200万PV突破記念 外伝1
ユーロン王国
僕は今日発売のドワーフ特性モンスターフィギアを買いに行列に並んでいる。
限定販売ものを手にするには今日しかない。
朝一番から列に並ぶ。僕以外にも限定ものを手に入れようと数多くの人が並んでいる。
殆どが大人の男の人。
皆仕事はどうしたんだろう?
平日の朝から並ぶのは僕みたいな悪魔で仕事をしていないなら兎も角、大の大人なら今頃は畑や狩りにでも行くか、商売人なら店を開いている時間だ。
まあ、人のことはどうでもいい。一番でないのは気に入らないが、どうやら先等の男の人等は数日前から並んでいるらしいので、そこまでするつもりがない僕は仕方なく後ろに並ぶ。
並んで小一時間程が経ち、やっと店の裏口からドワーフが出てきて、今から販売を開始する為に店を開く旨を告げる。
そんな時だった、悪魔の耳を持つ僕の聴覚に、甲高い女性の悲鳴が入ったのは。
動き始めた行列に並びながらその声に耳を傾けていると、どうやら声からするに幼い少女が何やら大の大人達ともめているらしい。
時刻は朝の9時くらい。
この時間であれば街に人が溢れ、誰か気に留めて衛兵でも呼ぼう時間であるのに、彼女と大人との口論は一向に止まる事がない。
後10分、いや5分でもいいから待って欲しいのだが、どうやら口論が暴力に変ったらしく、少女が殴られたような音と、うめき声のようなものが聴こえた。
悪魔である僕が人のそれを放置したところで誰に咎められるわけでもなく、ましてや僕は小さい。
僕がその場に駆けつけて大人相手に獅子奮闘する等おかしな話である。
出来ないことはない。
むしろ出来ないわけがない。
僕は悪魔なのだから……。
助けに行く義理も何もあったものではないが、僕が良く見るアニメやアムネジアから借りた漫画のあるシーンを思い出す。
そう、大抵漫画やアニメではこういうシーンでは颯爽とヒーローが現れて、か弱い女性を守るものなのだ。
僕は悪魔、ヒーローとは対極に位置する存在だが、それ故か中途半端に少女を殴って悦に入るような小悪党共がなんだか許せない。
「ああ、もう仕方ない」
僕は折角取っていた持ち場を放棄して、周りの目も気にせずに転移する。
そう声のした場所に向かってだ。
僕の能力は少し他の悪魔と違っていて、転移を無作為の場所に出来る。
まあ、無作為と入っても今回のように音さえ聞こえれば、大体の方位や距離を測れるので簡単だ。
転移するとその先は街の外れにある倉庫街のようなところで、少女と男達がいる場所はそれも倉庫の中。
確かにこれでは人目に着くはずも無く、誰も彼女を助ける為に衛兵を呼んだりすることも、声を聴いて駆けつけることも出来ないだろう。
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「うお!?何だお前は!」
突然現れた僕を見て、男達がざわめく。
僕は気にせず男達を睨み上げ、取り合えず向上を述べる。
「僕の名はアニー。悪…いや正義の味方アニーだ!」
僕の後ろにいるであろう少女が息を呑むのが分かる。
安堵のというには程遠い、どちらかと言えば突然現れた「小さい少年のような格好をした少女」と僕のことを判断し、戸惑っているのだろう。
僕は気にせず男達に向かい、更に言葉を続ける。
「この小悪党共!このアニー様が来たからにはお前達等一瞬で殺してくれる」
「ダメ!」
何故か背後から僕の行動を否定する声が上げられる。
僕が振り向くとそこには7歳くらいの長いストレートの黒髪に、紫の瞳の処女が殴られたであろう頬を赤くして僕のことを睨んでいた。
「殺してはダメ!死ぬのって痛いのよ、苦しいのよ!殺すなんてダメ!」
青紫のビロードの様なドレスを着た少女。
服装からしてもどこかの貴族のお嬢様なのかもしれない。
言っていることは至極まともだが、それを言う相手を間違えている。
『僕は悪魔なんだぞ?』
痛みや苦しみを与える事に快楽を覚え、人間を苦しめることが悪魔のライフワークと言っても過言ではない。
そんな僕に痛みや苦しみを与えてはいけないって……。
まあ、正義の味方と名乗ってしまっている手前、自分が最初に口にしたことを否定することもしたくはない。
初志貫徹。
「ハアッ、仕方ない。
え~今のセリフは前言撤回いたします。
死なない程度に痛めつけて衛兵に突き出してやるから覚悟しろ!」
「おい、何か言ってるぞ?」「なんだ新手のお芝居か何かか?」「いや違うだろう、どう見てもネギがカモしょって来たって言うんだぜ、これ」「なる程、高く売れそうだな」
見るからに小悪党と思われる男達は口々に僕を見て不埒なことを述べる。
「瞬殺!」
『あ、殺すってまた言っちゃった』
【炎の星】
倉庫一面にオレンジ色の星が煌き、盗賊のような格好をした小悪党共を取り囲む。
次の瞬間目を開けていられないような光が倉庫の中で爆発的に膨れ上がり、黒髪の少女は目を閉じる。
目を開けると、そこには自分を誘拐してきた盗賊と思われる男達が、体中に星の痣を作って地面に倒れ、気絶している姿があった。
「すごい」
少女は殴られた時に手放してしまった、近くに落ちていた兎の人形を拾い上げると、僕の側に走り寄ってくる。
「大丈夫かい?」
「はい。痛みには慣れているんで、これくらいへっちゃらです」
黒髪の少女が微笑む。
晴れた頬が痛そうだが、彼女はそれでも痛みを訴えるでもなく、平気と言って笑う。
仕方なく治癒の魔法を掛けてあげる。
『まったく、人間にこのような事をしているところをブネにでも見られたら、それこそ何を言われるかわかったものではないよ』
少女はキョトンとしながらも自分が癒しの魔法を掛けてもらったのを知ってか、更に笑顔を倍にして、僕に微笑みかける。
「ありがとう。私はエンフェルミナ。親しいものはフエルって呼ぶの。アニー様もそう呼んでください」
エンフェルミナと名乗る少女が僕に親しみを込めて呼べと言う。
「いいかげんにっ…」
『いいかげんにしろ人間!僕は悪魔だ!』そう叫ぼうとした時、倉庫の扉が途轍もない音と共に切り裂かれ、光と共に美しいがお人形さんのような小さい金髪の少女が倉庫の中に飛び込んでくる。
僕やエンフェルミナよりも小さい。5歳くらいだろうか?
「フエル、大丈夫!」
突然飛び込んできた少女は、倒れている男達を足蹴にしながら僕の後ろに立つ少女に抱きつくような勢いで近づく。
おかげで僕は人間ではなく、悪魔であるとカミングアウトするタイミングを逃してしまった。
「ええ、大丈夫よリーン。私は大丈夫。それよりも聞いて聞いて、アニー様が私を助けてくれたの。
カッコ良かったのよ。光がパーとなってブワッてなって、そうしたら悪い人たちが全員倒れていたの」
それを聞いた金髪の少女が、僕の方を今気が付いたというように振り向く。
その瞳は金眼。なんか前にも小さな金色の目をした子供を見た気がする。
ニーもそうだし珍しい色ではないのかな?
あっ、思い出した…あの娘…そう、我らが魔王の身体を乗っ取った憎むべき娘も確か金色の目をしていた。
だが、目の前にいるのは明らかに幼い少女。
あの娘が生きていたなら10台は半ばであろう。
あの時ですらこの娘よりは大きかったのだから別人だろう。
「あの、本当になんとお礼を言ったらいいか」
金髪の少女は僕の側に近づいて立ち、可憐な仕草で僕を見つめる。
残念ながら余りに幼い為、僕がそれを見下ろす形になってしまう。
「いや、気にしなくていいよ。たまたま通りかかっただけだから」
人気の無い倉庫街の、それも倉庫の中にどうやってたまたま通りかかる事が出来るのかはなはだ疑問ではあるが、僕は仕方なくそう言う。
「兎に角何かお礼をしなければ気がすみません。どうかわたし達の屋敷に来ていただけませんか?」
「屋敷に?」
「はい、あっ申し送れました。わたしはリーン。リーン・マキシスと申します」
マキシス…流石に人間界のことに疎い悪魔と言ってもその名前ぐらいは聞いたことがある。
確か王国三大貴族の一人がその様な名前だった気がする。
「いや、別にお礼とかそういうのはいいんだ……、あーっ!」
忘れてた…限定販売……。
もう今更行っても遅いよな……。
『待てよ、三大貴族……』
「ねえ?お礼ってさ、フィギアとかでもいい?」
「はい?えと出来るものでしたら……」
「実は僕、今日は・・・」
どうやら何とかなるそうだ。
彼女、リーン曰くドワーフのとても偉いお方に知り合いがいるらしく、「そのようなもので良ければいくらでも用意させます」との事だった。
僕は躍りたくなる気持ちを抑え、仕方なく、そう仕方なく彼女達のお屋敷にお邪魔することにする。
『そう、これは助けたお礼等ではなく、人間やドワーフを僕の趣味の為に使役しているだけだ!』
そう、心に浮かんだブネの姿に胸を張って答えながら……。
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そうしてお邪魔することになったのだが、何故こんな事になっている……。
僕は今フリフリのリボンが沢山着いたスカートを履いている。
時間が少し遡る。
フエル(もうそう呼べとしつこし、本名だと長くて呼びにくいのでそう呼んでやっている)を助けたお礼にと屋敷に招待され、待たされること10分。
リーンはドワーフのところに急いで僕のフィギアを用意させに走り、フエルは病院で一応の検査を受けているそうだ。
その後はフエルも一応の事情聴取を受ける。
僕がそれを嫌がるとリーンがとりなしてくれて、そのおかげで事情聴取等は免れた。
そこに現れたのは屋敷の奥方様。
主人である当主は先程捕まえた盗賊の裏を当たるべく、今はお城で事情聴取等に忙しいそうだ。
追って後日お礼を言う為に会いたいと言っていたそうだ。
『だが、ごめんこうむる』
僕の目的はあくまでモンスターのフィギアのみ。
それも限定生産ワイバーンネメシスのフィギア。
それさえ手に入れればここにはもう用は無い。
ここには二度と来ることはないだろう。
そう思って我慢して待っていたのだが、僕の前にやってきたこの屋敷の奥方は、僕を見ると取り合えずフエルを助けたことの礼を言う。
そこまではいい、しかし話が長くなり、僕が面倒なのでぶっきらぼうな態度を示していると、
「あなたは可愛いい女の子なんだからもっとオシャレをしなくちゃダメよ。
女の子がそんな格好をして。家の息子もね、いつもそんな格好をして、本当に私がどんなに悲しかったか」
と訳の分からない事を言う始末。
息子なんだから男の格好をするのは当然だろう?それが悲しいのか?
「だけどね。最後はお母さんのいう事をちゃんと聞いてくれて、可愛い格好をしてくれたものよ?」
『えと、それはおかしいぞ?そうなってはもう息子じゃなくて息娘じゃないのか?』
僕はその後彼女の異様な迫力に負け、分けも分からず別の部屋に連れて行かれて着せ替え人形よろしく、いろいろな服を着せられた。
そして今着ている服はもう大きくなって入らなくなった息子さんのものらしいが……。
リボン付きのフリルのスカート……本当にこれを着ていたのかあなたの息子さんは……。
その男の子が今一体どんな大人に成長しているのか想像するのも怖いな……。
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[魔王城]
クシュン
「あれ?また風邪かな?おかしいな、最近疲れてるのかな?」
メイド姿で箒を持って掃除しながらくしゃみをするアンブロシウスであった。
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やっと助け舟が出たのはそれから1時間ほど立ってからだった。
リーンとフエルがそろって帰宅する。
「お母様!何をしてるんですか!彼女はフエルの命の恩人ですよ!」
命とまで重い話だったのか分からないが、兎も角僕は助かって安堵の息を漏らす。
「それで僕のフィギアは?」
「それが……ごめんなさいね。今急いで作らせてるのだけれどもう少し時間が掛かるそうなの。
在庫がないそうで……。
でも、明日には出来るそうだから、もし良かったら今日は泊まって行ってくれないかな?」
最後は少し砕けたような言葉遣いをして、僕はやっと彼女を幼い少女らしく感じられた。
「泊まってか……」
僕は考える。
「お家の方がダメって言うかな?」
「いや、家はそういうことには自由だからいいんだ」
実際悪魔達に横繋がりがさして強いものではなく、ましてや1日2日城を空けたからといって心配してくれるものなどいない。
僕が死んだからといって泣いてくれるものもいないだろう。
考えてみれば別に魔王城にすぐ帰らなければならない程計画の進行が遅くなっているわけではない。
1日や2日空けた所で、予定の日まではまだかなりの余裕がある。
それに出来るだけ早く手に入れたいとマニアたる心が叫ぶ。
「いいよ。よければ泊まらせてもらうよ」
「本当!?」「やった~」
何故か僕にその話を持ち掛けたリーンよりも、後ろにいたフエルが叫んで喜んでいる。
「本当にごめんなさいね。つい幼い息子が戻ってきたみたいで、私ったら……」
奥方様がリーンに叱られたこともあってか、僕に謝罪してくる。
「いえ、構いません」
僕は限定フィギアさえ手に入れば例えどんな仕打ちを受けようとも文句は無かった。
「さあさ、それでは晩御飯は豪勢なものにしましょうかね」
奥方の一声でその場はそれで幕を引いた。
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その日の晩。
僕はリーンのとても大きな部屋で、リーンとフエルに囲まれてベッドに寝転がっていた。
3人でお風呂に入り、寝間着も借りてしまった。
「これもお兄さんのもの?」
「ごめんなさいね。丁度いい寝間着が兄のものしかなくて……」
「いや、いいんだけど……」
なんで半透明のネグリジュ?胸が丸見えで少し恥ずかしいが、女の子ばかりだからいいか。
『本当に君のお兄さん、今どうしてるの?』
僕はそれ以上怖くて聞けなかった。
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[魔王城]
クシュンクシュン
「あれ?本格的に風邪かな?」
ピンクの女性用寝間着を着て、与えられた自室でブネのお人形の服を縫いながらくしゃみをするアンブロシウスであった。
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リーンのベッドは子供用ではなく、何故か大人サイズのそれもキングサイズのベッドで、3人でも余裕で寝ることが出来た。
寝るまでは本当に彼女達は五月蝿かった。
どうして女の子と言うのはこれ程口が回るのか理解できない。
適当に相槌をうってはいたが、僕のことを直接聞いてきたときには困った。
悪魔であることがばれてもし限定生産フィギアが手に入らなくなっては困る。
それで仕方なくとあるメイドと共に遠い国のお城で暮らしていて、こちらには転移で買い物に来ただけで、父や母等はいないと言う話までさせられた。
うん、嘘は言っていない。
いや、待てよ。悪魔なんだから嘘を言わなければいけないのか?
普段任務であるならばそれも厭わないが、こんなところで小さな子供達相手に嘘を言って何になる?それに面倒くさい、と思って素直に話してしまった。
フィギアやプラモの事なら一晩中でも語れるが、彼女らの話はあの口紅の色はどうとか、あのお洋服の色はどれと合うなどとか、まったく興味の無いことばかり。
僕は彼女らに途中まで付き合ったが、寝たふりをすることにした。
悪魔である僕は、食欲もそうだが睡眠も取る。
だが、それは3日に一回程度で済ましてしまえるほどの少ない時間で済む。
寝たふりはしたものの本当に寝ることはなく、彼女らが寝たふりをしている僕を気遣って一緒に寝てしまうまで、僕はそのままでいた。
「やっと寝たか」
僕は明日が待ちどうしくて仕方が無かった。
早くあれを持ち帰り、僕のコレクションと一緒に並べてジオラマを完成させたい。
タイトルはそうだな「ワイバーンネメシス率いるザ○部隊対ガ○ダム」と言ったところか……いや、それではそのまますぎるな。
あれでもな、これでもないと考えていると夜が明けていた。
次の日朝早くにリーンがドワーフのところに取りに行くと言う。
僕はお兄さんのものだと言う、やっとまともな男性用の服を借りることが出来た。
残念ながらこれ以上この屋敷で待つほど僕の神経は太くなかった。
それに1秒でも早く欲しいしね。
僕はリーンとの同行を申し入れる。
「じゃあ、一緒に行きましょう。そしてついでに街でショッピングね」
何故そうなる……。
「実は朝早くにお母様に遠いところから来ているアニーに街を案内したいって言ったら、「彼女はフエルの命の恩人なんだから好きなものを買ってあげなさい」ってすんごいお金を貰ったの。アニーが来てくれないと使えないのよね」
そういう事か。
「いいよ。フィギア貰ってからなら、少しくらいなら付き合うよ」
「そうこなくっちゃ」
「フエルも行く~!」
「ダメよあなたは。昨日の今日でしょう?」
「だって、昨日買い物に出掛けてまだ何も買ってないうちに攫われちゃったんだもん。それにアニーがいれば平気だよね~」
と言って僕の腕を取るフエル。
「お母様も何か言ってやってよ!フエルが一緒に行くって言うのよ!」
「あらあら、いいんじゃない?お父様もまだ帰ってこられないみたいだし、出掛けるなら今のうちよ?」
「お母様!」
「だってさ。さあ行きましょうアニー」
フエルは僕の腕を引っ張って外に出てしまう。
「もう!」
仕方が無いとリーンも渋々後を追ってくる。
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ユーロン王国の街中は、朝から喧騒もそこそこに騒がしい。
車が行きかい、空を見上げると宅配の乗り物も行き来している。
「さって、取り合えずアルブムの所ね」
アルブムとはドワーフのことを言っているのだろう。
僕はワクワクしながらリーンの後を着いていく。
何故か僕と腕組をして歩く上機嫌なフエル。
取り合えず真っ先にドワーフの処に向かってくれると思っていたのだが、リーン達は街の広場に来て、朝から開かれている様々なバザーや屋台を目にすると、フエルと共にそこらかしこで足を止め、朝ごはんをあんなに食べていたのに、「おやつだよ」といってもらったお金で次から次へと買い食いをし、アクセサリーの物色に始まって魔法具の売っているお店に立ち寄り、挙句は服や靴、鞄の店にまで足を伸ばし始める。
仕方なく付き合った僕が目的のドワーフの店に辿り着いたのは、結局お昼前だった。
「ふう、楽しかったわね~♪」「ね~♪」
二人は大満足と言う様子だ。
荷物が結構なものになっているが、リーンは途中の鞄のお店でわざわざ大きな袋まで買ってそれに詰め込んで持っている。
「フィギアっていうのもらったらお昼ご飯にしましょうか?」「賛成~」
「えっ!?まだ食べるの!?」
「だって成長期ですから!」「だよね~♪」
「もう、横に成長期迎えても知らないよ」
「大丈夫!内緒だけどね、もうじき大きな武術の大会があって、わたしもこの国の代表で出るの。
今のうちにエネルギー溜めとかないとね」
「へえ、すごいその歳で代表なんだ」
「ええ、といってもまだ代表は決まってないからあくまで予定なんだけどね」
『ダメじゃん』
と、僕は思わず突っ込みそうに成るのを押さえる。
さて、3日に一回ぐらいの食事で十分な僕は、これ以上食べたらボールみたいになっちゃうよ。
フィギアさえもらえたらその場で姿をくらまそうと思っていたときのこと。
大きな爆発音が街の上空で聞こえ、見上げると大きな飛行貨物船が煙と炎を上げているのが目に入った。
「大変!」
リーンは叫ぶと荷物を街の建物の側に置き、フエルに見ていてと頼む。
そうしている間にも飛行船は高度を落とし、街に向かって降下し始める。
いや、それどころか船首がこっちを向いているのを見るに、進路がどうやら今いるこの場所に向かって落ちてきているようだ。
「リーン!荷物を持って!こっちに来るから、ここから逃げるよ!」
「えっ!?」
リーンは僕の声で振り返り、空を見上げる。
「ダメよ。わたし達は逃げられてもこのまま堕ちたら沢山の人が死ぬ」
「でも、あんな大きいものどうにもできないよ?」
彼女は頭を振る。
「わたしの魔法で何とかしてみる。アニーはフエルを連れてここから逃げて!」
そういって彼女は軽く空に向かってジャンプをする。
一瞬、彼女の背後に翼を生やした女神像の様なものが見えた気がした。
軽くジャンプしただけなのに、彼女の身体はそのまま天高く舞い上がり、堕ちてくる巨大な炎の塊と化した飛行船と対峙するように空中で静止する。
「アニー…」
不安げな顔で僕を見つめるフエル。
僕は一瞬だけ迷う。
リーンや街を助ける方法はある。
だがそれを使えば僕は…そう僕が悪魔であることがばれて、フィギアを貰えなくなってしまうかもしれない……。
『どうする?』
いや、考えるまでも無かった。
どうせ彼女があの飛行船を止められずに倒れれば、飛行船はここに落ち、街だけでなくドワーフや僕のフィギアを巻き込んで爆発炎上するに違いない。
『それならあれを何とかしていつかまたフィギアをこっそり奪い取りにくればいい。僕の為に作ってもらったものなのだから』
「フエルはここにいて!僕はリーンを助けてくる!」
「アニー!?」
僕は駆け出す。
そして駆け出しながら、僕のは自身の巨人の名を叫ぶ。
「来い!ジャンケーール!!」
オオオオオオオオオオオオ
オレンジ色の光が僕の身体を包み込むようにして膨れ上がり、唸り声と共に背中に六本の巨大な槍を生やしたような巨人ジャンケルが現れる。
そして僕はジャンケルのコックピットで操縦桿を握っていた。
「飛べ!ジャンケル!!」
ジャンケルの足元にオレンジ色の魔法陣が展開し、その巨体を空高く飛翔させる。
「下がってリーン!」
僕がそうしてリーンと燃え上がる飛行船の間に入り込もうとしたときだった。
開け!
【私がすべての法律空間】
リーンの身体から虹色の光が円を描くように広がったと思うと、いつの間にか空は蛍光ピンクのような雲に覆われ、今まで街だった地面は色とりどりのビーズで埋め尽くされる。
虹色のシャボン玉がそこらかしこに浮かび、様々な形のガラスの彫像が森の木々のように生え、巨大なケーキやドーナツが空を飛びまわっている。
めまいを起こしそうな空間の中に、僕とリーン、そして燃え盛る飛行船が浮かんでいた。
「これは!?」
「あなたは一体!?」
一瞬、燃え盛る飛行船を忘れ、僕とリーンは巨人越しに見つめ合う。
ゴゴゴゴゴゴ
「取り合えずあれをなんとかする方が先だ!僕が受け止める!」
僕はそう言うと燃え盛る飛行船に向かって飛び、ジャンケルの両手を広げてその巨大な船体を受け止める。
「炎よ!消え去れ!」
背後でリーンのそのような声が聞こえたかと思うと、今まで燃えていた船の炎が一瞬で消え去る。
僕は飛行船を持ったままゆっくりとジャンケルを下降させ、ビーズの地面にその船体を横たえた。
僕が後ろを振り返ると、彼女は僕の機体の側に静かに降りてきた。
「アニー、あなた悪魔だったの?」
彼女の目は先程まで親愛で溢れた少女の目のそれではなく、険しい光に覆われている。
僕は巨人ジャンケルを亜空間に戻し、リーンの前に降り立つ。
「そうだよ。別に騙していたわけじゃない。聞かれなかったからね。わざわざ自分から言う事も無いだろう?」
僕はリーンを見上げる。
『見上げる?』
僕は改めてリーンの姿を見る。
そこには先程の少女ではなく、見た目15歳ほどの金色に輝く髪を靡かせ、険しい相貌で僕を睨む一人の女性がいた。
「その姿……お前!魔王の身体を奪った奴か!」
僕は身構える。
「姿を変えて僕の目を謀ろうとしていたのか!」
「何のこと?それより…わたしは悪魔を許さない。アニー、あなたが悪魔だと言うならわたしは……」
リーンはそう言うと何も無い空間から槍を取り出し、僕に向ける。
僕も慌ててそれに習って闇の中からオレンジ色の槍、魔槍ザダベクを取り出して構える。
彼女の金色の目の中には、僅かだが迷いが見える。
しかし、まったくぶれることの無い槍の穂先が僕を捕らえており、その立ち居振る舞いからもかなりの手練であることを僕は感じることが出来た。
『強い……』
何とか彼女の初手を躱し、僕は間合いを放さなければならない。
僕の腕前では彼女に勝ち目はなさそうだから、魔法戦に持ち込まなければ少し厳しい。
その時だ。
「ダメ!」
何処にいたのか、今まで居なかったはずのフエルが僕に背を向けるようにリーンとの槍の間にその身を割り込ませ、両手を大きく広げてリーンを睨む。
「アニーは私を助けてくれたのよ!悪魔なんかじゃないわ!悪魔はね、悪魔は私を食べることしかしない悪い奴なの!私を助けてなんかくれないわよ!」
そう言って彼女は涙を流し、嗚咽を上げ始める。
「フエル……」
リーンは槍を引き、それを先程と同じように何処かに仕舞い込むとフエルを抱きしめる。
「ええ、そうね。悪魔なんかここには居ないわ。あなたを食べる悪魔はもういないのよ」
そう言ってフエルの頭を撫でるリーンは、姿形の神々しさも相まって、まるで本当に天使のように僕の目には見えた。
憎むべき天使の姿に……。
僕は槍を闇の中に仕舞い、背を向ける。
『僕の役目はこんな所で戦い合うことではない。もうこれ以上ここに用は無い』
僕は転移を使い、この馬鹿げた吐き気のする空間からその姿を消した。
後日談
捕まった盗賊の男達が知っている情報だけだが、どうやら今回の一連の事件はフエルではなくリーンを狙ったものだった。
もしかしたら内密であり、一部の関係者しか知らないが武闘大会に出場する可能性の高いリーンを事前に亡き者にしようとしたのかもしれない。
フエルはリーンの屋敷から出てきたので勘違いで誘拐されただけだった。
男達はあの屋敷に住む一人娘とだけ聞いており、リーンの容姿等を聞いていなかったために勘違いしたそうだ。
「まったく、一体誰なんだろうな。奴らに命令したものは顔も見せなかったというし、落ちてきた飛行船には誰も乗っていないし、これ以上は追跡しようが無いかの」
お父様はわたしにそれまでの経緯を話してくれるが、事件が行き詰まったことを最後にもらす。
だが、わたしはもうそんなことはどうでもよかった。
取り合えずフエルが狙われているわけではないことさえ分かれば、狙われているのがわたしであれば何とでもなるしね。
わたしはお父様に礼を言うと、自室に戻る。
ベッドに身を投げ出し、天井を見上げてアニーのことを思い出す。
「悪魔ってあんな子もいるんだ……」
3人で仲良く一晩を過ごしたベッドで、まだ彼女の温もりのようなものを感じてしまうリーンであった。
そうしてリーンのベッドの枕元には、アニーに渡せなかったワイバーンネメシスのフィギアが、窓から刺す日の光の中雄雄しくその翼を広げて見せていた。




