姉妹
《大会当日の朝》
「うう、もう朝か…寝不足だ……」
俺は結局、昨晩は殆ど一睡もできなかった。
大会当日なのに大丈夫なのか、俺。
え、なんでかって?
俺の左右で寝息を立てている女性(少女)達に聞いてくれ……。
取り合えず汗を流す為&目を覚ます為にシャワーを浴びる。(注1)
「なんとか目が覚めた」
俺はタオルで頭を拭きながら、バスローブ姿で涼しい風に当たる為ベランダにあるイスに座って新聞を読み、シャワーを浴びている間に従業員に持ってこさせたコーヒーを飲む。
「お早いですね」
シーツを身体に巻いたアリスがベランダの窓辺に立つ。
「ああ、まあな」
『殆ど寝てないからな』
「シャワーを浴びてきます。それとご主人様にお願いがあります」
「なんだ?」
「シャワー浴びている間に私にもそれ頼んどいてくれませんか?」
コーヒーを指差すアリス。
「分かった」
彼女はシャワーを浴びに行ってしまう。
「さて、世界情勢はと。何々、『北の森で新たなる大穴を発見!やはり悪魔の仕業だった!』
ふむふむ。
『連合国でお世継ぎ誕生。しかし姫は未婚。当の相手は一体誰なのか!?』
へ~世の中スキャンダラスな事もあるもんだね~。
王侯貴族の私生活は乱れてるね~。
あっ、俺も貴族か」
読みながら俺は笑っていると。
次はアニーが起きてくる。
「う~お兄ちゃ~~ん。僕お風呂いってくる~」
「いいけど、前隠せよ。いくら6階だって言ってもベランダに来たら丸見えだぞ」
一糸纏わぬ、というかまったく気にした風も無く、裸のままベランダに来るアニー。
飲みかけの人のコーヒーを奪い取って飲んでさっさと風呂に行ってしまう。
仕方なく俺は言われていたアリスのコーヒーと自分のお代わり、ついでに全員分の朝食をロビーに頼んでから服に着替えることにした。
そういえば、俺はこの宿に来てリーンにまだ会っていなかったな。
3人で部屋に用意された朝食を食べ、着替えて大会に向かおうとした時だった。
「動かないでください」
突然部屋の扉が開かれ、兵を率いたヘルズが俺の泊まっている部屋に入って来る。
兵が銃を構え、俺達を取り囲む。
「どういう事だ、ヘルズ」
俺はヘルズを睨み、物騒なものを向けさした事を咎める。
「どういうこと?それはこちらのセリフです。
あなたは今世界がどういう状況で、何の為に今日の大会が開かれようとしているかご存じないのですか?」
「ああ、分かっているさ。悪魔を倒す為だろう?」
「分かっておられるのでしたら話は早い。
ではお聞きします。そこにいる少女は何者ですか?」
ヘルズはアニーを指差す。
「彼女は俺の連れだ。それが何か?」
「白をきるつもりですか……。結構」
そう言うとヘルズは部屋に設置してある噴水に手を伸ばす。
噴水の真ん中に飾られた、水を注ぐ水瓶を持った女性像に触れると不思議な力を注入したように感じた。
部屋の床に光の紋章が現れ、突然にアニーが苦しみ出す。
「おい!やめろ!!」
「これは異な事を。
この結界は私が作ったものでね。対悪魔用のものなのですよ。
あなたの連れが普通の人間であれば別に害も何も無いのですがね……」(注2)
アニーの苦しみ方は尋常ではなく、この結界は悪魔の魔力を吸い取る結界なのか、膨大な魔力を持った魔人の彼女の魔力が消えていくのが分かる。
魔人クラスを結界一つでここまで苦しませるとはヘルズの結界はとんでもない代物だ。
「クッ、止めろといっている!」
俺はヘルズに掴みかかろうとする。
「全員拘束しろ!」
俺達は銃を向けられ、特に身動き一つ出来ないアニーにも銃を向けられているので、抵抗することが出来ない。
俺達は拘束されてしまう。
兵の持っていた拘束具は、軍で開発された魔法を使う者の脳に常に雑念を抱かせ、魔法に集中ができなくなる魔道具だ。
これでは単純に力技でも無いと自分で外すことができない。
もちろん身体強化も魔法の一つ。それを施せないこの状態では俺に外すことは出来ない。
地球に居る“俺”ならこんなもの身体強化を使わずとも簡単に引き千切るのだろうが……。
「待って!師匠話が違うじゃないですか!?」
ヘルズの後ろから、部屋の扉の外、通路に隠れていたのであろうリーンが飛び込んでくる。
「仕方ないのですよリーン。あなたのお兄様は嘘をついて悪魔を庇い立てした。これでは悪魔に手を貸した共犯と取られても弁明の仕様が無い」
「そうですけど、でも兄様は悪魔と知らずにいたのかも知れないじゃないですか!」
「リーン」
か細い声でアニーがリーンの名を呼び見つめる。
「何?悪魔が気安く私の名前を呼ばないでくださる?」
リーンのアニーに対する態度は冷たい。
ヘルズはそれを無視してリーンに話しかける。
「彼は私が悪魔にしか効かない結界の説明をしても、まだ私に離せと掴みかかろうとしたのですよ?
知らなかったと言って通じるとでも?」
「それは……」
「連れて行け!」
ヘルズの命令により、俺達は兵により拘束された状態で車に乗せられ、金の子馬亭から連行されていく。
「今日は大会ですからね。リーンあなたも彼らの事は一旦忘れて大会に集中しなさい」
「師匠、兄様達はどうなるの?」
「おそらく大会が終わり次第、魔女裁判に掛けられるでしょう」
「そ…んな……」
「これは教国の悪魔審問会における最重要機関が決めた一つの法律です。決定事項なのですよ。
例え王国三代貴族でも逃れることは出来ません。
残念ですが……あなたのお兄様は悪魔に魅入られてしまった。
もうどうしようもありません」
肩を落とすリーン。
ヘルズはリーンの両肩に手をやり、正面から彼女を励ますように真剣な目で見つめる。
「でも、お兄様の意思はあなたが継ぐのです。
悪魔に魅入られる前のあなたのお兄さんの意思。
あなたが悪魔と戦い!世界を救うのです!!」
言っていることに嘘は無い。ただ、ヘルズは心の中で、また別のことも思っていた。
『神の使いである等と偽の天使を装い語るあの男ではなく、本当に天の血、いえ魂を受け継ぐあなたが世界を救い、悪魔達を根絶やしにするのです』(注3)
「師匠」
「そうすれば、もしかしたらあなたのお兄様の命もなんとかなるかもしれません」
「本当ですか!?」
「ええ、大会優勝者には教国秘宝と共に対悪魔用の軍の指揮権が与えられます。
あなたのお兄様の戦闘力は、悪魔との戦いに使える、とそう言えば、死刑は免れるかも知れません」
「分かったわ。師匠、わたしやります!!」
そうしてリーンは大会に向けて更なる目標を見つけ、意思を固めるのだった。
―――――――――――
大会の開催式は滞りなく行われ、選手一同が始めて会することになる。
リーンは驚きを隠せないでいる。
『なぜアルブムが!?え、お休みとって故郷に帰ったシュバルツが代表!?
それに……一般参加で優勝したって言うのがあの女……悪魔戦士アムネジア……』
師匠から他の種族のシード大会参加者等を聞いていなかったリーンは、今更ながら自分が優勝することを疑わず、気にも留めていなかった他の選手の事を知り、聞いておけばよかったと後悔する。
『まあ、アルブム達はいいとして、あの女……アムネジア。悪魔のクセに悪魔を倒す為の指揮者を選別する大会に参加するなんて何を考えているの!?大会をメチャクチャにするつもりか!丁度いい、大会でわたしと当たれば、その正体をばらしてわたしの手で殺してやる!
そうすれば民衆も更に意思を高揚させ、益々大会も盛り上がるだろうしね』
と、リーンは浅はかで愚かな事を考えていた。
そしてもう一人、リーンは気がつかなかったが、竜神族代表としてある男がこの大会に参加していた。
彼は龍の角飾りが施された仮面を被り、まるで竜神族であるかのような姿はしているが、その正体は依然不明であった。
ただ、その黒髪だけが彼の見える身体的特徴といえよう。
―――――――――――――
大会も1戦、2戦と大会は進み、次の1戦が終われば昼になり、一旦長い休憩に入るという1戦。
一試合だいたい20分程で休憩を挟んで行われている。(注4)
「さあ、次の対戦カードはお~と、今は無き帝国領から、え、これ読んでいいんですか?分かりました。
帝国シード代表で出場、帝国一の剣士の娘にして黒騎士シズク・ベイモルド!
え~なお大会本部からのお報せですが、帝国は今はありませんが、上の許可があり、今大会では帝国と言う立場で参加可能だと言うことです。
そして対する相手は、おっとこれまた一般参加の優勝者にして、紅の戦士アムリタだ~。
彼女の剣技は今は無き、彼の王女を思わせる神速抜刀術です!
予選では再起不能者が続出!大変なことになったものです!」
景気の良い喋り口調のアナウンサーの会話の元大会は進められ、対戦する二人が巨大な闘技場の真ん中に設置された、少し高くなった石畳のステージで相対する。
『殺すなって言うから大変だったんだぞ!でも強い奴とやれるんだから我慢我慢』
アナウンサーの解説を聴きながらアムリタ、いやアムネジアは一人心で文句を言う。
そうして目の前に立つ黒いコートを羽織って、鳥の様な形の黒い鉄のマスクを被ったものを見る。
「アムリタ……何故あなたがその名前を……」
対戦相手の赤い髪、赤い瞳の少女を見つめ、シズクは呟く。
「あん?名前?知らね~よ。参加するなら名前を変えろってシーラが言うから、適当だよ。適当。
おっと、偽名の事は言うなって言ってたな…まあ、いいや」
だが、シズクはそんな話等聞いてはいなかった。
『どういうことだ!?この魔力……これは……』
シズクは来賓席にいるヒルケン・シュタインとドベルクを睨む。
「そうか、そういうことか……」
シズクは対戦相手であるアムネジアに背を向け、ステージから降りて来賓席に向かって歩を進める。
「お~と、もしもし。始めの合図はまだしていませんが基本的にステージから降りたら負けですよ。黒騎士、ステージに戻ってください」
「そうだぞ~戻れよ~やろ~よ~」
後ろでアナウンサーがやかましく、アムネジアが駄々っ子の様にシズクに話しかける。
だがそれを完全に無視してシズクはヒルケンらの前で、下の闘技場の位置から高い位置に設けられてある来賓席を睨み、仁王立ちする。
「何をしておる!早く戻らんか!」
ドベルクが立ち上がり、横に座る王子に代わりその意思を伝える。
「モーゲンルード!」
彼女の声と共に、シズクの背後に現れた闇から巨大な腕が伸びてヒルケンとドベルクを掴み上げる。
「どいうことだ?」
「離せ!一体何を言っておる」
ヒルケンが巨人の腕の中でもがきながら叫ぶ。
「私の妹は本当に生きていて、お前達の元にいるのだろうな?」
「あ、ああ今更何を!その通りだ!だからわたし達を離せ!」
「なら、聞くが。あそこにいるのは私の妹だ。いや正確には妹の魂を持ったものだ。
何故魂だけだ?私の妹、アムリタ・ベイモルドをどうした?」
青ざめる二人。
「だ、だからわたしは嘘はいけないって言ったんです。こうなる事は分かっていたのに。王子!あなたのせいですよ!」
「余か?馬鹿な!?あれはお前が言ったのだろうが!そうすれば帝国が復活すると!」
「わたしはそんな事言っておりません!」
その時、遅れて衛兵が現れてシズクを取り囲み、銃を向ける。
「その方達を離せ!」
「おお、兵ども!構わぬ」「やってしまえ!」
今まで争いを続けていた二人はこんな時だけ意気投合し、示し合わせたかのようなセリフを二人で言う。
ブシャ
「愚かな……」
何の躊躇もせずにシズクは二人を握りつぶした。
「かっ、かかれ!」
兵の指揮官と思しき男が兵達に命令する。
一斉にシズクに向かって銃を撃ち放つ兵達。
いつの間にか彼女の剣の鞘が宙に舞っている。
「人間共め」
キキキキキキン
赤い目が輝き、飛来する弾丸の全てを剣一つで逸らし、彼女の身体には1発の弾丸も当たらない。
彼女の背後から腕だけだった巨人が今その姿を現し、銃を放つ兵達をなぎ払う。
吹き飛ぶ兵達。
漆黒の巨人。背には彼女と同じく巨大で長すぎる長剣を背負っている。
シズクは持っている剣を上に向け、落ちてきた鞘がスルリとそれに収まる。
ここに来て、どうなることかと沈黙して見守っていた観客席が騒がしくなり、民衆が悲鳴を上げて逃げ惑い始める。
すぐに会場はパニックに陥る。
その喧騒の最中、シズクはステージに向かう。
ステージに上がると彼女はアムネジアを見つめ、手を差し伸べる。
「行こうアム。これからはお姉ちゃんが守ってあげる」
何が起こっているのかまったく分かっていないアムネジアだが、血の匂いをかいで興奮したのか、ワクワクとした目で、シズクに戦いを仕掛けようとした、その時。
シズクは剣の鞘を抜く間も無く、鞘の付いたその状態で上からの斬撃を受けきる。
リーンだった。
リーンは二人の来賓が殺されるのを見て固まる。
過去、悪魔に目の前で殺される人々を思い出す。
そして母を思い出す。
今、彼女は悪魔に向かってなんといった?『お姉ちゃんが守ってあげる』
理解するより先に体が動いた。
見ていた席より身を宙に投げ出し、出したる像で舞い上がった彼女は、神槍ロンギヌスをもって一挙にシズクに向かって突撃する。
二股になった槍を躱し、その間に鞘を差し込み受けられながらリーンは叫ぶ。
「悪魔が!よくもわたしの前で人間を殺したな!」
「それがどうした!!醜く愚かな人間共め!!」
―――――――――――
少し時間は遡る。
宿で兵に捕まってから2時間。
今アンブロシウスは王城の地下、頑丈な鉄の扉で出来た牢に閉じ込められていた。
「さて、そろそろ時間だな」
感覚だが時刻は正午に近づいている。
彼の閉じ込められている鉄の扉の向こうで足音がする。
ガチャ
扉を開けて一人の男が入ってくる。褐色の肌の成年、シン・シスだった。
「お待たせいたしました」
「いや、いい頃合だ」
俺は手錠の鍵を外してもらい、手首をさすりながら彼と共に牢を後にした。
(注1)
朝から男性のシャワーシーンですいません(笑)
(注2)
ヘルズは何故この部屋に事前に対悪魔用結界を仕掛けていたの?と思われるでしょうが、これより数話内で分かりますので今はご容赦ください。
(注3)
少年編参照ですかね。
(注4)
ごめんなさい。結局ストーリーに余り関係ないバトル端折っちゃいました(笑)




