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「さあ、あたしとろうよ」

 そう叫ぶとアムネジアは一瞬で紫の巨人に切迫すると、何も無い空間からあの剣を取り出しつつ、それをもって勢いよく横凪に斬りつける。


 あの街での強大な魔力を秘めた剣を思い出し、紫の巨人の運命はこれで終わりか、と思われたが、その剣はあっさりと紫の魔方陣に防がれる。


「なに!?マイドールが!」


 アムネジアは驚愕する。それ程の魔力を込めた訳ではないとはいえ、魔方陣一つ打ち砕けないほど弱い一撃ではなかったはずだ。

 それが効かないどころか弾き返されてしまうとは夢にも思わなかった。

『一体何故』

 疑問に思いながらも目にも止まらぬ斬激に、更に紅の雷をまとって2度3度と紫の巨人に叩きつける。

 威力は先程の比ではないはず。

 辺りの建物はハリケーンの直撃を受けたように宙に舞い、残骸の雨が一面に降り注ぐ。

 それでも紫の巨人には掠り傷一つつけられない。


「ゲハ、ゲハハハハハ。その雷の魔力、バールか」


「貴様!?何者だ。何故私の剣が通じぬ。唯の悪魔が私の剣を防げるはずが無い!」


「儂か、儂の名はアンドラス。かつて魔人の末席に名を連ねていたものよ。しかし弱い、弱すぎるぞ!一位に名を連ねる貴様がその巨人ヤグトルシンを使い、魔剣マイドールの力を持ってしてもこの程度か!儂は少し強くなりすぎたかのGEHAHAHAHAHAHAHAHA」


――――――――――――――――


「あの馬鹿、気がついていないのか」


 俺も先程の戦闘で気が付いたのだが、この街は迷宮におけるボスフィールド、つまりこの街全体が迷宮の自己防衛フィールドの亜空間の中にあるということ。

 ここではどんなに強力な魔法を使おうとも迷宮が破壊されないように、ある一定の制限を受ける場合がある。

 それは巨人等、魔力を数千倍にするような増幅装置がフィールドにあるとき、全力を出しても迷宮が壊れないようにそれ自体に制限を付すと言うもの。

 その力が大きければ大きいほど制限が強くなる。

 つまりアムネジアが乗る紅の巨人ヤグトルシンがいくら強力でも紫の巨人と大して変らない力しか出せないのだ。

 それ故ここで戦局を左右するのは固有の魔力。

 アンドラスの魔力はバールというアムネジアの中にいる悪魔を凌駕りょうがしているようだ。


 俺がフィールドに気が付いた理由はリーンが巨人から受けた一撃。

 巨人の力が制限を受けていなければ、リーンはあの巨人の一撃で粉々になっていたかもしれない。


『リーン治療しながら説明しろ。あの悪魔はなんだ』


 リーンがまだ剣と俺の髪の毛を持っているなら通じるはず、と話しかけてみる。

 案の定リーンとの会話が成立する。


『分かりました兄様。時間が無いでしょうから一挙に情報送るから聴いてね』


 俺とリーンはお互いの脳内シナプスを強化して情報を高速でやり取りする。


『悪魔、5年前……。あ~分かったわ。それじゃこいつ本当にアンドラスなんだな。まだこんな事してたんだ。本当しつっこいね~』


 魔人として死んで、闇によって悪魔として蘇ったか……。

 せめて人間としてこの街にでも蘇れば迷惑も掛けないですんだのに、人間喰らって魔力溜めて再び転生して魔人にでも成るつもりなのかね。


 しかしこの魔力……。

 5年もの歳月で人間を食いまくり、力をためたアンドラスの魔力はとんでもないものになっていた。


「さて、お前になどかまっている場合では無い」


 紅の魔人の周りに黒いゲートが幾つも開き、巨大な触手牙の生えた触手が紅の巨人に襲いかかる。

 紅の巨人にとってその程度の攻撃など今までであれば放出される魔力で触れることさえ出来なかったのであろうが、巨大な触手の牙はアッサリと巨人の装甲に絡みつき牙を立てる。

 嫌な金属音を響かせ、ゆっくりとだが確実にその牙が紅の巨人にめり込んでいく。


「アアアアアアアアア」


 巨人の痛みがアムネジアにフィードバックする。

 説明していなかったが、巨人に乗るためにはその巨人との使いファミリアー契約が必要だ。

 転移やゲートは、見たことのある場所か知っている場所にしか行くことができない。

 よって巨人とは最初にファミリアー契約をして、巨人自身の知覚を共有しなければ、巨人の中の扉も無い操縦席には乗ることが出来ないからだ。

 そしてもう一つが、巨人がケイ素生物であると言うこと。

 炭素生命体に比べ、活動が極端に遅いケイ素生物である巨人を人間が知覚出来る以上に早く活動させる為にはファミリアーによる五感の共有が必要になる。

 当然五感を共有させているわけだから、その痛みも共有することになる。

 これがアムネジアが受けた痛みのフィードバックの原理だ。(注1)


「そこの人間。先程の娘を出せ」


 紫の巨人アンドラスが振り返り、俺の方に視線を移す。


「ん?貴様……。その目、その剣。そうか、おまえだったか。道理で成長していないと思った」


 どうやら今までリーンと俺を勘違いしていたようだ。

 まあ、先程のリーンはまさしく当時教国で騒がれた黄金の天使そのまま。

 当時の俺の顔にそっくりだしね。

 『すまん、妹よ』

 それにしても成長具合を何処で判断したのか……あのセクハラまがいの触手か?

 もしそうならリーンが知ったらタブン、ブチ切れるだろうな。


「おい、アンドラス。もうこれくらいにしないか?俺に殺されて俺を恨むならまだしも、この街の人々はもう解放してやれ。それだけ魔力があったら転生して魔人にでもまたなれるだろうが」


 俺は剣を納め、アンドラスのしつこさに何やら執念のようなものがあるのかと問うてみる。

 例えば王に対する忠誠心によるものとか、人間だったのだから妻や子の為とかいろいろあるじゃないか。


「魔人?ゲハハもうそんなものはどうでもいい。あんな脆弱な肉体に転生して何になるというのだ。儂はもはや人になどなりたいとは思わぬ。悪魔として人間共を喰らい尽くし魔王すらこの手にかけ、そして俺は魔人などではなく魔神となるのだ。ゲハハハハハハ」


 残念ながらそんな高尚な目的ではなく、悪魔でありながら魔王を手に掛けるという。


「手始めにお前を喰らい、この女を喰らい。そしてお前への礼として地上に上がったら真っ先に貴様の身内や知り合いを探し出して喰らってやろう。感謝するがいいゲハハハハ」


 俺の髪の毛が逆立ち始める。


「おっと動くなよ」


 紫の巨人の側にゲートが開き、そこから触手に絡みつかれて身動きが取れない一人の少女が姿を現す。


「痛い、痛いいい」


 そこには先程のエンフェルミナと名乗った少女。

 隣のゲートからはナタテスの姿も同じく触手に絡まれて現れる。ナタテスは首に触手が絡まっており、息もまともに出来ないのか呻き声さえ出せないでいる。


「何故彼らが!?」


「愚かなことよ。儂に進言して来た者がおってな」


 いつの間にか俺の側に、怪我をして教会にいた「待ち人」と思われる男が現れ、俺を指差す。


「こいつです。こいつが勇者です」


「そうか良くやった。この上質な魔力を持つむすめの場所も教えてくれたしな。ついでに匿っていた馬鹿な男も一緒になゲゲゲゲゲ」


「これで私はもうあなた様に襲われずに、ずっと見逃してもらえるんですよね?」


 愚かなことにこの男は悪魔と取引をしたようだ。


「ゲゲ、分かっている。わしは寛大なのでな。お前のことは食べないで於いてやろう」


 怪我をした男はその言葉を聴くと悪魔に感謝してその場を立ち去ろうとする。

 しかし次の瞬間、怪我をした男の身体は地面から生えた触手の剣で真っ二つになって崩れ落ちる。


「食べはせぬと言っただけだ。貴様のような弱弱しく怪我をしたものなぞ食うてもおもしろくもなんとも無いしな。それに不味くて食えたものではないゲハハハハハハハハ」


「イヤーーーーーー」


 エンフェルミナが目の前で殺された男を見て泣き叫び、グッタリとなって静かになる。どうやら気絶したようだ。


「おっと、これぐらいにしてまずは死ぬ前にこの娘を食べなければな。いつもいつもこの娘はちょっとつまむとすぐに死んでしまうのでな。あのようなものと比べてこの娘の美味なこと、美味なこと」


ゴウッ


 辺り一面に黒い魔力の奔流が渦巻き始める。


「なんだこの魔力は」

 堪らず後ずさる紫の巨人アンドラス


 アンブロシウスの髪の毛が闇のように黒く染まり、金色の左目が輝き始める。


「貴様はやりすぎた。悪いがもう……救えないよ」


 突然に紅の巨人アムネジアを捕らえていた触手が目に見えない力で全て千切れ飛び、紅の巨人はその場で自由になる。

 アムネジアは怒りに任せて手に持つ剣を固まっている紫の巨人に振るおうとするが、


「下がれ、アムネジア」


 たった一言、威厳に満ちたたった一言の言葉で紅の巨人アムネジアはその剣を納める。


―――――――――――――――――

『何故あたしは剣を収めた!?あたしにそんな命令が出来るのは魔王だけだ』

 しかし心の叫びとは裏腹に、あたしの身体(巨人)は後ろに下がり、まるで王を出迎える騎士のように、臣下の礼を取り、片膝を着く。


 黒い髪の男があたしの前をゆっくりと歩いていく。


――――――――――――――

 

 魔法空間。

 それは魔力で創る仮想空間。

 並べられた本と本の隙間、建てられた隙間のない建物と建物の間。

 何も無いと思われる場所にあると信じ、創造し、魔力を風船を膨らますように込める事によって開く創造の空間。

 物を納めるだけなら何も考えず、何も無い空間を作り維持し、それ程魔力を込めずに済むだろう。

 しかしそこは自分が創り出した空間。自分の世界。

 その世界における唯一絶対神が自分なのだ。


 創造しろ、刮目かつもくしろ。

 そこに何が在るのかを。

 無から有を生みだせ。

 それには途方も無い神の如き魔力が必要だ。

 迷うこと無かれ、迷いは全てを無に帰する。

 絶対的信念の元、在ると信ずることによって存在する世界。


 そして俺は自己催眠により覇王となる。

 ここでは躊躇とまどいは許されない。

 唯一覇王の心を持つもののみがこの空間を支配できる。

 揺るぎ無き絶対の意思。

 巨大な魔力を行使する俺の髪は黒く染まり、口許くちもとに全てのものを従える覇者の笑いが込み上げる。


 さあ、開け!


発動モーション


絶対王アブソリュート空間ヴァーチャロード



―――――――――――――――――――

 アンブロシウスの足元から波が広がるかのように、黒く光る鏡のような空間が広がっていく。


 気が付けば世界は別の様相を呈している。


 見渡す限りの石畳の空間。


 モニュメントのように大理石の柱のような巨大な剣や槍等様々な武器が乱立し、地平線の彼方まで続いている。


 紫の巨人の後方にはいつの間にか、巨大な城壁で囲まれたピラミッドのような砦が建っていた。


 先程まで曇りがちながらも太陽の照っていた空は夜空となり、月と星が輝き、何故か海と雲が空に漂って、光を反射している。


 幾つもの大陸のような大地が空に浮かび、その上には城や宮殿が建ち並ぶ。


 そして夜空を巨大な少女のような姿の影が走りまわり、その目だけが影でなく実態として存在して笑っている。



――――――――――――――――――


「おい、お前。我の前で頭が高い」


 俺は紫の巨人アンドラスの前に立ち地面を足で踏み鳴らす。

 一つの太さが2m近くにもなる巨大な黒い鎖が地面よりいくつも生えて、紫の巨人をその場に縛りつける。

 そして紫の巨人の横に影が膨れ上がり、悪魔でも鉄の巨人でもない、半漁人のような鱗を持ち、巨大な槍を片手に持った化け物が現れる。

 頭はヤツメウナギのようなで目が幾つもあり、背丈は巨人を遥かに越えて巨大。

 人型ではあるが異様さだけが際立つその化け物は、紫の巨人を地面に押さえつけ、その頭を石畳の床にめり込ませる。

 紫の巨人は膨大な魔力を放ち、鎖を切ろうと足掻くが、その魔力の全てが黒い鎖に吸われ、地面に消えていくのが目に見える。


「なんだこの鎖は!?」

 アンドラスが叫び声を上げる。

 巨人より吸われた魔力は直結するアンドラスの魔力を吸収し、アンドラスの身体より生えた触手たちも魔力を失い、消えていく。

 落下するエンフェルミナとナタテスしかしその体は羽にでも成ったかのように音も無くフワリと石畳に舞い降りる。

 気が付いたエンフェルミナを抱え、ナタテスと二人、驚きの顔でこちらを見ている。


「カカカ、そうだ、それでいい、我の許しなくそれいじょう頭を上げるな」


 地面にめり込んだ頭を足蹴に高らかに笑う俺。


「その木偶デクから早く出なくていいのか?魔力を吸われ尽くして消え去るぞ」


―――――――――――

 アンドラスは慌てて思考する。

『危険、危険だ。こいつは危険すぎる。巨人は惜しいが一旦体勢を立て直したほうがいいかもしれんな』

 この地より離れ、別の地へと転移しようとする。

 元々人であり、悪魔でもあるアンドラスは最初にこの街に再生されたわけではない。

 別の迷宮の奥底で闇より悪魔として復活したアンドラスは何故か人としての部分がこの地を知覚し、この地に転移。

 ここで魔力を溜めていたに過ぎない。

 所謂いわゆるバグのようなものだった。

 おかげで転生しなくても、転移による他の場所への移動には制限を受けていなかった。

 しかしアンドラスの試みはからくも失敗に終わる。


―――――――――――

 俺は何も無い空間に手を差し込み、そこよりあるものを引きずり出す。

 白いフクロウのような顔をした悪魔、魔力を吸われて人型の小さな悪魔に戻ったアンドラス。


「ヒイイイイイイそんな馬鹿な。儂は確かに転移したはずだ。何故こんなところに」


「我の前で逃げると言う勝手は許さん」


 転移途中のアンドラスを掴み、俺はこの世界に引きずり戻した。本来なら転移してしまえば途中等と言う概念すらないのだが……。



――――――――――――――


『この黒髪の男は誰だ。魔王か?いや違う。違うが……』

「魔、魔王様お許しください。この愚かなるわたくしをお許しください。もしお許しいただけるなら二度と魔王様には逆らいません。この命は魔王さまのものです」


 男は肯定も否定もせずに頷く。


「そうだな我は寛大な男だ。お前が素直に我の質問に答えるならば命だけは助けてやろう」


「ははーなんなりと」


「あの娘を何度貪り食った」


 黒髪の男は先程喰おうとした小娘を指差して儂に問う。


「あの、6、いや5回ですかな。何せ直ぐに死んで消えるもので、喰いずらくて」


「嘘です。わたしは9回そのものに食べられました」


「小娘が!」


「そうか」


 黒髪の男は、儂の前で地面より現れた荘厳な造りの椅子に腰かけ、見下ろす。


―――――――――――――――


「王の采配を下す。九つ裂きの刑に処す」


 アンドラスの周りに次々と形の違う化け物達が現れる。

 その数は9体。

 アンドラスは逃げようとするが、足に小さな黒い鎖がいつの間にか絡みつき、身動きが取れなくなる。

 化け物達は、悪魔アンドラスを9つの部品に分解する。

 化け物の槍に串刺され、鎖ごと絡みついた肉片は引き裂かれてなお生きて叫び声を上げ続ける。


「約束どおり命は取らん。ただし永遠に裂かれた痛みを味わい続けるがよい」


 背後に在った砦の門が開き、モニュメントのような扉の間からいくつもの巨大な腕が伸びてきて、悪魔アンドラスを持った化け物達を掴む。

 門の向こうに腕が戻っていく。


「いやだ~~助けてくれ~~」


 しかし助けを求める声も虚しく門が閉まり、砦は役目を終えたのかその姿を消す。


――――――――――――――――

 震えが止まらない。

 なんだ、こいつは一体何なんだ。

「何回食った……」

 そう言ってその数に切り刻み、化け物達に連れ去られる悪魔アンドラス。


 圧倒的。


 巨人とか悪魔とかそういったものをまったく意に介さない絶対的な力……下手をすると魔王でさえこの男の前では無力なのではないか?(注2)


 魔王の為にもこいつをここでなんとかしなけらばならない。

 そう思っても、襲い掛かることが出来ない。


 怯えてしまっている。

 戦士としての自分が恐怖の為にすくんで動けないでいる。

 自分が同じように体を裂かれ、永遠に封じ込められる様を創造して血の気が引く。

 戦士とか巨人とか、魔王とか達人とか、兎に角あらゆるものを心の中で述べ、それを糧にして勇気をふるい立たせようとしても、一向に体が動かない。


 そもそも戦いと呼べるものが成立するのかすら疑問だ。

 戦いにならないのなら戦士である自分なぞ何の役に立つというのだ。

 これでは唯の震え上がる人間の小娘のようではないか。

 そう思うと、あたしはいつの間にか巨人から降りて膝をついていた。


 男は椅子に座ったままあたしの方を向き、命令する。


「ここでのことは忘れろ。ナタテス、お前達もだ」


「は…い」

 口が勝手に返答する。どうやら向こうの二人も同じように意思とは別の動きをしているようだ。


「アムネジア、悪魔アンドラスはお前が死闘の末倒した。そうだな?」


「は…い」

『また…だ』


「それと俺をお前の従者としろ。お前は人間である我を気に入り、従者として悪魔の隠れ家に連れ帰る。分かったか」


「は…い」


「よし、ここはそうだな。これにて一件落着クローズドと言うべきか」


 その一言で「絶対王の空間」が消え去る。


―――――――――――――――――


「ふう、疲れた」


「お前が何をしたと言うのだ。観ていただけではないか。疲れたのはあたしだ」


 紅の魔人ヤグトルシンからこちらを見下ろし、文句を言うアムネジア。


「あ、そうでしたね。私は観ていただけ。お疲れ様ですアムネジア様」


「しょうがない奴だ。まあそんなところが気に入っ…いやなんでもない」


 そういうとアムネジアは巨人から転移してきて俺の側に立ち、紅の巨人ヤグトルシンを亜空間に仕舞う。


「兄様!無事ですか」


 丁度同じくして転移で俺の亜空間から抜け出してくるリーン。

 傷の治療がやっと終わったようだ。


「あれ、紫の巨人、いえ悪魔は?」


「ああ、とっくの昔にアムネジア様が倒してしまわれたぞ」


「ええ~~~~!?クッ、悪魔なんかに助けられるなんて……。ん、まあ同士討ちと考えたらいいのか」


 俺は溜め息をつく。


「リーン。お前は何かと言うと悪魔悪魔と言うが、悪魔だろうが人間だろうがそこに意思がある限り、人は皆その信念の元に生きる。その信念に基づく行いが善行か悪行か判断は人それぞれだが、そこに種族や人種による善悪なんてものは無いんだよ。といっても流石に5歳じゃまだ解らないかな?」


「それくらい分かりますよ。失礼な!あ、エンフェルミナ達いつの間に?大丈夫なの」

 駆けて行ってしまう。


『分かってるね……そんなんだからお前は利用されて……まあいい』



 突然に地面が揺れる。


「なんだ!?まだ何か」


 見る間に、ゆっくりとだが崩れた建物、崩れてない建物の区別無く、街の構造物が次から次へと分解していく様子が見て取れる。


「ナタテス、これは何時ものことなのか?」


 俺は戦闘で破壊された建築物だけがデータ修復されるのかと思ったが違うようなので、詳しいであろうここの住人のナタテスに聞いて見る。


「いえ、この様なことは初めてです。何時もなら巨人によって破壊された建物だけがすぐに元道理になるのですが……。どうやら解放の時が来たのかもしれませんね」


「解放?お前達が消える、ということか?」


「え、兄様それは……」


「はい、元々死んだ私達がここにこうしている事自体が可笑しいのですから、それが正しい形に戻る。それだけなのでしょう」


 もしかしたら……、いや俺のせいかもしれない。唯でさえ強力な防御フィールドの中で、無理やりあのような強力な俺の空間を広げたから、 大地がここに強力なウィルスが入ったと勘違いしたのかもしれない。


「仕方の無いことです。永遠等ありはしないのですから……。私達はそれでも、あなた方はここにいて大丈夫なのですか?」


 自分のことよりこちらのことを心配してくる辺りナタテスの人の良さが知れる。


「俺達のことは心配するな。元々帰ろうと思えばいつでも帰れた」


 俺は分かりやすいように、ナタテスの前で外へ通じるゲートを開く。


「大丈夫そうですね。そういえば一つお願いがあるのですが。あ、二つでした。すいません」


 俺はこんな時に失礼だが、少し笑いながらナタテスに問い返す。


「なんだ?」


「はい、一つはこちらのエンフェルミナ様を連れて行ってもらえないかということです」


「……かまわないが無事に、という保障はもしかしたら出来ないかもしれないぞ?」


「それは承知の上です。でも可能性があるならば、ということです」


 ナタテスに肩を掴まれ、俺の方に押し出されるエンフェルミナは意味が分かっていないようだ。

 俺はエンフェルミナの手を取って側に引き寄せる。


「エンフェルミナ君は俺達と外の世界に行くんだ」


「外?ここは外ですけど……」


「もっともっと遠くの外だよ」


「そう……ですか」


 分からないながらも俺達が真剣な話をしているのだと言うことはわかってくれたらしい。

嫌がりもせずに俺達に着いて来る事を納得してくれる。

 だが、データである彼女がここから無事に出られるかは分からない。


「さて、もう一つですが……」


 俺はうすうす次にナタテスが話すであろうことが予測できた。

それは先程のリーンとの話の中でナタテスがリーンに問うたことに関係するものだと思われる。


 あの時のリーンとの会話……。

 彼は死の街リドマスの出身者であり、彼は自分の死んだ後町がどうなったかを、そして王国のアーネット姫が今どうしているかをリーンに問うていた。

 リーンは詳しいことは分からないままも自分が知っている限りのことを話す。

 リドマスが死の街となって人が住まなくなって久しいこと、姫と呼ばれる王女が、昔戦争で少しおかしくなって一時期話すらも出来ない状態になったが、自分の兄と知り合いに成ることで少しずつ回復していったこと、残念ながら今は行方知れずで、最近になって一緒に行方不明になっていた兄が帰ってきたことなどを話したらしい。


「あなたが王国の姫君と懇意にしておられることを聴きました。今は行方知れずらしいですがあなたは姫様をお探しですか?」


「当然だ」


 彼はほっとしたように胸をなでおろし俺に最後のお願いをする。


「でしたら、もしあなたが無事に姫様を探し当て、あの方に会えたならば伝えて欲しいことがあるのです。実は…」

 彼が話すには、昔、彼とその仲間達は姫に刃を向けたことがあるらしい。

 戦争で、敵国に操られていたとはいえ、姫に刃を向けたことが今でも後悔してもし足りないと言う。

 同じ境遇のものがここには最初何人かいたらしいが、


「ただ、残念ながら今残っているのは私だけです。しかし残ったものが一人でもいたのなら、もし外からこの街に入って来れるものに会ったとき、その人を通じて姫様に伝えようと皆で話し合っていたんです。


 姫様にありがとうと言おうと。


 姫様が死ななくて良かったと、


 多くの人々をこの手にかける前に死ねて良かったと、


 そして大好きなの姫様の手でけて嬉しかったと、


 そう伝えて頂けませんか?」


「分かった」

『でも、もう必要ないんじゃないかな』


「あ、あれ?これは何だ。あたしはなん……で……?」

 俺の横にいるアムネジアの瞳から、大粒の涙が頬を伝い、とどめもなく流れ続ける。

 それは彼女が長年探し求め続けていた答え。

 彼女の心の扉は開いたのだろうか。

 この涙はそのあかしなのかも知れない。


 俺達は折角作ったので、ゲートを通り帰ることにする。

 ナタテスも一緒に行かないかと誘うが、自分は仲間が待っているのでとここに留まる意思を示す。

 無理にでも連れて行けないことは無いが、俺は彼の意思を尊重する。


「リーン何処行くんだ。帰るぞ」


 見るとリーンが翼を生やして飛ぼうとしている。


「先に行ってて下さい。わたしは転移で直ぐにでも帰れますので」


 そういうとリーンは静止も聞かずに街の中央へと飛んで行ってしまう。



 程なくして街全体に響くような歌声が聞こえてくる。

 決して大きな声だからではない。心に響く魔力の篭ったような歌声。

 それは慈愛の歌。かつて俺が教国で作り、詠ったあの詩だった。

 何処に隠れていたのか、消え去る街並みの中を街の中央にむけて歩いていく人々がいる。

 先程の凄まじい戦闘の時ですら姿を現さなかった人々が、この歌声に導かれるように街の中央に向かって歩いていく。


『俺にはもうこの声は出せないな……』

 5年前に喉を半分潰してしまって以来、怪我は治ってはいるが声変わりをしたようで、俺の声は低くなってしまった。

 そしてかつての歌姫と呼ばれた時代のような不思議な声は出せなくなってしまっていた。


 消えゆく街にリーンの歌声だけが人々の心を癒すように木霊する。

 その歌声を背に、俺とアムネジア、エンフェルミナの3人はゲートをくぐった。



(注1)

 作者はあまり頭が良くないので、設定に無理がある等の突っ込みは許してください。

 今回は色々と難しかったもので……。

(注2)

 残念ながらこの空間は強力な魔力と絶対的な意志が勝敗を決める世界です。

 だから魔王など、自らの力に疑いを一切持たない絶対的な存在と相対する場合は、意思の力が勝敗を左右します。ウォーレンなどもここではアンブロシウスといい戦いが出来るかもしれません。

 まあ普通はこのような空間に突然説明も無く掘り込まれれば、圧倒的なアンブロシウスのみ業の前に恐怖しか受けず、更に自分を弱弱しい存在へと落としていくことでしょう。

 アムネジアが巨人という鎧を脱ぎ去り、唯の少女となってしまったかのように……。


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