な声が降り注ぐ。
『勇者デイルよ』
「……あなたは女神さま?」
『その通り。見事に魔王を討ち滅ぼし、世界を裏から指揮していた管理者を討ち滅ぼしました』
「俺は……」
『悔いる必要などありません、勇者デイル。あなたの功績は偉大なるものです。だからこそその褒美を授けましょう』
「……褒美?」
『ええ。名声に富、永遠の命。偉大なる功績を残した勇者には何でも欲しいものが与えられるのです』
「なら……俺は。俺に権利をくれ」
『何の権利でも与えましょう』
「……世界の管理者が代替わりせずにすむ権利を」
『与えましょう、勇者デイル』
バカなことを。ああ、なんてバカなことを。勇者デイル。この私を倒したのだ。永遠の富でも名声でも何でも好きなものを望めば良かったであろうに。
※※※
記憶は再び無機質な空間に戻ってくる。
「バカなことをしたね、デイル」
デイルは前任者を倒した先代の勇者である。デイルはティルダを殺さないために弟として生まれたのである。
(はぁ?兄ちゃん、俺がいつそんなことしたわけ)
「ふふ……ふふふっ」
(ちょ……不気味)
これで世界の管理者は繰り返される輪廻から放り出された。世界の管理者を倒さなくて良くなった勇者は女神から望むものを手に入れられなくなった。
「勇者ジルは女神に頼らずとも手に入れたいものを手に入れたと言うことだよ」
(女神?何の話?)
「勇者は世界の管理者を倒せば女神から何でも望むものが得られた。永遠の命や富だって」
(ジルはそんなもの望まない)
「だろうね、あの勇者は」
(それにジルが俺たちを倒すとか意味が分からない。何でそんなことしなくちゃならないの?みんな仲良くできれば充分じゃんか。世界の管理者もさ)
「……そうだね」
勇者デイルが望んだのはそう言うことだったのだろうか。
世界は管理者の兄弟たちに世界を託した。世界に生きゆくものたち自身の繁栄を見守る優しい管理者に……。
※※※
――――世界は新たな方向へと巡りつつある。
『わぁ、芽が出てるよ』
『今年はいい実りになるといいわね』
魔王国の土地では少しずつ緑が増えつつある。
確かクレアが主体となってエルフたちと協力した品種改良だったか。
「魔族の土地ではこれからは飢えることのない国が運営される」
勇者に倒されることだけが存在意義だった魔王。
「そこに国など必要なかった。必要なのは力を誇示する魔王と言う強大な敵と勇者や人間を脅かす魔王軍」
しかしデイルたちがそれを変えてしまった。
その魔王の在り方の裏にある民の悲痛な声を拾った。
あの時の無力な姫はハルベルトと同じく国を興そうと奮起した。
「ハルベルトも影ながらバックアップするようだが……」
当のハルベルトの様子を覗き見れば、ルディとクロウと一緒のようだ。
『孤児院のことならしっかり運営している。デイルさまの管轄でもあるのだから』
『それは分かってるけど……でもお前、何で俺を孤児院に……』
『私の理想を叶えるためにお前を危険にさらしたくなかったし、孤児院は元々手を出させないよう手を回していた』
『あんた……前から?』
『……ふん』
『全く親子で似るってのは本当みたいだね。そろそろ素直になりなよ、父さん。それから義兄さん』
『に……にいさ……?』
『ぼくも父さんに拾われた身だもの。ならあんたは義兄さんでしょ?』
『それは……そうだが。親父が子どもを引き取ってたなんて』
『ぼくが暗殺一家の出身で他には預けられなかったからだよ』
『おま……それは』
『昔の話。それより今、親父って呼んだね。ふふふっ』
『なぁっ!はかったのか!?』
『ふふっ、はははっ』
『はぁー、ったくもう……』
そんな2人の様子にハルベルトがボソリと呟く。
『兄弟と言うのも悪くはないものだな』
「……そうだね、ハルベルト。兄弟と言うものは悪くない」
あの子が望んで私は兄弟となった。
「孤独だと思っていたのに、あんなにも愛おしい」
今度はあの子が共に生きてくれるのだ。世界の管理者として。
「……ありがとう、デイル」
勇者デイル、そして弟のデイル。




