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邂逅 (かいこう)

「遅かった……」


 私の目の前には先行していた軍の高速飛行艇がある。

 しかしそれは跡形も無く無残に破壊され、死の街を飾るオブジェになっていた。

 この惨状では生存者は望めまい。


 黒い煙が炎と共に吹き上がり、死んだ者達が上げる狼煙に見える。

 ここに敵がいたのだ、とわたし達に知らせてくれているようだ。


 わたしは前の世界で悪魔に殺された。

 殺されるまでに数々の友人達を亡くした。

 友達、先生、近所のおばちゃん、お母さん……そんな人々を目の前で亡くしたわたしは、この目の前の惨状で亡くなっている人々を見ても何も感じない。

 知っている者達の哀れなむくろを何度も目にした事のある私には、他人の死が哀れには思えても心や精神が揺さぶられるようなことは無かった。


 ただ怒りは別だ。

 わたしは怒っている。

 悪魔、彼らだけは許せない。

 前世のわたしには力が無かった。

 大事な人を守る力、大事なものを守る力、それらを持っていなかった為にわたしは全てのものを失った。


 だけど、今は違う。

 わたしには「力」がある。

 悪魔を倒す力、守りたいものを守る力がわたしにはある。

 この世界に来て初めて手にした戦う「力」。

 守ってみせる。今度こそ大切なものを!!


 背後の瓦礫の山から音がする。

 何者かの気配。


「だれっ!?」


 わたしは叫ぶ。

 叫びながらも、何時いかなることにも対処できるように身体強化を施し、亜空間から神槍ロンギヌスを取り出す。

 クルリと回転させて両手で構える。


――――――――――――――――――――――――

 黒煙の上がる瓦礫の中、俺は人々の死を悼んでいた。

『もう少し早ければ……』

 悔いても仕方が無いのはわかってはいるが、無くなった人々の無念を考えると心が痛む。

 彼らにも帰る所、待っている家族があるだろうに……。


 船の甲板と思われる塊の上に登り、生存者を探す為叫ぼうとした時だった。


「だれっ!?」


 俺の方を振り返り、叫ぶ少女がいる。

 俺は生き残りがいたのかと思ったが、その少女の姿を見て絶句する。


『俺?……』


 そこには5年前の俺がいた……。


 美しく流れるようなプロチナブロンドの肩まであるストレートの髪。金色の瞳。

 透けるような肌に薄紅色の花のような唇。まさしく絶世の美少女……。


 そしてその少女は何も無い空間から槍を取り出し、俺に向かって構え、戦闘体制に入る。

 輝く金色の双眸が俺を睨む。


――――――――――――――――――――――――

 そこにいたのは白髪で片目を隠し、左目が金色に輝く凄まじくカッコイイ男の人。

 鳥の羽を肩の周りに沢山着けたような黒のロングコートを羽織り、私を上から見下ろすようにたたずむその姿は、何かの物語の中の主人公のように見える。


「悪魔……め!」


 しかし次の瞬間、明らかな殺意がその男から発せられ、私に降りかかる。


 男は腰から左右に出た剣の柄を交差して握り、禍々しい黒い2本の剣を引き抜く。


 ユラリと男の姿が左右にぶれる。

 身体強化をしていてよかった。

 そうでなければ男のとんでもないスピードを目にすることも出来ずに、わたしは一撃でこの世から再びサヨナラすることになっただろう。


 槍を盾代わりにして下方向に現れた男の剣を受ける。

 しかし受けたのは片方の剣、もう片方の剣が私の足を狙う。

 わたしは槍を地面に突き立て、両足を浮かし、蹴りを放つ。


 ただの蹴りではない。

 身体強化を施したわたしの蹴りは、足にいつもの魔法の防具さえ着けていれば岩をも砕く。

 今は先ほど街中を散策していた私服のままなので、装備を着けていない。

 別に忘れてきたわけではない。

 この街に来て、先行していた部隊と合流してから着けるつもりではいた。


 男はアッサリと姿勢をさらに低くしてそれをかわす。

 かわしただけではなく、その地を這うような姿勢から身体を捻り、両方の剣を交差させて槍の様にしてわたしを突き刺しに来る。

 わたしは自分の槍を握っていた手を基点に、思いっきり身体を上方向に引き上げる。

 槍を放し、上空に身体を回転させて逃れたわたしは、少し離れた位置に着地する。

 わたしは神槍ロンギヌスを空間を手繰り寄せて手に戻す。


 ここまでのかん約2秒。

 まばたきするにも満たないような時間の戦闘、でもそれだけで十分分かったことがある。


「強い!?」


 3歳にして剣…いや、槍術をマスターした私が完全に遊ばれている!?


 それもこの男の戦い方、どこかでならったというようなお綺麗な剣技ではない。

 力任せの、それでいて全く隙の無い変幻自在の獣のような剣捌けんさばき。


 私の目にもとまらぬ身体強化の蹴りをアッサリとかわし、さらにそこから切り返してくるあの変幻自在の技の速さ。


 長い槍1本では2刀の彼の剣を裁ききれないと悟った私は、堪らず魔法を放つ。


【千の炎鎌ウェードオンフレイア


 無数の炎の鎌が白い髪の男を囲み、高速回転して襲い掛かる。

 人の体が通り抜けられるような隙間は無い。


 この魔法はわたしにしか使えない、わたしだけのオリジナル魔法。

 1千度の炎の鎌が高速回転してあらゆるものを切り裂く。

 ドラゴンですら殺せるであろうその魔法を男は身動き一つせずに待ち構えている。


『動けない……だけ?』


 四方八方から迫り来るその魔法を見て、わたしはかわせないのだろうと思い、油断して一瞬気を抜いてしまった。


 男の足元からまるで影が意思を持ったかのように男を飲み込み、その姿が見えなくなる。


 背後からものすごい殺気。

 受けられたのは奇跡かもしれない。

 咄嗟に槍を縦にして、見ないで背中に持っていく。

 凄まじい衝撃で前に吹き飛ばされる。

 危うかった…もし剣を縦に振られていたらアウトだった。


 だがそれだけでは終わらない。

 わたしが吹き飛ばされた方向には無数の炎の鎌、私の魔法がまだ四方八方に回転して誰もいない空間を切り裂いている。

 わたしは自分の魔法の範囲に飛び込む寸前で、なんとか魔法の解除に間に合う。


「クッ、ええいっもうっ!!」


 なんとか体制整え、槍を構える。


「そこまでです!!」


師匠せんせい!」


 いつの間に来たのかレッド、いやヘルズ=ミッドガルド師匠せんせいが私の背後に立っていた。


「お久しぶりですね、やはり生きておられましたか」


 師匠せんせいは微笑みながら男に語りかける。


「ミッ…ドガルド……か?」


 男は師匠せんせいの名前を思い出したかのように言うと、殺気を僅かばかり緩めて剣を下げて構えを解く。


「はい。今はこのの武術の師などをさせていただいてます」


師匠せんせいこの男を知っているんですか!?」


 わたしがそう言うと師匠せんせいは驚いたような顔をしてわたしを見る。


「知ってるも何も、あなたのお兄さんじゃないですか」


「「はい?」」


 何故か私とその男はハモり、二人して疑問のマークを頭の上に出してしまう。


「だから、あちらはあなたのお兄さん。アンブロシウス=マキシスさんですよ」


 そして師匠せんせいは男の方を向き、私のことを紹介する。


「ちなみにこちらはリーン=マキシス。あなたの実の妹です」


「「エエエエエエエエエエエエエエ~~~~!?」」


 またもやハモッてしまう。


「いや、チョット待て俺の妹はいるとしてもいいとこ5歳だ!?こんなに大きいわけがない!!」

「いえいえ師匠せんせい、私の兄は金髪金眼の女性顔の美丈夫でこんなワイルドな方ではありません!!」


 二人でミッドガルドに口で攻め寄る。

 男は既に剣を納め、わたしも槍は亜空間にほりこんである。


「おい、仮にお前が俺の妹だとして、女性顔ってどんな想像してたんだ?」

「いえ、わたしの兄は宝塚の麗人のような方で、赤いバラを咥えて現れるような人だと……」


「「・・・・・・」」


「いや~、いくらなんでもそれは無い無い」

 男は手の平を顔の前でヒラヒラさせながらかぶりを振る。


「ハアッ疲れたわ、力まで使わせやがって……」


 男はまるで全部わたしが悪いかのような言い方をするので、わたしは少しイラッとしてくってかかる。

「そっちこそ自分の妹を本気で殺す気だったでしょう!」


「ああ?生きてるんだから良いじゃないか。だいたい殺す気ならとっくの昔にお前は死んでるよ」


 ピキッ!私の眉間にしわがより(ああ、大変)、額に青筋が立つのが分かる。


「あ~らご冗談を?私こそ本気だったなら、すでに貴方の首を持って高らかに笑っていますわ。ああ、汚くてそんなものもちませんけどね!」


 ピキキッ!男の額に青筋が2つ程立つのが見える。


「ああ、すまなかった。俺も本気なら1秒で決着が付いちまうんで、つい遊んでたんだったわ」


 ピキキキッ!私の額に青筋が追加されるのが分かる。


「1秒~?私が本気だったら0・5秒であなたの首が飛んでたわよ!!」


「なんだ!やるのかこら!」

「なによ!やってやろうじゃないのよ!!」

 わたしと男はキスでもするのかって言うくらい顔を近づけてお互いに睨み合う。


「そ~こ~ま~で!」


「「ヘプッ!?」」


――――――――――――――――――――――

 俺と妹は二人して、横に現れたメイド姿の少女に頭をフライパンで殴られ突っ伏する。


「アリス!?」

「イタタ」


 俺は頭をさすりながら立ち上がる。

 妹も頭を押さえて涙目になっている。


「兄妹喧嘩しない!というかご主人様キャラ戻ってます!!

 折角妹さんの前でカッコ良い振りできましたのに……」


 手に大きなフライパンを持つメイド服姿のアリス、御存じクロネコミミと二股に分かれた尻尾が可愛さを倍増している。

 しかし前の姿を想像しているなら少し変わったと思っていただきたい。

 何処が変わったかって?

 それは……チイサクナッタ……。

 ハアッ、そう小さくというか幼い姿になっている。

 どこからどう見ても小学生くらいの幼い少女の姿。

 それでメイド服着ているのはなんだか萌える。

 ああ、いや俺は決してロリではない、ロリではないよ。

 変な意味ではなく、こう何かをしている姿を見ると一生懸命さがにじみ出るというか……いやこれ以上はよそう。どう考えてもいい方向に理解されないだろうから……。


 それにしても、確かに俺はなんでこんなにムキになってたんだろう?

 これが兄妹のリンクパワーというものか。

 前世では兄弟なんていなかったから、判断基準なんて無いのだが……。


「すまない。どうかしてた」


 俺は妹のリーンを見つめ、手を差し出す。


「あらためて、俺はアンブロシウス=マキシス君の兄らしい。よろしく」


――――――――――――――――――――――

 目の前の男が小さな少女に怒られて、あやまりながら手を差し出してくる。


 わたしは咄嗟に何も考えずに男の手を握り、立ち上がらせてもらった。

 が、私はこの男を兄だなんて認めてないし、よく考えたら『殺されかけた上、その仲間と思われる少女にフライパンで頭を殴られただけではないか!』ということに考えが思い至る。


 私は手を払いのけ、思わず叫ぶ。


「馴れ馴れしくしないでください!私はまだあなたを兄だなんて認めていません!

 だいたい私の兄はシバリーンの神童とまで呼ばれていた方で品行法制、貴族の中の貴族と呼ばれた方です。

 あなたのような粗野で野蛮な方ではありません!

 お帰りください、っていうかどうしてもあなたがわたしの兄だというならもう一度お母様の中から出直してください!!」


――――――――――――――――――――――

「母か……」


 俺は懐かしく思う。

 心配してたんだろうな、5年もの間行方知れずだったんだから……。


――――――――――――――――――――――――

「母さんは元気か?」


 男はやけにしんみりとして私に問いかけてくる。


「ええ、おかげさまで元気にしております、って何故貴方にそんな事教えなければいけないんですか!!」



「なら、いいんだ。すまなかったな」


 男はきびすを返して立ち去ろうとする。


「ま、待ちなさいよ!」


 私は感情とは別に、訳が分からないが何故か引き止めてしまう。


「ん?」


 振り向く男。

 その男の左目に、白い前髪が一房ひとふさサラリと掛かる。


 そういう仕草が妙にカッコイイのはかっこいいんだ!ムカツクけど!!


「お、お母様に会っていかないの?」


 馬鹿なわたし。お兄様だなんて認めていないのについお母様に会って行かないのかなんて……。


 男は少し考え、口ごもるが、顔を上げて首を横に振る。


「いや、会って何をどう話せば良いか、今はまだ分からない。

 謝って済むものでもないしな……。

 まあ、落ち着いたらいつか会いに行くよ」


「……分かったわ。それまで母には内緒にしといてあげる。

 べっ、別に貴方のことを思ってじゃないわよ!!

 はっ、母、いえお母様に余計な気苦労をさせたくないだけなんだから!!」


 男の口調がついうつってしまい、ついお母様のことをははだなんて言ってしまった……。


「ああ、分かってるさ。ありがとう」


 そういって男は小さなメイド服の少女と去ろうとする、が何かを思い出したように振り返って、私の側に来て耳打ちする。


「余計なお世話よ!!!」

 わたしは神槍を取り出して男に振り下ろす。

 殺気一つこもっていない普通の振り下ろし。

 男はアッサリとそれを交わすと笑いながら去っていった。

『あの男!何が戦うならミニスカートはやめたほうが良いよ、だ!!分かってるわよ!!っていうかそれよりも……見たな!?いや見られた!!マジ、ム・カ・ツ・ク!!』



 街や砦の周囲まわりの安全を確認していた軍の兵が、いつの間にか見えるところに近づいてきている。


「私達もいきますか」


 師匠せんせいが言う。

 あ!?師匠せんせい存在こと忘れてた……。


「え~と、先生その~あの~」


「分かってますよ。彼の事は誰にも言いません。流石に私もそこまで無粋ではありませんしね」


 私はホッと胸をなでおろす。


「それよりも、あなたは帰ってからもう一度鍛え直しですね」


 ギクッ!?

 何故か師匠せんせいの背後に怒りのオーラが見える。

 クイッと眼鏡を押し上げ、師匠せんせいは地面を指差す。

 『はい、正座ですね』

 わたしはスゴスゴとその場で正座する。


「観てましたよ、先程の戦い。

 なんですか?あの無様な戦闘は……。

 普段の修練を怠るからあのように魔法に頼って、あまつさえ自分で自分の魔法に……」


 はい、申し開きのしようもございません。

 今までのわたしは自信過剰でした……街中でわたあめ買う暇もありません……いちから鍛えなおします……。

 私はその場で正座をし、再び先生のお説教を今度は3時間頂きました。

 反省してます、もう許してくださヒ……。

 ああ、周りの兵士ひとの目がイタヒ……。


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