メイドのみやげ その3
時は少し遡る。
俺は今、月の裏側にある魔人達の屋敷に来ていた。
この世界の月は地球と同じで自転しておらず、必ず一方向だけを大地に向けて地球の周りを回っている。
よって月の裏側を観測することは地上からは出来ない。
月と惑星の間にあるアルテミス(アリスの分身)ではどうしても見つけられなかった理由。魔人達の住処はこんなところにあったのだ。
「ファンタジーがいつの間にかSFになるなんてな……。
あ、SFもファンタジーか」
俺は月の裏側にある屋敷、いや魔王城から外を見渡す。
一面の灰色の大地。
魔王城の周りには目に見えないフィールドのようなものが張られてあり、空気や気温等が一定に保たれている。
フィールドから一歩でも外に出たら、まあ死ぬだろうな。
いくらファンタジーの世界だって言ってもギャグマンガじゃあるまいし宇宙で呼吸は無理だろう。
俺の格好はメイド。
何処からどう見てもメイド姿。
白い髪の毛を後ろでアップして大きな髪留めで留め、うっすらとだが化粧もしている。
最近は女性の姿をとることもなくすごせていたのだが、今回魔王城に来るに辺りアムネジアからどうしても男はまずいといわれ、仕方なく本当に久しぶりにこのような格好をしている。
顔はいいんだ、顔は。
俺の顔は片目を隠していて以前にもまして中性的で、破顔しないかぎり女性とも男性とも付かない顔をしている。
自分で言うのもなんだがかなりの美人だと思う。
声についても以前のような魔力の篭った美しい声はでないにしても、身体強化さえ施せば立派(?)にソプラノ声も出せる。
しかし問題はこの格好……以前ほども抵抗は無いにせよスカートというのはどうにもいただけない。
かなり長めのロングスカートのメイド服をチョイスしてはいるが、如何せんどうも足元が落ち着かない。
「まあ仕方ないか…」
アムネジア曰く「もし男なんぞ連れ帰った日には皆に、いやセーレに殺されてしまう」というので已む無くこの姿をすることになった。
セーレとは前にドワーフの地下都市で道案内をしてくれたガゼルの様な角を生やした女魔人の名前だ。
ここにアムネジアの作ったゲートで来てからまだ数時間。
残念ながら彼らの作戦真っ最中なのか、他の魔人達にはお目見えしていない。
アムネジア曰くこの城には今彼女を除いて3人の魔人と一緒に住んでいるらしい。
まあメイドも立派な従者の姿かなとも思わなくも無い。
「従者として連れ帰れ」といった手前、友人というわけにも行かず(どちらにしても男はダメらしいし)、この魔王城でメイドをすることになった。
あの時、絶対王の空間でアムネジアから悪魔を引きずり出し、姫を取り戻すつもりであった。
だが、俺は出来なかった。
なぜなら姫の身体には魂が無かったからだ。
正確にはいくつかに分かれて肉体から魂だけが分離してどこかにいる、あるいは封印されている状態。
その隙間に悪魔アムネジアが宿っていたのだ。
もし無理にアムネジアを引きずり出せば、魂の力を殆ど持たない肉体は衰弱して死んでしまう。
だから俺は姫の魂を捜すべく、悪魔達の従者となることにした。
潜入捜査という訳だ。
他にも理由はあるが大きな理由はそれだ。
『しかし……汚い……』
こんなところで絶対王の空間を使う訳にも行かず。俺はシブシブと掃除を始めることにする。
1時間後……
「無理だ」
とてもじゃないが一人で城1個を掃除できる訳が無い。
それもこちらの世界に来てからというもの、俺は王国の三大貴族の跡取り息子……掃除なんかした事が無い。
向こうの世界ではしていたがそれもボロボロの一軒屋と道場だけ、とても比べるものではない。
仕方なくアムネジアの了承の元アリスを呼ぶことにする。
それからさらに1時間。土下座をして頼んでアリスを説得した。
ということで、掃除はプロのアリスに任せて俺は料理と洗濯担当ということで、洗濯でもすることにする。
洗濯はいいんだ。別に嫌いではないし綺麗な服は気持ちがいい。女性用下着も別にもうこの歳(精神年齢)ではそれ程気にならない。
しかし問題は料理……さらに良く考えたら俺はこっちの世界に来てまともな料理を作った覚えが無い……。
食材や調味料を見てもサッパリ分からない。
いったいどれが何の味でどのようにして料理していいのかまるで分からない。
こまり果てた俺は元の世界にせめて調味料を買い付けに行くことにする。できれば日持ちする食材も。
アリスに一番大変な掃除を任せた手前、何もかもを頼り切るなんて俺のプライドが許さない。(注1)
「ということで後のことは頼んだ」
俺はアリスにそれだけ言うと転移で異世界。俺の魂の生まれ故郷にして母なる大地に帰還することにした。
まあ本当はそれだけの理由で行くわけではない。
他の理由として一つは姫の魂のこと、向こうの世界で肉体から離れたのなら俺は向こうの世界で捜し歩かねばならない。向こうの世界で封印されている可能性もある。
だから向こうの世界の現状把握等、いくつか確認しておきたいこともあったしね。
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「お客さんだ」
俺はこの地に来て、何匹か鳥やネコをファミリアー化していた。
何千ものモニターを監視はできないにしても、数個のモニターぐらいならば同時に見ることぐらい出来る。
それも待機を命じていたのに、命に関わる敵が近くに来て、本能で逃げ出して動きがあればバレバレだ。
ファミリアーは命に関わる命令はできないからな。
「ああ、この殺気お前の敵か?てっきりわたしかと……」
「普段どんな生活してるんですか、ったく。それより梓姉、この近くに大きな広場とか無いか?」
「それならセントラルパークが広いと思うけど…」
「悪いけどそこに案内頼むよ」
「分かった」
俺達二人はコート片手に部屋を飛び出した。
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セントラルパーク
ニューヨークはマンハッタンの中央に位置する341万㎡もある巨大な緑溢れる公園。
といっても現在は冬。
雪の積もるここは雪山かというような状況。湖のような大きさのケネディ池も凍り、スケートができる程だ。
まあ、兎に角寒い。
吹雪いてないだけましだが。
「もうこちらに来てから2時間にもなるのか…。梓姉、俺帰るわ」
「え、この状況で?」
「ああ、心配しないで。ちゃんと俺を置いて行くから」
「?」
俺はお客さんが来る前に絶対王の空間に並ぶ切り札の一つをここで使うことにする。
迷宮の闇が作り出すデータ生物。
それも人間すら作り出した闇。
俺の切り札もそれに似ている(注2)。
大地や空気中の元素を取り出し、闇の魔力で創り出すもう一人の俺。
俺の中にある全ての記憶をコピーし、与えた。
完全なるもう一人の俺を創り出す魔法。
出でよ。
【人形の宴】
帰る為の魔力がいらなくなったから出来たのだが、残り魔力の9割以上をフルに使ってしまう。かなり厳しい魔法だ。
俺は目の前に現れた魔力で創り出したる、見た目そっくりな自分に話しかける。
「頼んだぞ、俺」
「ああ。任せておけ」
俺は亜空間に入り、メイド服に着替えてからアリスに念話を送った。
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「といっても魔力の薄いこっちじゃ、右目に魔力が貯められないじゃないか。
ったく、後魔力残量は都市半壊分くらいしかないな…。まあ亜空間は共用だから武器は使いたい放題だからいいがな」
俺は黒い巨大な大剣を亜空間から取り出す。
【魔剣カタストロフ】
2m近くある黒い巨大な大剣で、幅広の刃は山脈のように幾つもの波を描き、刃の先端だけは赤く光る。
能力は重力制御。都市一つを大地に沈めることも出来る。
但しその負荷は持っているものを中心に発動するので、自分自身が耐えられないと自滅する。
前であれば身体強化しなければ持つことも出来なかった巨大な大剣。
それを俺は片手で肩に担ぐ。
「あの~、えと、ジロー?」
「ん、そうだよ?梓姉」
『嘘でしょ。カッコよくなると分裂までできるの?え?それじゃ、これもらっていいのかな』
「さあやるか」
「え、もうするの?ここじゃ寒いし、でもジローがそういうなら我慢する」
「本当に何の話ですか。お客さんだよ!」
俺達の前に二人の男が現れる。
一人は熊の皮のファーを着けたような皮のジャンパーの巨漢。
もう一人は寒くないのか医者のような白衣を上着代わりに着ている細身の男だ。
「悪魔か?」
「知っているなら話は早い。お前は何者だ?魔力を持っているわりに悪魔ではないな」
「ヒヒ、なんでもいいじゃねーか。
切り刻みたくなるような女もいるし、早く始めようぜ。
おれは女貰うよ。ヒヒ」
『梓姉のことを言っているのか』
この場所に付いた時に、一応帰れと言ったのだが「冗談だろ」みたいな顔で笑われて殺気向けられた。
まあ、ちょっと痛い目に合わなけりゃ分からないらしい。
イザとなれば適当なところで亜空間にでもほりこもう。
「わたしはその大男がいいな。最近荒事を売ってくる馬鹿が少なくなってな。体がなまっていたところだ」
何故か梓姉の方から相手を指名する。
「だってよ。女は俺だな」
「チッかまわん。気の強い女はあんまり好きじゃねーしな。悲鳴を上げて逃げ惑うのを殺すのがいいんだよ。
気の強い女は、たまに追い詰めると口汚くなってな。
まあ男の方だが美形だしな。顔の皮剥いで俺の部屋に飾るか。ヒヒ」
両手から生えるように巨大な二本のメスが現れる。
「おい、戦うならお互いに名乗れよ。それが人の、いや悪魔の戦いってもんだろう」
巨漢の男が仲間を制止する。
「おれはお前らみたいな英傑じゃないがな。ヒヒ、まあいい。
おれは悪魔ジャック。ジャック・ザ・リパーと言ったら分かるか?」
メスを持った白衣の男が自分のことを「切り裂きジャック」だと言う。
「俺は悪魔呂布、字名は捨てた」
今度は巨漢の男が自分のことを「飛将軍」だと言う。
巨漢も空間から矛を取り出す。
もしかしてそれ方天画戟ですか?
『勘弁してくれよ。悪魔はこんなんばっかりかよ』
俺はそういえば初めて戦った悪魔も向こうの世界での英傑であったことを思い出す。
何か法則があるのか、それともただ単にもともと悪魔だから英傑になれたのか…。
「付き合ってやる義理もないがわたしは梓、この辺りでは「血の尻尾」と呼ばれている」
皆がこちらを見る。
『え?やっぱ俺も名乗らなくちゃだめですか?』
仕方なく名乗る。名前は秘密にしといて損はないんだがな。
まあこいつらは、もう直いなくなるからいいんだが…。
「一応アンブロシウスという。ああ、憶えなくていいからね」
俺が名乗り終えるのを待っていたかのように、ジャックが斬りかかってくる。速い。
だが俺はジャックの素早い二刀流のメスを巨大な大剣1本で捌く。
――――――――――
「あれ、あいつの瞳って金色じゃなかったか?なんか緑色に光ってるが……それに肌もなんだか黒くなって来ている様な……」
「余所見をしているのは余裕か?」
巨漢の矛の一撃がわたしを襲う。
まあ、普通ならこれで死んでいてもおかしくは無いだろうがわたしは余裕でバック転をして躱す。
「ごめんごめん。連れのことが気になってな。なにせ可愛い弟分だから、なっ!」
そういいながらわたしは呂布と名乗る巨漢に縮地で近づき、蹴りを放つ。
が、あっさりと矛で受けられてしまう。
「ほう」
「へ~やるじゃない」
わたしと呂布は少し間合いを取る。
(注1)
プライドとA型の鏡の様な性格です。まあ良く言えば責任感が強いとも言います。
(注2)
別に死者の街に行ってから作った魔法ではありません。




