武闘大会
《武闘大会》
教国開催で行われることになったこの報せが、世界中に伝達されたのは約半月ほど前、これによると世界中で被害を出している悪魔達を倒す為、世界中のあらゆる種族や国から代表を選んで排出し、また、腕に憶えのあるものが皆参加でき、この大会に出場。
そして優勝した後は、優勝したものに教国の最大の対悪魔用の秘宝が与えられ、選ばれたものの種族か国を中心とした悪魔退治の一大統一軍が編成されるというもの。
もし国や種族を持たないものが優勝したのならば軍の指揮は多種族連合が総括することになる。
最後まで難色を示していた竜神族もこれに賛同し、とうとう実現することになった。
そして大陸最大の王国より王を含む重臣達が選んだ代表は、残念ながら王国で一番悪魔を憎むリーンではなく、無事生還を果たしたアンブロシウス・マキススだった。
そして急遽、アンブロシウスに嫌がるリーンより通信が届き、アンブロシウスは帰還を余儀なくされる。
そして当のリーンはというと……。
「納得できません!国を捨ててどこかに雲隠れしていて、最近でも何処にいるかも分からないような男、いえ兄様が王国の代表だなんて!」
彼女は多種族連合の自室で、師匠であるヘルズを前に声を荒げる。
シュバルツは用事があると、堪っていた年休を使い今は故郷に帰っている。
ここにはリーンとヘルズのみ。
リーンは堪り放題の書類は帰ってきてからシュバルツにさせる為、係りのものに言い書類は別の部屋に山済みとなっている。
少しでも書類を捌かせばいいのだが、今はそれ所ではないと、リーンは仕事を碌にせず、ヘルズを呼び出しては今回の件について堪り堪ったウップンを聞いてもらっている有様だ。
「なんで突然戻ってきた兄が選ばれて、これまでもこの前も王国の為、世界の平和の為に多種族連合のトップで頑張っているわたしが選ばれないんですか!」
『それに教国の秘宝の巨人。兄様は自分の機体を持っているじゃない!』
教国の秘宝が何であるかを事前にヘルズから聴いていたリーンの怒りは、更に王国代表に選ばれた自分の兄、アンブロシウスに向けられる。
「それに今なら例え巨人に乗っていようと、わたしはお兄様より強い!あの能力がある限りわたしは無敵なのに!」(注1)
師匠はそんなわたしの心境を察してか、とても嬉しい夢のような提案をしてくる。
「そんなに出たいのなら、あなたが出る方法が無いわけではありません」
「本当ですか師匠」
捨てる神あれば拾う神ありとはこのようなことを言うのであろうか。
「ええ。但しあなたが王国ではなく、教国代表としてで出場するならば、ですが……」
師匠の提案は少し突拍子も無いもので、しばし躊躇ってしまう。
しかしわたしの意志が固まるのにそれ程の時間は掛からなかった。
「教国……なんでもいいです!兎に角大会に出たいんですわたし!」
そしてリーンは握りこぶしを作ると目の前にいるヘルズに向かって突き出す。
「わたしが必ず優勝します!」
「分かりました。手配しましょう」
ヘルズはリーンのその言葉を聴き、二の句も言わずに即答する。
「ところで師匠。なんで教国なんですか?
わたし教国なんてあまり行ったこともないのに、突然代表になんてなれるんですか?」
「なれますよ。なにせ現在の教国の大会代表は私ですからね。
師匠が弟子にその立場を譲る。ただそれだけですから」
「えっ!?師匠が代表!?そんな勝手いいんですか?」
「ええ、かまいません。教国で私に意見できるのは教主ぐらいですからね」
『教主だけって……師匠っていったい何者?』
リーンは取り合えず代表になれるのならもう何でもいいと、それ以上このことについて言及することは無かった。
「待ってろよ悪魔共、わたしが必ずお前達を倒すんだから!」(注2)
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ヘルズは今、内心笑いが止まらない状態だった。
『これほどまで上手くいくとは……』
実はヘルズは王国代表にリーンが選ばれるのではと危惧していた。
それがリーンではなく選ばれたのは彼女の兄のアンブロシウス。
帰って来たのを知った時には、邪魔な存在なので消してしまおうかとも思ったものだが、実際暗殺者も差し向けもしたが、今となっては結果は万事良好。
運命の神というものがいるのならば、どうやらヘルズに微笑んでいるらしい。
それに教国代表となるといえば少しはなんらかの反論があるかと思ったのだが……。
『我が弟子ながら…考えすぎでした』
(注1)
言い忘れていましたがリーンの背丈も外見もすでに前の姿に戻っています。
戻るきっかけは200万PV記念の外伝でお話します。
(注2)
リーンの頭の中ではすでに自分が優勝していて、悪魔と戦っています。
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ここは元帝国王城、今は王国の属国の一領である城の地下牢。
それも王族のみが入れる、封印されし隠し扉の向こう側。
そこには今二人の男と鎖に繋がれた一人の少女が薄暗い牢の中で向かい合っていた。
鎖に繋がれた長い黒髪の少女。その瞳は赤い。
「ふん、まだ生きておったか、汚らわしい悪魔の血を引くものめ!」
今声を発したのはこの国の元王子、ヒルケン・シュタイン。
鎖に繋がれた少女は目の前に立つ二人の男達を睨み、その目には憎しみを超えた凶気すら宿っている。
暗闇の中で赤い瞳が妖しげに光る。
「その様な目をまだ向ける力があるか。だがな、お前の妹がどうなってもいいのか?」
元王子は笑う。
その言葉を受けて少女はうな垂れ、目を逸らす。
しかし下を向いた少女から、掠れたような小さな声が聞こえる。
「コロシテヤル」
「あん?なんだって?」
馬鹿にしたような声で王子が聞き返す。
「妹に手を出してみろ!必ずお前達を殺してやるぞ!」
「黙れこの悪魔ごときが!誰に向かってものを言っている!」
王子は怒りに任せて鎖に繋がれ動けずにいる少女を手加減もせずに蹴りまくる。
体中に青痣をつくり、切れた口や額から血を流しながらも男達を睨みつける少女。
「おい、ドベルク!ナイフをよこせ!こいつのこの生意気な悪魔の目をえぐってやる」
ドベルクと呼ばれたのはこの帝国の元宰相。
ドベルクは肩をすくめ、怒り狂う王子を諌める。
「そこまでになさってください、王子。
こ奴にはやってもらわねばならないことがあります故。
目を潰してしまっては目的に支障が出ます」
「ふん。女、光栄に思うんだな。お前のような悪魔でも私達の役に立てる機会が来たぞ。
ありがたく思え」
王子はそれだけ言うと汚らしいものでも見るような目を少女に投げかけ、宰相の後ろに下がる。
これ以上近くにいたら凶事が起こるとでも言うように……。
「お前が自由になる機会を与えよう。いや、そうだな、お前の妹を助けてやろう」
「本当か?」
「ああ、それには私達のこれから言う事を聞いてもらわねばならん」
「なんだ、私に何をしろという?靴を舐めろとでもいうのか?」
「そんな事ではない。
お前は知らないだろうがもうじき外の世界では、教国に世界中から猛者が集まって武闘大会というものが開かれる。
お前がすることはその大会に旧帝国領、いや帝国代表として出て優勝することだ」
「そんなことでいいのか?」
「ほう、自身ありげだな」
「当たり前だ。私を誰だと思っている」
「よかろう。もしその大会で優勝したあかつきにはお前の妹、強いては御取り潰しになったお前の家を再興してやろう。
悪い話でもあるまい」
「家等どうでもいい。妹を自由にしてくれ。そうすれば私はどうなってもかまわない」
「クク、ああ自由にしてやるとも。その代わり裏切る等した時には……」
「分かっている……」
それだけを言うと二人は用意があると少女をそのままに地下牢から去っていった。
――――――――――
「おい、本当にあいつを使い、悪魔を倒す軍の主導権を我が帝国が手に入れれば、帝国復活の賭け橋になるのだろうな?」
「はい王子。軍の主導権を手に入れられればこちらのもの。
その為にもまずは大会で優勝せねばなりません。それにはあいつの力が必要です」
「しかしいいのか?王国に隠し通していた帝国の”あの秘宝”まで持ち出して……。
本当にあいつに渡すのか?」
「あれですか。
あれは悪魔の血を引き、強大な魔力を持ったかの一族のみが使えるものですからな。
どうせ他のものでは使えませぬ。我らが隠し持っていても宝の持ち腐れ。
王子の血で封印を解き、あ奴に与えれば間違いなく我が国に優勝を齎すでしょう」
「そうかヒヒヒ、それにしても妹とはな。お前に言われて口にしたが、もうあれの妹なぞとっくの昔にこの世にはいまいが」
「ハハハハ嘘も方便と申しましてな。何処かに捕まって白刃を当てられていると思えば下手なこともしますまい。
それに優勝して我が帝国が軍を率いる権利さえ手中にすれば、あの者にはもう用はありませぬ」
「ヒヒヒ違いない」
二人の高らかな笑いが寂れて埃の積もった古城に響き渡るのであった。
――――――――――――――
「ということでお暇を頂きたいのですが」
「何が「ということ」なのですか?きちんと説明なさい」
俺は今、セーレの部屋に来ている。
武闘大会に出る為には、ここでのメイドをしながら、という訳にも行かない。
いくら分身が使えても、流石にメイドをさせる為に「完全なる分身」を創る気にはなれない。
『さて、何と言い訳しようかな……』




