【22】その後の世界
――――あれから数年。俺たち勇者パーティーもそれぞれの道を進んでいた。
「来てくれたのか、デイル。入ってくれ」
「デイルくん、いらっしゃい」
魔王国の行政府となった魔王城で出迎えてくれたのはジルとリリアである。
「相変わらず仲良くやってるようだな」
「ああ、もちろんだよ」
「ふふふっ、2人で夫婦二人三脚で頑張ってます!」
その言葉の通りジルはリリアと結婚し、国や子孫を繁栄させている。
以前は勇者として国内を回って復興の援助をしていたものの、今ではすっかり魔王国女王の王配として活躍しているようだ。
「そう言えば最近アンジュからも通信が来たよ」
数年前はイスキオスの技術だった通信アプリも世界で広く広まっている。念話はまだまだイスキオスの高等技術だけどな。
「へぇ、アンジュから?確かアンジュは……」
「うん。アンジュは後輩聖女や聖者の育成、ハーフエルフたちの人権擁立に力を注いでいて、リーシャちゃんも弟子として頑張ってるみたい」
「へぇ、あの子も頑張ってるんだなぁ」
「うん、それからアンジュはクレアとも連絡を取り合ってるみたい」
「本当に仲がいいなぁ、あいつらは」
そう言えばクレアは未だ独身を貫いてるな。心は相変わらず兄ちゃん……か。
※※※
――――数日前
『分かってるのよ、あの人の心が私に向かないことくらい』
『クレア……』
『私を生かしたのも、いざというときに私の巫女の力を利用するため』
『そんなことは……っ』
『ふふっ。デイルがそれをさせないわよね。分かってる。だからね、今は悠々とあの方を見守れるのよ。だからありがとうね』
『クレア……』
『私、幸せよ。好きな人をすぐ傍で見守れるのだから』
彼女がそれで幸せなら俺の言うことでもないけどな。
※※※
――――そんなことがあったな。
「どうした?デイル。考え込んで」
「何でもないよ、ジル」
「それならいいんだ。デイルは今の魔王国はどう思った?」
「昔に比べたら確実に豊かになったな。緑も増えて住民の笑顔も増えた。国として機能しているお陰だな」
「ふふっ、でしょう?だからこれからもどんどん豊かにしていかなくっちゃね」
「ああ、リリア」
大切な友人たちの幸せそうな姿を見届けながら俺は今日も世界を巡る。
次はアンジュのところにでも行こうかな。
「アンジュ」
「デイル?久しぶりね!」
元気に手を振るアンジュ。リーシャちゃんもいるみたいだ。
「今日はギルドの治癒魔法講座をしていたの」
「そっか。今ではすっかり先生だな」
「でしょ?それでデイルは……」
「ん?」
「今はどうなのよ。相変わらずひとり?」
「たまにキールや隊のみんなと巡ったりもするしアトラスも来るよ」
「ああ、あの」
裏ギルド長と言う言葉を呑み込むアンジュ。
「その、寂しいとか、ないの?」
「ひとりっきりの野営なら少しな。でもこうしてみんなに会いに来られるから寂しくないよ」
「その、私も?」
「もちろんだよ」
ぽふぽふとアンジュの髪を撫でてやると相変わらず嬉しそうに微笑む。
「それじゃ、またな」
「うん、またね」
そのアンジュの答えが少し寂しそうだったのは気のせいだろうか。
やはり友人との別れは惜しいものだな。また、会いに来るか。しかしどうしてかそれだけではないと訴えてくる心もあるのだ。
※※※
季節は巡る。
※※※
歳月が巡る。
※※※
――――そうして世界を巡りつつ、数十年が経っていた。
「デイル、あなた分かってる?」
「クレア……?」
俺だけが何十年前と変わらぬ姿。
向き合うのは初老のクレアだ。
「私はティルダさまのためになら力を使う気だったの。しかしそれをさせなかったのがデイルの意思だった。だからデイルが覚悟を決めないのなら力を使うわ」
「ちょ……それは待った!」
そんなことしたらクレアの命が危ない!大いなる力には反動もあるのだ。
「デイルは長命種のアンジュよりもはるかに長い時を生きる」
「そうだな。管理者はもう代替わりを繰り返さない」
俺は兄ちゃんと一緒に世界の行く末を眺めて行く。
「けれどリリアとジルも寿命差があっても結婚したのよ」
「そう言えば……」
2人に話を聞いてみてもいいのかもしれない。
※※※
――――魔王城
「私たちが結婚した理由?」
「そうだな……一緒になりたかったからかな」
「ええ、そうよね」
「だけど寿命差がある」
2人は夫婦ではあれどリリアだけが若いままだ。
「だからこそだ。一緒にあれる時間を共に過ごしたいと思った」
「ジル……」
「確かに俺はリリアをひとり残して逝くが、それでも2人の子どもたちもいる。俺が亡き後は子どもたちと共に過ごして欲しいと思う。デイル」
「……ジル?」
「どうかリリアたちをこれからも見守ってくれ」
「それはもちろんだ」
それにしても……だからこそ。一緒にあれる時間を共に……か。
立ちよったのは懐かしい勇者の生まれ故郷だ。
「デイル?」
「アンジュ」
少しばかり大人びたもののエルフのアンジュはまだ若々しい。
「どうしてここに」
「デイルこそ。私は久々に3人の始まりの場所を見てみたかったの!」
「それは……俺もだよ」
「デイルも?そうよね。私たちの旅はここから始まったのよ」
「そうだね」
「デイルは元々村の出身じゃないのよね」
「そうだよ」
「どうしてこの村に住もうと思ったの?」
「実家への反発もあったんだけど……勇者を見守りたかったんだ。勇者のゆく道を」
「私もよ。でもね……」
「うん?」
「あなたのことも」
「……」
覚悟を決めるべき……か。
「アンジュ」
「デイル?」
「寿命の違いはあるけど……それでも俺はアンジュと結ばれたい……と思うよ」
「……っ」
「アンジュはどう……かな」
「バカね。いいに決まってるじゃない!」
アンジュが首に抱き付いてくる。ふわりとアンジュの身体を抱きしめくるくると風に乗る。
「また一緒に旅をしましょ。それでみんなに知らせるの。私たちのこと」
「ああ、そうだな」
ジルたちには遅すぎると苦笑されてしまった。しかし仲間たちに祝福されながら旅路を行くのも悪くはないものだな。
「兄ちゃん、俺、結婚することにしたよ」
「全く、今さらだが」
「妻のアンジュだ」
「ああ……知っている」
「兄ちゃん、兄ちゃんはいいの?クレアのこと」
「……あの子は私にはもったいないほどの子だ。それに私はひとを愛すると言うことを知らない。管理者と言うものはそう言うものだ」
だからこそ俺は一度地球に転生し記憶を持って生まれたのだろうか。
「これもまた私たちの決めた道。デイルの決めた道も私は尊重する。だが……」
「兄ちゃん?」
「兄ちゃんのことを忘れては寂しくなってしまう」
「バカだな。そんなことしないよ。定期的にイスキオス本部には足を運ぶからさ」
当時の仲間たちも年を重ね教官になったもの、今も混魔の血で現役のものと様々だが。
「その時は兄ちゃんに会いに行く。寂しくなったら念話をちょうだい。会いに行くから」
「そんなに甘やかしたらすぐにでも送りそうだ」
「ふふっ、ならちゃんと答えるから安心して」
「……分かった」
「それじゃぁ兄ちゃん、行ってきます」
「行ってきます、お義兄さん」
「ふん……行ってくるといい」
それでも少しだけ寂しそうな表情を浮かべる。
「案ずるな。ここには『仲間』もいるのだから」
「兄ちゃん……」
管理者は孤独だと言っていたのに。
「お前のお陰でそう思えるようになった」
「……!」
「我が半身よ。私はいつでもお前と共に」
「うん、俺もだよ」
俺はアンジュの手を取り外の世界に向かう。
管理者の半身として世界を旅しながら世界を管理する。それが俺の役目だから。
【完】




