明かされる真実
「ばあちゃん!」
ここはニューヨーク、梓姉の部屋。
体調の優れない梓姉に肩を貸しながら部屋に戻ると、何故か部屋の鍵が開いており、警戒して中に入るとそこには一人の着物を着た白い髪の少女がクッションの上に正座していた。
「……これが、あの?
っておい、それ言ったらダメだって言ったの梓姉だろ!」
「あっ!?」
「ま・ゐ(い)・こ姉さんじゃろ?」
こちらを睨みつける少女の凄まじい眼力が目に見える圧力となって体を押したように感じる。
「ははー」
何故か俺も一緒になってフロアの床に土下座する。
しかし体調のバランスくずした梓姉はそのまま帰らぬ人に、いや冗談です。
土下座したまま気を失いました。
仕方なく俺は彼女を抱いて寝室に寝かし付けに行く。
何故かまゐこと呼ばれた少女のようなばあさんが俺の後を着いて寝室に入ってくる。
「どうやら懸念したとおり、一族の力が目覚めつつあるようじゃの」
「あれ?そう言えば北海道に住んでたって聞いたけど、日本は滅んだんじゃ無かったのか?」
「フフ、悪魔如きが我の掛けた結界看破し、我が里を見つけることなど出来んよ」
そう言ってまゐこばあさんは寝かしつけた梓姉の枕元に座り込む。
「それにしても、にゅーよーくというところは初めてじゃが、高い建物ばかりじゃの。我が里は2階建てというものすらないから目が回るわ」
『似ている……』
確かにおばあちゃんと言うだけあって、いや若い事もあって梓姉ととても顔立ちが似ている。
いっそ妹といったほうがしっくりくるかもしれない。
髪の毛が白いのが気にはなるところだが。
「最近、この娘は魔力を浴びたりすることが無かったかえ?」
「魔力?あっ!」
「思い当たる節があるようじゃな」
そう言えばこっち来て早々彼女にファミリアーを掛けて、魔力を付与している。
きっとそれのことだろう。
「魔力を浴びたおかげで、一挙に我の血が覚醒したのじゃろう。おかげで魂がバラバラに成りそうな状態になり、その痛みでこれでは息をするのもしんどかろう」
「そんなに酷い状態なのか?」
「うむ、処置を施すにも精神がこれ程消耗していては無理じゃの。これでは持って後半日というところかの。
せめて痛みだけでも誰か引き受けてくれるものがいれば、精神を休ませて何とかなろうがの」
「魂の痛みって引き受けられるものなのか?」
「我ならできるがの」
「俺が引き受けた」
俺は即答する。
まゐこばあさんは俺を見て、
「あかの他人の、それも魂を引き裂くような痛みじゃぞ?
お主に到底絶えられるとは思えんがの?」
「やってくれ」
「むう、痛みで死ぬこともあるのじゃぞ?
それでもお主はやるというのかえ?」
「いいから早くしろ!」
俺は1分1秒でも彼女が楽になるのならそれに越したことはないとばあさんを急かす。
痛みが何だと言うのだ。俺は黒龍王だぞ。
怪我をするわけでもあるまいし耐えて見せるさ。
「仕方ないの~どうなっても知らんぞ?」
ばあさんはそう言うと梓姉を寝かしたベッドの枕元から降り、隠していたのであろう本当の姿を俺の前に晒す。
「九尾の狐!?」
そう、見ている目の前で彼女の頭からは白い狐の耳が生え、着物の裾からは同じく白い九本の尻尾が生えてくる。
「それでは移すぞ?」
彼女はそういうと尻尾の1本が梓姉に、そしてもう1本が俺に触れる。
ドン
もの凄い衝撃を伴った痛みが俺を襲う。
この体になって悪魔の攻撃でも傷一つつかなかった俺だが、そんな俺が初めて受ける痛みというもの。
途轍もない強烈な痛み。
正しく魂というものがあるならば引きちぎれそうだ。
俺はそれでも涼しげな顔を崩さず、静かに冷や汗を流す。
「本当に大丈夫なのかえ?」
「ん?なんの事だ?それより早く梓姉を治療しろよ」
「まあ、待て。先程も言ったが、この娘の精神が回復してからじゃ。
そうじゃの、せめて6時間は回復するまで掛かるかの」
『6時間……それまで待てるのか?俺。
それにしてもよくこんな痛みを抱えたままダンスなんてしてられるもんだな。馬鹿だな梓姉は……』
「そうか……。そういえば来客だと言うのにお茶も出していなかったな。入れてくるわ」
俺は部屋を出て行こうとする。
「我慢強いの~」
「なんてこた~ない。俺はこれ以上の痛みを一ヶ月くらい我慢してた事もあるんでな」
「過去は過去。今の痛みを和らげるものでもないだろうに……。まあ流石婿殿といったところか」
「ん?今何か変な単語でなかったか?」
「気のせいじゃ」
6時間も待つのだから俺とばあさんは寝室を引き上げ、居間でお茶とお茶菓子を出して二人で啜る。
「で、そう言えばお主、過去に戻るのだろう?」
俺は愕然とする。
「なっ、何でそれを!?」
俺はそれを誰にも言っていない。
その事を知っているのは“俺”だけのはず。
そう、俺がこの世界、地球に来た最大の目的。
それは過去の地球に行くこと。
絶対王の空間でも出来ないことがある。それは過去に戻ること。
空間にある物質を過去の状態に戻すことは出来る。
だが絶対王の空間自体を過去に戻せば、歴史の浅い空間自体が消滅する。
そのままの状態を維持しながら過去に戻る?
それは無理だ。
俺自身が時間の概念を理解している限り出来ない相談だ。
時間は過去には進まない。当然のことだ。
想像を実現する為に、想像できてしまうことを覆すことが出来ない絶対王の空間。
思ったよりも規制が激しい部分がある。
確かに時間についての概念を忘れれば出来る。
しかしそうしてしまうと、今度は時間を戻ると言う意味自体を忘れてしまって戻ることが出来ない、というジレンマに陥ってしまう。
時間が過去に戻るものであると言う認識もダメだ。
それでは常に過去に戻り続けてしまうことになる。
これは一種の絶対王の空間が持つ弱点と言ってもいいかもしれない。
まあ他にもあるのだが……。
「その時にはあの娘も連れて行け」
「だが……」
「それが運命」
「分かった」
時間を遡る。
それは一体なんの為に?
当然悪魔ディアブロ、つまりジローである俺が受けて忘れてしまった契約の記憶を取り戻しに行く為だ。
時間を遡ると言うのは単純なものではない。
絶対王の空間で時間を早めたり遅くしたりするのは簡単だが、普通に世界の時間を遡ると言うのは、寄 せてくる波に乗るかの如く、押してきた現在にある時間の波が引くときにその波に乗り、丁度いい場所で降りるというような行為。
つまり丁度今から俺が生まれた頃ぐらいに戻らねばならないが、上手くその時間で降りれるかは運しだい。
一歩間違えば人類発祥の時代にまで遡るという可能性もある。
まあ、そこまでは無いにしても兎に角かなり危険だ。
戻って来るのは絶対王の空間で空間の中の時間だけ数万倍にでも早くすれば可能だろうが、当然中にいる人間は通常時間の数万倍生きていなければならない。
寄せる波に乗ればまたとんでもない時間に、つまり未来に行ってしまっては元もこもないので、丁度いい時間に戻る手段は今の俺にはこれしかないのだが……。
これには一つ難点がある。
そう普通の人間では寿命が尽きてしまうのだ。
だがその為のこの身体。
俺は何としても“今の”アンブロシウスに契約の内容を伝えなければならない。
そうして過去に行って戻ってこれるであろう最強の遺伝子。
だから龍のそれをこの身体に宿したのだ。
この身体にはほぼ寿命と言うものがない。
まったく無いわけではないが、エターニャのじいさんを見る限り、数千年ぐらいは楽に生きられる。
問題は梓姉。
よく考えれば連れて行くことは出来ないことはないが、戻ってくる時に生きていられるのだろうか。
まず無理だろう……。
俺は今一度まゐこばあさんにその事を話して聞いてみる。
内容を話すと……笑われた。
「あの娘は私の血を引くのじゃぞ?
それもあれ程濃く顕著に受け次いでいるのも珍しいくらいじゃ。
あの娘なら数千年どころか、数万年は生きるかも知れんな」
「数万年ですか……」
なんか桁が違う。
「安心したよ。それなら一緒に行ってもいいだろう」
『まあ、起きたら彼女の意見も聞かなければならないがな』
「それにしても数万年ってあなたは一体「何者か、かえ?」」
「いえ、幾つなんですか?」
スパコン
俺は近くに在ったスリッパで頭を殴られる。
「女性に歳は聞くものではないぞ!」
『女性って……なんか聞いたら既にミイラを超えた年齢に見えてくる』
「さて、それにしても暇じゃな。
少し婿殿の相手でもしておるかな?久しぶりじゃし……。」
そういうとばあさんは立ち上がり、着物を脱ぎ出す。
ああ、言い忘れていたが正座しにくいのか狐の尻尾と耳はこの部屋に来る前に仕舞ってある。
ばあさん、いや彼女の髪の毛よりも白い肌が露になる。
「おい、服を脱いで何をするつもりだ?」
「え?何って…“なに”をするつもりじゃが?」
『ああ、間違いなくあんたは梓姉の血族だ』
「あんたの一族は色情魔の一族なのか?」
俺は思ったことを口にしてしまう。
「愚か者!!我らは由緒正しい人霊の星の民ぞ!」
「へ?人霊の星?宇宙人なの?」
「まあ、そうとも言うな」
「妖怪じゃなかったの?」
「お主には一回きちんと話し合わねばならないようだな。
こんな麗しの乙女を前にして妖怪とは…。
まあ、お前ら人にとっては、いや、魔力を持ってるならお主は天地の星の民じゃな?」
「天地の民??」
なんだか意味が分からない単語ばかりだ。
そんなことどの本にも載ってなかったぞ?タブン。
「そこからか?
ん~長くなるな、仕方ない」
前も言ったがニューヨークの冬は寒い。
このマンションは適温を保つような空調システム設定のある建物だが、各部屋の温度調整も出来るが今はしていないので、少し肌寒い。
彼女は着物を着なおす。
「まあ丁度いい。時間もあるしの。話してやろうかの。
いやお主は聞かねばならないかも知れぬな。
そういう気がするのじゃ。
運命とでもいうかな?久しぶりじゃな、この感覚」
俺は冷めてしまったお茶と、お茶菓子が無くなってしまったので新しいものを用意する。
「そうじゃな。何処から話し始めるか……。
取り合えずこの銀河には六つの民が住んでおる」
「はっ!?銀河!?そんなに広大な話なの!?」
「ええい、始めから話の腰を折る出ない!」
「はあ、すみません」
「兎に角、六つじゃ。まあそれ以外にも色々おるが大別して六と言っておく。
その民とは……」
彼女の話をまとめるとこうなる。
地の民=天地の星に住まうもの
人の民=地球(地人の星)に住まうもの
霊の民=人霊の星に住まうもの
冥の民=霊冥の星に住まうもの
神の民=冥神の星に住まうもの
天の民=神天の星に住まうもの
そしてその星が丁度この銀河に六芒星を描くように配置され、中央には高天ヶ原というものがあるらしい。
そして驚くべき事に、各それぞれの星には同じように月があり、それは星々を結ぶゲートになっているらしい。
そして話は悪魔の話まで言及することになる。
悪魔、いや魔人であり魔王ディアブロスは、もともとは天の民だったと言う。
それが反乱の罪で地の星に仲間と共に堕ちて地の人となり、それだけであれば罪人の星となった当時人と呼べるものが誰も住んでいなかった天地の星で平和に暮らしていたものを、天の民の一人、彼女が言うところの「馬鹿な天の民の男」がやらかした実験のおかげで、聖書等に記述のある醜い悪魔にされ、野にいる獣のようにされて地の底に追いやられる。
元の体を取り戻しつつある今の状態(魔人状態)が本来の姿に近いものだと言う。
知ってしまった悪魔達(地の民であり、元は天の民)の新事実。
おそらく力を持ち、理性を失わなかった魔人達だけがその事実を知っているのであろう。
そして今の天地の星に住む民は正確にはその馬鹿な男が連れて来た人の民が長い年月の末、天地の星の影響を受けて魔力を持ったものらしい。
つまり純粋な地の民ではない……乗っ取られたと言っても過言ではないな。
『それでか……』
だから魔王や悪魔は今の地の民や人の民(地球人ね)を憎み、さらに恐らく最後の狙いは天を滅ぼそうとしているのか?タブンそんなところだろうな。
『しかし……おい、俺。こんな話聞いていいのか?
エンシェント・ワンはこのことを知っているのか?
いや、落ち着け俺。
兎に角俺には使命がある。
それを果たして帰らねば、例えこの情報を持って帰ったとしても俺は許されないだろう。
あの人はそういう人…いや、お方だ』
「実は、我もその点は奴に誤らなければならない。
騙されていたとはいえ、その技術を発見、開発したのは我なのだからな」
「なんですと?」
もう、頭がパニック状態で意味不明な発音をしてしまう。
「当時若かったのでな、高名心と探究心それに科学者としての追及心を抑えられず、それがどういう使われ方をするのか考えずに開発してしまった……」
「取り合えず」
俺は一呼吸置き、彼女を指差す。
「あんたか!?全てあんたのせいなのか!?」
「指を刺すな!その行為は目上の者に対してかなり失礼に当たるのじゃぞ!だいたい我の作り出した「緑の流星群」と呼ばれる隕石は落ちた星の進化を促すと言うものだ!
まあ、ハズだったのじゃが、まさか地の民に落としたら悪魔になるなんてな……。
元々神力を持っていて、失って魔力を得た民じゃからな~そこら辺りが原因なんじゃろうが、如何せんサンプルや実験をしないとな~なんとも……。
昔チラッと一人で人の民と呼べるものが住んでいなかったこの星に落としたら恐ろしい勢いで進化したものじゃが…」
あ~ちなみに月の凸凹のいくつかはその時にできたらしい。
そういえばこっちも向こうも月が凸凹だらけだったな。
それって、よく考えたらあなたはある意味この星の神様ですか?もしかして人類の母……。
「ハハ(母)ー」
何故か再び俺はフロアの床に土下座する。
ああ、逆らえませぬ、恐れ多くて目も見れませぬ。
「さて、ということで話はこれぐらいにして“やる”かの?」
おもむろに着物を脱ぎ出す神様……。
「なんでそうなるんだよ!恐れ多くて手なんか出せるか!」
「そういうなよ。こう見えても心はまだ少女じゃ!」
心が少女だろうがなんだろうが無理です…。
「だいたいその幼女体形で何ができるんですか?」
「ん?最近は幼い身体がモテルと聞いたのじゃが…違ったか?」
「一体どこでその情報を得たんですか?」
人の話なんか聞いちゃいないのか彼女は無視して話し出す。
「ならこれならいいのかの?」
ものすごくスレンダーでありながら、出るところは出ているご立派でふくよかな女性になられる。
「眼福眼福。じゃなくって、そういう問題じゃな~~い!」




