謀略と計略
「あたしも混ぜろ!」
チチチチ
我慢できないという様子でリーンに斬りかかって来るアムネジア。
折角戦えると言う時に邪魔をされてもう誰でもいいと大会等忘れている様子。
アムネジアの放った斬撃は残念ながらリーンの像によってリーンに届くことは無い。
魔力で出来たものであれば黒雪は易々と切り裂くが、残念ながらこれは神力の塊。
弾かれてしまう。
「この!悪魔同士の連携か!?」
と思ったのだがどうやら違うらしい。
剣が効かないリーンをアッサリ先送りにして、アムネジアはまずはこっちと黒騎士シズクに斬りかかる。
シズクは鞘を諦め、地面に投げ捨てると、黒雪の斬撃を長い剣を回転させ、全て受けきる。
チチチチ
キキキキン
「やめなさいアム!私が分からないの!?それにこんな剣技何処で習ったの!?」
「馴れ馴れしく呼ぶな!お前何処の誰だよ!」
「何処の誰…ですって?」
殺気とは別の別の威圧を感じるアムネジア。
『あれ?手が震える』
震える手をニギニギして感覚を確かめるアムネジア。
身体というより魂が怯えて震えているようだ。
「なんだよ!?これ!?」
「お姉ちゃんが判らないなら無いって言うの?なら思い出させてあげる」
そう言うと黒騎士シズクは剣を抜いた状態で初めて型というものを見せる。
右手で握った長い剣を肩の位置にまで持って行き目の前に突き出すように構え、左手は静かに前方に手の平を相手に向けるように出す。
ヴ
まるで蟲の羽音のような空気を切り裂く音がしたと思う。咄嗟に身を翻したアムネジアだったが、完全に躱し切れずにアムネジアの肩の肉が血飛沫と共に宙に舞う。
「なんだ!?全く見えない!?」
太刀筋が見えない。躱せるかどうかは別にしてどのような剣技であろうとその白刃の軌道ぐらい見える自身はある。
それが全く見ることが出来ない。
これでは何度攻撃を喰らっても、その太刀筋を見極めて躱すということが出来ない。
黒騎士シズクが悪魔戦士アムネジアを追い詰める。
ヴヴヴ
羽音がするたびに何とか躱すが身体のあちこちの肉が削れていく。
いや、手加減されているのかもしれない。
屈辱で血が頭に登り益々術中に嵌っていくアムネジア。
背に闘技場の観客席の壁が当たる。
向けられたシズクの左の手の平がアムネジアには巨人の手のように見える。
『あの手か!?あの左手があたしの視界を防ぎ、太刀筋や剣を見えなくしているのか!?』
アムネジアは前に出された左手を切り裂こうと剣を持つ手に力を込める。
「わたしを無視するな!?」
今度はリーンがシズクの頭めがけて横合いから槍を突き出す。
リーンの攻撃は奇襲となり、シズクは咄嗟にいつものように紙一重で躱そうとしてしまいつい、自分がマスクを被っているのを忘れており、金属のマスクが弾け飛ぶ。
中から現れたのは長い黒髪に赤い瞳の美女。
長い黒髪は編んでマスクの中に納めていたのであろう、解放されたそれは彼女の背で揺らめく。
アムネジアは躊躇う。
『あれ?どっかで見た顔だ……』
鳥の様なマスクをしてお姉ちゃんだと言うような訳の判らないものは知らないが、こうして実際に顔を見ると何だか懐かしい気がする。
『何処でだったか……』
真剣に悩み始めるアムネジアであった。
リーンは横から見て判るがシズクの放つ剣は突き。
途轍もなく長い剣から、左手で相手の視界を防ぎ、相手の剣の間合いの外から突きを放つ。
肩まで入れたあの長い剣の突きを前にしては、例え槍を持っていようともリーチで負けることなく突き殺せるであろう。
実際正面から1対1であの剣技とやり合って勝てるかは自信が無い。
レプリカントがなければわたしはアッサリと突き殺されるかもしれない。
いや、もしかしたらあの突き……わたしの像の防御力を一点突破するかもしれない。
斬る攻撃であれば絶大な防御力を誇るこの像も1点を狙っての突きには脆いかもしれない。
リーンはそこまで読んではいても、攻撃せずにはいられなかった。
『颯爽と飛び込んでおいて、敵が強ければ逃げ出す。なんて出来るわけがないでしょうが!わたし!』
自分を鼓舞して槍を突き出しながら魔法を唱える。
「風の集まりし風穴より今ここに誘わん」
ヴ
黒騎士シズクの突いてきた剣の一撃をレプリカントの両手を前に出して防ぐ。
レプリカントの長い腕の半分以上まで突きが刺さってくるが、なんとか柄のところで剣が止まる。
【龍の輪舞】
紫の風が巻き起こり、黒騎士シズクを中心に渦を巻く。
「ははっ!御仕舞いよ!その風の中からは逃げる隙間なんて無い!それにね、その紫の風は魔法や攻撃を防ぐの。転移も出来ない、それに巨人の一撃ぐらいでは壊れないわよ!」
リーンは過去の教訓から更に新たなる魔法を創り出していた。
「切り裂け!」
リーンの一声で紫の風の渦が縮まり、中にいるものを粉々に切り裂こうとする。
シズクは構えを解き、脱力して目を瞑る。
『諦めたのか?』
そう思ったリーンだが、次の瞬間自分の目を疑う。
隙間等ない。そう思っていた……。
だがシズクは剣を逆手に持ち左手を添え、風と同方向に回り始める。
まるで風の中で踊る風の精霊シルフの様に見える。
風の中で舞うシズクの剣が、紫の魔法の風と同じ速度に達したかと思うと、シズクはそっと逆らわないように紫の風に剣を差し込む。
差し込まれた剣はそのまま紫の風に斜めに振り下ろされ、出来た隙間からシズクは悠々と歩いて出てくる。
「うっそ!?嘘、嘘、嘘!そんな抜け方あり!?魔法!?」
「愚か者が…魔法を使えないといったのはお前であろう。これは剣技だ」
リーンは血の気が引きゾッとする。
静かに佇む黒騎士の目が赤く光り威圧感が更に増す。
実際対峙して分かったが「勝てない」。
剣技も上、魔法も効かない。像は突き抜かれる。
この上彼女に巨人に乗られようものなら自分では成す術が見当たらない。
「なんでよ!なんで何時もわたしはこうなのよ!」
自分で自分が許せない。
力が欲しい。圧倒的な力が欲しい!
あっ、あるではないか!
ここに来て反則級の技を忘れていた。
自分は本当に馬鹿だと思う。
開け!
【私がすべての法律空間】
空は蛍光ピンクのような雲に覆われ、足元の湖は一面の色とりどりのビーズで埋め尽くされる。
虹色のシャボン玉がそこらかしこに浮かび、様々な形のガラスの彫像が森の木々のように生え、巨大なケーキやドーナツが空を飛びまわっている。
「さあ、わたしの前に滅びろ!悪魔達よ!!」
シズクとアムネジアを空間に引きずり込み、リーンは命じる。
シーン
空間は静まり返り、シズクとアムネジアは佇む。
「何を言っている?」「馬鹿なんじゃね?」
姉妹のようにそろってリーンを馬鹿だと思う二人。(注1)
「誰が馬鹿よ!いつも師匠に言われてるけど!」
「自信満々に言う事か。こんな悪趣味な空間を見せられると気がそがれるな……」
「確かに……」
剣を納める二人。アムネジアの傷も既に新陳代謝の強化で治っている。
「チョット!何剣を収めてるのよ!戦いなさいよ!」
「もう、いい。それよりアム、私の事を思い出したか?」
「ん~何か引っかかってるんだけど、もう少しなんだけどな~~」
「いいさ、気長に待つ。
おい!何がしたかったのか知らないがこの悪趣味な術を解け!」
シズクの意思が強く作用し、リーンは空間を解いてしまう。
「悪趣味は余計よ!」
ドドーーン!
大きな地響きと共に闘技場が揺れ、街の方から大きな火の手と共に黒煙が上がる。
「もう!今度は何よ!?」
『いい加減にしてよ!こっちはそれ処じゃないってのに!』
リーンは心の中で憤慨する。
――――――――――――
少しだけ時間が戻る。
ヘルズはリーンが戦っているその時、実は城にいた。
開催式には出席していたが、リーンの出番はまだ明日以降になるはずで、今日見に行く必要もないと思っていたからである。
そしてヘルズは今、豪華な客室で一人の女性と机を挟んで向かい合い、お茶を飲んでいた。
人払いは済ましてある。
女性とは魔人セーレ。
ヘルズは魔人達と共謀していたのだ。
「ヘルズ卿、あなたの計画の方も順調のようですね」
「ええ、おかげさまで。それより今更ですがクインドの街の件では世話になりましたね」
そう、あの日都合よくアンブロシウスに手伝わせた時に聖都の第二首都が襲われたのはヘルズの計画によるものだった。
ヘルズはクインドの街でアンブロシウスと悪魔を戦わせ、民衆にアンブロシウスを焚き付けることにより、リーンの成長の糧としたのだった。
「もともとあそこには穴を開ける予定だった。それが少し早くなっただけのこと。礼を言う程の事ではないわ。
それより今日はお前にお別れを言いにきたの」
「と言いますと?計画に何か変更があったので?」
「ええ、少し早まったの。今日ゲートを開くわ」
「今日!?」
ヘルズは椅子から転げる勢いで立ち上がる。
「話が違う!何故突然今日になるのだ!計画では5年後の予定だったろうが!」
ヘルズの自分の策略が大きく音を立てて崩れていくのを感じた。
『今日ゲートが開き、魔王や悪魔がこの地に来てしまったら正しくこの星は魔王のものになってしまう。
それではリーンを成長させ、教国を中心とした統一軍を編成、絶対的な力を手に入れたわたしとリーン、天の血を引くものを中心としたこの星の統治が出来ないではないか!
不味い、不味いぞ。このままではユダクリフに何を言われるか……』
「フフ、天の血を引くものが、我々が本当にお前となど手を組むと思ったのか!」
ゴウッ
セーレが立ち上がり、彼女から凄まじい魔力が風となってヘルズを吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「な…ぜ、その事を」
「そう言えば、あなたにもう一つ言ってなかった事があるわ」
「な…なんだ」
壁に叩きつけられ、片膝をつきながら悪魔達に隠していた自分の血の事を言われ、更に何かあるのかとヘルズは問う。
「最後のゲートを開く為の場所はね。ここ、聖都なのよ」
「馬鹿な……。
待て!私はお前達の仲間の一人をまだ捕らえている!
そんな事をして仲間がどうなってもいいのか!」
「ああ、あの娘。
私があなたに計画を持ち掛け、あなたが嫌うあの男の元にあの娘を差し向け、わざと裏切らせることにより服従。あなたにあの男を捕らえさせる為の切っ掛けとなればと言っていた娘ね」
「そうだ!」
「でもね、おかしいと思わないの?
仲間だったのなら私が何故すぐに釈放して返せと言わないのか……」
「それは……まさか!」
「そう、あの娘は本当の裏切り者。
始めからあなたの為の計画等ではなく、偶然あの男の元に裏切ったあの娘を、あなたに恩を売るかのように計画を持ちかけ、あなたを利用して裏切り者を処分する為に捕らえてもらっただけの事。
この城の地下にいる裏切り者も今日、この都と一緒に始末しましょう。アハハハハハハハハハ」
そう言うと笑いながらセーレは闇の中に消える。
ドドーーン!
大きな地響きと共に城が揺れ、街の方向の部屋の壁が崩れる。
目に見えるは、大きな火の手と黒煙。
悪魔達による聖都襲撃が始まったのだ。
(注1)
いや、実際姉妹だとシズクは言っているんですがね。
追い込まれているわけでもなんでもない二人には、リーンの言うことに抵抗できるだけの意思や魔力を持っているので、今は全くこの空間の力は効いていません。
特にリーンは具体的に想像しないで口で言葉として言っただけなので、物理法則に干渉することが在りませんでした。
まあ具体的に思っても、彼女らに効いたかどうか定かではありませんが……。




