愛人(パパ)
南の国に行くにあたって俺はゲートを開かなかった。
「え?何故かって?」
俺は豪華な列車の中で呟く。
当然列車は貸しきり、この目的地の港街について乗る船も貸しきり。
今いる車両は一面絨毯の引かれたバーと机のある豪華な一室。
「そりゃ、旅行に行くのに工程飛ばしちゃつまらないでしょう」
「おい、アンブロシウス、何をブツブツ言っているお前の番だぞ」
シズクが俺に何枚かのカードを持って差し出す。
「ふむ。さてジョーカーはどれかな」
「ふふ、取れるものなら取ってみろ」
「いや、ババ抜きでジョーカー取っちゃダメでしょうが」
俺は右端のカードを取る。
「またか……」
「お見事」
俺はガックリと肩を落とす。
どうもジョーカーに好かれる運命はカードにも現れるらしい。
手放しても次の瞬間に俺の手元に戻ってくる。
結局また俺は負けてしまう。
「兄様って運の無い人ですね~。ギャンブルに向いてないんじゃ?」
「いや、そんなことは無い。ルーレットは得意だ。あれは確立だからな計算しやすい。ただジョーカーが絡むゲームはダメのようだな……」
「じゃあ、次はポーカーでもしますか?」
アリスが気を使って言ってくれる。
「いや、俺はチョット抜けるからお前達でやっててくれ」
俺はそういって、アリス他セーレを除く他のメンバーがいる机から離れる。
カードに参加せず、床に寝転がって漫画を読みながらお菓子を食べているアムネジアの横を迂回し、俺は一人本を読むセーレに近づき、前の椅子に座る。
「お疲れ様」
「ああ」
『って気を使ってくれているのか?』
最近セーレの態度の変化に少し戸惑うことがある。
魔王城での高飛車な態度が嘘のようだ。
貸切とはいっても誰も乗っていないわけではない。
最低限選出されたものは乗せてある。
俺はバーにいる係りの者に酒を頼む。
こちらの世界では15歳で成人とみなされる。
俺は昔から飲んでいるが、今や街中でも堂々と飲める歳になる、その直前……。
『誕生日もうじきなんだよな~。そう言えば成人の儀をしたいと父や母が言っていたな』
面倒なのでもし手が空いたらと言ってはいるが……。
母の事だ、どんな強行手段に出てくるか……。
「何を読んでいるんだ?」
俺はセーレの読んでいる本を覗き込む。
『「愛とバラと拳銃」……?』
「ハードボイルドものよ」
『おい、俺に対する嫌味か?まあ、俺は仕方なくだが、メイド服着たりハードボイルドとは無縁の住人だからな……』
俺は頼んでいた酒が来たので飲みながらリーンを見て考える。
『よく考えたら別に記憶があるとは限らないんだよな』
そう、俺が魂の記憶を受け継いでいるからと言ってアキラも一緒であるとは限らない。
そもそも肉体の無い魂に記憶があるという事自体がおかしいのだ。
俺も覚えていること以上には記憶を辿ることができない。
脳の記憶があれば、わざわざ過去に戻る必要も無かったくらいだ。
俺は特殊なのだ。
そもそも魂に記憶が必ず残ると言うなら俺はアリス、いや姫の魂を戻すことにこんなに迷ったりはしない。
彼女を身体に戻すことで今まで過ごしてきた俺との思い出がなくなる……いやアリスと言う存在自体が無くなることなど俺には耐えられない。
これはババ抜き等ではない。
もし記憶が残らないというジョーカーを引き当ててしまって後悔などする気は無い。
だから俺はこうやって手元にアリスと姫の身体があるというのに戻せないでいる。
戻すためにはもう一つ。
そう、もう一つのカードが必要だ。
俺はこの旅先にそれを用意してある。
姫を取り戻す日は近い。
列車の窓の外を流れる景色が目に入る。
いい天気だ。
『俺の旅先での幸運を……』
俺はそう願い、最後の一口になった酒を煽った。
――――――――――――
列車が港街に着き、俺達は貸しきりの豪華客船に乗り換える。
ここまでは順調、何の事件も起きてはいない。
そう、ここまでは……、
『いや、マズイ!?この言い方はまるで何かが起きるみたいではないか!?起きないでくれよ~』
俺は神に祈る。
「せ~ん~せ~~」
「聞こえね~なんにも聞こえね~~」
俺は耳を塞ぐ。
やっぱり何かが起きました。
豪華客船に乗った俺達を出迎えてくれる船員を率いるレイナ=アソロ(多分22~3歳になっているはず)だ。
短い金髪に碧眼のナイスバディの美女になってはいる。
なってはいるが……根本的な趣味が合いません、はい。
「もう、先生ったら返事ぐらいしてくださいよ!」
「ええい、もういい加減にその呼び方を止めろ!もう7年も前の話だ!それも間違いで4日だけだろ?」
「えと、こちらは?」
セーレが聞いてくる。
「ああ、こちらは造船会社やら何やら全てを経営する会社の社長令嬢にして王国の宮廷魔術師のレイナ=アソロだ。昔ちょっと教壇に立つことがあってな。まあ、その時の生徒だ」
「そう、セーレと申します。よろしく」
セーレは普通の人間のように握手を求め、アソロも正体を知っているだろうが気にせずそれに答える。
「こちらこそ、よろしくね。我がアソロコンツェルンが快適な船旅を保障しますわ」
「アソロ先生!」
後ろから来たリーンがアソロを見て飛びつく。
「あっ、リーンちゃん。お久しぶりって言ってもこの間の大会前にも会ったけどね」
「ですね。でもこの間作ってもらった魔法、また破られちゃった~。また新しいの作って~」
「あらあら、じゃあ次はどんなのにしましょうかね。リーンちゃんはどちらかと言えば光の精霊に好かれているからそちら系の新しい魔法でも作りましょうか」
「うん!」
「魔法を作られるんですの?」
セーレが興味心身でその会話に加わる。
「はい。先生の教え方が良かったんでしょうね。
精霊の存在を知り、私はそれから色々な魔法の知識を吸収しまして、今では年間に数十個もの新魔法を作れるようになりましたの」
「それは興味深い。もし、お時間がよろしければ後で魔法の談義でもいたしません?」
「喜んで」
何故か意気投合する二人……。
そう言えばこの二人の趣味って合いそうだな……ハイヒールを穿き、鞭を持つセーレの姿を想像してしまう。似合いすぎる……。
『イカン、イカンぞ!お父さんはそんな趣味許しませんよ!』
俺の心の声とは裏腹に、彼女らは仲良く話をしながら船の中に入っていく。
シズク達もそれに続く。
ポンと俺の肩をたたく一人の女性。
「アリス……」
「ご主人様。私も鞭は得意ですよ?」
ガフッ
俺は血を吐いて倒れる。
「お前もそっち系走る気か~~!俺はMになる気はな~~~い!!」
船が出港する。
3人の美女&美少女のS気に俺は耐えられるのだろうか……。
―――――――――――
屋敷を出てから数日が経った。
なんとか客船での魔の手を逃れ、俺は無事に着くことができた。
一部記憶が飛んでいるのは気のせいである。
絶対気のせいである。
俺達は今白い砂浜の上にいる。
左右に続く広大な砂浜にいるのは俺達だけ。
そう、俺はこの南国のリゾート地、竜神族の島をまるまる全て貸し切りにしたのだ。
人払いに、そして最低限俺達の世話ができる竜神族の給仕や販売員を確保等用意に数日いる為、列車や船旅の時間を設けた。
島に着いた日にこの島を貸しきった事を言うとリーンが俺に問いただしてきた。
「いっ、一日でいくらぐらいするの?」
「さあ?三十億か四十億ゴールドぐらいじゃないかな?」
「さんじゅ……どれくらい貸しきりにしたんですか?確か、しばらく滞在するって言ってましたよね?」
「ん~取り合えず一ヶ月程。まあ気分によっては二ヶ月か三ヶ月くらい貸りるかな?」
「そんなに……一体どれくらいかかるんですか……」
「それこそさあ?だな。経済効果の損失からいったら一兆位になるかもな」
そう言って笑うアンブロシウス。
「いいい、一兆って!?兄様!お父様からいくらお小遣いもらってるの!?」
「何馬鹿なこと言っている。俺は物心ついたころからお小遣いなんかもらったこと無いぞ?」
「え?じゃあそのお金はどこから?」
「ああ、俺一応この島の経営陣のトップなんだよね。
それで俺に入ってくる収入を使わないでほっといたら、この間確認したら何か天文学的数値になってたから、たまにはこうやって使わないとな~」
黙ってしまった妹を見ると何やら目を潤ませて両手を組み、まるで俺にお願い事をするかのような格好をしている。
「おにいさま~ん。ううん、愛人ってよんでいい?」
そう言って抱きついてくる。
「こらやめろ!?何で妹にパパ呼ばわりされなきゃならないんだよ!くっつくなよ!」
『こいつ、目が$マークになってやがる!』
「現金な奴だな!家では絶対に“お”なんて着けて呼ばないくせに!」
「これからは着けて呼びます。おに~さま~ん。だからお小遣いチョウだい!
もう何だったらわたしの事を好きにしてもいいですから!
ほら、わたしってこう見えてお兄様一途&LOVEな人だから。
いつでも一線を越える覚悟があります!」
「お前の口からLOVEなんて言葉初めて聞いたわ!?
どっちかって言うと「殺」や「死」だろうが?」
「そんな事言わないで~、おにいさま~ん」
「やめろ!?周りの目がもう白を通り越して空気になってるぞ!」
俺は肩で息をしながらなんとか妹を引き剥がす。
『こいつ身体強化までして抱きついてやがった』
「いいから、好きなものがあるなら勝手にすればいい!
皆にも言っておくがこの島での飲食、宿泊に限らず、あらゆる店のあらゆるもの。バッグだろうが服だろうが、宝石だろうが靴だろうが好きに持ってったらいい。全部俺のつけで買えるからな!分かったか?」
「は~~い」「はい」「了解」「分かりましたわ」「好きにさせていただきます」などなど皆各自返事をしてくれる。
ふとリーンを振り返ると、もうその姿は何処にもない。
「転移して買い物に行ったのか……返事ぐらいしろよ…どこまでも恐ろしい妹だな……。
本当、お兄ちゃんはお前の将来が心配になってきたよ」
俺はゲッソリと青くなって妹の将来を危ぶんだ。
「あんな妹を嫁に貰う奴がいるのか?」
その頃、地球で魔王がくしゃみをしたとかしないとか……。
てな事はあったが、取り合えず俺は今ハーレムを楽しんでいた。
「いやもうこれハーレムでしょう!」
前に女性陣と来たときはまだ8歳だった……あの頃はあの頃でギリギリ(?)女風呂にも入れてよかったんだが……今はそう。
俺は成人(直前)男性!
誰にはばかることなく女性とムフフ(死語?)が出来る歳!
いや、もう実際どうしようもないくらいしてますけど……、まあ一応…ね。
セーレはパラソルの下、リゾートチェアに寝そべりながら横にある机のカクテルを飲みつつ本を読んでいる。
緑のビキニにパレオを腰に巻いているがそれがまたいい。
眼福です。
波打ち際ではアニーやブネ、アムに何故かリーンも加わってボール遊び。遊ぶ子供を見守るように立つシズクとアリス。
アニーはオレンジ色、ブネは黒のフリル着きのワンピース水着。
リーンは白のウェーブのかかったワンピース水着。
アムは赤いビキニに、シズクは黒と赤の水玉のビキニ。
そしてアリスさんは空色のセパレート水着に肩からパレオを羽織って白い帽子を被っている。
時よ止まれ!もう俺に思い残すことは…あった。
ん?白いビキニがないじゃないか……。
白いビキニといえば昔姫が……。
なんだと!?やっぱり姫がいないと俺のハーレム完成しないじゃないか!
「いか~~ん!ええい早く来い!俺のカード!」
「誰がカードだって?」
後ろを振り向くとモデルかと思うようなスタイルの紫のビキニに下はジーンズパンツ。白いグラサンを架けた紫の髪の美女。
「キターーーー!
待っておりましたよ梓姉!
ささ、こちらのイスにどうぞ」
そう言って俺はセーレの横、パラソルに入らないようにして寝そべって身体を焼いていたイスを空ける。
「今お飲み物をご用意いたしますゆえ」
「別にいらないわよ。それよりあの娘がジローの言う姫?」
彼女はネコミミのアリスを見て言う。
「ああ、今は元気そうに見えるがかなり霊力が弱まっている」
「そのようね。それで私が呼ばれたんでしょう?」
「ああ、梓姉の霊力があれば彼女、アリスを救える」
「う~ん。私の霊力をあげるのは構わないけど、ネコミミがキツネ耳になっても知らないわよ?」
「え!?それは困る!?」
何故困るかは個人的な趣味によるものだが……。
「冗談よ」
「キツイ冗談です」
「そう?」
「そうですとも!今全国のネコミミファンが卒倒しかけましたよ!いやまあキツネ耳愛好会の皆様は喜んだでしょうけど」
「別にどうでもいいでしょうに」
「どうでもよくな~~い!いいか?そもそもネコミミとは、「いつまでそのくだらない会話が続くの?五月蝿いからどこか別のところでしてくれない?」はい。」
セーレの五月蝿いの一言で俺はネコミミ談話をここまでとする。
「まあ今すぐに、とは流石に行かないからさ。2~3日中にでも時間を設けるよ」
「いいわ。取り合えず私は街をブラブラしてくるわ。何せ異世界って初めてなものでね」
「ああ、それと店のものは全部好きにしてくれていいよ?全部俺の付けで買えるから」
「そうさせてもらうわ。元よりこっちのお金なんて持ってないしね」
梓姉はそう言うと手の平をヒラヒラさせながら街の方に歩いていった。
『ようし、これで準備万端。俺は姫を復活させる!』
俺は待ちどうしくてちょっとソワソワしてしまう。
おかげでセーレに叱られる始末。
「落ち着きなさい。男はこうドッシリとハードボイルドでないとね」
「それって本の読みすぎですよ?そもそもハードボイルドって俺にいわせればナルシスト一歩手前じゃ?」
「謝りなさい!全国のハードボイルドファンの皆様に謝りなさい!後ろから撃たれるわよ!」
「「フッ、俺の背後に立つな」って言えば許されるのでは?」
「アムが読んでいた漫画本にあったけど、あれも一応そうなの?」
「そうなんじゃないですかね?俺もいまいちどこからどこまでがハードボイルドなのか分からないんですけど……」
「……」
最近読み始めたセーレにも分からなかったようで、俺との会話はそこで行き詰まりとなって終了した。




