メイドのみやげ その2
ここは教国、とある豪華な執務室のような場所。
今そこに二人の男がいる。
一人は教国教主ロンザック・ヒューム。もう一人は黒い法衣のヘルズ・ミッドガルド。
「それでは例の件は議会の承認を得たのですね」
「ああ、お前のいうとおりこれからの悪魔との戦いにはあれが必要だろう。
一度お姿を隠され、再びこの地に肉体を持って降臨なされたリーン様の為ならば当然のこと。
我ら教国の民は全てリーン様との盟約の元あの方に付き従い世界を平和にするため悪魔どもを倒さねばならない。
リーン様を我らが掲げ、人々、いやエルフやドーワーフなども含んだ世界の全てを我ら教国が導かねばならないのだ。
その為に我らが教国最大にて最強の宝具「銀の巨人」をよみがえらせねばな」
「ありがとうございます」
「ときにアーサーよ。まだ帰っては来ぬのか?」
「私には、まだやることがございますので。
今はまだリーン様をカリスマ的お立場に立たせたばかり。
エルフやドワーフどもに彼女が世界の中心であると浸透させねばなりませんので…。いざという時反論をさせないためにも…」
「そうか。母さん、いやナタリーが心配しておったぞ」
「今回の件が片付いたら、時間を取ってみますよ、父上」
「頼む」
そうして二人の会合は終わった。
―――――――――――――――
一方こちらはとある屋敷の中。
「本当になんて屋敷なのかしら……いえ、人達なのかしら……」
かなりお怒り状態のアリスさん。
それもそのはずここは屋敷というよりお城、お城というより魔王城のような建物の中。
綺麗で爽やか、とても心地安く過ごせるというような空間ではありはしない。
蜘蛛の巣をはわせ、ボロボロになったカーテンそのまま、ホコリっぽい……。
そんなところに着いてきてしまったのは自分からではあるが、少し後悔しはじめた。
それでなくても迷宮に行きたくなかったのに、これでは迷宮に入ったのと一緒だ。
と彼女は思いながらも彼女は必死で掃除して、なんとか見える範囲は片付いてきたと思う。
ピカピカと光り輝く床や壁。
床には自分の顔も映っている。
ボロボロのカーテンも赤いビロードのものに新調した。
しかし、その横で、
「待てよ、そのお菓子は僕んだぞ!」
「な~にを言ってるんでしょうか。これはあちしのものでありんす~」
2人の子供が掛けて来て、どこかの貴族様のお人形のような格好をした子供がお菓子を持ったまま私の後ろに隠れる。
もう一人の走って追いかけてきた方の男の子のような格好の女の子供と、私を挟んで一触即発状態になる。
普通じゃないのは目に見える魔力の放出で(一応気を使っているのか私には怪我一つないが)、床がめくれ、カーテンが千切れていく様が見える。
「いいかげんにしとけよ~お前ら~」
その横をいつもの事と気にせず歩いていくパンツ一枚にシャツだけの赤毛の少女。
手に持ったお菓子をボリボリと食べながら歩き、床にはそのカケラをこぼしながら平然と歩いていく。
『いい加減にしなさい!』
ああ、怒りに任せて叫びたい……でもここは魔人の巣窟。
今周りにいるこの子たちを含め全員が魔人…言いたいけど言えない。
魔人と精霊のバトルなんて目に見えて明らか……私が勝てるはずも無く…。
「本当になんて屋敷なのかしら……いえ、人達なのかしら……」
終わりの無い掃除の日々が続く……。
『ご主人様、早く帰ってきてください。でないと私、もう堪忍袋の尾が切れてしまいそうです』
――――――――――――――――
「おかしい……」
ここは王宮図書館。
普段殆ど用事の無いここに、お父様の了承も得てわたしはここで調べ物をしている。
「エンフェルミナ享年54歳……」
リーンはあの街から連れ帰った少女のことを調べていた。
あの街から連れ帰った少女は健在で、今わたしの屋敷で一緒に暮らしている。
病気の方は魔法で殆どあの時のような症状は見せていない。
完全には直りきらないのは何か理由があるのか……。
『さあ、あなたは王族なのだからお城で王様達と一緒に暮らしなさい』などと言ってお城に掘り込むわけにも行かず、現在一時的に一緒に暮らしているわけだが……。
王宮図書館で王族の家系図を見せてもらってエンフェルミナの過去を調べようとし、そしてアッサリと見つかった。
だがしかし……。
確かに病に倒れてはいる。
だがそれはかなりお歳を経てからのこと……あの様な少女の姿で無くなったわけではない……。
これは一体どういうことなのか。
ナタテスは言った「私達は死ぬ数刻前の姿でこの地に蘇るのですよ」と、エンフェルミナが死んだのは54歳、あの少女はどう見ても10台前半……。
あの少女は一体何者だろう……謎は深まるばかりであった。
――――――――――――
俺はあることに考えが及ぶ。
『梓姉なら適任者じゃないか』
俺の考えていたこと。それは……。
転移やゲートは見える程度の距離ならさして魔力を消費しない。
しかし距離が離れれば離れるほど必要な魔力が膨大になる。
魔王ディアブロがこの世界に戻り、魔力の殆ど無いこちらの世界で、人類を滅ぼしつつ馬鹿でかいゲートを創るのに10年近くかかるのも頷ける。
俺がこちらに転移してくる時も凄まじい魔力を必要とした。
アムネジアがクインドの街で見せた魔力の10倍近くと言えばそのとんでもなさが伺い知れるだろう。
転移ですらそれ程いるのだからゲートはその十倍。
俺の右目には街が3つ消し飛ぶほどの魔力を随時溜めてはいるが、帰るのにはかなりギリギリだ。
そこで思いついたのが亜空間。
普段荷物を入れるだけの他に何も無い空間だが、この空間は鞄のように持ち歩いている訳ではない。
どこからでも作った俺であれば魔力を殆ど使わずに取り出せる。
つまり、向こうの世界とこちらの世界に俺がいれば何時でも世界をまたいで荷物の出し入れが出来る。
当然、人でもだ。
そして俺の得意のファミリアー。
これは使い魔に乗り移って魔法を唱えることが出来る。
ファミリアーに距離と言う概念は無い。
これに気が付いた時、俺は自分が馬鹿だと思ったものだ。
よく考えれば時間や空間魔法は無い等と言っておきながら幼い頃から使っているこの魔力付与こそが時間や空間に作用している魔法ではないか。
風や地や火や水等を使わない。純粋なる魔力の魔法。
時間や距離も関係なく相手の言葉や意思を伝え、行動させ、魔法を唱えられる。時空を超えたリンク。
そしてそこには一切の維持魔力が要らない。
俺はこちらの世界に転移した。
目的は2つ。
一つは今から行う実験の為だ。もう一つの内容は追々話すとして、何故アメリカなの?っていう事だが。
俺は井の中の蛙というかあまり自分の住む街から外に出たことが無い。大門みたいに日本各地を武者修行の旅にでも出ていれば良かったと思ったが、梓姉の話を聞いて今はよかったと思っている。
日本の何処に転移しても悪魔だらけでは話にもならない。
それでアメリカというのは言ったように転移は見たり知っている場所にしかいけない。
俺が後知っているのはTV等で見た世界の有名な建物ぐらい……すいません単純に自由の女神選びました。
ということで今俺はニューヨークはマンハッタンにいる。
そこで偶然にもこんなことを頼めるほどの知り合いが目の前にいる訳だが。
ちなみに俺がこちらの世界で買い物をしたお金は向こうから持ってきた金貨を質屋で換金したものを使っている。
金はこちらの世界でも金で、結構な額になった。
「梓姉。悪いんだけど俺が今からする事を素直に受け入れて欲しいんだ」
真面目な顔でいう
『いやだ。何?何を受け入れろっていうの。挿入するの?15年ぶりにあってカッコよくなって告白?待って心の準備が……』
彼氏と呼べるものは何十回と無くできたことはある。
ただ彼女の性格と、面食いな趣味と、この部屋と……どうにもうまくいったことなど一度も無かった。
おかげで40過ぎても未だに色々な意味で「乙女」であった。
まあ、見た目若すぎるぐらい若いので、彼女自身そんな事など気にしてはいないようだが……。
ちなみに職業はダンサーである。
「目をつぶって」
『いや~きましたきましたよ~。もういいわ、いつでもカモーン』
何故か唇を突き出してくる梓姉
はて?ファミリアー契約をするのに口付けなんて必要ないんだが……。手から出る魔法の光がまぶしいと思い目をつぶれといっただけなのだが……。
俺は無視してファミリアーを梓姉に掛ける。
「よし終わり」
「え!?おわりなの!?まだこれからでしょう」
「一体何を考えているんですか。魔法は掛けさしてもらいましたよ」
「え?魔法?」
「いや本当なんだと思ってたんですか梓姉」
「いやなにってその男と女が二人っきりで一つ屋根の下にいてすることってほら決まってるじゃない」
「違いますよ、まったく。俺は魔法を受け入れてくれっていったんです。梓姉のように気の強い人が抵抗すると上手くかからない場合があるから」
「なんだ」
「なんだじゃない、もう何処いったんですかあの勝気な梓姉は」
「フッ、人生色々あるのよ」
「人生ですか……奥が深いですね」
「まあね」
考えてたことは浅はかな事ですけどね。
「さすが年の功」
後頭部を蹴り飛ばされる。
「歳のことは言うな!」
イタタタ
俺は頭をさすりながらもお願いする。
「いまからちょっとした実験をします。梓姉は身体を楽にしてそこにたってくださいね」
「やだ、私を前に立たせて何をするつもり。脱ぐのね、脱げばいいのね……」
「違います。いい加減怒りますよ!」
「チッ」
「チッ、じゃない!」
話が進まないよ~(作者も同感です)
俺は念話でアリスに話しかける。
『アリス。今大丈夫か?』
『ご主人様!ご無事でしたか!』
『お前の方こそ大丈夫か?またあの馬鹿共が悪さしてないか?』
『……今のところは大丈夫ですよ。で、そちらは?』
『まあ、良しも悪しもってとこかな』
『そうですか』
『ところで今からチョットした実験をするからお前の体を借りたいんだが』
『ちょっと待ってくださいね。
アリスは手に持った箒を近くの柱に立てかける。
『いいですよ。どうぞ』
俺はアリスの中で亜空間を開くイメージをする
『いいぞ。手を前に』
『こうですか?』
あっと驚くアリス。
アリスの手が空中に現れた闇のようなものの中に入る。
『よし、そのまま』
俺は自分の前に亜空間を開き、自分で入る。
そして俺はアリスの身体から自分を取り出すイメージをする。
『こう、ですか?』
「あら……ご主人様」
「ただいま」
俺はアリスと手を握り合って亜空間から出る。
「じゃあ次はと」
『梓姉聴こえる?』
『何、どこ!?突然いなくなって隠れてるの?』
『今から俺の言うとおりにして』
俺はアリスと同じ指示をして、また亜空間に入る。
無事向こうにつけました。
「実験成功」
結局殆ど魔力を消費せずに世界間を行き来できました。
『これ魔王軍に知られたら大変だな……(注1)。アリス。そちらでは今のこと内緒にしといてよ』
『はいはい、分かりましたよご主人様』
軽い返事が返ってくる。俺がこういうとんでもない実験をするのはよくある事でアリスは慣れている。
「これが魔法……。え、わたし魔法使いになったの?」
その後1時間ほど説明に費やしました。
「そうか~。あ、そういえば田舎のばあさんが同じようなことしてたな。もしかしてあれって魔法だったのか?手品だとばかり思ってたが……」
「おばあさんが?」
「ああ。でも、ばあさんと言ってももし本人にあっても絶対にばあさんなんて言うなよ!むちゃくちゃ怒るからな。なんせ見た目わたしよりも若いからな~。お前と同じ白髪だが……」
『200歳を超えるばあさんで梓姉より若い姿ってどんなのよ。もう完全に妖怪だよね、それ……』
――――――――――――
「どうやらここでやられたみたいだな……」
ここは地下鉄のホーム。
先程アンブロシウスと梓がおり、悪魔を倒した場所。
今そこに二つの影があった。
「近くにいたのは我ら二人か。
倒された時、僅かにだが魔力を感じた……。この世界で魔力を持つのは……。どうする報告するか?」
一つの大きな影がもう一つの細い影に向かって問う。
「いや、止めとこうぜ。楽しいじゃないか、魔力を使い我ら悪魔を倒す存在……何者なのか見てからでも遅くは無いだろうヒヒヒヒ」
明らかに凶気を持った声。
どうやら細いほうの悪魔はかなりイッっちゃってる悪魔のようだ。
「そうだな、最近人間の国を責め滅ぼさなくなり、極力人間を襲うなとは、何をお考えなのか魔王は……。
よかろう俺もその話に乗ろう。最近腕が鈍ってきたしな丁度いい。
それに魔王様の手を煩わせるものでもなかろうしな」
「おーいこっちだ、こっち」「おお、いいとこじゃん~か」
ワイワイと騒ぎながら数人の若者達がラッカーの入った紙袋を手に駅の構内に入ってくる。
そうやら新設されたこの地下鉄の駅に、再び開いてる隙間にペイントしようと来た者達みたいである。
ただ、彼らは運が悪かった。
不幸なことにそこには二つの影がいたからだ。
地下鉄の構内に彼らの悲鳴が木霊して、その声が聞こえなくなくなるのに数分も掛からなかった。
訪れる静寂。
地下鉄の構内には、人間であったであろうものの残骸が転がっていた。
ある死体は五寸刻みにものすごく切れ味のいいナイフのようなもので切り裂かれ、他の死体の中には腹にマグナムで撃たれたかのような大きな穴の開いているものもいる。
「ヒヒヒ、いくか」
「ああ、俺が魔力の残滓を辿る」
二つの影はその場を跡にした。
(注1)
創り出した巨大な亜空間に軍勢を詰め込み、魔王ディアブロ単身が転移すれば事は簡単なのですが、荷物運びのようなことをする事など魔王やアンブロシウスの頭の中にはありません。
あくま(・・・)でも颯爽と見ただけで畏怖を感じるような巨大なゲートを開き、厳かに出現する魔王軍の姿しか頭の中にありません。
効率考えるとよっぽどこの方が早いのですがね。




