愛、まみえる
-後日談-
兄に連れられて屋敷の戻ったわたしはその日から折を見て、いろいろな人にわたしの事をどう思っているのかを聞いてみることにした。
わたしは兄の代わりなのかと……。
お父様
「馬鹿なことを!お前はお前、大切な私の娘だ。連合など辞めたければ直ぐにでも辞めなさい。お前はまだ5歳なのだから、お兄さんみたいにならなくていい!」
『怒られました……なんか嬉しいです』
お母様
「え?リーンちゃんのこと?ん~私はずっと娘が欲しかったからあなたが出来て嬉しかったわよ?だってお兄さんはヤッパリ男の子でしょ?口に出して言わないけど可愛いドレスとか着せたらなんか嫌そうだったのよ」
『お母さん……それは嫌がります。当たり前です』
シュバルツ
眉をヒクつかせて、
「お嬢様?失礼ですけどあなたがあの方の代わりなどと言えるなら、私は朝から晩まであなたの執務室で書類の決裁などしておりません。
昔、あなたのお兄様と一緒に1年ほど行動を共にしたことがございますが、あの方は本当にいつ寝ているのかと思うほど毎日々作戦の指示や、計画書の作成、私達獣人に歌や教育をし、各街に交渉に出掛け、魔獣を倒し、私が記憶する限りあれ程お仕事熱心な方を私は知りません。
あの方の代わり等と言われるのでしたら、あなたにもそろそろ仕事を覚えていただきませんといけませんね」
『ヤブヘビつつきました~』
アスール
「代わり?魂の形が違うが?」
『どこを見てるんですか、あなた』
ハーフドワーフのおじいさま
「あいつはむさくるしいし生意気な坊主だった。お主とは全然違うが?」
『あれ?お兄様って可憐でお美しい方だと聞いていたのですが、むさくるしい???』
師匠
「……」
『何か喋ってください……』
「しいて言うならあの方はとても賢い方だ。私の馬鹿弟子にその1万分の1でも脳みそを別けて貰いたいくらいだ。
取り合えずそんな馬鹿なことを聴きにくるぐらいだ。余程暇なのだろう。実は私はこれから……」
私は光の速さでその場を逃げ出した。
あっさりと捕まって連れて行かれ、何があったかは別の機会にでも……わたしが生きていたら……。
以上後日段でした。
まあ、彼ら以外のエルフやドワーフ達がどうだったかにしろ、結局身近にいる人々の話を聞く限り、独りよがりの取り越し苦労だったみたいですね。
リーンさんお疲れ様でした。
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時間が少し遡る。
リーンが死の街より帰り着いて、自分の家に帰り着く少し前。
ここはある大きな建物の地下にある一室。
そこに今一人の男がいて、通信の魔道具に向かって何かを話している。
「なんだと!?もう帰っただと!?馬鹿な!?」
『いったいあの男は何を考えている……もしやこちらの行動を察知して、いや、そんなハズはない、そんなハズは……』
魔道具に話しかける男は、相手に作戦の中止を命じる。
「屋敷に帰ってしまっては、もう秘密裏にあの男を消すという訳には行かなくなってしまった」
帰ってしまったものは仕方が無い、作戦を練り直さねば……。
ああ、そうか、いいことを思いついた。
作戦を次の段階に進めよう。あの男を中心に作戦を実行すれば……
今度こそあの男を……それに……。
暗闇の中、一人で呟く男の顔は怪しげに笑っていた。
―――――――――――――――――――――
-教国南クインドの街-
数日後。
教国第2の首都と呼ばれるほどの大きな街に、俺達は今向かっている。
俺達はバイクや飛行船等ではなく、軍の高速飛行艇の中にいる。
ただの高速艇ではなく超が付く程の速さを誇る最新鋭の高速飛行艇。
俺達が世界中に現れる鉄の巨人を発見し、撃退する為と、ヘルズが軍の超高速飛行艇を用意した。
そして俺達を伴って向かっているのだが……。
正直、俺は今回のことについてはあまり乗り気ではなかった。
前であれば世界中に散らばったファミリアーで捜索すれば鉄の巨人を見つけることは容易いことだったが、今はできない。
モニターはまだ以前俺の頭の中にはあるのだが、それを整理して監視する為の機能が俺の頭には無い。
随時使える膨大な魔力を失った俺は、常に魔力で脳を強化し、それらを整理し監視する為のプログラムが組めないからだった。
一つ一つのモニターを眺めることはできるのだが、無限にあるそれの全てを同時に把握する程に俺の頭は賢くは無い。
どこに何があり、何処に何が写っているのか膨大すぎて把握できない。
暗闇の中、ただ無限に映像を流し続ける沢山のモニターが誰の目に留まることもなく並んでいる。そんな感じだ。
襲われているとの軍からの報せがあってから向かったのでは遅すぎるので、敵の発見や捜索は全てアリスが何故か自ら申し出て行っている。
どうやってかって?
アリスには上空に浮かぶ分身がある。
それを使って大陸中を監視している訳だ。
どこから現れるのか、それは分かっていない。
敵は突然に現れ、目的地を攻撃、そして去っていく。
まるで台風か災害のように
月はアリスの命令で動き、常にその位置を維持し昼間でも沈むことは無い。
アリスの顔色が悪い。
この力を使うとアリス自身の寿命を縮めることになる。
分身とのリンクには霊力を幾分か消耗する。
『食事で補えるほどでたいしたことはない』というが、常にリンクし続けている姿を見る限り、かなり無理をしているように見える。
だからこの力のことは秘密にしておきたかったのだが……。
敵の拠点や基地が分からないといったのは、敵が突然に現れ、突然に消えるからだ。
恐らく空間転移を多用しているのだろう。
月により発見した、敵が向かう街に急いで急行する。
軍の方からの情報が入ったのはそれから10分もしてからだった。
「まもなく街の上空に入ります」
オペレーターのお姉さん。
茶色の短い髪の可愛いという印象のサナ少尉が声を上げて艦橋に伝える。
今までではありえないスピードで街から街を移動する超高速飛行艇はアリスが発見から僅か20分程で目的地に着いた。
強化ガラスの向こうにクインドの街が見えてくる。
街からはいくつもの黒い煙が上がっていた。
――――――――――――――――――――
「いた!」
体長約15m程の紅の鉄の巨人が街の中にいるのを発見する。
紅の巨人がいる場所は街の中央部。巨人の前には直径200mはある巨大な穴がポッカリと地面に開いており、巨人は穴の前で何かをしているようだ。
そういえばこの間師匠から聞いた話では、巨人は襲う街や城に巨大な穴を開けていくと……いや、街や砦だけでなく、森や砂漠にも穴を開けているとの報告も入っているらしい。
兄様が何かを悩んでいるような声を出す。
何を悩んでいるのかわたしには分からない。
「まあチョットいってくるわ」
突然にイスから立ち上がり、兄様がブリッジから出て行こうとする。
「え!?まだ飛行中ですよ!?どこにいくんですか!?」
立ち止まり、振り返って兄様は言う。
「どこって……あ・そ・こ」
区切って言ってもあんまり可愛くないですから……。
兄様が指差すのは紅の巨人。
「ああっ、風の魔法」
私は思いつく。
高さ400m程のここからでも、風の魔法を使って飛び降りれば、無事に敵の前につけるはず。
「ん?俺は風の魔法なんか使えないよ?」
「え!?それでは契約精霊?」
「いや?俺は風の精霊とは契約できな…、いやしていないんだ」
「そうれじゃどうやって!?」
「まあ、大丈夫」
「大丈夫じゃないです!」
わたしは何とか兄を止めようとする。
師匠はわたし達のことには何も口をださず、この街の軍と何やら忙しそうに連絡を取り合っている。
魔法も使わずにこの高さから飛び降りるなんて、それじゃただの自殺だ!
「アリス行くぞ」
そんなわたしを無視してブリッジの扉から出て、立ち去る兄様の後ろをわたしも慌てて付いていく。
兄様の格好はいつもの鳥の羽の着いた黒いロングコート。
アリスさんは何故か軍の人と同じダークグリーンの制服に同じ色のミニスカートを穿いている。
わたしはいつもの白い鎧に今日は長めの白いスカートを穿いている。
……なんかチョットうらやましい。自由に服を着替えられる能力ってなんか反則。
『今度、宮廷魔術師のアソロさんに頼んでそういう魔法作ってもらおうかな?』
超高速飛行艇の後部貨物用ハッチが開き、兄はそこに向かって歩いていく。
「本気!?」
実は半分冗談かと思っていた。
しかし兄はまったく躊躇せずにハッチから外に飛び降りた。アリスさんもそれに続く。
まるで街中にでも散歩しに行くかのように……。
「嘘……でしょ?」
私は慌てて風魔法を自分に掛けて追いかける。
「何処!?」
宙空に飛び出した私はスピードを維持する為に、自由落下に近い速度で兄様達を捜す。
『いた!』
かなり下の方にアリスさんと一緒に落ちている兄様の姿を発見する。
「兄様!」
叫ぶが風の音がひどくて、耳の横を過ぎ去る風の音で自分の声すら耳に届かない。
私は空中を駆けるようにそちらに向かう。
「あれは!?」
兄様の身体から黒い影のようなものが現れ、アリスさんと兄様を包んでいく。
兄様との戦闘で一度だけ見た影魔法……だと思っていた。
影、というより闇?
でも、それってこんな空中でも出るんですか?
それだけではなく、その闇は大きく膨れ上がる。
まるでそこに黒い闇の星があらわれたように、20m程の大きな黒い球体になる。
それが弾け、中から白い、いや白と金色の鉄の巨人が現れた。
「な!?はいっ!?」
あまりのことに空中制御を誤ったわたしの体は、木の葉のようにくるくると舞う。
そして突然何か堅いものに当たり、私の回転が止まる。
同時に落下も止まっている。
「イタタタタ。え?もう地上に着いたの?よく私生きてたな」
違いました。
そこは白と金の鉄の巨人の手の平の中。
回転する私の体を受け止めてくれたみたいです。
「兄様!?そこにいるんですか!?」
巨人の手の平のが防風の役目を果たし、わたし声がきちんと耳に響く。
「ああ、さがっていろ」
白い巨人の中から兄様の声が聞こえてくる。
兄様は私をそっと空中に放つ。
風の魔法はまだ切れていないので、私はそのまま地上のかなり高い建物の上にふわりと羽のように降り立つ。
兄様を乗せた白の巨人は凄まじい地響きを立てて街の石畳の上に着地する。
石畳が粉々に砕けてめくれ上がって飛び散り、石の破片が辺り一面に舞い、もうもうと土煙が上がる。
「兄様!?」
無事なのだろうか?
辺り一面煙だらけで何も見えない。
あの高さからあれ程の重量の物体がただ慣性のままに落下したら、中に乗っていてもただではすまない、と思う。
巨人自体バラバラになっているのではないか?
そんな嫌な想像すら頭をよぎる。
当然、紅の巨人がこの騒ぎに気がついたようで、何かの作業を終えたのか、こちらに向かって歩いてくる。
鉄の巨人の重量で、歩くたびに僅かに地面が震える。
「兄様!」
煙の側、兄様が着地した近くに紅の巨人が近づく。
キンッ
硬質な金属音とともに、土煙の中に金色の光がともる。
『目?』
巨大な白い腕が煙から伸びて、紅の巨人に襲い掛かる。
紅の巨人もただ突っ立っていた訳ではなく、その伸びてきた手にすぐさま反応し、自らの手をそれに叩きつける。
衝撃音がここまで響いてくる。
さらに煙の下方からもう1本の白い腕が伸びて、紅の巨人に襲い掛かる。
紅の巨人も、同じく残った左腕でそれを迎え撃つ。
重なり合う二つの手と手が組み合い、そこでやっと煙が晴れてくる。
煙の下から、落下のダメージも無く、全くの無傷で紅の巨人と組み合う兄様の機体、白と金の巨人が姿を現した。
そしてその巨人の目は、兄様と同じく左目だけが金色に輝いていた。




