軍神 アンブロシウス
「ええい!7隻もか!アンブロシウスは何をしている!まだ連絡は無いのか!」
「まだ連絡ありません!セリアス号(注:ティッツェ皇女の船)も動きはありません!」
「仕方ない、第1級緊急配備!エンジン及び搭載兵器各種火を入れろ!迎え撃つぞ!」
「お待ちください!」
アーネット代理艦長が声を張り上げて指令する中、副長テスタニアがそれを静止する。
「なんだ!テスタニア邪魔をするな!」
「お待ちください!アンブロシウス艦長よりの伝言です!」
「何!?伝言?」
テスタニア副長はアーネット代理艦長の許可を経てアンブロシウスより預かったデータの解除コードをコンソールで入力する。
「モニターに表示されたのがこの宙域のデータ及び作戦です。
敵に見つかったらこの通りに動くようにと言う事です。艦長代理殿!」
アーネットであれば真正面からぶつかって戦闘をしてしまうだろうとアンブロシウスが戦闘を予測して立てた作戦。
「むう!あいつは誰が艦長だと思ってるんだ!」
「この通りされるも、無視するも艦長次第です。どうされますか?」
「ええい!この座標に向かえ!表示された作戦通りに行動する!急げ!」
「「「分かりました」」」
クルー達がアーネットの決断に従う。
「巡洋艦1隻か。偵察任務とはいえ、会ったからには無視する分けには行くまい。戦闘用意!」
ここはアスマン軍偵察部隊巡洋艦の中。
マガダン軍のこの宙域の艦隊主任の変更が会ったと言う情報を得たアスマン軍は、編成艦隊の変更がないか偵察任務に当っていた。
そこで惑星ゴーストの側で巡洋艦「牙」を発見し攻撃行動に移行する。
こちらの編成は巡洋艦2隻に駆逐艦5隻。
まず負けるはずの無い数の差。
その数の違いに余裕で対応するはずであった。
しかし敵巡洋艦はこちらの艦隊を補足すると、逃避行動に出る。
まあそれは仕方の無いこと。
しかしここで逃がすももったいない。
罠でないならば巡洋艦1隻でウロウロしてくれている上、捕獲すれば敵の情報も手に入る。
ほっておく手は無い。
偵察部隊を任されているアスマン軍の指揮官はそう考え、逃げる巡洋艦の追跡に入る。
ワープをして逃がす分けには行かない。
逃避行動に移っている敵艦からの攻撃も無いとシールドを張らずに、ワープ阻止の為に機関部を外しての砲撃を加えつつ追い立てる。
シールドを張り、その攻撃を防ぎつつ、その為にワープも出来ないでいる敵艦を補足出来るのも時間の問題だろうと考えていた。
しかし敵艦が逃げる方向に隕石郡があると、レーダー通信士からの報が入る。
そこに入られては数の多い我が方がふりになる。
その上隕石郡に紛れて見失っては不味いと考えた指揮官は敵艦の前に迫る隕石郡に砲撃を加えるように命令する。
しかしそれが間違いだった。
砲撃の集中砲火により砕かれた隕石郡であったが、それと同時に全ての通信とレーダーが使用不能となる。
「何事だ!」
「ハッ!どうやら今破壊した隕石郡に含まれる鉱石の中に、レーダー等電子機器の撹乱する成分が多量に含まれていた模様」「敵艦見失いました」
解析し、報告する分析班とオペレーターの返事が被る。
「まさか、分かっていてあの場所に逃げこもうとした訳ではないだろうが……やられたな。通信機器が回復しだい帰島する。各艦には光信号で伝えろ!」
「了解しました」
そうして巡洋艦「牙」は戦いを回避して7隻の敵艦隊から逃げ遂せたのであった。
「なんとか撒いた様だな」
ブリッジに安堵の声が漏れる。
まともにやり合っては確実に撃破されていた。
何隻かは道ずれに出来ないことはないだろうが、全てを倒して無事にいられることなどまずありえなかったからだ。
なのに結果はほぼ無傷。これはもう勝利したと言っても過言でないことであった。
そして無事に逃げ遂せるとも思っていなかった面々は革めてここにいない艦長の見識の深さを思い知る。
始めて来る宙域の隕石地帯に含まれる成分までも把握しているとは、余程この宙域に詳しいものでも知ることが難しい情報を何故かあの方は把握し、敵に見つかり逃げる方法までも既に考えてから任務を遂行している。
他の船に乗っているのと、この船、巡洋艦「牙」に乗っているのとでは安心感が天と地程も違う。
流石「ダイダロスの知将」といったところか。
『お~い、大丈夫か~』
「アンブロシウス!お前何処から!?」
アーネットはそこで思い出す。『ファミリアーか』アンブロシウスの声は頭の中で聞こえていた。自分自身は契約した記憶は無いが、アリスとしてはしていたファミリアーでの念話。
自分の中にアリスがいるから出来る技。普段全く使わないので直ぐ忘れてしまう。
「え?艦長からの連絡なんてありませんよ?」
横でテスタニアがアーネットの口に出した声に反応する。
「ああ、説明ははぶくが静かにしてくれ。今アンブロシウスと念話で会話している」
押し黙るテスタニア。ずるいと言ったような顔をしている。
アンブロシウスは無事に惑星から飛び立ち、ワープしたティッツェ皇女の船を高速艇から見送って、すぐさま合流地点に向かう。
通信システム等が使えないことからこの宙域で自分の作戦通りの戦闘が行われた事は間違いなかったからだ。
かなり隕石郡から離れたが未だに通信システムは回復していはいない宙域。
しかし障害物など無い宙域なので、事前に支持されていたアンブロシウスとの合流地点の座標に、巡洋艦「牙」は既に到達して待っていた。
「着艦するようだ!ハッチを開けて牽引ビーム射出」
アーネットの指示に従って動くクルー達。
暫くしてブリッジに顔を出すアンブロシウス。
「ふ~任務完了だ」
疲れたといった顔で、何時もの自分の艦長席に座るアンブロシウス。
「「「おかえりなさい。艦長」」」
出迎えるクルー達。
それが気に喰わないでいるのはアーネット代理艦長。
「どけ!」
アンブロシウスを席から蹴り落とし、自分が座る。
「今の艦長は私だ!文句無いだろう。とうかしたり顔で勝手に座るな!」
「え?俺そんな顔してた?」
横にいるテスタニアに聞くが、彼女はさあ?といった風に肩をすくめ、二人の間に入って自分にとばっちりが来ないようにそそくさと席に戻る。
仕方なくアンブロシウスは開いたアーネット副長の席に座る。
「そこもダメだ!それは私の席だ!泥の付いた体で座って汚すな!」
「え~!じゃあ何処に座れって言うんだよ!」
アーネットはおもむろに自分の前の床を指す。
「床に座れと?」
「当たり前だ!お前には言うことが百万ほどある。正座!」
「はい!」
「いいか、そもそもお前という奴は代理艦長である私がどれ程の覚悟を持ってここに座り、任務を全うしようとしているか分かっていない!それに勝手に私の副長に命令をして作戦を伝えるなどもっての他だ!聞いているのか!アンブロシウス!」
「はぁ」
『俺は何故冷たい鉄の床に正座して怒られているんだろうか……おかしい。この役は妹のはずだ!』
と考えるアンブロシウスであった。
【モスプログ攻略作戦「双頭の狼」】
アンブロシウス合流と共に、無事開始地点に集合した2000の大艦隊はその作戦の決行の時を待っていた。
ここより先はアスマン領宙域。
敵艦隊の現れる兆しはない。
鉄壁の守りによる防衛作戦が今まで破られたことはなく、当然今回もその布陣を築いているのだろう。
今回のアンブロシウスの作戦。
それは「風霧」艦長ボーロック・パイク少将は顕示欲の強い貴族階級の男であること。
そして相対する「剛雷」艦長ゴードリー・バークレー大佐は実直で真面目な軍人の父と母を持つ堅物であるということ。
この二人の主義、主張の違いに付け入る作戦であった。
「風神ステーションより入電!」
突然の報が風霧に伝えられる。
「現在、我が方にマガダン大艦隊が集結中との事」
「何だと!?」
ボーロックは慌てる。そこに更に悪い報せが入る。
「通信切れました!妨害電波の様です!」
「己、冥帝軍め!てっきり惑星制圧に来ると思ったら、始めから我が雷神が狙いか!」
ボーロックは大艦隊がダイダロスより出発し、両国の境界を越えたと聞いて、てっきり何時もの様に惑星モスプログ狙いだと思っていた。
しかし敵大艦隊が現れたのは自分の直轄で司令官を勤める大艦隊の母艦「風神」。
もしそこを落とされようものなら、全ての補給を地上か、それか最も頼りたく等無い雷神ステーション、あの男ゴードリーの艦から受けなければならなくなる。
それだけは我慢ならない。
それにステーションには母星より持ってきた貴重な財宝や私物等も飾って置いてある。みすみす敵軍に奪われるわけには行かない。
「旗艦回頭!風神ステーションに救援に向かう!」
陣形を崩し、自軍の1000の艦隊全てを連れて風神に向けて発信しようとする。
同じく通信を受けていたゴードリーは焦って通信回線を開く。
「何をしている!持ち場を外れるなボーマン少将!」
「何を言われるかゴードリー大佐!敵艦隊が現れ、襲われているのは我が風神だぞ!お主も手を貸さぬか!」
「それこそ何を言っている!罠かもしれん!きちんと確認を取り、それから対策を練ればよいでは無いか!」
しかしボーロック少将はそんな事では納得しない。
「何を悠長なことを言っている!そんな事を言っている間にも我が風塵が落とされたらどうする!よいわ!お前はここを護れ!我が艦隊は風神に向かう!これは命令だ!」
命令機関は別系統になるので、命令される謂れは無いが、逆に言えばこちらから命令するわけにも行かず。
また階級的にも向こうが上の為、それ以上の進言ができずに終わる。
しかしゴードリー大佐の読みは正しく、風神ステーションに集結した艦隊は9割が妨害装置付きのダミー艦隊だった。
通信が取れない為、確認して戻ってくるまでは暫くの退場を余儀なくされる風霧艦隊。
残されたゴードリー大佐率いる剛雷艦隊は意を決する。
「我が艦隊だけでもここを死守する。総員警戒態勢を維持!」
ゴードリー命令の元、剛雷艦隊は陣形を整え始める。
しかし、それから間も無くして、風霧艦隊の抜けた場所に本当のマガダン大艦隊がワープして来て、その姿を見せた。
その位置はもし風神艦隊が戻ってくれば挟撃の間違いない場所。
すぐさま剛雷艦隊は風神艦隊に通信を送る。
敵艦隊の数は2000余り。
対する剛雷艦隊は雷神より艦隊をできるだけ集めており、その数1500。
数の上では少しだけ不利だが風霧艦隊が戻ればその数は倍近くになる。有利であるはず。
惑星モスプログを僅かに挟んでいるために砲撃はまだ出来ないが、射線さえ確保できれば直ちに戦闘を開始するつもりであった。
敵が現れたのは風霧のいた空間。
戦艦「朝盛」に乗るアンブロシウスは司令官席に座り、作戦の経過を見守る。
ブリッジには緊張が走っている。
その状態は戦闘が始まる前からであり、原因はアンブロシウス。
彼は司令官席で押し黙り、モニターを食い入るように見つめ、黙して喋らない。
無言の圧力。
白い髪の間から見える片方の瞳。
明るすぎるわけではないブリッジでその金色の瞳が輝き、体からは目に見えない圧力のようなものを放っている。
歴戦の勇者のみが持つことのできる威圧感とでも言うのだろうか。
戦いを前にしてアンブロシウスの中の戦士の血が高ぶる。
司令官席の側に特別に設けられた豪華な椅子にセレトニーは座り、そんなアンブロシウスを見て、クルーを怯えさせないようにと声を掛けようとする。
が立ち上がろうとするところをエトランゼに止められる。
無言の漆黒の瞳が語るのは「邪魔をしてはいけません」とでも言っているかのようであった。
仕方なく座りなおすセレトニー。
彼女は気付いている。
アンブロシウスがただそこに座っているだけではなく、もう既に戦い始めていることに……。
惑星に近く、巡洋艦数十隻が、雷神艦隊の射線を外すように突入コースに入る。
「直ちに防衛システムを発動するように伝達しろ!」
ゴードリー大佐の命令を通信士が惑星に伝えるよりも早く、地上より宙域を観測していた防衛軍が、 すぐさま防衛システムを発動する。
それは星一つを覆う巨大なシールド。
惑星規模のシールドは地核よりエネルギーを得ており、ほぼ無限に強力なシールドを展開することが出来る。
これを破るのは戦艦の砲撃でも至難の技。
巡洋艦数十隻が向かっても突破できる可能性は無い。
が、しかし星全体を覆うはずのシールドが一部展開しない。
「どういう事だ!?」
ゴードリー大佐は慌てて通信士に地上とのやり取りを命じるが、地上の方はそれ処ではない位に混乱していた。
何が起こっているのか。それを紐解く鍵はネズミであった。
シールド発生装置の基地の一つに大量のネズミが発生し、ケーブルやシステムを内部から襲い、7つある防衛シールドシステムの一つが全く作動しないでいたのだ。
巡洋艦「牙」を先頭に、十機の巡洋艦がまるで分かっていたかのようにそこより突入する。
そしてシールド内部、惑星地表付近に広大な荒野の上空に布陣を展開する。
巡洋艦より射出される無数の戦闘機と、推進装置から火を放ち、単体で飛行可能な魔導騎兵達。
その数合わせて500。
各地に散らばるシールド発生装置のある基地に向かって編隊を組んで飛び去っていく。破壊するのではなく、あくまでも制圧する為の部隊である。
巡洋艦はその場で待機する。
地表にある迎撃システムは絶対防衛システムとも呼び名の高い巨大シールドに頼りきりで、今まで地表に敵を進入させたことが無い為、その殆どが対宙域用、つまり地表にいる敵艦を迎撃する兵器が殆ど無い。
ただ、全く備えが無い訳ではなかった。
「散開!各地のシステムを制圧し、制圧した後は直ぐに作戦通りに部隊を再編成し、他の場所に援護に向かえ!時間が無いぞ!急げ!」
アーネットは地上制圧部隊の任を受け、今いる数十機の巡洋艦の司令官をしている。
アンブロシウスの例を適用し、セレトニーより直々に少佐の位を得ていた。
巡洋艦を餌にして、誘き寄せられるかの様に地上に配備された対白兵戦用の天騎兵が現れる。
そしてその約9割が各地より巡洋艦のある荒野に集結して来る。
これぐらいの数が集まらねば巡洋艦の防御シールドを突破できないからだ。
その数1000機。
白い波のような翼を生やし、昔アンブロシウス達が戦ったそれとは形の異なる天騎兵が各地より集結する。
悪魔を採取するタイプではなく、頭部のある、まさしく天使のような姿をした巨人達。
しかし頭部はあっても顔の部分には目も口も無く、のっぺりとした印象を受ける。
白い翼を広げ集う巨人達の中に、今、一機の黒と紫の侍の様な機体が降り立つ。
腰に刀を携えた鎧武者の魔道騎兵。
その機体に乗るはアーネット・リード。
この機体は他の魔道騎兵とは違い、魂を持ったAIを搭載している自立魔道騎兵。
それを更にアンブロシウスが神無の中で改良し、アマテラスと同様のスペックを与えられてある。
おかげで「牙」に乗るメカニック達は、この機体とアンブロシウスの機体には整備を出来ないでいる。
出来ることはエネルギー補給くらい。
それ以上は触ろうにもセパレート機過ぎて、設計図が無ければ分解しても元に戻せないからだ。
まあ、自立している機体自体がそれを許さないという事もある。
アーネットは自機「ツクヨミ」の中で舌なめずりをする。
「無人のロボット風情が私にかなうと思っているのか?」
アーネットの口から笑いが漏れる。
「笑止!神速抜刀術が継承者アーネット・リード、押して参る!!」
ヂ、ヂヂヂヂヂ
これよりは語るまでも無く、例え1000機といえど剣技一つ使えぬ相手では姫の敵ではなかった。
(注:前回手こずったのはリーンの魔法の影響で、数十倍の強さを持つ黄泉の化け物と化していたからで、魔道騎兵や巨人に乗って戦えば決して単体の攻撃力はそれ程高いものではありません。ただし人間が単体で魔法や武器で戦うのは無謀かもしれません)
惑星全土で火の手が上がり、着実に防衛システムが制圧されていく。
しかしシールドを張っている以上、上空から地表への援護も出来ず(出来たとしてもかなりの被害を覚悟しなければならない。戦艦クラスの攻撃では地表が焼け野原となる可能性がある)、ゴードリー率いる剛雷艦隊はただそれを見守ることしか出来ない。
惑星がクルリと回ってでもくれれば、同じように開いたシールドから援護の部隊を遅れるが、今はヘビの睨みあい状態で少数の巡洋艦を敵大艦隊がいる穴の場所に向けて出撃させるわけにも行かない。
「ええい!どうすればいいのだ!このままでは護るべき星が無くなってしまうぞ!」
『いっその事防衛システムを解いたらどうだろうか』という考えも浮かぶが、マガダンの大艦隊が近くにいては解けない。
解いてしまって地表を攻撃されたら結局同じ事。
こちらには味方の星でも、向こうにとっては滅ぼしてもかまわない敵の星だからだ。
こちらが動けば敵は少し下がる。
じりじりと焦燥感が増していく。
このまま接近しては間に合わない。
本来護りの陣形を取っていた雷神艦隊だが、ここに来て攻撃の陣形にシフトし、防御力の高い巡洋艦等を下げ、攻撃主体の編成にして、突撃する事にする。
そこで火蓋を切って落としたのは敵大艦隊。
「編成を組みなおす隙を狙われたか!?」と思ったが、おかしな事に敵大艦隊は船首の方向を変え、有り得ないほどの大量のビームを考えなしに何も無い空間に一斉発射する。
その方角は全く剛雷艦隊の無い明後日の方向。
そして突撃を慣行する前に、来たときと同じように突然にワープして消えて行くマガダン大艦隊。
地上の巡洋艦や戦線は放置して、だ。
訳が分からないがここで一つの報せが入る。
「敵は大量の妨害物質を撒き退却した模様!レーダー、通信装置共に使えません!」
「一体奴らは何がしたいのか?」
これではしばらくの間はこの宙域での戦闘が行なえない。
もしマガダン艦隊が戻って来ても、一切の戦闘にならないだろう。
(注:この時代、というか宇宙での戦闘では、ほぼ視認による攻撃はない。お互いの距離がありすぎるのと、擦れ違うにしても相対速度が違いすぎて視認では間に合わないのだ。
よってレーダーが効かない場所での戦闘は殆ど行なわれることはない。
兵器の主力はレーザー砲。
弾数の限られたミサイル等実弾兵器はあまり搭載されていない。物資の補給が大変だからである。
レーザーのエネルギーや戦艦の推進力は基本的にエーテル炉によって賄われる。エーテルは宇宙に充満しており、戦艦等はそれを無限に吸収して永続的にレーザー砲や推進力を得ることが出来るので、数に限りのある補給ばかりしなければならない実弾兵器は埃を被っている状態である。 戦艦単体でのエーテル吸収効率はあまり良くは無いので、エーテル補給は各基地やステーションで行なわれるのが一般的である。補給するのに3日かかるところでも、ステーション等でなら数時間で補給できるからである)
「兎に角今の内だ!旗艦を先頭にシールドシステムの穴の開いた場所へ向かう!そこから地上の援護を行なえ!」
「しかし艦長!レーダーが使えません!」
「構わん!地上へはありったけのミサイルを撃ち込め!敵巡洋艦がシールド開いた位置にいるならどれかは当たろう!」
剛雷艦隊が地上に向けてミサイルを発射する。
視認による発射だ。命中する可能性は低い。
地上ではある程度の戦闘を終えたアーネットは自艦「牙」にツクヨミの身を翻して帰る。
アンブロシウスよりの念話があったからだ。
次の作戦に移行する。
残った天騎兵が「牙」や他の巡洋艦に群がってくる。
「シールド展開!耐えつつ地上シールドの効果範囲に移動!ここが正念場だ!気を抜くなよ!」
「「「はい!」」」
クルーが呼応する。
大量のミサイルがシールドの開いた穴から到来し、目に見える地上が焼け野原となっていく。
数はそれ程でないにしろ、その破壊力はやはり凄まじいものがある。
流石戦艦クラスの兵器である。
残った天騎兵もそのミサイルの雨の中、大破していく。
丁度その時、通信を受けて罠だと知り、急いで戻ってきた風霧艦隊が惑星モスプログに到着する。
しかしその風体は酷い有様だった。
風霧艦隊はその約3割の戦艦を失い、中には傷つき、よく動いているなと思われる様な船も見れる。
そう、実は先程アンブロシウスの命令で放ったレーザーの一斉掃射が、丁度呼び戻され帰還しようとしていた風霧艦隊を襲ったのだ。
霧風艦隊はその射出角から敵の位置を割り出し、急いで反撃をする為に来て見れば、何故かその位置には剛雷艦隊が攻撃態勢と布陣で待ち構えている。
その上、事もあろうに地上の防衛システムの一部が剛雷艦隊に破られ、そこにミサイルの一斉射撃をしているではないか!
地表は火の海。
その上何故か通信装置もレーダーも使えない。
「剛雷艦隊旗艦より光り通信」
「これは!?」
「何だ!?読み上げろ!」
「「我らはマガダン軍に寝返った、降伏せよ」との事です」
疑い様も無い、明らかなる剛雷艦隊の反逆。
この状況で能力も見地も高くないボーロック少将が判断を誤ったとしても仕方が無い事と言えよう。
実はこの通信はアンブロシウスに乗っ取られた光信号システムからの伝言であった。
この時代に限らぬことだが、情報戦は常識。
戦場でも常にお互いのシステムをハッキングしようと電波を飛ばしあっている。
しかし強固なファイヤーウォールをお互いに張り巡らし、それが成功することは少ない。
特に優秀なAIを搭載しているので、常にハッキングされても言いようにプログラムのウイルスサーチと保護、再構築が行なわれ続けている。
しかしそのAIも無く、プログラム保護をあまり重要とされない部分もある。
それが戦闘中に使われる事がまず無い、光通信システムであった。
アンブロシウスは先程の睨み合いの折にこれをハッキングすることに成功していたのだ。
「己!裏切ったかゴードリー!元々気に食わないやつであったが、そういう事か!」
「剛雷艦隊に向けて全艦攻撃せよ!あの裏切り者共を許すな!」
「しかしレーダーが使えません!」
「手動に切り替えろ!あれだけの数だ適当に撃っても当たるだろう!それとありったけのミサイルも撃て!」
風霧艦隊が総攻撃を開始する。
剛雷艦隊は突然に味方艦隊から襲われパニックに陥る。
「何をしておるのだ!あの白豚は!」
とうとう名前ですらない特徴だけを捉えてボーロックを罵り出すゴードリー大佐。
もはやこれは戦闘にすらなっていなかった。
誰が敵かさえも分からない戦闘。
アンブロシウスという神の手のひらの上で転がされ、今哀れな二人のアスマン指揮官の下、数多の命が散っていく。
シールドを張るも重戦艦「風霧」の放つ大出力の巨大レーザー砲の前に次々と落ちていく剛雷艦隊の戦艦。
もともと陣形もシールド部隊が後方にいる為、碌に防御できていない。
そしてその時、アスマン軍剛雷部隊の背後、丁度風霧からすれば剛雷艦隊を挟んだ位置にマガダン大艦隊がワープして現れる。
そして、これより敵と味方による前代未聞の挟撃作戦が開始される。
「コンソールをこちらに」
アンブロシウスはヴァーチャルコンソールを五つも目の前に展開する。
アンブオシウスの前の空中に半透明のコンソールが五つ現れる。
指を鳴らし、身体強化を施したアンブロシウスは、先の星で充填した魔力を使い、脳内シナプスを強化し続ける。
目にも止まらぬ速さでコンソールを叩くアンブロシウス。
叩かれたコンソールのボタンが光る。
余りの速さに全てのボタンが光って見える程であった。
レーダーや通信の使えないこの宙域において、2000の自艦全てに直結した光通信による兵装管理システム。
これはセーレとアンブロシウスが開発したシステムの一つである。
普段であればあまり使われることが無いが、このような状況においてはありえない効果を発揮する。
といってもレーダーが使えない事は間違いないので、敵艦を補足する方法は2000の艦の船外にある望遠モニターだけである。
レーザーの自動ロックシステムも使えない。
しかしアンブロシウスにとってそれだけで十分であった。
傾斜角度、方位、距離、艦隊の位置等をモニターだけで把握し、凄まじいスピードで入力していくアンブロシウス。
次々と手動で打ち出される2000の艦隊からの砲撃は確実に敵を捕捉し、撃沈していく。
エネルギー残量、次弾装填までのタイムラグ。熱量、宙域の障害物データ、素粒子の流れ。エーテル濃度等次々とモニターに移る映像だけで計算して入力する。
そこには1500もの敵戦艦がどう動くかの予測進行ポイントの計算までもある。
移動する先をも計算して砲撃し、一つとして外れることの無い艦隊ビーム砲。
唖然とする味方艦隊のクルー達。
それはこの「朝盛」のブリッジでは目の前で艦隊を操作しているアンブロシウスを間近で見ていることもあり、如実に感じられる。
艦隊の中心である巨大戦艦「朝盛」のブリッジクルーになる者達は皆エリートである。
そこらあたりの巡洋艦の乗組員とは一線を画した自負と自尊を持っていた。
中にはアンブロシウスと同じく士官学校を首席で卒業したものもいる。
しかし、その様なエリートである自分達が束になっても、今のアンブロシウスと同じ事は到底出来るとは思えない。
それは同じ人間のなし得る技には到底思えなかった。
レーダーも使えないのでは敵艦隊の位置処か戦況の把握すら出来ないでいる。
正に今の状況では何もする事が無いのである。
「セレトニー様」
エトランゼがセレトニーを見つめる。
エトランゼが何をしようとしているのかその意を無言で汲み、セレトニーは頷く。
彼女はアンブロシウスの隣に立つ。
「アンブロシウス大佐、お手伝いいたします」
アンブロシウスは目まぐるしくコンソールを叩き続けながらエトランゼを見る。
「助かる。50から250。300から350。900から1200までを頼む。予想ポイントの計算はこちらで引き続きデータを作成して送る」
「分かりました」
エトランゼは目の前にアンブロシウスと同じくヴァーチャルコンソールを三つ開き、彼のスピードと遜色のない速さでコンソールを叩き始める。
「ポイント2、3。それに8制圧完了。続いて12、18迎撃します」
エトランゼが報告する。
二人の間でしか分からない文字通りデータのやり取りが行なわれる。
側にいる者達はそれが何を意味するのか全く見当も付かないでいる。
アンブロシウスはエトランゼの介入で少し余裕が出てきたので、艦内にいる者達が目で見て分かるように、まあどちらかと言えばセレトニーや他の上級士官達に分かるようにモニターに自作の宙域データと敵のデータ。残滅状況やそのポイント等をその場でプログラムして表示していく。
「セレトニー皇子。我々は夢を見ているのでしょうか?」
同じ旗艦に乗り、アンブロシウス大佐に何かあった場合のサポーターとして、他の官僚達より言われ搭乗していたレンゲル大佐がセレトニー皇子に素直な感想を述べる。
「まあ、世も驚いてはいるな。いや呆れたといってもいいな」
「呆れる所ではありません。これではアンブロシウス大佐一人と無人機2000あれば我々はいらないではありませんか!」
「まあ、そう腐るな。それにもしこの事をあちらが知ったら我々所では無いぞ?何せたった二人を前にして、手も足も出ないのだからな」
さりげなく自分の副官のエトランゼも数に入れてレンゲル大佐を嗜めるセレトニー。
士官学校で首席を争った仲とはいえ、これは確かにやりすぎの感はある。
「それにしても」とセレトニーは思う。
士官学校と言う枠の中での競争だったからアンブロシウスと競い合えたが、もしその枠を外し、上限の無い世界でこの男と張り合ったならば、それと肩を並べて競い合えるもの等いるのだろうか?
セレトニーの知る中にはその様なものはいない。
いや、これから出会う中にもその様な人物に出会うことは決して多くは無いだろうと思う。
「本当に化け物だな……」
味方と敵に両方から挟まれて砲撃を撃たれ、あっけなく散っていく剛雷艦隊。
もうその姿は風前の灯であった。
「おのれ、おのれおのれおのれ~~~!」
燃え盛るブリッジで独り生き残ったゴードリー大佐は血を流しながら呪いの言葉を口にする。
しかし、その言葉は誰に聞かれることもなく、重戦艦「剛雷」は星屑となって消えた。
あっけに取られているのはボーロック少将率いる風霧艦隊。
ボーロック少将はそこで始めて気がつく。
もしかしてこれは罠だったのかと……。
しかし時既に遅く、惑星の防衛システムもアーネット率いる部隊の手により制圧が完了し、制圧された地上よりの砲撃が開始される。
目的は威嚇。
制圧したことをアピールする目的だ。
砲撃は一度だけで、後は強固な星全体を包むシールドが張られる。
しかしそれで十分だった。
命令を出せずに固まるボーロックを前に、更に一割近くの戦艦が迎撃も出来ずに地上よりの威嚇攻撃で沈む。
四割近くを失った風霧艦隊はその数を900にまで減らし、それ以上に負傷者やエネルギー不足も生じ始めていた。
それに対してほぼ無傷の2000もの敵大艦隊。
勝敗は既に決していた。
風霧艦隊降伏。
その後「風神」「雷神」両軍事ステーションも随時攻略し、ここにモスプログ攻略作戦、「双頭の狼」はマガダン大艦隊の完全勝利として終結したのだった。
アンブロシウスはその功績を認められ、更に少将の位を与えられる事となる。
これよりアンブロシウスは冥帝軍内で「軍神アンブロシウス」と呼ばれ、一部のものから奉られるようになる。
冥帝国では聖書にその名が刻まれ、英雄として名が残される事となった。




