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新たなる作戦

【ブラックホール】

 宇宙にある巨大な重力の塊。

 時間や次元、光をも歪ませるその穴の側にそれはあった。

【惑星メテオドス】

 高重力地帯の側、事象の境界(イベントホライゾン)にありながらもその位置を維持することの出来る高質量のその惑星は、この一帯に於けるアスマン軍の補給線の要といえる。

 その星を攻略することは戦線を一直線に王都に結ぶといっても過言でない。

 アスマン領域の中央に位置するドーナツ状の「虚無の空間(ウロボロス)」も、そこからなら横切って王都を直接攻め入ることも出来る可能性が出てくる。

 それ故に攻略の成功は帝国にとって無くてはならないもの。

 逆に言えば王国にとっては死守せねばならない星であった。

 

 ここはアンブロシウスが篭絡した惑星モスブログの元王宮の会議室。

 そこでは今、メテオドスの攻略作戦についての軍議が行なわれていた。

 しかしモスブログ以上の難攻不落の惑星メテオドスが相手である。

 軍議は一向に進まず、時間だけが過ぎていく。

「今回ばかりはお前がどうこう言っても力技しか思い浮かばんだろう?」

 セレトニーは作戦会議の席でアンブロシウスに耳打ちをする。

 ここでは一番身分の高い皇族である彼だが、作戦には大将であり、叔父にもあたるヴォルド=ホフマン公爵も参加する。

 流石に彼がいるこの軍議の場では、セレトニーといえど作戦の全てを仕切ることは出来ない。

 それで仕方なくアンブロシウスの隣に座り、一向に進まない軍議に飽き、暇潰しに会議を眺めながら 彼に耳打ちをしにきている訳だ。

「別に無いわけではない」

 アンブロシウスは何の感慨も無くそういう。

 メテオドスが難攻不落といわれる所以ゆえんはブラックホールの側にあるということ。

 それは敵も同じなのだが、彼らの船は随時メテオドスからのエネルギー支援を受けられる。

 惑星メテオドスから伸びる巨大な塔、ゼッピュロスタワーからのエーテルエネルギー波供給装置を積み込まれているのだ。

 そのおかげで敵の艦隊は常に最大出力を維持しながらの航行や戦闘が可能。

 だがこちらはそうはいかない。

 自軍の補給船すらも近づけないホライゾンの側である。

 その中で最大出力でエンジンを回し、重力に逆らいながらのエネルギー戦闘。

 当然あっという間にエネルギーは底を着く。

 戦闘にすらなりはしない。

 無理に攻め込めばこちらの艦は直ぐにブラックホールに引っ張られ全滅の可能性が高い。

 戦列も維持できない。

 ただそこを無視して次の要所に向かうことは出来ない。

 延びた戦線で補給もままならない間に挟撃されるのが落ちだからだ。

 なんとしてもその惑星を制圧せねばならない。

 ウロボロスを逆向きに進行しても良いのだが、待ち受ける敵艦隊の数が違う。

 重力の要塞に集まった戦力のおよそ十倍の戦力が逆方向には待ち構えている。

 敵本星に進行することを考えれば、正面からの戦闘は避けて通りたいところであった。


「なあヴォルド卿」

「なんですかな?セレトニー皇子」

「アンブロシウスに作戦があるようだぞ?」

「ほう、これはこれは軍神アンブロシウス殿か、けいもこの場にいたのかね?」

 言葉尻をとっても決して歓迎された言い回しではない。

 「軍神と呼ばれ天狗になっている若造が」という意趣が彼からはありありと見て取れた。

 セレトニーは友人でもあるアンブロシウスを馬鹿にされて激昂し、立ち上がろり、彼を叱責しようとする。

 しかしアンブロシウスは不敬であるのを気にせずにそんな彼の腕を取り、首を振る。

「作戦があるというなら一応聞いてみるが、皆はどうかね?」

 ヴォルド大将子飼いの愚かな貴族将校達の集まりである。

 半分笑いながら、見世物の様にアンブロシウスの意見を聞こうと皆に意を促す。

「ヴォルド卿がそう言われるのであれば、聞くだけなら良いかも知れませんね」

 口々に賛同する将校達。

 アンブロシウスはそんな事は気にせず、自分の作戦を延べる為に立ち上がる。

「それでは僭越ながら、私の考えた作戦を言わせていただく」

 アンブロシウスは周りにいる面々にも分かるように、簡単に説明する。

 その作戦を聞いた室内の全員が、一挙に驚きの顔で埋め尽くされる

「馬鹿な!?そんな作戦が認められるものか!」「そうだ!口を慎め!」「のぼせあがるな若造が!!」

 アンブロシウスの作戦を聞いた将校達が次々に異論と罵声の声を上げる。

 しかし半分冗談で作戦を述べさせた当のヴォルド卿は逆に黙して考え込んでいた。

 彼はアンブロシウスの事を「たまたま運が良かっただけの成り上がりもの」「皇族のセレトニー殿下に裏から手を回し、その地位を手に入れただけの薄汚い軍人とは呼べぬ男」と、そう思っていた。

 しかしアンブロシウスの立てた大胆かつ途方も無い作戦を聞き、根っからの軍人である祖父の血が騒いだ。

『この男……本物かもしれない。軍神に違わぬ我らが思いつかないような想像を絶する作戦を打ち立てよったか』

 眼から鱗とはこのことであった。

 頭の固い保守的な軍人では思いも付かないような作戦であった。

「その案、もう少し詳しく話してもらおう」

「「ヴォルド卿!?」」

 それに驚いたのは集まった将校達。

 見世物のつもりで野次を飛ばしていたら、肝心の自分達のBOSSであるヴォルド卿に手の平を返されたのだ。

 堪らず彼に楯突き、進言するものまでいた。

「こやつの言う作戦は作戦にあらず!」「そうですヴォルド卿!お考え直しください!」

「黙れ!お前達の中にあの男の述べた作戦より良い作戦が思いついたものがいるのか!我々が落とそうとしているメテオドスという難攻不落の惑星は、ありていの作戦では落とす事など不可能なのだぞ!」

 ヴォルド卿はアンブロシウスを睨む。

「分かっておろうな。この作戦が失敗に終わればお前の首ぐらいではすまないぞ?」

 それは作戦を推挙すれば自分にも言えることなのだが、ヴォルド卿はアンブロシウスが軽々しく作戦を立てたのではないという決意を知りたくて、あえてそれを口にする。

「もとより、覚悟の上でございます」

 ヴォルド卿よりの威圧を受けても、アンブロシウスはそんな事は当たり前だとでも言うように、豪胆にも爽やかに微笑みながら答える。

「よかろう。今一度作戦の詳細を離せ。納得できるものであれば各将の戦略部門を統括する作戦本部設立し、それをお前が指揮するがよかろう」

「長期戦をされたいなら他の作戦もございますが、いかがいたしますか?」

「それも聞こう」

 それからはアンブロシウスの独壇場。

 次々と話される作戦の数々に、流石の諸侯達もそれ以上口を挟むことができなくなった。

 そのやり取りを聞いてセレトニーは満足げに微笑む。

「これでやっと勝機が見えてきたかな」

 彼は誰にも聴かれないようにコッソリと呟いた。


 結局、アンブロシウスの作戦は当初のものが取り上げられ、彼は益々忙しくなる。

 作戦本部を打ち立てた彼は、細部に渡る指示を連日連夜、不眠不休で決めて実行していく。

 周りにいるものはそれぞれの部分々の話を聞き、それを持ち帰って実行していけばよいだけだが、彼はそうは行かない。

 オーケストラの指揮者の様に全体を取り仕切らなければならない。

 アンブロシウスは一切の休息を取ることなく、ここ数日を過ごしていた。

 そんな彼を見て「軍神は一体いつ寝てるんだ?」「彼は本当に人間なのか?」という噂まで流れる始末。

 それほどまで神がかった業務をこなし、彼はそれでも平然としていた。

 しかしどう見てもオーバーワークであるそれを見かねたセレトニーは、自分の副官であるエトランゼをアンブロシウスにつけることにする。

 アーネットは既に前回での戦闘での功績から駆逐艦「牙」の艦長に正式に就任しており、テスタニアはその副官。

 アンブロシウスとは別の業務をこなしていて彼の側にはいない。

 アンブロシウスは巨大戦艦【朝盛】の艦長として正式に承認されていた。

 副官はモーラッツという中佐の男。

 彼は始めアンブロシウスの側にいてそのサポートをしてはいたが、あまりの激務に耐え切れず、先日医者から過労による入院宣告を受けてその戦列からは退陣していた。

 よってその空いた副官の席にセレトニーはエトランゼをあてがったというわけだ。

「アンブロシウス様。よろしくお願いいたします」

「ああ、助かるよエトランゼ。よろしく。それと様はいらない」

「え?しかしそれでは」

「い・ら・な・い。俺は平民の出だぞ?貴族でもあるまいに様なんて付けられては話をしずらい」

「分かりましたアンブロシウス。これでいいですか?」

「それでいい。まあもし呼びにくければアンブロでもルシウスでも、いっそ短くロウでもいいぞ?」

「そんなに呼び名があるんですか?」

「いや、まあ最近ではあまり呼ばれたことは無いが……」

「そうですね、LAW(法律)なんていいかもしれませんね。そう呼ばせて頂きます」

「分かった」

 彼女の能力は凄まじく、アンブロシウスの業務はかなり激減した。

 そのおかげで久しぶりの睡眠をとることも出来る。

 彼女の能力が途轍もないことは以前から知ってはいた。

 彼女が何者かもアンブロシウスは知っている。

 彼女は人造人間ヒューマノイドであった。

 人間そっくりに作られた機械の人形。

 しかしこの世界において魂を持つAIというものは確かに存在している。

 彼女もその内の一つ。 

 彼女のように魂というものを発現し、感情から自己思想までをも持つ存在が確認され、AIに人権と言うものが認められたのはおよそ二千八百年程前。

 この点においては宇宙の法律も馬鹿にしたものではない。

 まあ同じく魂を持つAIのフィアレンスに、マガダン帝国自体が依存している現在の状況から考えれば当然なのかもしれないのだが……。

 戦略プログラムの組み換えや組み直しはもちろん、アンブロシウスの健康管理までもをこなし始める 彼女に、彼は頭が上がらなくなってきていたそんな頃、アーネットは駆逐艦「牙」のドッグで一人佇み悩んでいた。

「黒雪が無い……」

 今回の作戦で出掛ける前、アンブロシウスに「霊刀 冥月」を渡されたアーネットだったが、亜空間に収めていた黒雪が無くなっている事を今になって気が着いた。

 刀を振るう日々であった過去の戦争時代と違い、今では持っているだけで邪魔になりかねない代物だから仕方は無いのだが。

 ただ黒雪には少なからず愛着があった。

 魔王に閉じ込められた暗闇の空間での日々を共に過ごした魔剣。

 今では幼い頃より使っていた夜桜よりも黒雪を好んで使うほどだ。

「まあ、無くなった物は仕方が無い」

 アッサリとした性格もアーネットの長所である。

 考えても答えが出ないので、愛着を覚えながらも所詮刀は刀とすっぱりと諦め、冥月を手に取る。

 黒雪は亜空間に入れて失ったのだから、これはまで失うわけにはいかないと思い、亜空間に入れずに常に腰に差しておくことにする。

「アーネット艦長」

 そんなアーネットに声を掛けてくる一人のピンクの髪の美女。

 副官のテスタニアであった。

「テスタニアか。どうした」

 彼女は艦長であるアーネットに近付き、懐より一つの封筒を取り出す。

「これをアンブロシウス様よりお預かりしてまいりました」

 受け取りながら、アーネットはアンブロシウスに会ってきたであろうテスタニアに彼の安否を聞く。

「あいつは元気にしていたか?」

「ええ、お変わりありませんでしたよ?ただ……」

「ただ?」

「あまりの激務のせいか、久しぶりに会ったというのにこれを渡すだけで、私にキスもしてくれないんですよ!」

 アーネットは頭を抱える。

「おまえな。それを私に言ってどうする……」

「あっ、すいません。一応恋人の艦長に言うセリフではありませんでしたね。失礼いたしました」

「「一応」は余計だ。それにしてもあんな男の何処がそんなにいいんだ?」

「それって恋人が言うセリフでもないですよね?まあ、彼は私を救ってくれた恩人ですからね」

「ああ、学生時代の事か。気にしなくてもいいのに」

「それって艦長、いえアーネットが言うことでもないですよね?私を助けてくれたのはアンブロシウス様ですから」

「あれは病気だ。「困っている人を見たらほっておけない病」特に女性限定のな」

「無茶苦茶言いますね。まあそれでも私は救われましたから」

 彼女はそう言いながらもある事に気が付く。

「あっ、もしかして妬いてます?呼び出されたのが私で、自分じゃなかったからって」

「バッ、馬鹿言うな!誰がそんな事で妬いたりなどするものか!ただ私はあいつが元気にしているか聞いただけだ!」

「あやしい~」

「知らん!」

 アーネットは怒ってその場を去る。

 アンブロシウスから預かってきたという封書。

 アーネットは自室でその封を切る。

 その中には今回の作戦に関する資料と、アーネット宛ての秘匿データが入っていた。

 アーネットは作戦資料に目を通す。


【作戦名 トールハンマー】


 その作戦とは簡単に言えば軍事宇宙ステーションを爆弾にしてメテオドスにぶつけると言うもの。

 超重力地帯においてもそれに負けない高重力物体の惑星メテオドス。

 それに対して牽引して来た巨大宇宙ステーション雷神に反物質を詰め込み、突撃させると言うもの。

 摩擦の無い宇宙では一度動き出した物体は反対のエネルギーを受けない限り止らない。

 光速近くまで加速させた巨大な雷神がホライゾンに到達し、更に光をも飲み込むブラックホールの牽引力に捕まればどうなるか。

 その軌道上にメテオドスを乗せれば、加速した雷神の質量と衝撃、さらに中に詰まった反物質との衝突は、超高密度の物質メテオドスといえど耐えられるものではない。

 計画ではメテオドスは制御を失い、その惑星はブラックホールに飲み込まれることになる。

 そして粒子加速し、最後は超新星となる。

 結果、ブラックホールのエネルギーと相殺し、ブラックホールが消えると言うものであった。

 こちらの軍がすることといえば雷神を護り抜くこと。

 ブラックホールが無くなり、そして惑星を無くした空間には同じく巨大軍事宇宙ステーションの風神を配備する。

 これにより、その後の補給路を確保するという作戦であった。


「また大胆な作戦だな。苦労して折角手に入れた守りの要塞をあっさりと爆弾扱いか。よく頭の固い連中

を説得できたものだ……」

 そしてもう一つ。秘匿文章の入ったデータを開く。

 中には資料には無い、アーネットが秘密裏に実行する別の作戦の説明書と命令書が入っていた。

 そして命令書の最後には

『アーネットへ

 俺のことは心配するな。愛してるよ。

        アンブロシウスより』

 という言葉が添えられている。

「あいつは馬鹿か!こんなものを大事な命令書に書き込んだら誰にも見せられないじゃないか!」

 命令権が誰にあるのかその所在を明らかにする命令書。

 いざという時はそれを見せて他の部署のものをも動かさねばならない。

 アンブロシウスはそんな大事なものを半分恋文代わりにしていた。

 一人で怒りをデータの命令書にぶちまけながらも、少し嬉しいアーネットであった。


―――――――――――

チリン


 休息は大事である。

 数十時間ぶりに睡眠をとるアンブロシウスは、ふと気が着けば彼は水の中にいた。

 息は苦しくない。

 エラなどがあるわけではないが、何故か呼吸は出来ていた。


チリン


「このパターンは前にもあったな……鈴の音ですか」

「お久しぶりね。アンブロシウス」

 アンブロシウスの背後から声がする。

 振り向くと、そこには水の中で鈴の付いた傘をさす青髪の貴婦人がいた。

 依然会った時は金髪の美女だった。

 今回は青髪と少しイメチェンをしている。

「イホ・ウィンディか」

 リーンの叔母に当るという神々の一人。

「また突然ですね。今回は何ですか?俺は忙しい身なんですけどね」

 彼女は手にした旅行鞄の上に座り、ゆらゆらと水の中で漂いながら微笑む。

 おそらくここは彼女がまた新たに作り出した別の世界なのだろう。

「今回はあなたが約束を破りそうだから忠告に来たのよ」

「俺が約束を?」

「ええ、忘れたの?」

『さて、約束々……』

「リーンのことですか?」

「ご名答!あの娘が危ないの。感じない?」

「さっぱりです」

「そう、そうよね。今のままじゃ無理よね。なら封印を解きなさい」

「嫌です」

「どうしても?」

「どうしてもです」

「仕方の無い人ね。いえ、仕方の無い亜神デミゴッドね。あなたは「真(神)理(アカシックレコード)」に辿り着いたのだからいい加減諦めなさい。まあ驚きよね。普通は独りで辿り着けるものじゃないんだけどな」

「アカシックレコード、ね。大層に言ってるけど要は只の記録でしょう?神の記憶とでも言うのかな。この世界を作り出し、過去、現在、未来の全てを綴った神の記憶……。まあ辿り着く手段は碌な物じゃ無かったですけどね」

「そうでも無いでしょう?あなたは既に私たちと同じく高天原オリュンポスに魂を置く寸前まで来ているもの。神々の末席にあなたの名前が加わる予定であることにも気がついているのでしょう?それがあなたの運命。それをわざわざ封印までして「否定」することで抵抗している。そんなに人であることに未練があるの?」

「神々の黄昏たそがれ

 ウィンディは驚く。

「そこまで理解しているの。なら、なおさら未練など無いでしょうに」

「冗談でしょう?知ったからこそ、そこには行けない。行く気もないですしね。俺には護るべきものがある。それを捨ててまで神になんてなる意味は無い」

「それだけの“カルマ”を背負い、力を得ているのにまだそんなことを言うの?」

「ええ、背負ってますよ。おかげで俺の神経はボロボロだ。まあ、自分の封印のせいですけどね。でもね、最後の一線は越えないつもりですよ。あんな馬鹿げた神への天昇なんてクソっくらえだ!」

「この世は混沌。その混沌の申し子たるあなたがそれを否定するの?」

「否定しますよ。そして足掻いて、足掻いて、足掻き抜きます。それが人であるあかしならば……」

「特異点。自分で自分を生み出したる存在。そんなあなたが最後の最後で足掻くのね……。それについてはもう何も言わないわ。でもね、リーンの事は別よ。あの娘を救ってあげて」

「それなんですけど、どういう状況かサッパリなんですけど?」

「封印を解けばすぐなのに面倒くさい人ね。いい?今あの娘は囚われているの。アレの中にね」

「アレ?……まさか!?」

「そう、そのまさかよ。今はまだ彼があなたを、そしてこの世界を狙っているからいい。でもね、その矛先を私達神々に向けるのなら粛清するわ。中にいるものも全て関係なく。「完全なる無慈悲」にね」

「あなたでは救えないのか?」

「私?私では無理、かな」

運命変換ディスティニーコンバート

「私という存在が関与すれば、それはこの世界にとっての悪」

因果応報リトリビューション

「この世界で何かを救えば、それ以上の災いが襲う。それでもいいの?」

「許してください。というか俺に会って助言することはいいんですか?」

「ここは別世界だからね。災いがあるとしてもそれはここに呼ばれた君にしかないから大丈夫!」

「大丈夫じゃないよ!はじめて聞いたんですけど!?そういう大事なことは呼ぶ前に言ってくれないかな!」

「安心して。個人で受ける災いなんて死ぬぐらいで済むと思うから」

「安心できるか!まさか!?蒼霊王や百獣王が殺されたのってそれでか!?俺は殺されてもなんとか生きてるけど……」

「そうかも知れないし、そうでないかも知れない。神は天にいまし、すべて世はことも無し。合唱」

「合唱するな!そして事件だらけだよ!怖いよ本当!」

 神の前で人は皆その子供と言うが、口調まで子供の頃に戻ったみたいになっているなとアンブロシウスは感じる。

「じゃあ頼んだわね。それと待ってるから」

「前段は受け承りました。後段は諦めてください」

「堅いわね~。来てくれたなら私が慰めてあげるのに、手取り足取りってね」

 そう言って微笑む彼女は神々の一員ではなく、悪魔にしか見えなかった。

 彼女の言うところの神に転生する方法。

 それは数多あまたの魂をその身に宿しその「カルマ」を背負い、霊格を上げる。

 アンブロシウスはマガダン軍数百万人の人々をその手にかけ、その魂を身に宿すことによって彼らの記憶や業を手に入れた。

 本来はそれだけでも神に近い力を得ることが出来る。

 だが、この世界を創った神がもうけた進化の最後の掟。

 高天原オリュンポスに住まいし十二柱の神々。

 その数を超える生贄を捧げる事により、自らを十三人目と認識させること。

 だが、それはただの生贄ではない。

 魂の繋がりを持つほど愛するもの、契りを結んだ十三人の己の半身を生贄に捧げる。

 つまりアンブロシウスが十三人の妻全員をその手に掛けると言うものであった。

矛盾アノマリー】 

 愛するものを愛するままに、事故の欲望からでなく、それでいて自らの手でその命を奪う。

 神が決めた反吐が出そうな進化の最後のルール。

 アンブロシウスが十三人の妻を娶ったのは偶然。

 だが彼女に言わせればそれは必然。

「それを見てお前達は高みで笑うのか、神々よ」

 アンブロシウスは一人ごち、水の中をゆらゆらと漂いながら深い眠りの中に沈んでいった。


 作戦が実行に移される日が、迫る。

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