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血に染まった結婚式

結婚式当日

 成人の儀はアンブロシウスが一人で朝から教会で済ませ、慌しくお城に向かう。

 馬車を用意するというが自分で飛ぶ方が早いので断り、急いで転移する。

 広い中庭にでも転移すればよかったが、人が多く集まっているので避け、考えた挙句姫の部屋に転移する。

 何処に転移しても今日は人が多く、目立つ為だ。

 でも失敗だった。

 転移すると姫が上半身裸で、下着一枚に、白のガーターソックスだけというあられもない姿で目が合ってしまう。

「きっ」

「き?」

「きゃああああああ」

「あれ~?」

 つい昔であれば「無礼者!」といって刀を抜く姿を想像してしまい、まさか前を隠しながらしゃがみ込み悲鳴を上げる等とは夢にも思わなかったからだ。

「ごっ、ごめん」

 俺は慌てて後ろを向く。

「女の部屋に突然入ってなど来るな!ノックくらいしろ!」

 俺は転移で入る時にどうやってノックすればいいか悩みながら取り合えず返事をする。

「分かったよ、今度から気をつける。

 あ~それより、王様達はどちらに?挨拶は一昨日済ましたけど一応来たことを伝えたいんだけど……」

「知らん!外にいるメイド達にでも聞け!」

「あ、はい」

 俺はそそくさと部屋から退散する。

 それにしても綺麗だった……。姫の裸を見るのって本当に何年ぶりだろう。

 アムネジアがお風呂に入るときは体の拭き係もしていたから目にしてはいたが……なんか全然違う……。

 仕事と割り切って見るのと今日結婚する愛しい人の裸と捉えるのとでは見るにしても意識が違うからだろうか。

 あ、ヤバイ鼻血出そうだ……。

 まだ出てはいないが上を向いて首筋を叩いてしまう。

 今日式を執り行なう場所は城の中庭。

 別に狭いということは全然ないが、本来その様な場所で行わず、大陸一の王国の姫なのだから教国の大聖堂で行ってもおかしくはないのだが、姫のたっての願いでそこで執り行なうことになった。

 その場所とは俺と姫が初めて出会った場所。

 戦争の後遺症で自我を失い、言葉すらも喋れなくなっていた姫に出会い、俺が興味本位の魔法で彼女の意識を呼び覚ましたところ。

 そこで今日、俺達は結婚する。


 王に挨拶を済ませ、俺は姫を出迎える立場なので先に中庭に入る。

 そこには各国の超が付くほど御偉い方々が立食パーティの様な会場に集まっていた。

 エルフ族の王や人魚族の王、竜神族の王の姿が目に入り、ずっと向こうには翼人族の王やドワーフ族の王らしきものの姿も見える。

 各王様達に会釈と軽い挨拶を済まし、喉を潤す為にワインの入ったグラスを手に取ったときのことだ。

「アンブロシウス様」

 俺の背後から久しぶりに聴く声を耳にして振り返る。

「シン・シスか」

 そこにいたのは豪華な民族衣装のようなものに身を包んだシン・シスだった。

「はい。お久しぶりです。此度はご結婚おめでとうございます」

 俺は折角取ったグラスに口を付けずに置く。

「ありがとう。今日は俺の結婚式の為に来てくれたのか。

 レイア王女の付き添いでか?そういえば彼女の姿が見えないな」

「いえ、妹はもう王女を辞めました」

「何!?どういう事だ!何かあったのか?」

「いえ、実は結婚することになりまして、私が妹の後を継ぎ、連合の役職を辞職して今は獣人族の王となりました」

「そうか!それはめでたい。祝福したいがもう結婚式は済ましたのか?」

「いえ、それが……」

 言葉を濁すシン・シス。

「アンブロシウス!早くこちらに来なさい。姫君達をお出迎えする時間だぞ」

 父が俺を呼んでいる。

「すまない、シン、いやシン王。また詳しい話は式の後で聞くから」

 俺はそれだけ言うと彼の側から離れ、父のところに向かう。


 俺はお城の中庭に面した大扉の前から少し離れた位置に立ち、花嫁がそこから出てくるのを待つ。

 俺の周りに参列する王侯貴族の方々と、花を投げる綺麗な衣装の娘達が集う。

 ゆっくりと扉が開き、城の上の階にいる衛兵がラッパを鳴らす。

 さあ、姫とアリスを出迎えよう。

 美しい花の飾りのベールを付けた純白の花嫁が現れる。

「ああ、綺麗だ」

 姫、そしてアリス、そして…………。

 俺は後ずさる。

「なっ!?」

 獣人の元王女レイア、エルフのティア、竜神のエターニャ、宮廷魔道士アソロ、人魚のセレスティナ、翼人のミーア、それに悪魔ハーフのシズクにアムリタ、魔人のセーレ、ブネ、アニー、そして何故かリーンまでいる。

「なななななな、何やってるんですか!?皆ウェディングドレスなんか着て!?」

 アリスが一歩前に出る。

「どうしたのですか、ご主人様。「全員俺の嫁にする!」とおっしゃられたではないですか」

「え?俺そんな事言ったっけ?」

「はい。詳しくは「69話 結婚」をご参照ください」

「……あ、本当だ……」

「いや、あの時はその場のノリで言ったんだ!それになんでセーレ達まで!?」

「ああ、それは私が大会での報酬を使わせていただきました」

「報酬?俺は大会の報酬を姫の体を取り戻すことの承諾条件に使ったぞ?」

「それはご主人様の報酬でしょう?私も参加いたしましたが「勝った方が負けた方に従う」でしたよね?私も勝った方ですので私の条件で彼女達にはご主人様のものになるという条件を呑んでいただきました」

「アリス……お前最近俺に似てきたよな?」

「そうですか?」

「揚げ足取るのが上手くなってきた」

「失礼ですね」

「え!?でも本当に俺、ここにいる全員と結婚するの!?」

「はい」

 俺は後ろの参列者を振り向き、両手で大きく腕を交差して「×」の字を作って叫ぶ。

「ちょっと結婚式中断!」

 全員がその場でずっこけました。


 女性陣全員を中庭の端に集め、俺は一人一人に問い始める。

「アリスと姫はまあ当然として、取り合えず順番に聞いていくが、レイア?」

「はい」

 長く白い髪に狼の耳を生やしているレイア・ルー・モアスを見つめる。

「さっきお前が結婚すると聞いたんだが、俺とだったのか?俺と結婚するの?」

「はい。と言いますか、私は以前部族では白狼姫と呼ばれていました。」

「それで?」

「今はなんて呼ばれているか知っておりますか?」

 彼女は笑いながら俺に問う。

「さあ?」

 俺は胸倉を掴まれる。

「荒縄姫です。責任取れよ!」

 物凄い形相で睨まれる。

「分っかりました!」

 俺は思わず承諾してしまう。そういや、亀甲縛りして放置したんだった、忘れてた……。


 次は銀色の髪のエルフ。

「ティアさん何してるんですか?」

「え?何って結婚……」

「なんで突然俺と?」

「突然ではありません!私の裸を見たじゃありませんか!」

 そういや子供の頃に一緒に御風呂入ったことあるけど……。

「それだけ?」

「それだけって……エルフは(結婚するまで)純潔を守る種族ですよ!裸を見られたんだからその方と結婚するのは当たり前です!」

「え?そうなの?」

「そうです!」

「なら、仕方ないな……」

『え?本当に仕方ないのか俺……』


 え~と次は、無視してと。

「ちょっと先生!なんで素通りするんですか!」

 アソロが俺を引き止める。

「いや、だってお前のキャラの立ち位置ってそういうもんだから」

「酷いです!?講義します!あ、間違えました抗議します!」

「はい無視決定!」

「ヒドイ、いいです。先生はいずれ私の世界にひきづり込みますから……」

 アソロはそう言って泣き始める。

「勘弁してよ……本当に俺と結婚するの?」

「はい!もれなくアソロコンツェルンの株の約4割がおまけで付いてきますよ?お得です!」

 まったく涙の痕も無く、顔を上げて喜ぶアソロ。

「やめて、そのセット販売みたいな承諾。お前根っからの商人になってきたな。分かったもう何も言わん勝手にしろ!」

「はい!勝手に結婚します!」


 次はとディープブルーの長髪の人魚姫。

「セレスティナ……遊びだったんじゃなかったの?」

「ん~そうだったんですけど、エターニャと競り合っている内に気持ちが高ぶっちゃって。それに“初めての人”ですからね」

「海王様は良いって?」

「はい。黙らせました」

「黙らせたんだ……うん。分かった結婚しよう」

「はい」

 なんか面倒になってきたぞ……。

 結婚と言う言葉を口にするのが軽くなってきた気がする……。


「え~と、エターニャ」

「はい」

 俺はエメラルド色に輝く長い髪を持つ角を生やした竜神族のエターニャに問う。

「俺と結婚したいの?」

「いえ、もう当然のことかと」

「当然なんだ」

「はい、だって……言えません。でも結婚しなければならないんです!」

 真剣な目で見つめられる。

 何故か分からないが必死なのは分かる。

「わっ、分かった結婚しよう」

「はい」

 彼女は胸を撫で下ろす。

 何があったんだろう?


 そしてブラウンの短い肩までの髪の翼人族ミーア姫。

「逃げたこと怒ってないの?」

「当然、怒ってます」

「それなのに俺、なの?」

「はい、あの…それに、出来ちゃいましたから……」

 俺は青ざめる……。

「え?何が!?」

「何がって……その…赤ちゃん……」

 そう言って彼女が手を振ると一人の赤子を抱いた翼人族の乳母が近づいて来る。

「え?誰の子?」

「誰のって、あなたの」

「俺の!?」

 いや、そう言えば新聞で確か……お世継ぎ誕生、姫の相手は誰なのかって……俺!?

「私を一週間も閉じ込めて朝から晩まであんなことされたら……子供もできますわ」

「お~い!話をねじ曲げないように!あそこは王宮、君ん!閉じ込められたのは俺のほっ「ぐだぐだ五月蝿い!やるだけやりまくって逃げたんだろ?」」

 ウェディングドレスのスカートの中からナイフを一瞬で取り出して顎に押し当てられる。

「はい!そのとおりです!」

 ウエ~ン

 横にいた赤子が泣き始める。

「あらあら、ごめんなさいね~。パパがバカなことばかり言うから悪いのよ~」

 ……強くなりましたねミーア姫。攫われて泣いていた人と同一人物とは思えません……。

 もうなんか俺自分がダメ人間な気がしてきたわ……泣きたいのは俺の方だ……。


 半分呆然自室状態になってきた俺は適当にセーレ達にまとめて話しを聞く。

「あ~セーレ、お前達は何で……いや、聞くまでも無いな。

 どうせ「初めてのことだから経験するのも悪くは無いわ」とか「お菓子やゲームくれるから」とか「ブネ、ウェディングドレスが可愛いから着てみたかったの」とか「妹を助けてくれたから仕方なく」だとか言うんだろう?」

 4人は一様に頷く。

「ハア~、やっぱりそんな所か」

「で?そういやアニーは?お前結婚よりプラモの方が良いってタイプだろうに。こんなのに興味あるのか?」

「ん~僕は別に結婚には興味ないんだけど、しいて言えば……」

「しいて言えば?」

「皆がするから?」

「それだけかい!ああ、もういい。」


 最後になったな。

「ところでリーン。何してる?」

「え?何って?」

 俺は片手でリーンの頭を握り、万力の様に締めつける。

「何ってじゃない!お前は妹だろうが!何で兄と結婚しようとしてるんだよ!それにお前はまだ5歳だろうが!」

「ウイタタタタ!イタイイタイ!」

 俺は手を離す。

「だって、ほら私ってお兄ちゃんLOVEだから!」

 俺は再開する。

「ウイタタタタ!イタイイタイ!」

「魔人達は兎も角、お前は人間だ!結婚は15歳からだ!」

 手を離す。

「私もう5歳よ!後10年も待てって言うの!?そんなに待ってたらおばあちゃんになっちゃうじゃない!」

「あ、リーンそれは不味い」

「ほう、この小娘が。アンブロシウスの妹だか何だか知らないが15でおばあちゃんだと?」

 姫を筆頭にほぼ全員の女性陣に囲まれるリーン。

「女は年齢でないことを教えてやろう」

 そう言って連れて行かれてしまう。

 俺の側に残るはブネとアニーのみ。

 俺はソ~と後ろ歩きを始める。

「どうだ?アンブロシウス。話は纏まったか?そろそろ来ていただいている方々も待ちわびているぞ?」

「父さん」

「それにしてもアンブロシウス……なんてうらやましい。どうじゃ一人ぐらい分けてくれんか?」

「あ・な・た」

 父の背後にいつの間にか立っている母上。

 笑っておられるが……。

「ちょっといいかしら?」

 父は母に連れて行かれてしまう。

 息子の晴れ舞台の日に死なないことを祈ろう。うん。

「と、言うわけでアニーにブネ」

「はい?」「ん?」

「俺は逃げるから後よろしく」

 俺はそう言って脱兎の如くその場から走り始める。

「あ!アンブロシウスが逃げたぞ!」

 周りの状況を何故か把握していたシズクが、俺が逃げるのに気がついて声を上げる。

「待ちなさい!」「待て~!」指揮をとる様に叫ぶセーレの声と喜ぶアムの声が耳に入る。

 女性陣が手に手に武器を持ち、俺を追いかけ始める。

「い~や~だ~!13人(妹以外)もの女性と結婚するなんて、俺は死んでしまう~!!」

「待たないか!アンブロシウス!」「往生際が悪いぞ!」

 ものすごい速さで俺に追いついてくるのはやはり姫とシズク。

 来客にまぎれて逃げ惑う俺。

『捕まったら最後、本当に13人(妹以外)の女性達と結婚させられてしまう!』

 俺はカラカラに干からびたミイラの様になった自分の姿を思い浮かべ、必死で逃げる。

「逃がさないわよ!ご主人様!」

 アリスが俺の背後に突然現れる。


トン


 それは小さな音だった。

 気がつけば俺の胸の真ん中から黒い刃が飛び出している。

 心臓を一突き。

 俺は後ろを振り向く。

 アリスの手に黒雪が握られ、何故かその顔には笑顔。

 そうして俺は意識を失う。即死だった。

 アンブロシウス享年15歳。誕生日にして成人式。

 そして人生最良の日となるべき結婚式の最中の出来事であった。


―――――――――――――――


 ここは連合国荒野にある渓谷地帯。

 その崖の中にある昔の神を祭る洞窟の奥。

 洞窟の中の小さな泉がある場所は昔、アンブロシウスが傷を癒し、己を鍛えなおしていた修練場。

 そしてそのさらに奥の奥に人が入れぬ水晶に囲まれた部屋があった。

《結界》

 その結界を越えた奥、剥き出しの巨大な機械に繋がれ、闇の中身動き一つ取れないでいる男がいた。

 その男の髪の色は金色。

 長い床まで届くその金色の髪がゆれ、男が顔を上げる。

 闇の中、その男の双眸が金色に光る。

「封印が解ける……」


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