姫復活
俺の分身魔法。ドッペルゲンガーや絶対王の空間にいる生物を構成する方法はDNAコードつまり人ゲノムや悪魔ゲノムといったものを読み取ることから始まる。
それを解析、空気中の成分からそれらを構築し、そこに魂を入れる。
その時に記憶等も移すか移さないかも俺次第と言うわけだ。
ただここで言う魂だが、同じ魂を作ることはできない。
この世界にまったく同じもの等存在しないからだ。
1+1=2と言うが、そもそも1とは何だ?
リンゴが2つあり、その一つを1とするなら確かに1は1だが、そのリンゴは全く同じものなのか?
いや、違う。
全く同じものなどこの世界には無い。
だから俺は全く同じ魂等作ったことが無い。
それに魂とは何だ?
記憶であるなら簡単だ。でも記憶ではない。
姫にアリスの魂を入れてアリスとしての記憶を失っても、姫にアリスの記憶を与えたらそれはアリスなのか?
それともアリスの記憶を持つだけの姫なのか……。
では、一体魂とはなんだ。
星の記憶で再生された人々は確かに過去の記憶を持つ。
そしてその人のように振舞ってはいた。
しかしそれは本当に同じ人と言えるのか?
周りがそうだと思えばそれでいいのか?
何度も再生され、記憶を与えられては消える。
記憶を受け継いでいればそれは本当に同じ人と言えるのか?
記憶しかないのに、作られた肉体に記憶がやどれば、それは魂が宿るというのか?
俺が思うに魂とはエネルギー(E=MC2)。
その個に与えるエネルギーの塊。
三次元の物体ではなく、四次元の視点から考えなければならない。
点であり、線であり、そして立体。その先はエネルギー。
その理論で構成された絶対王の空間の生物であり俺の分身ドッペルゲンガー。
俺は生命を作り出した。
しかし、今まで創ったのは星の記憶と同じく肉に記憶やエネルギーを与えただけの新しい生命。
既にある魂を姫に入れるのではなく、作り出した魂をいれてしまったら今度は逆に姫が姫ではなくなってしまう。
今ある姫の消えかかった魂のエネルギーを大きくして二つに分割。
そしてその半分を姫に与えればどうだろう。
アリスつまり姫の魂の源は霊力。
だから俺は梓姉をこの世界に呼んだ。
消えかかるアリスに霊力を分けてもらう為に……。
「というわけでオペを開始します」
俺は絶対王の空間を開き、何故か手術着でマスクをしている。
「メス」
「あの~ご主人様?今そのボケに突っ込む人はいませんよ?私はこの通り手術台(寝台)の上ですし……」
仕方なく俺は着替える。半分は自分の緊張をほぐしたくてしただけだ。
俺は今ものすごく緊張していた。
余計な雑念を与えられては困るので、俺の空間にいるのはセーレ、シズク、梓姉、俺にアリスとアムネジアの6人だ。
セーレにはゲノム解析の手伝い&アムネジアからの魂の取り出しを、シズクは妹のアムネジアにおかしな事をしないか俺の監視。
梓姉はアリスの側にいて、霊力を供給してからこの場を退場してもらうつもりだ。
肝心なのは今、台の上にいるアリスとアムネジア。
アムネジアには悪いが眠ってもらっている。
ここに来る前にキチンと了承は得てある。
セーレとシズクには大会での条件を成就させ、無理やりだが認めさせた。
「アムネジアは俺が貰い受ける。悪いようにはしない。欲しいのは身体だけだ……。
えと、あれ?この言い方は勘違いされそうだな。
え~つまりアムネジアの魂が入っている身体を貰い受ける。もともとあれは俺のものだ。
いや、この言い方もおかしいな……兎に角今から彼女を借りるぞ?悪いようにはしない」
呼び出したセーレとシズク、アムネジアの前で俺はそういう。
唖然とする3人。
「それを認めるとでも?」
一番先に動いたのはシズク。長い剣をスラリと抜く。
「落ち着けって、悪いようにはしないって言ったろう!アムネジアには新しい身体を創ってそっちに入ってもらうだけだからさ!望みならあんたの生前の記憶のハーフに戻したっていい!」
俺はソファーの後ろに隠れながら叫ぶ。
おっかないんだよ!このアムのねーちゃん。
「それを信じろと?」
チン
俺の隠れたイスを真っ二つにしてから剣を収めるシズク。
「う~ん、確かに信じてとしか言いようはないな。実際にする事を見ててもらってもいい」
俺は崩れ落ちた椅子の後ろから出て立ち、肩をすくめる。
「だとさ。アムはどうするんだ?」
「あたし!?あたしは嫌だよ?この身体気にいってるし別に新しい身体なんて移る意味ないし」
「そう言うと思って、移ってもらう代わりと言っては何だがこれでどうだろう」
俺はそう言って側にあったカーテンを開く。
「ホオオオオオオオォォォォ、分かった移る」
あっさりと了承するアムネジア。
カートンの後ろにあったもの。
マンガにゲームにおかしに魔法の剣や防具が山のように置いてあった。
「それとセーレ。俺と新しい魔法の施術を試みたくないか?」
魔人達のトップのセーレの了承も得なければならないので、俺はこの魔法をセーレに手伝わせることにする。
「新しい魔法……」
一瞬セーレの食指が動くのを見逃さない。
「コホン、ええ、いいでしょう」
「セーレ様!それにアムも!」
シズクだけがこのノリについてこれていない。
「黙りなさいシズク。これは魔王軍の為でもあるのです」
「魔王軍の?」
「そうです。今のアンブロシウスの話から察すると新しい身体、しいては新しい命を創り出す魔法は我々悪魔の体にされてしまったもの達が元の身体に戻る為の光、いえ闇の道標となることでしょう。その為にも私はこの話を受けようと思います」
「なんと!?この一瞬でそこまでお考えでしたか!流石セーレ様。このシズク感服いたしました。どうぞ我らが悪魔の彼岸の為にもアムネジアをお使いください」
「よろしい。と言うことで、これでいいですか?アンブロシウス」
「はい。ありがとうございますセーレ様」
なんか魔法の知識と言う自分の欲望のためにそこまで話を大きくしなくても、と思ったが彼女の話にも一理あると考え直すアンブロシウスであった。
そういうわけで絶対王の空間でアムネジアが暴れないように魔法で眠らさせてもらっている。
一番雑念が多いしね、こいつ。
まずはアムネジアの肉体から。
三つ目の寝台。
俺はそこに予めセーレと読んであったシズクのゲノムと記憶からアムネジアの新しい肉体を創り出す。
セーレにはその間に、教えてあった魔法で姫の身体からアムネジアの魂を取り出す。
セーレの手の中に、姫の身体から赤い雷の様なエネルギー体が現れ収まる。
「それをこっちへ」
俺は創り出したアムネジアの新しい身体アムリタ・ベイモルドにその魂を移す。
「こっちはこれでいい。魂が安定したら起きるだろ」
使ってくれとはいったが、やはり大事な妹が心配なのか、アムリタの側に近寄って見守っているシズク。
もう、これでアムネジア(記憶喪失)なんて名前は呼ぶことが無いだろう。
「さて本番だ。梓姉」
「はいはい」
取り合えず姫の身体の時間は止めておく。
梓姉はアリスの横に立ち、本来の姿を顕わにする。
「妖狐か。聞いてはいたが……」
梓姉の頭に狐の耳が生え、何時もなら履かないが今日の為に履いていたスカートから狐の尻尾が九本伸びて出てくる。
「いくよ」
「はい」
アリスに了承を得ると梓姉は手の平の中に物凄いエネルギーの塊を作り出し、アリスにそれを当てる。
「クウウウウウ」
しかめっ面をして梓姉は手を離し、肩で息をする。
「どうした?失敗……じゃないよな?」
「あっ?ああ、成功だよしかし……」
「しかしって、怖いこと言わないでよ?」
「ああ、違う番う成功なんだが、物凄い霊力を吸われた。こりゃわたしの方が当分使い物にならなくなったわ」
「そんなにか?」
「ああ、どれくらいかって言うと、例えるなら小さな惑星3個分くらいかな?」
「はあっ!?そんなにいらないぞ!?どれだけ霊力注入してるんだよ!」
「仕方ないだろうが!容量が半端ないんだから!元々それくらい入ったって事さ!それに2つに分けるんだろう?」
「いやまあ、そうだけどさ……」
そういえばアリスって月って言う分身創ったんだよな……そんなものなのかな?
記憶にある俺が創り出した生命のエネルギーってそれ程要らなかったんだがな、先程のアムネジアの、いやアムリタの魂だって強力ではあったがそんなに大きくはなかったハズ……。
「まあ成功したならいいよ。ありがとう」
俺はアリスを見つめる。
「じゃあアリス、いくよ?」
「はい」
俺はそれ以上何も言わない。二つに魂を分けるという作業は彼女の命をとるわけではないから、それ程危険な作業ではない。
姫の身体からアムネジアを取り出したように俺はアリスから魂の一部を取り出す。
白い光の塊。
俺はそれをアムネジアの抜けた姫の身体の時間を動かしながら入れる。
ドクン
姫の身体が跳ね上がり、見る間にその姿が変っていく。
アムネジアから、俺の記憶にある姫のそれへ……。
赤い髪が黒く細くなり、身体の赤い文様が消える。
肌の色も僅かに白くなっていく。
「ああ、姫だ」
『いかん』俺は勘当の余り涙腺が緩みかけるのを必死にこらえる。
『まだだ。まだ目が覚めるまでは分からない』
「う~~ん」
横の寝台でアムリタが目を覚ます。
「あれ~?ここは?」
「アム!お姉ちゃんだ!分かるか?」
「お姉ちゃん?」
目をこするアムリタ。
元々姫に少し似た美人なので見た目的にはそれ程変らないのでちょっと驚きだが、髪の毛は以前よりも少し細く、身体に文様等もない。
あらためて観ると姫の姉妹と言っても通じるかもしれない。
「あっ!お姉ちゃんだ!おねえちゃ~ん」
そう言ってアムリタはシズクに抱きつく。
「ああ、感謝するアンブロシウス」
「気にするな。こっちこそ感謝する」
それよりも姫だ。俺は取り合えず絶対王の空間を解く。
これ以上絶対王の空間ですることはない。
元の空間に戻るとアニー、ブネ、リーンが俺達の側にやってくる。
「この人が王国のお姫様?」
「そうだ。捕まったのはお前の生まれる前の話だがな……。
俺の主だ」
いつの間にか起き上がったアリスが俺の横に立つ。
「目覚めませんね」
「いや、目覚めるさ」
姫の指がピクリと動く。
アンブロシウスとアリス、リーン、それに力を失って帰りそびれた梓姉の前でゆっくりと目を開ける姫。
その薄紅色の唇が開く。
「嫌な夢を見た……。私は悪魔に捕まり、闇の中で永遠に彷徨う夢だ。……そこにはアンブロシウス、お前がいない。私独り……」
「すごいすごい。お兄様やったね!」「おめでとうございますご主人様」「やったな」
皆が口々に騒ぎ立てる中俺は姫の手を握る。
「俺はここに居りますよ。姫。もう独りじゃありません」
涙腺が緩み掛ける。だめだ。男は人前で涙など見せてはいけない。
母は俺が小学5年の時に事故で死んだ。
その時に葬式で泣く俺にじいさんがこう言った。
人前で泣く時は心で泣け、と。
父のことは知らない。俺が物心付く前には同じく事故で死んでいたからだ。
俺は母の死をもって両方の親を亡くした。
俺はその時ですらその言葉で涙をぬぐい、それから独りになるまで泣かなかった。
この世界に来てからも俺はアリスの前で子供の頃に一度だけ、そう一度だけ神を恨み泣いてからこっち、泣いていなどいない。
そんな俺が嬉しさの余り人前で泣くなど……。
姫の手が俺の頬を撫でる。
「泣いているのか?アンブロシウス」
「そう、見えますか?」
俺は姫を見て微笑む。
姫も俺を見て微笑む。
「いや?男は人前では泣かないものだ。
お前は何時も人の為に動き、人の為に傷つく。だが決して泣かない男だからな。
だから私はお前が好きなんだ。
でも、たまには……たまには私の前でなら泣いてもいいのだぞ?」
誰に見られることもなく俺の髪の毛で隠した、視力をなくした右目の頬を一筋の暖かいものが伝う。
「そう……ですね」
俺は微笑み、それだけを言うと姫を抱きかかえ、彼女がゆっくりと休める場所に連れていく。
そんな俺達を追ってくるような無粋なものは、誰もいなかった。




