お風呂と決意
まず俺に残された課題はセーレ、アムネジア、そしてシズクの説得だ。
黙って絶対王の空間を開いて施術することも出来ないわけではないが、それは辞めた方がいいのは分かる。
今出来上がりつつ悪魔との信頼関係を崩すつもりは無い。
無理にいう事を聞かせられない訳ではない。
仮にとはいえ俺はまだ大会の報酬を得ていないからだ。
勝った俺に従うという報酬を……。
「とりま、それは置いといてと、さ~て覗きに行かねば!」
俺は考える。美女が6人(妹抜きで)露天風呂に入っている。このシュチエーションで覗かなくていいのか?
「否!否、否、否!それはできん!それをしてしまうと彼女らに失礼に当たる!仮に俺が覗かないとなると彼女らに魅力が無いみたいではないか!そんな神を冒涜するようなことは俺には出来ん!」
ん~とは言ってもどうするか……。
向こうには達人クラスが2人(あれ?妹とアムを入れたら4人もか?)もいるし、邪な気配には皆勘がするどいだろうしな。
それになんだか一人でこれをするのは気が引ける(注1)
「馬鹿やろう!お前一人で戦うつもりか!俺も行くぜ!」
颯爽と登場する竜神族の仮面の男。
「お前、流石俺と言いたい所だが天騎兵と戦うわけではないぞ?それに行くならその仮面はよせ」
そういいつつも二人(実際は一人だが)になった俺は何だか勇気が湧いてくる。
「いくか!」
「おう!」
ここに馬鹿が二人(本当は一人なんだが)、お約束の死地に飛び込むのであった。
俺達は今露天風呂を真上から眺めることのできるホテルの屋上にいる。
見えるとはいっても露天風呂の天井はすりガラスな為、ここからではまったく中を見ることは出来ない。
「仮面は止めろといったがなんで兎の着ぐるみ頭?」
「フッ、これなら黒髪も見えないしな。当然服もこの裸に葉っぱ一枚では同一人物とは夢にも思うまい!フハハハハハ」
「お~~い、俺。帰ってこ~い」
「一度入ったことがあるから転移で行けない事も無いが、やっぱりこう隠れてってのがいいよな」
「それよりも白」
「なんだ黒」
「お前、魔法を色々とセーレと研究していたんだろう?せめて透明になる魔法とか無いのか?」
「さて?あっ!?」
「あるのか?」
「あるある。透明と言うより光学迷彩だな。光を屈折させて見えなくするあれだ。まあ彼女との魔法開発の殆どが軍事目的だったんだが」
「目的などどうでもいい。それを使って転移すれば……」
「おう!バッチリ間近で拝めるってもんだ!」
俺達はガッシロと手を組む。
魔法を唱え、見えなくなる二人。
「すげーな」
「おう、でもこれじゃお互いにどこにいるか分からないな」
「まあ、見たいのはあっちだからこれでいいだろう」
「いくか!」
「おう!」
俺達はそれぞれ別々に転移する。
転移した途端、風呂場に少し涼しい風が入り込む。
まあ、当然自分の身体の周りにある空気が少なからずついてくるので仕方が無い事だ。
勘のいい女性達がこちらを振り向く。
『しかし見えまい!気のせいだと思うに違いない』
「あ!ウサギさんだ~~!」
『何!?』
よく見るとシズクの側にいる黒の姿がこちらからでもハッキリと見ることが出来た。
「なぜだ!?光学迷彩の魔法を掛けたはずだ!」
俺は思わず声を出してしまう。
「ほう」
立ち上がる女性陣。喜んでいるのはブネだけ。アニーはブネの横で別に気にした風も無くお風呂に入っている。
「兄様~」「アンブロシウス」「ウサギの変態男……」
何故か既に手元には各武器を持って抜いていらっしゃる。
そういえば昔と違って皆亜空間に武器入れてるから取り出すのも一瞬か。姫みたいに持って入ること無いもんな……。
命の灯火に“風前”と言うものが前に付きそうな状況……。
「あっれ~おっかしいな~、俺達男風呂に転移しようとしたんだけどな~。なあ黒」
「そっ、そうだなおかしいな白」
俺達は肩を組む。
「お兄ちゃん。光学迷彩とか言ってなかった?」
ブネと一緒に湯船に入っているアニーが余計な事を言う。
ロボット軍事オタクめ!そういう言葉は聞き逃さない……。
「残念ですねアンブロシウス。一緒に開発したその魔法の弱点を忘れたの?
一つはその呪文が熱光学迷彩ではないこと。
私達悪魔の目は人間と違って赤外線も見えるのよ」
亜空間から錫杖を取り出してセーレが言う。
前を隠さないところはOK!
「え?そうだったっけ?」
「おい!?白!」
「もう一つは、このような風呂では光が拡散して光学迷彩が殆ど役に立たないって事よ!」
「鏡の中の……」
セーレは魔法を唱え始める。
各女性陣も完全に息ピッタリで各々の武器を持って突撃してくる。
「「「死ね~~」」」
「「転移だ!」」
俺達二人は転移で逃げようとする。
【私がすべての法律空間】!!
一撃目は何とか躱した。
しかし次の瞬間、俺達は風呂場に引きずり戻される。
「「ヒイイイイイイ、そんな馬鹿な!俺達は確かに転移したはずだ。何故またここに!?」」
『『あれ?自分で言っといてなんだが俺は以前に同じ言葉を聞いたことがあるな』』
白と黒は同じ事を思う。
「逃がしませんわよおにいさま~」
俺達二人の首根っこを抑えたままリーンが見下ろして言う。
「怖い!目が怖すぎるよ!?」
女性陣に囲まれる。
ギヤアアアアアアアアア
二人の悲鳴が南の島に木霊する。
この後のことは語れません。R-15なもので……。
――――――――――
「ううっ、酷い目にあった……」
今はアリスと二人。
月の綺麗な晩。ソロモンリングが青く光り輝き、神秘的な風景が見える。
海岸側のホテル最上階のバルコニーに続く大きな窓を開け、涼しい夜風に当たりながら俺達は部屋の床に座り込んでいた。
「当たり前です。本当馬鹿なんですから」
「イテテ」
俺に手当てをしながらアリスは怒る。
「そんなに怒るなよ。いいものが観れただろう?悪魔や魔人って言ったって女なんだって事が分かったじゃないか。リーンももう諍いも起こさずに溶け込んでるしな……」
「あきれた。またわざとですか?そんな事だろうと思いましたけどね。ご主人様は女性には不自由しておられませんからね」
黒はここにはいない。今頃は梓姉にでも手当てしてもらっているだろう。
別に身体強化と回復魔法で直すことも出来るのだが、反省の意味を込めて女性達が許してくれるまで死ぬような傷以外はこうやって治せないままだ。
「本当にいい加減そんなことしてばかりいると、女性達に嫌われますよ?」
「ハハッ、構わないよ。俺にはアリスがいるだろう?
君はずっと俺の側にいる。そう言ってくれただろう?」
「はい、終わりましたよ」
真っ赤になってアリスは俺の傷だらけの包帯を巻いた肩をたたく。
「イッテ、もうちょっと優しくしてよ」
「十分に優しいですよ」
そう言って応急箱をベッドの脇のクロ-ゼットに仕舞い込みに行くアリス。
「こうやってご主人様の手当てをするのは久しぶりですね」
大地の魔力を上手く使いこなせるまで俺は何度もアリスの手当てを受けたことがある。
その時の事を言っているのだろう。
「なあ、アリス」
「なんですか?ご主人様」
「お前って本当に姫なんだよな?」
彼女は俺の側に近づいて座り込む。
「そうですね、ご主人様。なんなら口調も昔に戻しましょうか?少しなら憶えていますよ?」
「やっぱり、ハッキリとした記憶は無いのか?」
「そうですね。あまりハッキリとは憶えていませんが、間違いなく自分がアーネットであることは分かりますよ」
「そうか……」
「ご主人様は何時ごろから私がアーネットだと?」
「俺か?始めはそうだな……お前ウォーレンとあった時の事を憶えているか?」
「?。何故ここでウォーレン様?」
「いいから」
「ええ、憶えていますわ。あれはドワーフの地下迷宮。ご主人様が8歳の夏でしたか?」
「そうだ。そしてあいつの特殊能力。魂を観る事が出来る力も憶えているか?」
「あっ!?」
「そう、あの時ウォーレンが言うには魂の形や色は人それぞれ違い、全く同じものが無いそうだが……あいつが始めてお前と姫を見て思ったそうだ。
「同じものだ」とな。
俺がお前達を見るウォーレンの仕草が気になって、迷宮を出た後で問いただした時は一笑に付したものだが……今になってお前の存在と魂の無い姫の存在が、俺の中で膨らんできてな。
まあ、お前と出会った時期から考えるとおかしいんだが妙に気になってな。それが切っ掛け、かな。」
「そんな事があったんですか……ウォーレン様に観られてたんですね」
「お前の方はどうなんだ?何で姫の攫われた時期と、お前が俺の前に現れた時期が違うんだ?」
「私ですか……」
アリスは思い出す。
あの囚われた日の後の事を……。
――――――――――
『どれくらいたっただろうか……上下の感覚もない』
悪魔に囚われた姫は暗闇の亜空間の中漂っていた。
『アンブロシウスは無事だったのだろうか?』
今更自分に問うても答えの出ないことは知ってはいるが、何せ時間はたっぷりある。
闇の中で何かを考えていないと自我を保てない、という自己防衛本能だったのかもしれない。
狂ってしまうのは簡単だ。
意識を狂気に委ね、ただ戦いで人を殺した時の事を思い出せばいい。
重責、責任、悲鳴、阿鼻叫喚。
狂う種は自分の中にいくらでもあった。
それに少し水をやり、開花させればいい。ただそれだけで狂うことが出来るだろう。
しかし……『狂いたい』と思うとしても少し考えてしまう。
自分は既におかしいのだから本当に狂えるのだろうかと。
それに狂うにしても見苦しい狂い方はしたくない。
死ぬなら武士らしく戦いで死にたいものだな。
そう、思ってしまう。
それが適わぬならいっそ……。
姫は腰に帯びている黒雪を抜き、自分の首に当てる。
だが……引けない。
「おかしい。こんな状況なのに“死にたい”と思えない」
それも当然。
姫自身は知らないが彼女の中の“死にたい”と言う意識はアンブロシウスによって封じられ、思うことが出来なくなっているのだから……。
姫は何時しか意識を失う。
・・・
次に目覚めた時、私は一匹のクロネコになっていた。
何故か尻尾の先が割れている。
そして目の前にはそれはもう可愛い天使のような金髪の赤ちゃんがいた。
――――――――――
「私が最初に憶えているのは、自分がネコでご主人様が目の前にいたことだけでした。何故体から魂だけが出てしまったのか、何故ご主人様のところにいたのか私も知りません。
ただ……」
「ただ?」
「意識がなくなる前にご主人様のことを考えていました。もう一度逢いたい。そう思っていたのは憶えています」
「そうか……」
俺はそういうとアリスを抱きしめる。
「ご主人様!?」
「俺は明日姫を救う。そしてお前も、必ず助けてみせる!」
抱きしめられながらアリスは自分の涙が頬を伝うのが分かる。
「ご主人様、いえアンブロシウス。よろしく頼みます」
「はい、姫。お任せを……」
俺達は見つめ合い、月の光の元口付けを交わす。
俺は誓う。
『明日、明日俺は必ず二人を救ってみせる!』と……。
(注1)
こういう事にはかなりのチキンです。まあ犯罪行為を行うのにチキンもないですけどね。




