誘惑
《武闘大会2日前》
俺は今教国の北の奥深くにある森林地帯にいる。
この近くに街などは無い。
高い木々の生えた深い森の中に、ポッカリと円状に開けた場所に俺はアマテラスに乗って仁王立ちで待ち構えていた。
何を待っているかというと魔人。
彼女らの誰かがここに現れ、俺の立つこの位置に大穴を開けるだろう。
俺は分かりやすいようにこの位置の木々を開いておいた。
一ヶ月間彼らに取り入り、彼らのしようとしていることのあらましを俺は目にする機会を得た。
まあ、単純にセーレに魔法の相談を持ちかけられ、いろいろ手を貸している内に彼女の部屋でこの計画のことが書かれた書類を目にしたのだ。
彼らの目的は地脈、龍脈とも言うが、俺の現在の力の源である大地の気。
これの要所に魔王の血を投じることによって暴走させ、あふれ出た強大なる魔力で魔法陣を作り、地球とのゲートを開こうというものだ。
どうやら俺自身感じたことだが、向こうの世界である地球には殆ど魔力といったものが無い。
大地の気も魔力ではなく、感じたのは霊力。
向こうの世界は魔力を行使する者達にとってかなり厳しい土地だった。
それでこちらの世界の大地の魔力を使って、あちらとのゲートを開こうと言うのだ。
魔王自身が来れば話は早いのだろうが、部下にさせているところを見るに、俺の撒いた種により魔王自身の意思統一が未だになされていないのだろう。
それは兎も角、彼らの計画を盗み見た結果、ここと後もう1箇所で魔法陣は完成することが分かった。
そしてその時期だが、彼らの魔法を完成させる最後の一箇所は明後日の正午、昼の満月の時に完成させるものと知ることが出来た。
今いる場所から3kmほど離れた森林上空にゲートが開き、そこからオレンジ色の巨人が紋章に乗って現れる。
オレンジ色の機体はアニーの巨人ジャンケルだ。
アニーの機体は人型であることは変らないが、特徴としては背中に六本の槍のようなものを生やしている。
アニーは転移やゲートの能力に長けている。
指揮はセーレ、そして魔法陣を作るための穴のほぼ8割はアニーが各地に転移して開けたものだ。
「来ました」
コクピット後部座席に座るアリスは俺に伝える。
「現在アマテラスの魔力残量1400万。敵2時方向より接近。距離2500」
だがアニーの機体はアリスが近づく距離を読み上げる前に凄まじいスピードで俺の前に飛来する。
「へ~僕達以外の巨人か。中に乗っているのは誰だ?巨人を操っているところから見ると魔人か?」
「俺が誰かは後で教えてやるよ。
それよりお前はロボットが好きな魔人アニーだろ?
俺のこの巨人アマテラスと戦ってみないか?」
「ハハ僕とやりあおうって言うのかい?」
「ああ、俺は酔狂な男なんでな。
それとこれは提案なんだが…、俺が勝ったらお前、俺の配下にならないか?」
「変った男だな。いいよ」
アッサリと拍子抜けするような返事が返ってくる。
「いいのか?理由も聞かなくて」
「いいよ。だって僕に勝てたらだろ?
誰に聞いたかは知らないが僕は確かにロボットや魔物同士の戦いが大好きだ。
でもね、特に好きなのはヒーロー気取りのお前の様な馬鹿を、大量の魔物や兵で囲んでその意思を踏みにじるのが大好きなんだよ!」
そういうとアニーは突然に魔法を唱える。
空より来たれ、我が僕達よ
【百万の軍星】
魔法の詠唱と同時に森を多い尽くしそうなほどの数のオレンジ色の星が空中に現れる。
ただそれだけであれば可愛いものだったが、その星の一つ一つが悪魔の形の鋼の巨人となり、俺を取り囲む様にして降り立つ。
恐らく魔力と鋼を使って作り出したる傀儡のようなものだろう。
見渡す限りの悪魔、悪魔、悪魔。
普通の人間であれば自分の命はもうとっくに尽きていると思うであろう悪魔に埋め尽くされた風景。
「物量作戦ね…。まあ、確かに間違っちゃいないな」
俺はアマテラスの中で拳を鳴らす。
同調しているのかアマテラスも同じように拳を鳴らす。
「俺はもう何も失わない為に…その為の力を手に入れた」
俺の脳裏にドワーフの地下帝国でのことが思い出される。
街を埋め尽くす悪魔。
姫が目の前にいると言うのに、悪魔に押さえつけられ身動き一つ出来ない自分。
脅迫され、魔力を差し出すことしか出来ない自分。
姫に手が届いたのに、助けられることしか出来なかった自分。
俺はアマテラスの手に圧縮し、収納していた魔槍斧ソドムを元の大きさに戻し、手に持つ。
手に持つ槍斧の刃先を地面に叩きつけ、アマテラスのマントを翻す。
「多対一?上等だよ。さあ、始めようか!!」
「ふん、口だけは威勢がいいけどね。やれ!」
アニーの命令で一斉に巨大な鋼の悪魔達が襲い掛かる。
俺は槍斧を横薙ぎにして、まずは目の前の数匹を両断する。
アマテラスで大地を踏みしめ、鋼の悪魔達の間を疾駆する。
走る俺に飛び掛るように四方から襲い掛かる鋼の悪魔達。
「オート魔法発動します!」
大地の楔よ、目覚めろ!
【暗黒の鉄槌】
アリスの美しい声により巨人に備え付けられた魔法動力炉が火を灯し、予め唱えてあった魔法に魔力を供給して解き放つ。(注1)
大地が黒い槍となって俺に襲い掛かる鋼の悪魔達の数十匹をを串刺しにする。
俺はアマテラスを駆り、目に付く鋼の悪魔達を次々と両断する。
機械であるからか、中からは黒いオイルのようなものが飛び散り、まるで鮮血を浴びたかのようにアマテラスは黒い液体でその身を染める。
我が血の契約により噛み砕け!
【絡み合う猟犬】
アリスも次々と魔法を発動する。
巨大な狼のような闇の犬がアマテラスのマントをはためかせる様にして背後から無数に現れ、辺りの鋼の悪魔を手当たり次第に食い散らかす。
俺はそれにより出来た道を巨大な槍斧をまるでヌンチャクのように回転させながら走り抜ける。
駆け抜ける側から、槍斧の範囲に入った鋼の悪魔達の首や腕が吹き飛んでいく。
その竜巻が通り過ぎたような俺が作った道を5体の悪魔が並走し、身体から棘のような物を俺に向かって飛ばしてくる。
俺は槍斧を止めてマントを闘牛士のように軽やかに振ると、アマテラスのマントが十数メートル程伸びてその機体を包み、飛んできた棘の弾丸を弾く。
「おおおおおおおおお」
オオオオオオオオオオ
俺の吠える声とアマテラスの吠える声が重なり、地面を蹴り跳躍する。
踏みしめられた地面が陥没し、俺は数十メートルの高さにまで跳躍する。
そしてその重量と落下スピードで、落下地点にいる悪魔達を次々と粉々に蹴り砕く。
「もっとだ!もっとかかってこい!!」
「甘いよ!」
魔法陣に乗ったジャンケルが俺の上空に現れ、その背から六本の槍が飛び立つ。
オレンジ色に光り輝く槍は俺を追尾しながら襲い掛かる。
魔力を込めた輝きを放つ槍は、おそらくアマテラスのマントですら防げまい。
俺は咄嗟に左横に飛んで避けようとする。
が、そこヘ隠れていたのか地面が突然巨大なアギトを開いた龍のような悪魔の姿に変り、俺はその口に捕らえられる。
アマテラスの装甲を突き破り引き裂こうとする強力な圧力が掛かる。
そしてアマテラスが受けるその痛みが俺にフィードバックする。
「まだだ!」
右手に持った魔槍斧ソドムでジャンケルの槍を弾き飛ばし、左手にもう一本の魔槍斧ゴモラを出現させ、龍の首を刈る。
「アリス!NO.24の大型魔法で一挙に行くぞ!」
「その魔法であれば魔力残量がほぼ0になりますがよろしいですか?」
「かまうな!やれ!」
「了解!ご主人様!」
アマテラスを中心に巨大な魔力の渦が大地より巻き起こる。
俺は地面に槍斧の柄を刺し、槍斧はまるでフラッグの様に地面に立つ。
大いなる大地よ、その本当の姿を我が前に現せ
【世界を覆う大樹】
大地より巨大な岩の樹が生え、俺の回りにいる悪魔達を巻き上げ、絡み採りながら上空に伸びていく。
「何!?」
ジャンケルはなんとかその触手を逃れ、上空に退避する。
大樹は俺の上空高くまで無数の悪魔を絡め取ったまま成長し続ける。
「滅っせよ!」
アマテラスに溜めた魔力はもうこの魔法を唱えるだけの魔力は無い。
巻き起こった魔力の渦は中に乗る俺に集まり、俺の髪が黒くなる。
全てのものを飲み込み喰らえ!
【暗黒の死滅星】
強大なる大地の魔法はブラックホールのように大樹ごと悪魔達を飲み込み超重力で全てのものを圧縮し、そして消滅する。
俺が悪魔達に向けて放った数々の強力な大地の魔法。
『俺が大地であり、大地が俺である』
俺は子供の頃に大地や風の精霊と契約できなかった。
精霊魔法は、精霊を魔力で使役、あるいはお願いして使うものだと思っていた。
だが、それは俺に関して言えば間違いだった。
認識すればよかったのだ。
俺が大地から魔力を得る時、俺は大地とリンクする。
大地は俺に語りかける。
『おまえは大地であり、風はおまえの従者なのだと』
俺は大地に選ばれ、そうしてこの地に転生したのかもしれない。
だから俺は認識する。願うのではなく、使うのではなく。
瞬きをするように、呼吸をするように、ただそうであると認識すればよかったのだ。
「さあ、アニー残るはお前だけだ!」
「フフ、何を言ってるんだい?誰があれで終わりだと言った?」
空より来たれ、我が僕達よ
【百万の軍星】
再び現れる悪魔の軍団。
「…そうかよ。いいだろう。とことんまでやってやるぜ!」
どれ程の時間が経ったろう……。
流石魔王の側近と言うべきか……。
「ばけ…ものめ」
ジャンケルは片膝を立て、俺の前に跪いている。
あたりはもう森というより荒野になっていた。
盛り上がった地面や岩が乱立し、見渡す限り木などというものは1本も残っていない大地。
地形すら変えてしまう程の魔法の数々。
尽きない無尽蔵の魔力。
「魔王……いや、これがヒーローの力だとでもいうのかよ!」
アニーの悲痛な叫び声が俺の耳に届く。
すでに槍を飛ばす魔力も、転移する力も失くしたのか、ジャンケルの槍は輝きを失い地面に落ちて刺さり、アニーは逃げることも出来ないでいる。
俺はそんなアニーに命令する。
「巨人から降りろ」
「嫌だ!まだ負けてない!僕は負けてなんかいない!」
「そうか……なら無理にでも降りてもらおうか」
開け!
【絶対王の空間】
「ここは?!」
現れた異空間に戸惑うアニーの声が響く。
『ここまで勝敗が決していれば自己暗示を使うまでもない』
「アニー、巨人から降りろ」
俺の命令に従い、アニーは巨人を亜空間に仕舞い、地面に降り立つ。
俺とアリスもアマテラスから降りる。
「さあ、約束どおり、俺の配下になれ!」
「嫌だ!」
「へえ、まだ抵抗できるだけの意志力があるか……。
仕方ないな。これは使いたくなかったが……。
なえらば目を瞑れ」
アニーは俺の言葉に従う。
「なんだ!何をするつもりだ!変な事をしたら許さないぞ!」
「馬鹿だな、何か勘違いしてないか?もう目を開けてもいいぞ」
「何だ?」とでも言うようにアニーは目を開ける。
アニーの目に入ったのは、絶対王の空間の石畳に乱立する剣や槍などではなく、プラモデルの山、山、山。
それも地球の日本が滅んだ今では手に入らないものばかり。
「こっ、このお宝の山は……。
すっごい!?嘘!?何これ!?」
今まで戦っていた敵である俺のことなど忘れ、そこらかしこでプラモデルを物色し始めるアニー。
「すごい、すっごいこのHG欲しかったんだ~。
あ、こっちのなんか限定生産の!?
あ~~~~!?」
さらに大きな声を上げ、目を輝かせるアニー。
「これ!?ワイバーンネメシス!?それも実物大フィギア!?
ああ、もう僕死んでもいい」
「こらこら、死んでどうする」
絶対王の空間では想像したものは現実になる。
アニーが欲しがっているものを用意するなど容易い事。
「聞いて驚け!そして喜べ!なんと今俺の配下になったなら、これらのプラモデルは全てお前のものだ!」
「えっ!?本当?」
「俺は嘘など言わない。全てお前のものだ。
どうだ?俺のものになるか?」
「うん。なる」
一瞬こけてしまいそうなぐらいアッサリとアニーは俺に篭絡された。
流石悪魔と言うべきか、自分の欲求にはまったく持って耐性が無い。
「あ、そういえばところであなたは誰?ご主人様とでも呼べばいいの?」
『こいつ、まだ俺がニーだと分からないのか?
ああ、そういえばまだ髪の毛が黒いままだな。
声も違うし、これじゃあ分からないか』
「呼び方はそうだな、ご主人様じゃアリウとかぶるし……うん、お兄ちゃんと呼びなさい!」
「分かったよ。お兄ちゃん!これからよろしくね!」
しかし…飴と鞭とはよく言ったものだ。
ああ、“鞭”で思い出した…嫌な過去。
俺は各地を巡ったこの1年で、立ち寄ったアソロの家の地下室で見た鞭や数々の妖しい道具など思い出してしまう……。
あの趣味さえなければいい女に育ったのにな、あいつ…。
気がつけば俺はその道具等を具現化してしまう。
『絶対王の空間を解くの忘れてた!?』
俺は慌てて空間を閉じるが鞭や道具は残ったままに…。
アリスがスタスタと俺の側に歩いてきて、木で出来た馬のようなものに掛けてあった鞭を手に取る。
「成程。ご主人様は普段そういう目でアニー様やブネ様を見ておられたのですね」
アニーはまるで怖い人を見るような目で俺を見て、アリスの後ろに隠れる。
「いや、待て待て!これは違う!」
「何が違うんですか?「俺のものになれ」だの「お兄ちゃん」と呼べだの……」
アリスの額に怒りマークが浮かび、背中から炎が立ち昇っているのが見える。
ピシリ
鞭を手の中で鳴らすアリス。
「お仕置きが必要のようですね!」
その後、俺がどうなったかはご想像にお任せします。
ただ「俺は結婚したら絶対アリスの尻に敷かれて生きているんだろうな…」と言う事が想像できるほど、俺の脳裏にこの日の出来事が刻み込まれたのは間違いなかった。
追記
「ああ、忘れるところだった。
アニー。魔王の血を俺に」
「いいけど、どうするの?」
アニーは素直に俺に魔王の血の入ったビンを渡す。
俺が手を翳すと、魔法も無しに大地に巨大な穴が開く。
底の見えない深遠の闇の穴の中に、俺はそのビンを投げ落とした。
(注1)
【オート魔法】
巨人は魔力を増幅しますが、それだけではなく、巨人を使って魔法を唱えれば巨人魔法になります。
巨人魔法は本来止まっているかのような巨人が使う魔法で詠唱してから発動まで魔力供給の受付時間が1年ととても長い変った呪文構成をしており、中に操縦者が乗って巨人呪文を高速詠唱しておけば、何時でも魔力さえ供給すれば発動します。
まあ、ある意味バグ技みたいなものですね。




