メイドのみやげ その5
さて晩御飯のメニューだが、魔人は人間の身体に転生しているので基本的には同じものを食す。
俺が作れるものは基本的に和食だ。
亜空間から買ってきた色々なものを取り出す。
こちらの世界に来て思うのだが、向こうの世界にはとても便利なものがある。
その一つがこのサランラップ、そしてビニール袋。
サランラップっていいよね~。文明の利器って感じするわ~。あるとないとじゃ大違い。
そしてこのビニール袋。
もう料理する時の必需品だよね~(完全に脳内が主婦となってます)。
そして取りい出しましたるワ・ゴーム。いいよね~(……)。
俺はご飯の下拵えをしてから、生クリームをボールで泡立て、冷蔵庫に入れる。
冷蔵庫はこちらの世界にあるエーテルで動くものだ。
前世ではお菓子つくりの本には興味があって、図書館で借りてはよく読んでいた。
前世と違って今は金には困っていなかったので、今回買い物をする時に材料を一緒に買ってきたので、作ってみることにする。
「おかしだ、おかし。洋菓子だ~♪」
既にアンブロシウスの脳内はお菓子一色だった(大丈夫なのか主人公)。
『え、作らなくても毎回向こうに買いにいけばいいって?』
正直こんなに簡単に向こうの世界と行き来できる様になるとは思っていなかったんだよ。
それに材料一杯買ってきたから作らないと勿体無いしね。
亜空間に入れて持ってきたが、亜空間内の時間は残念ながら止まっている訳ではないので、腐ってしまう材料を冷蔵庫に入るだけ入れて、入らなかった分は腐る前にお菓子を作れるだけ作ろう。
これで問題なし。
そういえば跳んでみて思ったんだが、魔力の消費が途轍もないのは「次元を超えて別世界に行った」というよりも、ものすごい距離があって、「距離による魔力修正」を受けた感じがするんだよね。
これってもしかしたら今見えてる星々の光のどれかが、俺が前世で住んでいた太陽系の光で、今いるこの星は世界が一緒の別の惑星なんじゃないかって思うんだ。
仮説だけど……。
アリスが言った言葉を思い出す。
「あなたにメイドなんてできるわけがないでしょう。お・坊・ち・ゃ・ま」
『ふふ、しかしアリスよ、残念ながらお前のご主人様は前の人生では半分主婦人生していたので全て出来ますよ。
親もいなかったので普段から掃除、洗濯、料理もやっていたので得意ですよ。
まあ本当に久しぶりだけどね』
「煮物はと、うん串が通る。もういいかな」
火から下ろして荒熱を取る。
イソイソと料理に忙しい。
そしてそんな料理をしているアンブロシウスのいる厨房の扉の隙間からヒソヒソと声がする。
「ねえ、やっぱり女だよ」
扉から中を盗み見て話し合う女魔人達。
「だから言ってる。あたしが男なんて連れてくるハズがないだろう!」
「確かにね~」
「だってほら、今なんて生クリーム小指につけてなめて幸せそうにしてる姿なんて完全に女の子だよ」
「そうね…確実にアムちゃんより女の子よね」
「バッ(馬鹿)、あたしの方が女に決まってるだろうが!」
「「「どこが?」」」
「どこってほら、胸とか…」
「「「はいはい」」」
女魔人達の横で佇んで、同じく中をのぞいていたアリスは愕然とする。
『……ご主人様、私は悲しいです。三大貴族の跡取りとあろうお方が料理をしながら鼻歌歌って幸せそうにしてるなんて……そんな風に育てた覚えはありません』
わたしはハンカチを取り出して涙をぬぐう。
『それになんですか、その可愛らしい仕草は…。私は奥さまや旦那様に顔向けできません。いえ、奥様は喜ぶかもしれませんが……』
どうやら女魔人達はアンブロシウスが男じゃないかと疑っていて、隠れて動向を覗っていたようです。
不思議なことにアリスは全く疑われていません。
まあ、当然ですけどもね。
(神の声:女の子と認められて良かったね、アンブロシウス…)
「さあ、ご飯が出来ましたよ」
白いクロスの張られた豪華な机と椅子の並べられた食堂に皆が集まり、アンブロシウスの料理が振舞われる。
基本的に魔人達は食事はしてもエネルギー補給というものが魔力だけで済むので、普段は適当なもので喉や空腹を潤していれば済むらしく、まともな食事というものは取らない。
食事に頼らない生体活動のおかげで、彼女らのスタイルは常にベストな状態に維持されている。(神の声:うらやましい……)
特にこうやって集まって食事を取ること等は無いそうだ。
今日の献立は、メインを肉じゃがにシャケの焼いたもの、冷やっこに南京の炊いたものだ。当然ご飯に味噌汁は必須だ。
そしてもう1品……。
これこそが向こうの世界から持って帰ってきた悪魔(魔人)達への土産。
『そう、納豆だ』
ジャジャーーーーン(あくまでこれはアンブロシウスの心の音です)
お土産の「納豆」を振舞う。
『いや~アメリカでこれ捜すの苦労しましたよ』(注2)
「なんだ、これは?腐ってるぞ?」
さっそくアムネジアがスプーンで納豆をコネコネしながら糸を引っ張り上げ、口をひし形にして驚愕の顔をしながら俺に問う。
「いえ、腐ってはいません。これは発酵食品です」
「おいブネ、ハッコウってなんだ?」「知らないわよ。どこかの役所でもらうものじゃない?」アニーとブネがヒソヒソと話しあっている。
「食べられるのか?」
とアムネジア。
「当然です」
俺は頷く。
「いや、お前は食べれるのかと聞いている」
「フッ、食べれる分けないでしょう」
残念ながらアンブロシウスは納豆が苦手であった。
「自分が食えないものを出すなよ!」
アムネジアが憤慨して椅子から立ち上がる。
「身体にいいんですよ?普段からお菓子ばっかり食べているらしいじゃないですか。
元々悪魔だったからと言って、今のお身体は人(それも姫の)なんですから、お菓子や肉ばかり食べていてはダメです」
俺はアムネジアの納豆の入ったお鉢を手に取る。
「さあ、お口を開きなさい」
「やだ」
フウ、俺は肩をすくめる。
「仕方が無い。これはですね、こうしてカラシを大量に混ぜれば……」
俺は和カラシを納豆のお鉢の中に大量に投入し、こねる。
「さあ、これで食べれるハズですよ」
俺の手の中にあるお鉢の中には、既に「もうこれ納豆じゃ無くてカラシでしょ」としか思えないものが入っていた。
「食・べ・な・い。ボテチべよっと」
アムネジアは椅子から離れて別の部屋に行こうとする。
俺は全力で身体強化を施し、アムネジアを無理やり椅子に座らせる。
後ろから鼻を摘まんで上を向けさせ、口が自然と開いたところにお鉢の中のものを全てその口に放り込む。
「×○△*♀±!?」
「いいですか。口から出したら殺しますよ?勿体ないお化けが出ますからね」
モグモグゴックン
「あれ?結構旨い」
「え、本当?」「そうやって食べるんだ」ブネとアニーも同じようにカラシでまっ黄色にして食べる。
「あ、おいしい」「本当だ」
何故かこの食べ方が好評のようだ……あれ?悪魔ってかなりの辛党ですか?
「ところで先程の何とかってお化け、悪魔の処にも出るのか?」
アムネジアが俺に「もったいないお化け」のことを聞いてくる。
「ええ、悪魔のところにだってちゃんと来ますよ」
「そいつって、強いのか?」
何故か目を輝かせるアムネジア。
「それはもちろん。あいつには魔王でも勝てるかどうか……」
「何!?其れほどか!」
メチャクチャ喜んでますが……。
「適当なこと言わないの。アムちゃんが信じちゃうでしょう?」
こちらの騒ぎを他所に、モクモクと食べていたセーレがここに来て初めて口を開く。
何故か彼女はハシをとても上手く使って和食を食べていた。
納豆も知っているようで、普通にご飯に掛けて食べている。
ちなみにアムネジアやアニー、ブネは一緒に用意していたフォークとスプーン、ナイフを器用に使って食べている。
「ですね。申し訳ございませんでした」
「なんだ、冗談なのか……」
普通に落ち込んでいるアムネジア。
『ここら辺が少し姫と違うな』
姫なら間違いなく憤慨して、刀を抜いて切りかかってくるところだ。
食後には納豆を食べたご褒美として、全員に手作りのイチゴのショートケーキを出しました。
丁度イチゴが旬で、安くておいしそうだったもので……。それにしても初めてなのにかなり上手に出来たものだ。
『やはり俺は天才だ。次は苺のタルトでも作ろう』
とアンブロシウスは心に決めるのでした。
――――――――――――――――
ここはある大きな建物の地下にある一室。
そこには一人の男がいて、通信用の魔道具に向かって何やら話をしている。
何故毎回この場所なのかというと、この建物にある通信装置は他所には無いあらゆる種族や国に通じる国際電話のような機能を持っているからだ。
そんな通信システムはこの建物にしかない。
「ああ、俺だ」
『どちら様ですか?』
「俺だよ、俺」
プチ、ツーツー(注4)
掛けなおす。
「おい!なんで切るんだよ!」
『またあなたですか?私にはオレ様なんて知り合いはおりません。おかけ間違いです』
プチ、ツーツー
また掛けなおす。
「お前の直通回線の番号知ってって掛けられる人間で、俺っていったら、俺しかな「プチ、ツーツー」……」
再び掛けなおす。
「あの、すいません。アンブロシウスです。
失礼いたしました。一国の王女様に対する話し方ではございませんでした。大変失礼をばいたしました」
俺は何故か通信魔道具の前で正座をしている。
「で?そのアンブロシウスという男は私とやるだけやって逃げ出した最低最悪のクソのような人間のアンブロシウスという人間ですか?」
「あっ、はい。わたくしめが王女とやるだけやって、とある人から教わった亀甲縛りなるものを王女におかけいたしまして、その状態で王女をほって逃げ出しましたアンブロシウスというものです」
プチ、ツーツー
三度掛けなおす。
「あの~お怒りでしょうか?」
「想像してみてください。一国の王女が裸で亀甲縛りなるものをかけられて動けないところを、配下の兵達に助けられる様を……」
「うあ~、それ最低ですね」
「誰のせいだと思ってるんだこら!いいか、てめーそこ動くなよ!今からそこに行って、その腐った脳みそを引きずり出して魔物の餌にしてやるからな!!」
巻き舌の上、彼女の口から聞いたことも無いような口調で会話が飛んでくる。かなりお怒りのようだ……。
「愛している」
「は?」
「愛しているよレイア。俺も男だ責任は取る」
「え、それって……。うそ、やだ……本当ですか?」
「ああ、本当だ。だがそれには俺達の未来の為にも今から俺が言う事をやってもらわねばならない。実は……」
話し終わって魔道具を切る。
「ふうっ」
俺は一息ついて首をゴキゴキ鳴らす。
「あ~疲れた。まあなんとかなったがな。しかしレイアよ、勘違いしてると思うが責任は取るとは言ったが結婚するとは言ってないぞ。これからの人生、変な男に引っかからないように気をつけろよ。教訓、教訓」
魔道具に向かって合唱する。
もう完全に結婚詐欺師状態の自分に気がついていないアンブロシウスであった。
「さてと、次は……」
俺は再び魔道具を専用の直通回線につなぐ。
「あ、ミーア?俺だよ俺」
プチ、ツーツー
「・・・・・・」
これより永遠3時間ほど同様の会話が何箇所にもかけられ、用事を終えたアンブロシウスはその建物から姿を消した。
(注3)
(注1)
アンブロシウスは星座を全く知らないので、見ても地球と同じ星座が見えるか分かっていません。
(注2)
あるということにしておいてください。
(注3)
女関係では最低だなこいつ。リア充死ね。あ、心の声が……。
(注4)
本来こんな音はしません。記憶(頭)の中での音、雰囲気です。




