メイドのみやげ その4
血が滾る。
俺の中の竜の血が騒ぎ、肌が黒くなるたびに俺の力は爆発的に増大していくのが分かる。
ディザイアコピー
【人形の宴】の魔法の最大の特徴はただ分身を作るにあらず。
分身を創るときに他の遺伝子情報を組み合わせることにより、より最強の俺を作り出すことの出来る能力。
それは分身と言うより合成獣という方が正しいのかもしれない。
今、俺の身体の中にはエターニャのじいさんである現存する中で最古の神龍の血を色濃く受け継ぐもの「黒龍」のDNAが混ざっている。
神龍達の中でも最強種たる黒龍のDNAがだ。
ギイン
残念ながらもう俺の黒くなった皮膚にはジャック・ザ・リパーの獲物が通らず、全ての攻撃を弾き返してしまう。
「つまらんな。だがそれにしても、身体強化など使ってもいないのに力が溢れる。
喜べよお前、この身体は俺達の中でも最強種に近い存在だ。お前はそんな俺と闘えるんだからな』
俺はジャックを見据える。
ジャックは今まで幾百もの人間を切り裂いてきた自らの攻撃が全て通じず、苛立ちと焦燥に顔を歪ませている。
「なんだ、てめ~は。一体どうなってやがる。
俺のメスは鉄の鎧すら切り刻むのに刃がとおりゃしね~」
「そうだな、なんだと問われれば…、俺の名は黒龍王アンブロシウス。そう名乗ろうか」
「黒龍王だと……大層な名前だがこれはどうだ?ヒヒ」
甲高い声と共に持っていたメスを自分の頭に突き刺す。
ジャックの身体が膨れ上がり、服が裂け、そこには3m程もある両手に鎌付けたような、カマキリ頭の人型悪魔になる。
皮膚は硬質な黒緑でテカテカと光っている。
「ヒヒ俺の鎌は単分子ワイヤーのようになっていてな振動させればどんな敵をも切り裂く。これが防げるか」
「ご親切な解説痛み入るが、残念ながらもう終わりにしよう。
下等な悪魔と何時までも戦っているほど俺は暇ではないのでな」
「ヒヒつれね~な~」
目にも止まらぬスピードで、ジャックは俺の背後に回り、俺の首を薙ぎ払おうと右手の鎌を振り下ろす。
ギユイイイイ
だが結局自画自賛したジャックの鎌の攻撃では、俺の身体に傷一つつけることは出来なかった。
「無駄だ。俺に傷を付けたければ魔王でも連れてこい。
この黒龍王に傷を付けたければな」
俺を斬った体制から突然に地面にめり込み、身動き一つ出来なくなるジャック。
「な…、なん…だこれは……う…動けん」
「お前、今何回俺に触れた?」
俺の足も地面に減り込む。
だが俺はジャックのように無様に地面にキスをすることもなく、涼しげな顔でジャックを見下ろす。
「この剣の能力でな。所持している時に主である俺が敵と認識した相手に斬られるか、触れられた回数、自分と相手の身体が重くなるんだ。
先程からお前の体重は増え続けていたんだぞ?気が付かなかったのか?ハハ」
俺は思わず笑ってしまう。
「何故…お前は立って動ける……」
「さ~てね。では、潰れろ」
足を上げて頭におろし、ジャックのカマキリ頭を踏み潰した。(注1)
『虫如きが我に触れるからだ』
自己催眠かけてもなかったのに危険な考えが頭をよぎる。
ジャックの死と共にお互いを縛っていた魔剣の術が切れた。
「と、忘れてた梓姉は!?」
見ると巨漢であった呂布という男の身体が半人半馬のケンタウロスのような悪魔になっていた。
暗がりでも全身が赤い灼熱のような色を放っている。
呂布の頭の髪の毛が伸びてその先から矛のようなものが生え、梓姉を串刺しにしようと襲い掛かる。
しかし20~30本はあるであろうその矛の突きを、同じその場に立ちながら全て躱している梓姉。
決して遅い突きなどではない。残像が残る程の速い突きだ。
梓姉の周りの地面が強烈な矛の突きでクレーターの様に穴が開き、削れて行く。
だが、梓姉はまるでそよ風の中で佇むようにその攻撃を上半身の動きだけで見事に躱していく。
それもよく見ると目を瞑っている様だ。
「冗談でしょ」
なんか笑いが込み上げてくる。
『もうなんで俺の周りには……閑話休題』
「梓姉、こっちは片付いたから手伝うよ」
「来るな!」
「え?何でだよ。梓姉の攻撃じゃ悪魔に効かないだろう」
悪魔相手に魔力の篭らない攻撃等効くはずも無いので、これでは一方的に梓姉が不利と思われる。
ちなみに俺の先程の踏み潰し攻撃の場合は別だ。
この身体が魔力で創られたからという訳ではなく、龍化した俺の体から放たれる攻撃は全て魔法攻撃扱いとなる為だ。
エターニャのドラゴンパンチやドラゴンキック等もそうだ。
「黙って見ていろ!」
『ジローは強い。こいつくらい倒せなきゃわたしがジローの横にに立つ資格なんてないじゃないか!』
言い出したら効かないのは梓姉の昔からの悪いクセだ。
俺は何時でも二人の間に割って入れるように待機する。
コオオオオオオ
空手の息吹をし始める梓姉。
その身体に白い靄のようなものが掛かる。
「なに!?あれは、霊力!」
梓姉が身体に霊力を纏うのが、龍と化した俺の緑の左目にハッキリと見える。
肌が黒くなったのは解けてはいるが、俺の髪の毛は龍化が殆ど解けているのに黒くなってきて元に戻っていない。
俺が知っている中では精霊(妖怪)であるアリスしか持っていない、いや使えないはずの霊力。
霊力は全ての生き物が持っているが、それを目に見えて使えるものといえば、俺はアリス以外知らない。
それを目の前にいる梓姉が使えるということは……。
『あれ?梓姉ってやっぱ物の怪だった?』
確かにこれ程の霊力の篭った攻撃であれば、魔力と同じく悪魔にもダメージを与えられる。
「フッ」
梓姉の身体が一瞬で悪魔の本性を現した半人半馬の呂布の懐に現れる。
「チェストーーーー」
梓姉の放った蹴りが弧を描く様に呂布に襲い掛かり、数百キロはあるであろう呂布の身体が軽々と宙に浮く。
「馬鹿…な……」(注2)
呂布の身体が膨れ上がり、梓姉を中心に弧を描くように四散する。
上から見れば、梓姉からまるで巨大な赤い血の尻尾が生えたかのようにも見える。
『これが「血の尻尾」の由来か…』
俺は少し感心するが、それよりもどうやってその名が梓姉についたのか、怖い想像をしながら彼女に近づく。
「すごいよ、梓姉。悪魔を素手で倒すなんて」
「いや~まさかわたしも悪魔に攻撃が通じるなんて思わなかったよ。なんか聞いてたのとは違うな」
『きっとこっちの人類で悪魔を素手で殺せるのって梓姉だけじゃないかな?
化け物だな……どうりで俺や大が二人係でも勝てない訳だ……』
「今、お前失礼なことを思っていただろ」
ギク
「いや、とんでもない」
『相変わらず勘が鋭い』
「い~や、絶対思ってた!よし、今晩はじっくりと二人でベッドで話をしようじゃないか」
「あれ?なんか変な単語が入っていたような……」
「気のせいだ。さあ帰るぞ」
まあ、本体は向こうの世界に帰ったし、俺は俺でこちらでやらねばならない事がある。
「ハイハイ」
俺は梓姉に続きその場を後にした。
それから程なくして、セントラルパークに軍や市警が到着し、一時封鎖されていたそうだ。
―――――――――――――――――
俺はエンフェルミナをリーンに預け、アムネジアに着いて悪魔達の住処にいく事にした。
姫を奪われた5年前のあの日、姫に着いて行けば良かったと何度後悔したか分からない。
今は例え中身が悪魔でも、そのお身体は守らねばならない。
本当の姫が返ってくるその日まで……。
向こうの世界は各地で被害は出ているものの、完全に滅んではいなかった。
それを確認し、俺はある目的の為に俺の分身を向こうに創り、いろいろな買い物を済ませて魔王城に戻ってきた。
『花園、いや楽園か。
いや~参りました。本当女性ばっかなんですね~ここ』
この魔王城にいる魔人達全員との初めてのお目見え。
妙齢の美女から幼女までより取り見取り。
俺の目の前、綺麗に掃除された途轍もなく広い応接間には今4人の、いやアリスを含めれば5人の美女&美少女達がたむろしている。
「なんか変な事考えてたでしょう、ご主人様」
俺の隣に立ち、ニッコリと笑いながら額に怒りマークを浮かべているアリス。
「いえいえ、ちなみにここでは私をニーと呼びなさい。今はお互いにメイドの身。ご主人様はおかしいですからね」
俺は念話で少し補足説明しながらアリスに呼び名を覚えこませる。
「はい。分かりましたニー様。ではニー様がお買い物に行っていた間にわたしが皆様のご紹介を先に受けておりましたので、二度もお手間をおかけしない為にもわたしから皆様をご紹介させていただきますね」
「それではまず、あちらがこのお城を管理されているセーレ様」
黒というより少し緑色に光る髪の妙齢の美女。
おしとやかな黒っぽい緑を基調としたドレスを着て、椅子に座って難しそうな本を読んでいる。
前に会った時生やしていたような額のゼブラの様な角は見えない。
「そのお隣がアニー様」
オレンジ色の短い髪に、男の子のような白いシャツに半ズボンの美少女。
どうやら向こうの世界から持ってきたのか何故かプラモデルを組み立てている。
「そのお隣がブネ様」
淡い青色の髪がロールパンの様に巻いていておもしろい髪形をしている。
黒を基調としたゴスロリの様な服を着て、手には同じ服を着せた人形が二つ。
おままごとをしているのか一人でブツブツと人形と会話をしている。
「そしてご存知でしょうが、アムネジア様」
ソファーの上に寝転がり、シャツ1枚にパンツ姿で寝転がってお菓子を食べ、向こうの世界から持ってきたであろうマンガの本を読んでいる。
『うん、だらけ過ぎだよ、あんたは』
「これでご紹介を終えましたので、ご主…いえニー様から皆様にご挨拶の程を」
「はい。皆様お忙しいところ申し訳ありません。今日からこの城でお世話になりますアムネジア様の従者でニー・サマーと申します。以後お見知りおきを……」
そう言って俺は背筋を伸ばした完璧な姿勢でお辞儀をする。
しかし皆さん完全無言&無視状態……。
仕方が無いので晩御飯を用意する為に、その場をアリスと共に後にしようとする。
しかし部屋から出ようとしたその時、セーレが俺達を呼び止める。
「お待ちなさい」
「「はい、何でございましょう」」
魔人セーレが椅子に座ったまま、俺達の方を見ないで本のページをめくりながら喋り始める。
「一言だけ言っておきます。
私達はお前達が人間だからと言って直ぐに殺したりはしません。
魔王であれば直ぐにでも殺せと命じるところでしょうね。
私達、いえ特に私は有能な人間はその存在を許されると思っています。
心して精進なさい」
えと、それはつまり有能でなければ直ぐにでも殺すと言う訳ですよね……はい肝に命じておきます。
「「かしこまりました」」
俺達はそれだけを言うと、二人で一礼して部屋から退出した。
(注1)
悪魔の全てが転移や闇を使える訳では有りません。
魔人でない悪魔達は大地の魔力無しには殆どが転移等出来ません。
まあ大地の魔力を使おうにもこちらの世界には基本的にはないんですけどね。
(注2)
馬鹿、スランプの時の俺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿~なんでこんなとこで悪魔最強(魔人最強ではない)の一角を担う呂布様を出すんだよ~ウワーン。
ジャックはいいんだよジャックは(ジャックファンがいたらごめんなさい)、呂布をここで出すかよスランプの時の俺。
後処理考えてくれよなもう。
ということで、呂布様はこんなに弱くなーい!ので、これは只の分身(影)です!
まあ、もともと呂布の能力にはそいうものがあるので良かった良かった。
本当はこんな所で呂布の能力の一つを暴露するつもりは無かったんですが、スランプ時の無茶苦茶を解消する為にも書いてしまいました。
許してください。




