魔王城の日常
女性ばかりの悪魔の花園にきて早1ヶ月余りが過ぎました。
この1ヶ月で掃除、洗濯、料理の全てを一人でもこなせるようになり、アリス先生からも及第点をもらえるようになりました。
洗濯は別にして、和食だけの料理ではレパートリーが私の場合持たなくて、結局こちらの料理をアリス先生に教わることになりました。
掃除に至っては身体強化をフルに使うことにより、アリス先生が一度完璧に綺麗にしてくれた魔王城の清潔さをなんとか維持しています。
【アムネジア様の部屋】
え?アリス先生は何をしているかってそれは今や毎日の日課になったこの部屋の主との格闘が行われています。
その後はお決まりの彼女の淑女としてのレッスンが始まります。
取り合えず1日の始まりはこの部屋の掃除からです。
『なんだろう本当にこの部屋の汚さは…』
「どうやったら1日でこんなに部屋を汚せるんですか!このグータラ馬鹿娘は!」
アリス先生が腰に手をあて、ばら撒かれたお菓子とマンガにかこまれた部屋で、下着一枚で寝転がっているアムネジア様を叱り付ける。
「汚れるものは汚れるし、散らかるものは散らかるんだよ」
馬鹿なアムネジア様は何時もの如く全く反省の色も無く、寝転がったままアリス先生に反論します。
『あらら、黙って片付ければいいのに……』
ゴゴゴゴ(注:アリスの怒りの音です)
「いいんですか?ニー様に言って毎日ニンジン料理でも」
「ごめんなさい」
寝転がり状態から飛び起きて土下座するアムネジア様。
ピーマンに始まって、ニンジンや玉ネギを使った料理など、アムネジア様は色々と偏食で、というか子供の嫌いなものは殆ど駄目と言った状態でした。
おかげで私の料理のレパートリーも使えないものが多く、そのおかげでアリス先生から料理を覚える決意をした程です。
「しかしこのダメっぷりといったら、昔の姫様を思い出しますね」
(アンブロシウスの素の意見)
『いや、もういっそこいつ悪魔じゃなくて姫の別人格じゃないのか?』
「失礼ですよ!ご主人、いえニー様!」
「何故そこでアリス先が怒るんですか?」
「ああ、えとそのほら、姫にも女らしさはあったじゃありませんか」
「そんなものがあの姫様の何処にありましたっけ?」
「例えばえーと……、ご立派なお胸とか!」
「そうだろ~、女は胸だよな~」
何故か賛同するアムネジア様。
「それは身体的特徴であって、女性らしさとはまったく関係ないと思いますが?」
「「そんなことは無い!&無いです!」」
(アンブロシウスの素の意見)
『ハモるなよ……おかしいな、確かアリスも同意見で、当時今とまったく同じ事をしてたような……』
その後は部屋のお片づけをしてから洗濯に料理に魔王城のお掃除。
この1ヶ月で、魔人の皆様はいろいろと私に語り掛けてくれるようになりました。
魔人アニー様の場合
「見て見てニー。僕お前に言われたとおりにバリっていうのをとってヤスリで削ったらガ○ダムのプラモのラインが消えたよ!」
「凄いですねアニー様。じゃあ次はマスキングして色塗りですね。ああ、先にサーフェイサもふらなければね」
「うん、するする。僕他のライン消しとくから後で教えてね」
「はい」
魔人ブネ様の場合
「ねえ、ニー。お人形で遊んでいたらお目目が取れてしまったの。直せる?」
「ええ、直せますよ。そのお目目を失くさない様にしておいてくださいね。後で裁縫道具を持って行きますので」
「分かったわ」
「ついでに今度お人形の新しいお洋服でも作りましょうか」
「本当!?」
「ええ、任せてください。どんなお洋服がいいですか?」
「じゃあ…、メイド服!」
「分かりました。では後でお伺いします」
「約束だよ。絶対作ってね」
「承りました」
魔人セーレ様の場合
「ニー」
「これはセーレ様。どうかいたしましたか?」
「実は今新しい呪文を作っているのだけれど、お前の意見を聴きたいの。後で私の部屋に来れる?」
「はいお伺いさせていただきます。お茶の用意も一緒にいたしますので、今日は何がよろしいですか?」
「そうね、カプチーノで」
「分かりました。じゃあ今日はネコの絵を描いてお出しいたしますね」
「ええ、よろしくお願いするわ」
という具合にとても忙しい毎日を送っています。
目が回るとはこのような事を言うのでしょうか。
とても体が一つでは足りなくて、今ではキッチンに立つ時など、分身を4体も作って手伝わせている状態。
まあ、記憶は与えていませんので用事が終わったら分身は魔力に戻していますけどね。
そうそう、この分身も始めは内緒でコッソリと使っていたのですが、あるちょっとした事件のかげで、今では堂々と気にせず使っております。
今ではそのおかげで、先程の話のようにセーレ様に魔法のご相談を受けるようなことになりました。
あるチョットした事件とは……。
ある日、突然にアムネジア様がキッチンに他の魔人の方々を連れてこられました。
私は慌てて分身を消したのですが、
「あれ?今ニーが何人もいたような……」
アムネジア様が目をこすります。
「気のせいでございます」
私は動揺を隠すために胸を張り、きっぱりと否定します。
「そうか?ならいい。
ところでなあ、ニー。お前人間の癖に転移魔法が使えるんだよな?」
「はい、使えますが?それが何か?」
「ほら見ろ!あたしは嘘なんか言ってないぞ!」
アムネジアは他の魔人達に自慢げに言います。
どうやら私が転移を使えるということを他の方に話をしても信じてもらえなかったようで、それを確かめに来たらしいのです。
「ニー、それは誰から教わったの?」
アムネジア様の後ろから来たセーレ様が私に質問してきます。
「いえ、誰にも教わっておりません。何度か観て覚えました」
私は素直に答えます。
「観て?」
人の目の前で何故か魔人達がヒソヒソと話し始めます。
「おいブネ、転移魔法って観て覚えられるものなのか?」「さあ?そんなこともあるのかしら?」「普通は無理ね。私も千年以上前だから記憶がおぼろげですけど、確か憶えるのに10年は掛かったはずです」
「そういやあいつゲートも作ってたぞ?」
そんな魔人達の会話の中に、更に爆弾発言を投下するアムネジア様。
「えっ!?本当に?」「嘘でしょ?」「まさか……ありえません」
「なあ、ニー。お前ゲートも作れたよな?」
死者の街の帰りに見せてしまっている手前アムネジア様に嘘をつくわけにも行かず、私は仕方なく頷きます。
「ええ、まあ…」
「それは誰に教えてもらったのですか?」
再びセーレ様が私に質問をしてきます。
「誰にも教えてもらっていません。それも観て覚えましたが?」
『何か私はおかしいことをいってるのだろうか?』
少し不安になってきました。
こんなことで魔人の皆様から怪しまれても困る…。(注1)
「本当かよ!?ゲートも観て覚えたってさ」「それは無いでしょ。流石にそれは嘘に決まっているわ」とアニー様とブネ様。
しかし後ろからセーレ様が猜疑心を抱きつつも、彼女達の話にかぶせる様に私に対して離しかけられます。
「その話が本当なら、あなたは人間の中で百年、いえ千年に一人の天才なのかも知れませんね」
私はこれは不味いと慌てて否定します。
「いえ、私は普通のしがないメイドです。それ以上でもそれ以下でもなく本当に普通のメイドです」
私は少ししつこいくらい普通であることをアピールする。
「あなたが、そう言うのならそれでもかまいません。何にせよ優秀であるのは良い事です。これからもその能力を使って仕事に励みなさい」
「かしこまりました」
どうやら杞憂だったようだ。
私はホッと胸を撫で下ろす。
「ああ、そう言えば先程の魔力を使っての写し身の術。見事でしたよ」
セーレ様はそれだけを言うとほかの方達の背を押して、キッチンから去っていかれました。
俺は肩の荷が下りたかのように脱力し、側に在った椅子に座る。(注2)
「素早く消したつもりだったが完全にバレてるじゃないか……。まあ公認なら今度からは遠慮なく使ってもいいんだよな?」
俺は遠慮なく分身を造って仕事を再開するのであった。
(注1)
アンブロシウスは魔法を観て憶えるのが普通だと思っているチョットした天才なので、自分がおかしいことを自覚していません。
(注2)
アンブロシウスは心からメイド時には「私」。素に戻ると「俺」と言葉を変えています。
メイド時には半自己暗示を掛けています。
そうでもしないとボロがでそうだからです(笑)
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「センセーさよなら」「さよなら」「バイ」
「はい、さよなら。聖水スプレー持って気をつけて帰るのよ」
「「「ハーイ」」」
ここはNYはスラム街の近くにあるあまり綺麗とはいえないビルの一室。
この部屋の床は前面フロアになっていて、昔習っていた空手道場を思い出す。
まあ、空手道場は前面鏡になっ手はいなかったが。
そう、ここはダンス教室。
フロアの床に四方が鏡になっている大きな部屋。
「なんか先生最近綺麗になったよね~。前から若いなと思ったけど最近なんだかお肌もプリプリしてきてよね」「東洋人の先生なら、へたするとジュニアスクールに溶け込めるんじゃない?」「ありえる~(笑)」「それってやっぱ、“やっと”彼氏ができたからかな?」
ダンス教室に通っているまだ10代と思われる生徒達が、まだ梓姉が近くにいると言うのに口々に彼女のことを話題にしたおしゃべりをしながら出口に向かう。
当然の様にそれを耳にしていた地獄耳の梓姉は、彼女達の会話を聞きつけ、去ろうとする生徒達の後ろから声を掛ける。
「ありがとう。でもね、」
いつの間にか彼女達の後ろに立っている梓姉。
「“やっと”はよけいかな~キャシーちゃ~ん」
グリグリ
キャシーと呼んだ短い金髪に碧眼の少し幼さの残るソバカスの少女の頭を両の拳で挟み込んで捻る。
「アイタタタタタ、あっ先生!噂をすれば彼氏ですよ!」
その一言で彼女の頭から手を離し、こちらを振り向く梓姉。
「ジロー」
満面の笑みで俺の方を見る梓姉。
「や、やあ」
その機を逃すまいと、少女達はそそくさとその場を逃げるように教室から去っていく。
そして少女達は俺の側を通り過ぎるときに、俺に向けてウインクをして、笑いながら手をふって去って行く。
俺の横を通り過ぎ、ビルの通路を曲がった辺りで彼女達の黄色い声があがるのが聞こえた。
「かっこいいよねー先生の彼氏」「私たちも一緒にお世話になる?」「それいいかも~(笑)」
「あの娘達ったら馬鹿なことを、ごめんねジロー。わざわざ迎えに来てくれたの?」
「いやダンスやってる梓姉って、見たことがなかったからどんなかなって、近くを通ったから見てみたくなってな。
実はさっきから隠れてみていた」
俺は隠し事にすることもないと、先程から教室を覗いていたことを暴露する。
「ブッ、やめてよ。そんなストーカーみたいなこと」
「ああ、そういえばそうとも言えるな。すまない」
俺はそれとは別に、少し前から覗いていて気になったことを口にする。
「そう言えば、なんかたまにミスしてたよね梓姉。体調悪いのか?」
彼女はあきれたというように口を開け、そして俺を睨む
「あんたがそれを言う!
ちょっと最近寝不足気味&身体のホルモンバランスが崩れてるの!おかげで体のバランスまでおかしいのよ!」
「え?おれのせい?」
「そうよ!」
「ごめん」
「わかればよろしい」
そう言いながらも彼女の体がぶれるのを俺は見逃さず、咄嗟に彼女の体を支える。
「おい、本当に大丈夫かよ」
「あ、ええ大丈夫。本当に大丈夫だから…。少し帰って寝るわ」
「ああ、そうしろ。晩御飯は精のつくものを作るよ」
彼女は少し青い顔をしながらも、軽く握った拳を口にあて、目を潤ませて俺に上目遣いをする。
「え?ヤダ。精のつくものって、弱っているわたしとまだ何かするの?」
「そういう事を口に出来るならまだ大丈夫だな」
俺は冷ややかな視線を彼女投げかけた。




