祭りの日
「フルスロットルで大満喫です!」
なんと、今日は師匠に戦争に発展しそうな大事件を解決したご褒美と1日お休みがいただけ、わたしは祭りの1週間も前から出ている屋台めぐりに観光、ショッピングに温泉、一人で海で泳ぐと言う愚公以外は全てこなしました。
え?師匠を誘って海で泳げばいい?
馬鹿なこと言わないでください。
そんなことをして、もし修行が始まったらどうするんですか!
そんな恐ろしいことわたしにはできません。
わたしは風呂上りの浴衣に身を包み、自分の部屋に帰る。
高級ホテルのような部屋。
15階にある部屋のバルコニーから見える海もまた格別。
『大満足だ~~~~』
体を伸ばしながら心の中で叫ぶ。
ご近所迷惑ですから叫びません。それぐらいは心得ています。
コンコン
誰かが扉をノックする音が聞こえる。
わたしは足取りも軽く扉の前までスキップしながら行き、開ける。
そこには同じく浴衣姿の師匠が立っていた。
「師匠どうしたんですか?
あ、分かりました晩御飯のお誘いですね!」
わたしはニコニコと満面の笑みを浮かべる。
「いえ、一つ言い忘れていたことがありまし「聴きたくありません」」
おもむろに扉を閉めようとする。
しかしその試みはまたもや見えない力によって阻まれる。
『クッ、扉が動かない!?』
「いい反応と度胸ですね」
「お褒め頂いて恐縮ですが、扉を閉めさしてください」
身体能力を強化して扉を閉めようと頑張るが扉の方が悲鳴を上げ始める。
「無駄な努力はおやめなさい。いいですか。
明日早朝からこの島の中央にあるノードレッド山に登りますからね。
心しておきなさい」
師匠はそれだけを言うとわたしの部屋の前から去っていった。
扉が閉まる。
わたしは泥の中を歩くような足取りでベッドに向かう。
「この話、まだ続きがあったんだ……。せめて明日の祭り本番当日のパレードとか見たかった……」
わたしはベッドの上でガックリと肩を落としてうずくまるのであった。
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次の日早朝。
竜神の国10周年祭当日。
「師匠~早朝すぎます~」
わたしは白いチャイナ服のようなチェニックに黒のショートパンツという出で立ち服に、師匠の法衣とお揃いの赤い露出の多い鎧を身に着けている。
前の白い鎧は修理の為に白、ドワーフのおじさまに預けてある。
まあ露出が多いといっても、服を着ているので露出もクソもないですけどね。
「これも修行です」
「朝の4時は早朝でもなんでもないですよ~これはまだ深夜です~」
「何を言ってるんですか。南の国に行くと言ったら、出掛ける当日の2時に人が寝ている上に転移して来て「師匠朝ですよ。早く行きましょう」と言って私を起こしたでしょうが。あれを深夜と言うのです」
『師匠、何時もながらわたしの物真似はやめてください』
「過去の話です」
わたしはキッパリと言い放つ。
「私の弟子の馬鹿な部分はこの口か、それとも頭か?」
わたしのほっぺたをビヨンと横に伸ばして師匠が額に怒りマークを浮かべる。
「フェンフェイ、イタヒイタヒ」
う~
わたしは師匠の魔の手から逃れ、赤くなった頬をさする。
「着くまでの間に今回の目的を話しておきます」
「師匠質問です!」
「まだ、何も言ってませんが!?…何ですか?」
「山登りに師匠のその法衣暑くないんですか?」
「やっぱり馬鹿な部分は頭ですか?この頭なんですね?」
「イタタタタタ」
わたしは師匠に頭を両手拳でグリグリされる。
「いいですか、私達が今登っているノードレッド山の山頂には最近まで火口付近に湖がありました。
それがどういうわけかその水が無くなって、代わりに湖底に沈んでいた古代の神殿が現れたそうです。
今は祭りの準備もあり、竜神族の長も山への立ち入りを禁止して、その神殿の捜索は祭りが終わってからと思っていたそうですが、最近になって時折山より怪しい獣の叫び声のようなものが島中に響くことがあり、ほっておくことができなくなったそうです。
そこで丁度私達がここに来ていましたので、その話を聞いた私は多種族連合のお仕事としてお困りの竜神族の為に、そして弟子の修行にもなりますので、この件については私が預かったしだいです。
分かりましたか?」
『預からなくていいのに……』
師匠の話を聞いてわたしは溜め息をつく。
「何か不満でも?」
師匠が眼鏡をクイッと上げて睨んでくる。
「いえ、滅相もございません。謹んで修行させていただきます!」
わたしは敬礼の姿勢を取る。
「よろしい」
『怖~クイッが出たよ。クイッが!』
あのポーズを取る時の師匠は本当に少し怒っている時の仕草だ。
『気を引き締めないと……』
わたしは少し反省する。
困っている竜神族のためでもあるのだから遊び心を出したわたしが悪い。
小一時間ほどして山頂に着く。
日もかなり高くなってきており、山頂付近を照らしてくれるので、あたりをハッキリと見渡せるようになっている。
「師匠~。よく考えたら山頂見えてたんですから、わたしが転移して探索してきてもよかったのでは?」
修行だと身体強化も禁止され、自力で山登り…。
息も絶え絶えのわたしは師匠に少し文句を言う。
「あなたを一人で行かす訳にはいきません。
すぐサボるか手を抜こうとしますし、それに探索して何も無かったら修行にならないでしょう?」
「もっともですね……」
山頂から見下ろす火口付近はすり鉢上になっていて、底まで深さが100m程もありそうだ。かなり深い。
「ここに水が満たされていたんですか?」
「そうですね。その割には乾いて苔なども見えませんね?おかしなものです」
師匠も首をかしげている。
丁度すり鉢上の真ん中。一番深遠にあたる部分に黒い石作りの建物のようなものが見える。
『ん?おかしい』
わたしは違和感に気付く。
「師匠ここって「さあ、お行きなさい」」
わたしは師匠に背中を押される。
「チョ、まっ!」
身体強化をせず山登りをし、疲労していたわたしはその押された勢いですり鉢上の淵から下に向かって落ちる。
「ヒイイイイイイ」
わたしは何とかすり鉢上の淵に足をつけて底に向かって走り始める。
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアア
「なんかデジャヴーーー、師匠!ここ精霊いない、精霊が~!」
「ん?そういえば感じませんね。いや~、これは弟子に一本取られましたね。
よく気がつきました。花まるです」
「んなこといってるばあいか~~~~」
わたしは凄まじい勢いで底にある石造りの建物に向かって走っている。
いや落ちているといっても過言ではない。
「止められない、止まらない、ってカッ○エビセンか~~~」
今制動を掛けたら確実にこける。
足元の硬い石の地面が凄い勢いで後ろに流れていく。
運が良よければ骨が折れ、運が悪けりゃやっぱり骨が折れる。
「どっちにしても怪我する~~」
そしてそのままの勢いで無事に底に着いても石造りの建物の壁が待っている。
「四面楚歌~~~~~イヤ~~~~~」
取り合えず防御の魔法は掛けるが、これだけの勢いで突っ込んだら唯では済まない。
精霊魔法が使えないんじゃ、風魔法どころか、怪我をしても治癒魔法も使えないじゃないか!?
骨が折れたら元の位置に戻さなきゃ自然治癒の強化じゃ曲がって直ってしまう。
そうならない為に曲がった骨を自分で元の位置に戻すなんて考えただけでゾッとする。
『ヤバヒヤバヒヤバヒヤバヒ×△÷@□*+』
黒い遺跡の石の壁が迫る。
もうダメだ、と目を瞑った瞬間、目に見えない力で体が引き戻される。
ゴンッ
かなりいい音がすり鉢上の大地に響く。
「イッタッターーーーーーッ!?」
おでこを抑えて涙ぐむわたし。
でもどうやら生きているようだ。
ああ、いや骨は折れていないようだ。
大きなたんこぶがおでこの上に出来ている。
防御の魔法を掛けていたのでそれぐらいで済んだのだろう。
でなけれ脳震盪、下手をすれば脳挫傷を起こしていたかもしれない。
「大丈夫ですか?」
師匠が後ろから淵を滑り降りてきて、わたしの側に来る。
「酷いです師匠。師匠が言ったんでしょう!精霊の声を常に聞けって!」
「それについては素直に謝ります。申し訳ない」
「申し訳ないで済んだら警察、ん?いや騎士?はいりません!」
「まあまあ、なんとか私の手が間に合ったみたいですし、おや!?」
「どうしたんですか!?師匠」
わたしの体のどこか骨が折れてしまっていて、感覚が麻痺して気がついていないのかと一瞬心配してしまう。
「残念です。どうやらぶつかった勢いで胸が凹んでしまったみたいですね」
わたしはおもむろに亜空間からロンギヌスを取り出す。
「ほう、前傾姿勢で走って来ておでこをぶつけただけなのに、どうやったら胸を打って凹んだと言うのか説明してもらいましょうか?」
「ああ、これも謝らないといけませんね。いつも通りでした」
「殺!!」
わたしは本気で師匠を刺そうと槍を突くが、それが師匠の体に届く前に何か目に見えない力ではじかれてしまう。
「!?」
何度突いても同じ様にわたしの攻撃ははじかれ、別の方向に反らされてしまう。
わたしは堪らず師匠に訊ねる。
「師匠。何で当たらないんですか?それにわたしを助けてくれた手って…」
「ん?見えませんか?」
「何も……」
「よく目をこらして見なさい。あなたなら見えるハズですよ」
師匠に言われたとおりに目を凝らして観て見る。
「あっ!?何かいます」
師匠の体を覆うように、半透明の巨大な半身の翼を生やした巨人、いや女神像のようなものが見える。
「天使?」
「いえ、これは神力で創りだした虚像です」
「虚像?」
「はい。神力を持つ者のみが創ることのできる天使の守護。まあ見えない鎧のようなものですかね。
同じ神力を持つあなたも出来るようになると思いますよ」
「目に見えない守護者……凄いです。師匠!」
「別にたいしたことではありません。
元々神力は目に見えにくい、いえ、魔力を持つものからしたらまず見ることは出来ないものですからね。この世界でこれを見ることの出来るあなたも凄いのですよ?」(注1)
師匠の講義はそこまでで、取り合えず神殿を探索することになった。
(注1)
ヘルズの言うように神力は魔力を持つものからは見えにくいものなので、リーンが亜空間から武器等を取り出す時も、アンブロシウスが取り出すときに闇が見えるように、本当は神力による光を放っているのですが、アンブロシウス等には残念ながら見えていません。
(作者はそういう設定で書いてきたつもりですが、齟齬する書き方をしているところがあったらすいません)
ちなみに巨人が武器を取り出すシーンは別の力が働いています。




