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闇に染まりしもの

 アンブロシウスが凶刃に倒れる少し前。

 連合国荒野にある渓谷地帯。

 そこに今一人の黒髪に竜神族のマスクをした男が現れた。

 男が崖の中にある昔の神を祭る洞窟の中の小さな泉を横切ろうとした時、男の前に二つの影が舞い降りる。

「止まれ。それ以上進むことは許さん」

 そう言い放つのはエルフの耳を生やした青い髪のアンブロシウス。

 そしてその横に立つもう一つの影。

 銀色の髪に狼の耳を生やした美しい女性。

 よく見るとその顔はリーンに似ている。

 彼女もアンブロシウスの影であった。

「青霊王に銀獣王か…」

 仮面を取り、男はそれを捨てる。

 男は黒い髪のアンブロシウス。黒龍王だった。

「お前は黒龍王か?どうした、このような場所に」

「ああ、エンシェントに呼ばれてな。通してもらう」

 そう言って黒龍王は二人の間を通り過ぎようとする。

「待て、その様な話エンシェント・ワンからは聞いてはいない」

 青霊王は黒龍王の肩を掴む。

 次の瞬間、洞窟の中にくぐもった声が響く。

「貴様!?」

 銀獣王は自身の銀色の爪を伸ばし、戦闘体制をとる。

 彼女が見たものは黒龍王が持つ巨大な魔剣、カタスタロフが青霊王の体を両断する姿。

「あんたの相手は私だ」

 銀獣王の体がその声と共に吹き飛ぶ。

 蹴られたのだと知った時にはもう、彼女の体は二つに分かれて岩の壁に叩きつけられていた。

 叩きつけられた岩に九つの尻尾のような亀裂が走る。

「私、犬って嫌いなんだよね」

 アズサと黒龍王は易々と水晶の部屋の結界を破り、奥に侵入して行く。

 結界を越えた奥、剥き出しの巨大な機械がある部屋に灯がともる。

 繋がれた機械のコードを引きずりながら、床にまで届く長い金色の髪をたずさえたアンブロシウスが二人を迎える。

「黒龍王か。お前はやはり龍の気に飲まれたのか?」

「めでたいな。まだ俺が黒龍王と信じているのかエンシェント・ワンよ。いや、始まりにして最古のアンブロシウスよ」

 最古のと呼ばれた金髪のアンブロシウスは問いかける。

「どういう事だ?お前は黒龍王、そしてその横にいるのは梓姉さんではないのか?」

「いや、概ね間違いではない。しかしお前も知っているだろう。過去に戻る時、場所も時間も揺らぎという波の影響を受ける。時間による矛盾、だ」

「タイムパラドックスか……」

「そう、俺達はお前の分身ではなく、違う世界のアンブロシウスの分身。そして俺の隣にいるのが俺の妻にして九尾の狐の妖怪アリサだ」

「黒龍王は同じ時間軸に戻って来れなかったのか」

「ああ、俺達が先にこの時間軸に戻ることにより、お前の分身はまた別の時間軸にでも行ったのだろう。そのおかげで俺は分身と言う枠から外れ、一つの新たなる存在となれた。

 お前達の知る黒龍王とやらは俺達の世界にいるのかもしれないな。それかまた別の世界か……」

 黒龍王そっくりの別の世界の男が笑う。

「なら、お前は何をしにここに来た?もう私達とは違う存在なのだろう?ならば自由にすればいい」

「簡単な話だ。お前達は邪魔なんだよ。アンブロシウスは俺一人で十分だ」

 そう言うと男は、亜空間より魔剣カタストロフを取り出し、アンブロシウスに斬りかかる。

 しかしその斬撃はアンブロシウスに当る直前、目に見えない障壁シールドに弾かれて彼を傷つけることは出来ない。

「折角の俺の晴れ舞台に水を指したのもお前か。黒龍王」

 丁度彼らが来る直前、闇の中で結婚式の最中に白髪のアンブロシウス殺され、自分が目覚めたことがこの男のせいであると感付き、質問する。

「ああ、あの出来損ないの白いのか。そうか、死んだのか。簡単だったよ。お前の分身に聞いた魔人達以外の悪魔を丁度あの聖都で見つけ、少しばかり魔王のふりをして吹き込んでやればあの女、俺の作にまんまと乗せられてくれてな」

 男の額から黒く捻じ曲がった角が反りながら後頭部まで伸びていき、その目が黒く光り龍のそれとなる。

 再び、巨大な黒い魔剣カタストロフを今度は両手で握り締め、それに凄まじい魔力を込めていく。

「それと、俺は黒龍王ではない。魔王・・アンブロシウスの元分身にして、今はこの世界最強の存在。

 魔竜王アンブロシウスだ!」

 魔竜王は魔力の篭った魔剣カタストロフを障壁シールドに叩きつける。

 目に見えぬ障壁に叩きつけられたカタストロフが赤い火花を散らし、洞窟を明るく染め、障壁は歪みを見せるがまだそれでも敗れない。

「アリサ!力を貸せ!」

「はい。あなた」

 九尾の狐アリサは回復した巨大な霊力を魔竜王に注ぎ込む。

 障壁シールドが悲鳴を上げ、徐々にだがアンブロシウスの喉元にカタストロフが迫る。

 コードに繋がれてはいるものの、躱そうと思えば躱せないこともないと言うのに、その場から一歩も後退をしないアンブロシウス。

 ガラスの割れるような音と共に障壁は砕け散り、その剣の切っ先がアンブロシウスを捉える。

 鮮血が飛び散り、アンブロシウスの体が強大な魔力を秘めた剣の一撃により、粉々の肉片に砕けたかのように見えた。

「これは!?」

 しかし、砕けた後に残ったのは血塗ちまみれの肉片などではなく、砂となって崩れ去る何か別のもの。

 何処からか声が響く。

「ご苦労様、魔竜王とやら。君達の今の力でこれを目覚めさせることが出来た」

 アンブロシウスに繋がっていたコードの先。

 壁のような機械が光り輝いたかと思うと、その光が爆発的に膨れ上がる。

「不味い!アリサ、飛ぶぞ!」

「はい!」

 二人はその場から転移して消える。


 二人は先程までいた渓谷の外れに転移し合流する。

 二人の目の前で渓谷が数kmにわたり崩れ去り、その中から巨大な白く輝く船のようなものが現れる。

 そしてそれは意思を持つかのように、何処か彼らの知らぬ地に転移して消えてしまう。

「あなた。あれは一体なんなのですか?」

「知らん。ここでの事は俺の世界でもまだ起きていない。あれが何かも俺は記憶を与えられていなかった……」

 魔竜王はカタストロフを地面に刺し、呟く。

「それにしても、あれはエンシェント・ワンでは無かった。

 俺の世界では間違いなくエンシェント・ワンはあそこにいた。

 どうやらこちらの世界のアンブロシウスの行動理念は俺の世界のアンブロシウスとは違うようだな」

 魔竜王の世界でのアンブロシウスの行動理念。

 それは「自分の身は汚さず。漁夫の利を得ろ」というものだった。

「やれやれ、出直しだ」

「あなた、どちらへ行かれるので?」

「魔王軍と合流する」

「魔王軍と?」

「ああ、まずは魔王軍と合流して奴を裏から奴を操り、魔王軍を立て直す。そしてこの世界の本当のアンブロシウスを見つけ出し、今度こそ俺が唯一のアンブロシウスになってやる」

 そう言って魔竜王は剣を亜空間に戻す。

 そしてその時になって初めて気が付く。

「やられた……」

「どうなされたので?」

 この世界に来た時、いやほんの数日前までそれは確かに在った。

「奴め、俺の使う剣以外の魔道具を全て何処かに隠しやがった」

「確かかなりの量の魔道具があったのでしょう?そんなものを何処に?」

「知らん。別の亜空間を創り収めたか、それとも何処かに隠したか、いずれにしても奴は俺の事を以前から怪しんでいたのかもしれないな。勘のいい奴だ」

「強敵……ですね」

 ちなみに魔竜王は知らなかったが、数々の武器や防具は今、魔王城の元アムネジアの部屋に無造作に山積みにされ放置されていた。

 姫を取り戻す為とアムネジアに条件としてプレゼントしたものだった。


 魔竜王は地球へのゲートを開く。

 二人はそうして天地の星よりその姿を消した。



――――――――――――――


 アリスは笑いながら黒雪を引き抜く。

 貫かれ、絶命したアンブロシウスの体より血が噴き出す。

 結婚式に集まった者達は皆一様に、血飛沫を浴びて白いウェディングドレスを真っ赤に染めて微笑むアリスのその姿を目に焼きつかせた。


阿鼻叫喚


 城の中庭は騒然となり、衛兵達が駆けつける。

 「い…や、イヤアアアアア」

 手に持った黒雪を投げ捨て、正気に戻ったアリスは悲鳴を上げながら血の海に沈むアンブロシウスの体にすがりつき、泣き叫ぶ。

 それまで一体何が起こったのか理解できず、佇んでいた花嫁達が、その悲鳴で一斉に目が覚め、手に持っていた武器を投げ捨て、アンブロシウスの元に駆けつける。

 ただ、アーネット姫だけはその場を動けないでいる。

 その手に持った夜桜を離しもしない。

 他の花嫁達が皆、アリスと一緒になってアンブロシウスにすがりつき、泣き叫んでいる。

 しかし、アーネットにはそれがまるで何処か別の世界での出来事の様で正気に戻れないでいる。

「嘘だ……。何をしているアンブロシウス」

 フラフラとした足取りで血だまりの中を歩き、アーネットは動かないでいるアンブロシウスに語りかける。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!ねえ、起きてよ。僕に巨人のフィギアもらってくれるって約束したじゃない。ねえ、起きてよ!お兄ちゃん」

「兄様!兄様、私を一人にしないでよ。ねえ、たった一人の兄妹きょうだいなんでしょう?死なないでよ!兄様!!」

 周りで泣き叫ぶもの達の声もどこか遠くに聞こえる。

 アリスはすがりつくも、駆けつけた兵士達に取り押さえられ、アンブロシウスから引き剥がされる。

 アリスが引き剥がされ、ポッカリと開いた隙間にアーネットは立ち、持っていた夜桜の刃をアンブロシウスに向ける。

「冗談はよせ、アンブロシウス。なあ?いつもの冗談だろう?前と同じで死ぬふりをしているんだろう?お前は斬られて血を流しても、次の瞬間に平気な顔をして笑うんだ。

 そうだよな?

 さあ、起きろ。でないと私が本当に斬って殺すぞ!」

 そう言って剣の刃を動かないアンブロシウスの喉元に突きつける。

「やめなさい!彼は本当に死んでいるのよ!」

 叫ぶセーレ。

 だがそんな声はアーネットには届かない。

「さあ!起きろ!アンブロシウス!!」


ドクン


「「「え!?」」」


 セーレ達が驚きの声をあげ、アンブロシウスを見つめる。

 姫君達も崩れ落ちたままの格好で顔を上げ、今正に起ころうとしている奇跡の瞬間を目にする。


 アンブロシウスの白い髪が、美しい透けるような金色に変わり、飛び散った血がまるで時間を逆戻しするかのように彼の傷口に戻っていく。

 血が抜けて真っ白になってしまっていた彼の肌も、それと共に赤みを増していく。

「これは!?」

 セーレは目の前で起きている現象に自分の頭の中にある魔法の知識を総動員して考える。

 しかし彼女が知る限り、転生をするならまだしも、完全に死んだ状態から自分の体を回復させる魔法など知らない。

 まして誰かが魔法を掛けている様な魔力も感じない。

 感じるのは目の前にいる死体となっていたはずのアンブロシウスの魔力だけ。

 彼は完全に死んだ状態から自分の体に魔法を掛け、復活しようとしている。

『そんな馬鹿なことがあるの!?死んだ状態でどうやって自分に魔法を掛けるというの!?』

 理解できない。これはもう魔法等ではない。

 こんな事ができるとすればそれは……。

 彼女が考えをまとめる前にアンブロシウスの傷は塞がり、彼は静かに目を開く。

「金色の瞳……」

 アンブロシウスの両目が金色に光る。

 潰れたはずの黒く濁った右目も金色に戻っていた。

「あ~、俺、今もしかして死んだ?」

 周りにいる花嫁達はアンブロシウスが死んだ事に悲しんでいたというのに、当の本人が生きて起き上がり、突然に自分が死んだ事を確かめるという的外れな質問に憤慨する。

「もう一度死んで来い!」「心配して損した」「どうせそんな事だろうと思った」「兄様ってゾンビ?」「・・・」等々。

 口々に言うので俺はもう誰が誰のセリフか分からない。

 分かったのはアリスが兵士達に取り押さえられているという事実と、姫が俺に剣を突きつけているというこの状況。

「おい何をしている。アリスは俺の嫁だぞ!離せ!」

 口で命令しただけ、ただそれだけで兵士達はまるで何かに操られるようにアリスを離し、何も言わずに直立不動をして身動き一つしない。

「ご主人様……」

「ふん。やっぱり死んだふりか。冗談にしては性質たちが悪い」

 そう言ってアーネット姫は安堵の吐息をもらすと、夜桜を鞘に収め、亜空間にしまう。

「あれ?姫、その魔法は?」

「ん?ああ、悪魔に身体を使われていたからかな。記憶があって使ってみるとこれが中々便利でな」

 それだけで使えるものではないと思うが…、もしかしたら巨大な霊力の力かもしれないな。

「まあ、取り敢えずこの状態では力が強すぎるんで《封印》っと」

 アンブロシウスは起き上がりながら言葉だけで自分の身体を死ぬ前の状態に戻す。

 再び白い髪に片目が黒い、いつものアンブロシウスの姿になる。


「お~い。俺の嫁達」

「誰が?」「誰のお嫁さん?」「死んだふり等する人は知りません」等々。

 先程までの俺に対する愛情が嘘の様に、きつ~いお言葉が返ってくる。

「え~と、コホン誤解があるようだから言っておくが俺は今確かに死んだぞ?だけど生き返った。で、それを踏まえてもう一度聞くぞ?あ~、ちなみに姫とアリスは聴かないでいいからね」

「何故だ?」

「そうですよご主人様!」

「姫とアリスは別です。答えは聞きませんから」

「アーネット姫とアリスだけ特別ってずるくありませんこと?」

 エターニャが口を挟む。

「いいんだよ。彼女らは俺が生まれてからの付き合いだ。今更俺が何者だったとしても答えなんか聞くまでも無い。着いてくるに決まってるからな」

 アリスと姫はその言葉でうつむいて赤くなる。

 生まれてからの付き合いといわれてはエターニャや他の花嫁達も流石に二の句は告げれない。

「俺は見た通り“不死身“だ。それも唯の不死身ではない。およそ人の言うところの寿命と言うものが無い。お前らそれでも本当に俺の嫁になりたいのか?」

「寿命が無い?それはどういうことですか?先生」

 アソロか。

「俺はとある魔法の影響でな。肉体と魂が別々なっているんだ。そしてそのおかげで俺の体は常に今と同じ正常な状態を保とうとする。例え死んでも魂まで殺されない限り何度でも生き返る。肉片になっても…な。

それに常に同じ状態。つまり細胞の分裂回数も常に一定で元に戻る。不老不死って訳だ」

「すごい……すごい魔法ですね!」

「本当ですね。アンブロシウス。その魔法はどうやって……」

「違う。逆なんだよ……俺は死にたくても死ねないんだ。だから俺はお前らと結婚しても一緒に歳をとってやることも一緒に死んでやることも出来ない……ティア」

「はい」

「お前はエルフだが、王族でもないお前は生きても寿命は2000年ぐらいだろう?」

「そうですね」

「魔人たちを除いてこの中で、一番長い寿命を持つエルフですらその程度。俺は彼女が死んでもまだ生きているだろう……それでもいいのか?お前らは耐えられるか?俺が若いままで歳も取らずに、お前達だけは老いていく。女性として耐えられるか?俺の側にいることに耐えられるか?」

 エターニャとセレスティナ「「いいですわよ」」

 レイアとティア「「かまいません」」

 アソロ「これだけ長寿の花嫁達がいたら、おそらく私が生きている間は先生浮気なんてしないでしょうしね」

 ミーア「子供がおりますので……」

 アムリタ「別にいいんじゃない?」

 セーレ「あなたの側にいたら常に新しい魔法を観れそうなので……」

 ブネとアミー「僕らはいいよね?ブネ」「そうね」

 そしてシズク……

「シズク!」

「はい!?」

 何かを言おうとする前に俺から声を掛ける。

「作戦は成功か?」

「……知ってられたので?」

「ああ」『本当はさっき魔竜王に聞いて知ったのだが……』

「成功といえますが、失敗ともいえますね」

「そうか。ならお前は常に俺の側にいろ。ただし、やる時はお前の手で、な」

「……分かりました。私もあなたのお側に」

 他の皆は訳が分からないと言う顔をしている。

 俺は気にせず喋り出す。

「さて、なんだ本当に全員か?」


「兄様、私はね~、」

 リーンが何か言おうとする。

「お前は聞いてない」

「ひっど~~い!」

「お前は後でかわりに説教をくれてやる。父さんと母さんの前でな。当分小遣いなど無いと思え」

「いや~っ!?それは許してください!おにいさま~!」

 俺は無視して花嫁達全員を見る。

「仕方が無い。全員幸せにしてやるよ!!」


 そうしてアンブロシウスは花嫁を同時に13人も貰うという、これ以降破られることのない歴史的偉業を為したのだった……。

 アンブロシウスに言わせれば『こんな偉業いらないよ~』らしいですがね。


 喜び沸き立つ花嫁達の側、ユーロン王国国王ベルクがアーネット姫の側に来る。

「アーネット。本当にあんなのでいいのか?」

 ベルクは数多くの女性に囲まれるアンブロシウスを指刺して言う。

「ええ、お父様。ご主人様は、あっ、いえアンブロシウスはあれでいいのです」

「アーネット。お前今なんかあの男をとんでもない呼び方で呼ばなかったか?いや、呼んだよね!?どうなの!?そんなアブノーマルな関係パパは許しませんよ!」

「今から結婚しようというのに何を言われるのですか。

 それに私はまだお父様に勘当を解かれていません。どこの誰とどんな事をしようと咎められるいわれはありませんからね!」

「ダメじゃ!やっぱり嫁にはやらん!アータンはわしのものじゃ~帰って来てくれ~勘当なんて嘘じゃから~結婚なぞやっぱり許さ~~~ん!!」

 ベルク王は姫の足に縋りつき泣き出す。

ゴン!

 物凄い音を立てて頭にこぶを造り倒れ伏すベルク王。

「お母様!?」

「あらあら隕石でも頭に当たったのかしらね」

 そう言いながら手に持った大きな石を横に投げ捨てる王妃。

 姫にある意味・・とても似ている物腰の柔らかい女性。

ユーロン王国王妃マリールーがベルク王の後ろに立ち、その首根っこを掴んで引っ張っていく。

「幸せになりなさいアーネット」

 そう、一言だけ言うとアーネットの側から去っていった。

「お母様……。はい、アーネットは幸せになります」

 アリスがそっと後ろからアーネットに近づく。

 アリスの血に染まったはずのウェディングドレスも、先程のアンブロシウスの復活の折に全ての血が彼の中に戻り、今は洗ったばかりの様に真っ白だ。

「お母様はなんて?」

「幸せになれって」

「そう」

「アリス、私達幸せになりましょうね」

「ええ。それよりも……口調がアリスになっていますよ?」

「おっと、なろうぞ!アリス!」

「そうそう、それでいきましょう。読者がややこしくなっていけませんからね」

 アリスはこちらを振り向く。

「それでは、青年編はこれにておしまいですね」

「そうだな。次は成年編か?多分作者はまだ何も考えていないぞ?」

「でしょうね。いい加減ですから」

「ちがいない」

 アリスと姫はそう言ってお互いを見つめ、笑い合うのであった。


ファミリアーマスター青年編 ―完-

 と言いたいのですが、短いですが後1話あります。

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