南の島のエピローグ
さあ、開け!
【私がすべての法律空間】
翼を広げたリーンを中心に虹色の空間が世界を覆う。
空は蛍光ピンクのような雲に覆われ、足元の湖は一面の色とりどりのビーズで埋め尽くされる。
虹色のシャボン玉がそこらかしこに浮かび、様々な形のガラスの彫像が森の木々のように生え、巨大なケーキやドーナツが空を飛びまわっている。
普通の人間の神経ならめまいを起こしそうな空間。
リーンはビーズの地面に降り立ち、巨大なクラーケンを睨む。
「あなた、チョットここには似合わないし、大きすぎるわよ!」
その一言。たった一言で巨大なクラーケンはその大きさをネコ程のサイズに縮め、その体表を覆っていた青緑の体がピンク色になる。
リーンは素早く身体強化でクラーケンを掴みあげる。
「いいじゃない。可愛い?ん?どっちかって言うとおいしそうね」
リーンが心の中で考えたものが側に現れる。
そこに現れたのはキッチン。
リーンは鍋一杯に既に沸き立ったお湯にクラーケンをほおり込む。
ギャギャギャギャ
クラーケンの断末魔が鍋の中で聴こえる。
リーンは気にせずその鍋に蓋をした。
「な・に・がいいかな~?」
リーンは取り合えずクラーケンを茹でながら作る料理を考える。
「師匠何が食べたいですか?」
リーンは虚像で側に降り立ったヘルズに尋ねる。
「そんな悪趣味なものを食べたらお腹を壊しますよ?
それより、これは一体なんですか?悪趣味な風景ですね。
幻覚か何かですか?」
「違いますよ師匠。私の必殺技。
わたしが創った異空間です!
わたしが創り出した世界では、わたしは無敵なんですよ!」
「無敵…ね~。そのような言葉を軽々しく口にするものではありませんが、まあ、本当なら凄いものですね」
「本当ですよ!その証拠にあんな山のような化け物のクラーケンですら、ほらこの通り!」
茹で上がったクラーケンを金箸で取り出す。
出てきたのは茹で上がったクラーケン。
想像では海老と蛸みたいなクラーケンがピンクから赤く湯で上がっているのを想像していたのだが……緑?
「ま、まあ見た目より中身よね!」
取り合えず包丁で捌いてみる。
緑の体液が出てきてウニョウニョしている。
「ま、まあ見た目より味よね!」
作るのは懐かしのタコヤキ。
粉を練って卵を入れて、海老の身を入れて、丸型のプレートで焼く。
中には当然蛸のような足。
「できた~~~!」
さっそく入れ物に入れて師匠に差し出す。
「超豪華!海老の身入りタコ焼き!
どうぞ食べてみてください!」
ヘルズは後ずさる。
「こ、これは食べ物なんですか!?」
黒緑色の丸い物体からクラーケンの足と思われる触手がでてウネウネといまだ動いている。
それに明らかに悪臭と思われる匂いも漂っている。
「失礼ですね~これはタコヤキといって関西人の魂なんですよ!食べないと失礼なんですよ!」
ズイイとヘルズにタコヤキとおもわしきものを押し付けるリーン。
しかしヘルズはまったく手を出そうともしないで下がっていく。
「仕方ないな~これはですね、こうやってこの木で出来た串で刺して、と」
リーンはおもむろに自分の口にほおり込む。
モグモグ
「ほらね、うんまったりとしていて、ジュルリとしていてウネウネしてゴムの溶けたような味がして……」
エロエロエロエロ(漫画なら自主規制の場面です)
「グフッ、食べれたものではないです…」
「当たり前です!というかよく口に入れる気になりましたね。その勇気には先生は感服しましたよ」
『おかしい!この世界ではわたしは無敵のハズなのに、料理だけは苦手なままなのか!?』
リーンは頭を抱える。
そしてふと思いつく。
『そうだ!ここではわたしは神なのだ!いつも偉そうにしている、いや今この時も偉そうにして横に立っている師匠より、わたしは偉い?』
クフフフフフ
「わたしの時代、キターーーーーー!」
両手を上に上げてわたしは叫ぶ。
そしておもむろにわたしは師匠の方を振り向く。
「ということで突然ですが、師匠。
膝を折ってわたしに跪きなさい!」
「嫌です」
「え~~!アッサリと拒否ですか!?」
「なんで私があなたに跪かなければならないんですか?」
「いや、なんでって、ここではわたしが法律…」
師匠が無言で右手で眼鏡を押し上げ、左手で地面を指差す。
わたしは青くなりながら正座する。
「いいですか。そもそも先程の翼のこともそうですが、あなたはわたしの魔法陣の講義を受けておきながら……」
『あれ~?なんか違うくない?説教始まっちゃいましたけど?ここってわたしの……何故?』(注1)
それから永遠3時間。流石に地面のビーズがわたしの白魚のような足の形を変え始めた頃にやっとわたしは解放されました。
わたしは空間を閉じて師匠と共にこの場を後にします。
師匠は上に上がってからもう一度魔法陣を発動させ閉じ、二度と開かないように紋章の一部を削ってしまいました。
「それでは帰りましょうか」
「サーッ!」
わたしは最上級の敬礼の元、師匠とその場を後にします。
悪魔や巨人に勝ててもわたしは師匠にまったく勝てる気がしません。
わたしはこれ以後師匠にこの能力を使う気はありません。
「ところで弟子よ。お前なんか背が縮んでいないか?」
「いえ!変りありません!」
わたしは敬礼して師匠にお答えする。
敬礼をするわたしを、誰か見知ったものが見ていたなら、その姿の異常さに気がついたかもしれません。
そう、わたしの背は縮み、“ふくよかだった”胸も小さくなり、見た目は何処からどう見ても5歳くらいの少女になっていたのですから。
師匠はおもむろにわたしの胸を見て、頷く。
「うん、私の気のせいですかね」
「サー!」
そうして、長いようで短かった南の島でのわたしの冒険は終わりを告げたのでした。
―――――――――――――
「それでは、この件のご報告はこれぐらいにしまして、例の件考えていただけましたか?」
ここは南の島の官邸にある豪華な一室。
今そこには事件を解決して帰ってきたヘルズと、南の島の竜神族の首相であるエターニャの父、ミルダナス・オデッセイが机を挟んで会談している。
「そうだな。今回の件で借りも出来た事だ。前向きに検討しよう」
「ありがとうございます。良いお返事を期待しております」
ヘルズは一礼すると用事も終わったので部屋を後にする。
一人残ったミルダナスは呟く。
「一体あの男は何を考えているのだ。これはあのお方に相談しなければならないかも知れんな」
ヘルズの持ち込んだ厄介事の判断をどうすべきか、自族の議会に掛ける前に、ミルダナスは自分達の指導者であった「あのお方」に判断を仰ぐ為、その場を後にして自室に向かうのであった。
――――――――――――
次の日。
帰りは師匠の乗ってこられた船で帰ることになりました。
南の島が見えなくなってしばらくして、わたしはあることに気がつきます。
「しまった~!自分の服とかアクセばっかり買ってお母様達のお土産買ってなかった~~!!
師匠~戻ってください~~~」
「戻ってもいいですけど、もう経費はダメですよ?」
「え?ダメなの?」
「当たり前です」
「じゃあ、戻らなくていいや」
「それと私的に使った分は後でお屋敷の方に請求しときますからね」
「え!?でもこれは経費で…」
「そんな訳無いでしょう。経費は宿泊費と食費のみです」
「そんな~~」
こんな請求書が家に届いた日にはわたしのお小遣いが1年は無くなってしまう……。
「やり直しを要求する~~~!」
そんなわたしの叫び声は小型船のエンジン音と波間の音に飲まれていくのであった。
(注1)
基本的にアンブロシウスの「絶対王の空間」と同じく意志の強さが左右する空間でした。
ちなみに怪我だらけのクラーケンは前に小さな人間に木っ端微塵に自尊心を砕かれていたので、アッサリとリーンの術に嵌ったということでした。




