話の途中ですが俺のむか~しばなし
これはアンブロシウスがまだ3歳だった頃のお話です。
「ひどいな」
肉の焼けた匂いのする崩壊した街の中。
まだ黒い煙があちこちで上がっている。
その街の一角、崩れた建物の中で、フードに身を包み顔を隠した少年が一人、焦げて落ちているぬいぐるみらしきものを拾い、呟く。
ここも戦争でメチャクチャだ
「なんで人はこんなに争いが好きなんだろうな。アリス」
アリスと呼ばれた黒猫が主人の呟きを受けて答えを頭の中で捜す。
しかしそんなものがあるはずも無く、無言で主人を見つめる。
「北に行っても南にいっても西に行っても、戦争、戦争、戦争!どうなってるのかね、この世界は!!」
憎憎しげに穿き捨てる少年。
少年の心には怒りしか起こらない。
どれ程の憎しみがあればこれ程人と人が傷つけあえるのか、少年には分からない。
少年は転生者である。
彼の前世の世界にも戦争と言うものが無かったわけではない。
しかし彼が住んでいた国は、彼が物心がつく頃には戦争も無く、人々が武器一つ持たない平和な国だった。
だから彼には戦争と言うものが他人事のようであり、まさかこれほどまで戦争漬けになっている国に自分が生まれ変わるとは思わなかった。
だが今は他人事ではない。
戦争は自分の私生活にまで関わることなのだ。
王国三代貴族の跡取りとして生まれた自分は、おそらく程なくして戦争に加担しなくてはならない。
良い意味でも悪い意味でも無く、それは避けて通ることの出来ない事実なのだから。
ガタ
物音がする。
俺は身体強化を施してどのような事態にでも対応できるように姿勢を低くして構える。
右手には黒いナイフ。
刃渡りは短いが厚みがあり、人相手であればこれ一つで腹にでも刺せば致命傷を与えられる。
ファミリアーを使って、この街の監視はしていない。
殆どの動物達がこの街より去っていることもあるが、死体をかじるネズミばかりの映像等見たくも無いからだ。
「誰だ、誰かそこにいるのか?」
現れる反応があまりにも鈍いのでこちらから声を掛けてみる。
「ああ、坊やなの?そこにいるの?」
女性の声がするが、一向にこちらに来る気配が無い。
用心しながらも音のした部屋の方に行ってみる。
崩れた部屋に煙が少し漂っている。
それ程火の回りがよくなかったのだろう。この部屋は魔法の攻撃を受けたにもかかわらず、天井が崩れはしても焼け崩れてはいない。
そこで俺は瓦礫の下敷きになった一人の女性を発見する。
「大丈夫か!」
俺は武器を納め女性に近づく。
「ああ、坊や無事だったのね、エミリは?あの子はまだ小さいの。エミリは大丈夫なの?」
顔を上げた女性の目からは血が流れている。どうやら女性は目が見えていないらしい。
彼女が捜している坊やとエミリという女の子は直ぐに見つけることが出来た。
女性の側にあるベビーベッドの残骸のような物が見える瓦礫の下からは大量の血が流れてきている。おそらく子供達はその下だろう。
「あ、ああ大丈夫だよ。今はぐっすり眠ってる」
言葉につまりながらも、なんとか嘘をつくことが出来た。
嘘はとても良くないことだとは分かっている。
だけどこんな気休めでも言わなければ、俺はこの場に立っていることが出来なかった。
彼女の半身は既に瓦礫の下で瞑れてしまっている。
いくら回復魔法を掛けてもこれではどうしようもない。
今もって息があること自体が奇跡としか言いようがない。
「坊やこっちへおいで」
俺は彼女に近づく。足が震える
彼女は俺が側にきたことを悟ったのか手を伸ばしてくる。
俺は思わずその手を取ってしまう。
「ごめんね。お母さんもうじきいなくなるわ。お願いエミリを頼んだわよ。お兄ちゃんだもんね、できるよね」
俺が無言で何もいえなくていると彼女は更に最後の力を振り絞って俺に喋りかけてくる。
「お願い。出来るって言って、お願い……」
声が弱弱しくなる。もう、彼女に残された時間は無いようだ。
「ああ、できるよ。僕が必ず守ってみせる!」
彼女の手を強く握り締める。涙が止まらない。
神は一体何処にいるのだ!こんなことが許されていいものなのか!!
「良かった。ごめん『ねナタテス、お母さんは……』
最後に彼女が何を言おうとしたのか俺には聞き取れなかった。
俺はその場に油を撒き、火を放つ。
「あの世と言うものがあるなら、せめて一緒に逝けるといいな」
俺は死んでも逝けなかった所。そこが戦争の無い幸せな地であることを俺は祈る。
街から少し離れた小高い丘。
俺は立ち止まり、街を振り返る。
「ご主人様……」
アリスが俺を慰めるように擦り寄ってくる。
「アリス、俺は決めたぞ」
俺は亡くなった彼女とその子供達に誓う。
「俺はこの世界から戦争を無くす。もし彼女や子供達が再びこの世界に生まれ変れたとしたら、そのときは戦争の無い世界を見せてあげたいんだ!」
彼女はその姿をネコから人のそれに変え、小さな俺の前に傅く。
「ええ、ご主人様なら出来ますとも。微力ながら私もお手伝いさせていただきますわ」
これが、俺がこの世界を救おうと決めた最初の時だった。




