表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/110

宇宙の果ての戦(いくさ)

 冥星歴25978年。

 神の民と冥の民が戦争を始めておよそ13000年。

 途中何度かの停戦があったにしろ、すでにその戦争が何故始まったか、歴史の紐を解く学者達ですら分からなくなっていた。

 しかし未だその戦争は続き、二つの民はそれぞれ天の民、霊の民を巻き込み、宇宙を舞台に血を流し続けている。

 その血に見合う対価として人は科学と魔法の技術を発展させ、その技術の一つとして人は不老となり、その寿命はエルフのそれを超えるまでになっていた。

 しかし未だ二つの種族は争いをやめない。

 まるでそれが種としての宿命であるかのように……。

 戦力の均衡を保ち、ここ700年に至っては戦争は硬直状態だったが、今そこに新たなる風が吹く。

 その風は流し続けた血を吹き飛ばしながら、戦況を大きく揺り動かす。



「2番隊シールドを前にして後退!」

 艦隊後方の旗艦から伝令が飛ぶ。

 モニターを見ながら指示を出すしているのは白い髪で片目を隠し、襟の高い黒の軍服に身を包んだ10代の若い男。

 彼は司令官席に座り、慌しく変化する戦況を見極めつつ、艦隊を動かしている。腰には白い刀。

 年齢からいってもブリッジには彼より歳のいったものがおり、下士官が命令しているかのようなおかしな状況と見える。

 だが、彼は間違いなくこの艦でのトップ、いやこの宙域で戦闘を行なっている冥帝軍マガダンの司令官であった。

 2番隊と呼ばれた部隊が電磁シールド及び魔術シールドを張って突進してくる敵軍、天王軍アスマンの巡洋艦率いる戦艦からの砲撃を回避する。(注1)

 巨大な砲身を剥き出しにした戦艦を見て怖気づき、2番隊は怯えたかのように戦線を後退させるふりをする。

 それまで1番隊、3番隊、4番隊と少数ながらも精鋭駆逐艦の強襲により、戦線の縮小をさせ、密集体系で迎撃を余儀なくさせられていたアスマン軍だったが、正面にあるシールドを張って動かない2番艦隊を組しやすしと見たのか、ここぞとばかりに2番隊に向かって陣形を槍の様にして突撃を掛ける。

 数は強襲部隊よりも多いが、戦火の乏しいそこを突破し、陣形をそのままに確固撃破と考えているのだろう。

 猛スピードで迫る天王軍アスマンの艦隊。

 だが巡洋艦数十隻を前に出したその槍は、2番隊のシールドに届くことなく、突然に大破していく。

 2番隊のシールド部隊が後退し、その背後にステルスシステムを搭載し巧妙に隠されていた隕石郡に見事に突撃を敢行したからだ。

 猛進していた彼らは隕石郡に飛び込んで自滅していく。

 その宙域一帯に数ヶ月も前より用意していた他の宙域より移動させていた隕石郡。

 戦闘の始まる前よりジャミングシステム等も併用してその隠蔽を完璧なものにしていたのだ。

 突撃を何とか回避した艦も、味方の艦の爆発に巻き込まれ、あるいは突然に停止しようとした自軍の艦にぶつかり爆発していく。

 断末魔の悲鳴にも似た光が宇宙に煌き、程なくしてその光が止む。

 シールド2番艦隊の者達が、後退した位置からその様を見て自軍の勝どきの声を上げる。

「アンブロシウス大尉!敵軍の9割が沈黙。はほぼ壊滅状態です!」

 ブリッジの通信士及びオペレーターが確認の報告をし、一斉に館内から歓声が上がる。

「残った敵艦に降伏勧告!それと同時に生存者を確認する為の魔導機兵の部隊編成!急げ!」(注2) 

 浮かれるクルーに叱咤のような檄を飛ばす。

 クルー達も自らを諌め、白髪の艦長の命令に遅れることなく対応していく。

 それが一段落し、完全に戦闘が終結してから交代で各自休息に入る。

「流石艦長!相手は戦艦を入れなくても俺達の3倍もの数ですよ!それに比べてこっちは巡洋艦と古い駆逐艦だけだってのに圧勝じゃないですか!」

 お調子者の副操舵士のヘンリーが休息に入った途端に白髪の艦長に声を掛ける。

 規律の厳しい軍の中ではありえない敬語も使わぬ言葉遣い。

 しかしここではそれが当たり前なのか誰もそれを咎めようとはしない。

 話しかけられた当人である白髪の艦長ですらその言葉を受けて彼の物言いに笑っている始末。

「浮かれるなよヘンリー。たまたま今回は運が良かっただけだ。次回も上手くいくとは限らない。それにまだこの宙域には伏兵がいるかもしれないからな。皆も気を抜きすぎるなよ」

「「「はい」」」

 クルー全員が振り向きながら返答する。

 この白髪の艦長に対して余程臣を置いている証拠だ。


 俺の名はアンブロシス=マキシス。

 現在は冥帝軍マガダンの大尉をしている。

 俺の乗っている旗艦の名は、高速巡洋艦「キバ」。

 俺はこの艦の艦長にして巡洋艦を含む30隻からなるドーベル部隊の司令官をしている。

 この艦の副長はネコミミに二股の尻尾を生やし、長い黒髪に紫の瞳のアーネット・リード少尉(姫)。

 側に立つアーネットは、黒の軍服にネコミミの間に小さな同じ色の尖った帽子を乗せた可愛いいでたちで俺に報告する。

「大尉、本部より伝達です。此度の勝利、心より敬意を評し、帰還後ただちに少佐への授与を行なうとの事です。おめでとうございます」

「「「おめでとうございます」」」

 ブリッジのクルーが全員総立ちし、俺に拍手と賛辞を述べる。

「これも皆のおかげだ、帰ったら皆で祝おう。もちろん俺もちでだ」

「さっすが艦長ふとっぱら!いや男前っすね!」「はなせる~!惚れそうだぜ!」

 ヘンリーを筆頭に調子のいいクルー達が声を高らかに喜び合う。



 思えば成人の日であり、華やかな結婚式が執り行なわれたあの日、あれから既に20年の歳月が流れていた。

 平穏な日々を送っていたある日、俺は夢で見た宙域にアニーの能力で神無カムイを飛ばし、水の惑星を本当に発見した。

 そして移住計画を推進し、実現する為の手段として天地の星の統一王となった。

 移住計画が順調に進み、4年で移住を完了させた俺は天地の星を捨てた。

 夢であったようにまともに正面から魔王軍と戦う必要等なかった。

 天地の星より5000万キロも離れた宇宙の別の星。

 そのような所に移り住んだ俺達をやってきた魔王軍が宇宙に進出して発見できる等、それこそ砂漠に落とした石を発見するようなもの。

 悪魔という生物が宇宙空間で活動できるとしても、転移やゲートは見た事もなく、行った事もない星等に行けない。

 俺達を発見できるに至るまでは最低でも百年いやそれ以上の時間を必要とするだろう。

 それまでに魔王が改心すればよし。

 でなくとも迎え撃つ為の戦力の確保には十分な時間といえよう。

 平穏な日々を送っていたが、ある日俺はそんな日々に別れを告げる。

 時間的猶予を得た俺は根本的な世界の問題を解決すべく、妻セーレより過去に住んでいた事のある神天の星や他の星の事を聞き、また記憶の中を見せてもらい、選んだ解決方は冥王軍に入ること。

 俺はそれより宇宙の戦争の歴史を終わらせてやるべく、只今活動中というわけだ。

 でないと何時までも天騎兵操る天のものに怯える妻達など見たくは無かったからだ。

 冥帝軍に入るといっても簡単なことではなかったぞ?

 まず冥帝国領内の中央より離れた辺境の支配惑星で身分を秘密裏に取得し、中央の士官学校に入隊(年齢は寿命が殆ど無い人々の間では問題ない)。

 それより6年の年月をかけて首席で卒業。

 軍に入隊後はこつこつと地道に戦績を上げ、今に至るというわけだ。

 こう言ってしまうと簡単みたいだな。

 まあそれでもここまで来るのに10年の月日が掛かった。

 星より一緒に着いて来たのはアーネットにセーレ、そしてアリス。

 セーレは同じく士官学校卒業後は軍の兵器開発部に当る魔法科学研究室に篭り、色々な魔法と科学についての研究をしている。

 アーネットは俺の側にずっと着いて来ている。

 アリスは……またそれについては追々話そう。

 それよりも兎に角今は凱旋だ。

 俺は部隊を率いて宇宙ステーション「ダイダロス」に帰ってきた。


【宇宙ステーション「ダイダロス」】

 全長1000kmにもなる巨大な宇宙ステーション。

 途方も無い話だがこのサイズの宇宙ステーションは珍しくも無く、マガダンやアスマンの宙域にはいくつも建設されている。

 中は軍事施設や居住施設等ブロック毎にその建築方法が異なっている。


 ステーションに降り立ち、俺は出迎えてくれた先に着いた他の艦の面々、取材陣、一般のファン(?)と次々に空港のような場所に押し寄せてくる。

 人々に挨拶を交わし、又は会釈に握手と対応する。

 そのおかげで少々時間に手間取った俺は、叙勲を受ける時間に遅れそうになる。

 急ぎ官邸に向かう。

 副長であるアーネット少尉と同じく、俺の艦のもう一人の副長、テスタニア・グレーも同行する。

 テスタニアは淡い桃色の短い巻き毛の美女。

 そう、俺の艦には副長が二人いる。

 理由は簡単。俺がよく艦を抜け出して色々な工作活動に参加するので、艦を開けたときにアーネット 艦長代理が一人で困らないように二人目の副長を置いたわけだ。


 官邸に着き、浮遊する車のような乗り物から降りる。

「アンブロシウス!」

 官邸の中を早足で歩く俺達に(正確には俺にだが)、声を掛けて呼び止める声がする。

 振り向くとそこには薄い黒色の髪で、俺と同じく上級士官のコートを着たかなりの色男がいた。

 その男の隣には褐色の肌にストレートの黒髪の美少女が、軍服というには程遠い、かなりファッション性の高い服装で付き添っている

 彼女の肩に巻いた天女の羽衣のようなスカーフがなびく。

 近づいてきた男の服装を見るとつい思ってしまう。

 この軍服「襟が邪魔だな」と。

 下級士官は普通のスーツの様な詰襟の軍服だが、上級士官になればなるほどこの襟が広く、高くなる。

 竹を斜めに割ったような襟で、俺は流石に今はまだ邪魔にはならない程度だが、セレモニー等で見た冥帝王なぞは服より長く上に伸びていた。

 まあ、偉い人が誰か一目でわかるので、分かり易いと言えば分かり易い作りなのだが……。

 裾は長くてサーコート風であり、これは趣味に合っていいのだが。


 俺を呼び止めたのは将校で皇族、そして士官学校の同期生であり、友人のセレトニー・ド・バイモン皇子。

「これはセレトニー皇子。お久しぶりでございます。本日は「堅苦しい挨拶はよい」」

 続けて形式的な褒め言葉を述べようとするが、一言でそれを遮られる。

「それよりもまた敵艦隊を倒し、武勲を立てたそうだな」

「いえ、それもこれも陛下より賜った優秀な部下達がいればこそでございます」

「その敬語を何とかしろ!俺とお前の仲ではないか!」

「ここは官邸でございます故、周りの目もございます。が、そうか?」

 こいつは頑固で言い出したら聞かないのだ。俺は諦めて口調を素に戻す。

「別に俺はほんの少し策を講じただけだよ。大した敵でも無かったしね」

「謙虚だな。まあお前らしいが。それよりも……」

 俺の側にいるアーネットをチラリと横目にしながら耳の側で声を潜めて内緒話をしてくる。

「いいかげんアーネットとは結婚せぬのか?」

「セレトニー!聴こえているぞ!」

 アーネット少尉が俺の後ろから怒った様な声を出す。

 名前を呼び捨てにするのは、アーネット自身も士官学校で皇子の友人的存在だったからだ。

 そう、そして皇子が言うようにここでは名前の通り、俺はマキシス、姫はリードと従来の別の性を名乗っている。

 士官学校に入隊した時からこっち、それで通しており、夫婦であることを誰にも明かしてはいなかった。

 ましてや既に二人の間には20歳になるであろう息子が母星にいることも、だ。

 理由はまあ、危ないことに俺が足を突っ込んで、夫婦だからと両者共に拘束されることを避ける為と、配備される場所が夫婦だからと別々になるのを避ける為だ。

「はは、冗談だ。怒るなアーネット。それでは未来の英雄よ。我が帝国の為に励めよ!」

 そう言って足早に立ち去っていく。

 去って行くセレトニーの後を追いかける褐色の肌の美少女。

 甘いシナモンの香りが鼻腔をくすぐる。

 彼女の名前はエトランゼ・プロップ大尉。

 セレトニーの艦の副長だ。

 彼女は俺の前を通り過ぎるとき、僅かに会釈して行く。

 俺はそんな彼女に微笑みかけると、彼女はその頬を赤くしていた。

「またですか?本当に一体何人の女性士官を落としたら気が済むんですか?艦長は」

 テスタニアが呆れた声を出しながら俺を睨む。

「おいおい、人聞きの悪い事を言うなよ!俺がいつ女性士官に手を出した!」

「アーネットでしょ、私でしょ、それに3番隊のクレアにノーマでしょ、それに……」

 指を折りながら数えていく。

「すいませんでした~」

 俺は真っ青になってテスタニアに頭を下げる。

「お願いだからそれ以上は……」

「ア~ン~ブ~ロ~シ~ウ~ス~!」

 アーネット少尉(姫)のネコ耳がと尻尾が逆立ち、背後に大魔神の怒りモード姿が見える。

「お前という奴は~」

「口調!俺一応上官よ!?喋り方戻ってますよ、アーネットさん!ほらっ!それに急がないと叙勲式が、ね!」

「「あっ!?」」

 二人とも忘れていたようだ。大丈夫か?こいつら。

 俺達三人は慌てて走り出した。


 叙勲はセレトニー皇子より賜った。

 遅れそうな俺を足止めし、自分が先に来て、まるで待ち侘びたぞというような顔で出迎えられた時には、叙勲の時に頭突きをかましてやろうかなと思ったくらいだ。

 いい性格をしている。


 それから一ケ月程は何事も無く過ぎ、偵察任務で何度か出撃した程度だった。

 そしてある日、少佐となった俺は作戦本部に呼び出される。

 次の大きな作戦に関し、俺の意見を聴きたいというのだ。

 大佐クラスでもない俺がその様なことで呼ばれるのは異例のことといえよう。

 しかし先の戦闘での戦い方を見れば分かるが、以前からの俺の作戦では自軍の死傷者がとても少ない。

 逆に敵の軍の被害は甚大だが。

 そして俺自身は知らなかったのだが、仲間内ではそんな作戦を立てる俺の事を「ダイダロスの知将」との呼び名が広がっていたらしい。

 それを耳にした将校達が今回の作戦に際し、それがかなりの難題らしくて若い俺の忌憚の無い意見を聴きたいということらしい。

 俺が作戦本部の会議室に入ると、既に何人かの将校で今回の作戦についての論争が行なわれていた。

 中央の席にはセレトニーがいる。

「来たかアンブロシウス。早速で悪いがお前の意見を聞かして欲しい」

 俺は事前に渡されていた資料を目にし、今回攻略すべき目標惑星についてのある作戦を考えついている。

「では、僭越ながら私の意見を述べさせていただきますと……」

 一時間に渡り俺は自分の考え付いた作戦を伝える。

「成程!その様な作戦が」「いけるかも知れぬな」「なかなかいい案だ。検討の余地がある」等々、どうやらお集まりの将校達には俺の作戦を気に入ってもらえたようだ。

「では、私はこれで」

 俺は案を纏めた資料を提出して、この場を立ち去ろうとする。

 これ以上は上の方々が更に細部まで練りこんで実行してくれるだろう。少佐の俺が口を挟む権限や出番など無い。

「待てアンブロシウス。今回の作戦。お前が陣頭で指揮を取って見ないか?」

「皇子それはなりませぬ!このような若造が指揮を取るなそ!」「そうです皇子。ここは経験豊富なボーマン大佐あたりが適任かと」「いやいや、ここはレンゲル大佐で決まりでしょう」

「黙れ!それは世が決めることだ!今回の作戦は失敗は許されぬ。それにこのような奇抜で繊細、綿密なる計算が必要な作戦。頭の固いお前達の部下では実行できまいが!臨機応変に対応できず、下手をすれば結局最後は何時もの様に力押しの戦闘になってしまう。それでは今までと同じ、我が軍の敗退が目に見えるわ。これは作戦を立てたアンブロシウス少佐が適任だと世は思う」

「しかし皇子、このような規模の艦隊の司令官としては少佐では流石に無理があります」

 それはそうだろう。作戦に参加する大佐クラスが何人もいるのに少佐が司令官では無理がある。

 セレトニーは考え、妙案が浮かんだのか手を叩く。

「ならばこうしよう。この作戦がもし成功すれば当然司令官であるアンブロシウスは中佐、いやこれだけの功績だ。大佐に任命されるだろう。だから先に褒章を与えよう」

「先にですか?」

「そうだ。仮に大佐になってもらい、司令官の席に着いてもらう。作戦が成功したあかつきには正式に任命すると言うのではどうだ?」

「そのような前例聞いたことはございませんが?」

「前例が無ければ今回で作ればよい。いいかもう決めたのだ!これより作戦名は「双頭の狼」と命名する。司令官はアンブロシウス大佐。反論は認めぬ。いいか!これは勅命である!」

「「「はっ」」」

 一同が全員セレトニー皇子に頭を下げる。

 話の中心でありながら、全く会話の内容についていけなかった俺は固まってセレトニーを見つめる。

 差し出がましくも途中で口を挟んで異論を述べたいところだったが俺はあまりの事にフリーズしていた。

『俺が司令官!?それも大佐だって!?』

 ほんの一ケ月程前に少佐になったばかりだと言うのに、今度は大佐になるという……まあいいんだが。

 どうせ何時かはなるつもりだった。

 作戦が失敗することは考えず、俺は成功して昇進するチャンスだと考えることにした。



「大佐……ですか?」

「仮にだよ、仮に」

「いえいえ、仮にといってもありえません。軍役についてから艦長は何年でしたっけ?」

「4年、かな?」

「ありえません。異例中の異例、いえ奇跡中の奇跡の昇進速度です!」

『奇跡中の奇跡って…始めて聞く言葉だな』

 俺は自分の艦「牙」で艦長席にだらしなく座りながら、横に立つテスタニアと話をしていた。

 アーネットは司令部に代理艦長の書類を直接提出に行っている。代理艦長の電子文章の提出は宙域での緊急時のみで、ステーションにいる時は身分証明と共に直接許可を得なければならないからだ。

 ブリッジの他のクルー達も仕事をしながら耳をダンボの様にして聞いている。

「まあそういう訳で俺は暫くこの艦を離れる。旗艦(戦艦)の「朝盛あさもり」で司令官兼艦長をするからね。この艦はアーネット艦長代理に任して君は補佐を頼むよ」

「かしこまりました。アンブロシウス少佐、いえアンブロシウス大佐」

「呼び名は艦長でいいよ。もうころころ役職変わって落ち着かないからね」



 今回の作戦は今までのような小規模の小競り合い等ではなく、旗艦である今度俺の乗る「朝盛あさもり」を含めた戦艦3隻を投入した、総勢2000以上の艦隻で編成された大規模な進軍になる。

【惑星モスプログ】

 資源も豊富で天王軍アスマンの最重要拠点の一つに当る惑星である。

 その惑星を守護するよう軍を配備した二つの宇宙ステーションが設置されている。

 一つは「風神」、もう一つは「雷神」と呼ばれる軍の母艦を兼ねるダイダロスの様な巨大な宇宙軍事ステーションで、そこには常に3000以上の艦隻が配備されている。

 中でも風神の「風霧かぜきり」、雷神の「剛雷ごうらい」と呼ばれる重戦艦は要塞の様に巨大で、その二つが率いる艦隊が常に惑星を護るように周回しており、未だ一度も冥帝軍をその惑星に近づけたことは無かった。

 もし彼らの包囲網を抜けたとしても、鉄壁とまで呼ばれる惑星全体を包むほどのシールド防衛システムがあり、それを破るのは至難の技だった。

 それを俺が攻略する。

 萌えるではないか。間違った。燃えるではないか。

 心の底にある別の感情を抑えつつも、俺は目前に迫った戦いで勝利するために、そう自分を奮い立たせる。

「出発は3日後。それまでは英気を養っておけ」

 俺はそれだけを言うと艦から降り、ステーション内部の都市に設けられた自宅に向かった。

 今日の勤務はこれで終わり。

 俺も英気でも養うかな。


 宇宙ステーションダイダロス内部には、地上と変らぬ生活空間ブロックが設けられてある。

 空を見上げると全面に天候スクリーンが設置されてあり、青空が映し出されている。

 流石に雨は降らないが、朝、昼、夜の映像が24時間周期で映し出される。

 軍服では無く、私服でエーテルバイクに乗って自分の家につく。

 少佐になって与えられたそれは、庭付きの1戸建ての建物。

 元々貴族であった俺にとっては犬小屋ぐらいの大きさの建物だが、前世の俺にとっては豪邸だ。

 自宅に戻ると家のセキュリティーは解除されており、扉を開けて中に入ると先に書類を提出し、勤務を終えたアーネットが制服にエプロン姿でご飯の用意をして待ってくれていた。

 ネコミミにエプロン……これで裸だったらもう言うこと無かったんだが……。

「おかえりなさい。あなた」

「ただいまアーネット」

 帰ってきた俺の側に駆け寄るアーネット(姫)。

 嬉しそうに耳と尻尾がピコピコ動いている。

 俺達は軽くキスをする。

 彼女はそれだけを済ますとキッチンに向かう。

「あれ?セリフ足りないよ?」

「ん?何がだ?」

「ここは定番のセリフがあるでしょうが!」

「?」

 本当に分からないようだ。

「いいか、前にも言ったがここでは「ご飯になさいますか?それとも先にお風呂になさいますか?それともわ・た・し?」だろう!」

「ご主人様っ、っとじゃなかったアンブロシウス。それは昔さんざんやったからもう飽きたんじゃなかったのか?」

 確かに昔13人も同時に嫁が出来た時に皆でそれをやってもらったことがある。

 しかし後悔した……。

 最後の選択肢を選んだらまる24時間掛けて13人全員とするはめになり、俺はあわや昇天するところだったからだ。

 それ以来俺はこれを3人以上ですることを禁止とした。

「飽きたりなんかしないよ!これは永遠の男のロマンなんだから!」

「仕方の無い奴だな、ではあらためて」

 そう言ってアーネットは俺の前に戻ってくる。

「ご飯になさいますか?それとも先にお風呂になさいますか?それとも……」

「それとも?」

 何故セリフを途中でやめる?

「やはりご飯にしよう。冷めるからな」

 俺はその場でずっこけた。

 確かに冷めますけどね……。


 その日の晩。

 といっても天候モニターが晩の映像を映し出しているだけだが。

 俺はアーネットとベッドの中。

 当然シーツ1枚でお互い服など着てはいない。

「なあ」

「ん?」

 俺が声を掛けると寝ていなかったのか、アーネットが目を開けて見つめてくる。

「アリスはまだ眠ったままか?」

 ネコミミを指でいじって遊びながら俺は彼女に問いかける。

「そうだな。確かではなが完全に記憶が戻るには、やはりもう一人の私が必要なのかもしれないな」

 20年も前に俺の子供を生んだ姫だったが、彼女はそれからおかしな事に歳をとらなくなっていた。

 もしかしたら悪魔に身体を乗っ取られていた影響か、それとも膨大な霊力の賜物か、いずれにしても悪い事ではない。

 むしろ永遠に生きなければならない俺にとってはとても喜ばしいことだ。

 そして10年の歳月が立ち、危険なこちらの星々の戦争に関わることを選んだあの日、俺は着いて来ると言った姫の進言を断った。

 もう、姫には戦争等に関わって欲しくなかったからだ。

 だがアリスは着いてくると言う。

 アリスは俺と共に戦地にも行った事があり、今更戦場に着いて来るなとは流石に言えず、渋々了承した。

 本当は嫌だったのだが……。

 それが甘かった。

 姫とアリスは意思疎通を交わし、俺に内緒で一人になった。

 これも独断というのだろうか?

 アリスは姫の中に戻り、彼女達は一人の存在となった。

 その影響か姫の頭にはネコミミとお尻の上には可愛い尻尾が生える事になる。

 しかし、彼女達は想像していなかった。

 単純に一人になればアリスしか思い出せないような出来事も自分の中に入ってくるのだと思っていたようだ。少しばかりの記憶があるという前例があるが故に……。

 実際は姫がアリスの記憶を手に入れることは無く、魂が二つに分かれたあの日からの記憶は自分のものしか持ち合わせてはいなかった。

 俺の努力の半分は喪失した。俺は怒り、軽率なことをした彼女を責めるか考えあぐねた。

 しかし、彼女は俺に笑って言った。

「大丈夫、アリスは私の中にちゃんといる」と、「ただ、今は眠っているだけ。彼女を目覚めさせるには私の魂の欠片の全てが戻ったら何とかなるかもしれない」と。

 そう、彼女の魂はまだ全てが揃っていなかったのだ。

 アーネ。

 姫の第二の人格。

 彼女の記憶を持つ魂が、まだ何処かにいるのだと言う。

 その魂が戻って初めて全ての記憶が揃い、彼女は完全な存在に戻れる。

 流石に今度ばかりは俺にも心当たりが無い。

 広大な宇宙の何処かにいるであろう彼女の魂の一部を捜さねばならない。

 その為にも今回の他の星への旅立ちは必要なものになっていた。

 彼女は笑って言う。

「さあ、行きましょう」と。

 アリスの姿が姫と重なる。喋り口調のせいか?

「だから連れてはいけないってあれ程!」

「あら?アリスと約束しましたよ?着いて来ていいって」

「それは!?」

 彼女達はその為だけに一人になるという暴挙を犯した。

 ただ俺に着いて来たいが為。

 その為だけに姫は着いて来ていいと承諾したもう一人の自分、アリスと一つになったのだ。

 もう俺には何も言えなかった……。


(注1)

 電磁シールドは対荷電粒子砲用、魔術シールドは対反物質粒子砲用である。

(注2)

 魔導騎兵とは天王軍でいうところの天騎兵にあたるもの。戦艦等に搭載されてはいるが基本的に地上等での白兵戦用であり、宇宙で単体で戦闘する様にはできていない。駆逐艦のシールド一つとっても強大なエネルギー炉から発生するシールドを単体で突破し続ける武器のエネルギー及び機動用の推進エネルギー、さらに中に乗るものの生命維持装置のエネルギー等を小さな固体で維持し続けるコンパクトな炉の開発が未だ難しく、実用には至っていないというのがその理由だ。ただ地上制圧には絶大な威力を発揮する。逆に戦艦では破壊力がありすぎて制圧には向かないからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ