アリスのご主人様
「私のご主人様は馬鹿だ。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、本当に馬鹿だ」
私は地下帝国でご主人様を見失ってすぐに、ご主人様を探す旅に出た。
「ご主人様は絶対に生きておられる!」
地下帝国に埋もれて亡くなっておられるなら、まず私のファミリアーが解けていないのはおかしい。
それに生きて近くにおられれば私はご主人様の気配ぐらいなら掴める。
1ヶ月かかって王国中を探したが見つからない。
まったくご主人様の気配をどこにも感じられない……。
念話を何度も送るが、それを受けられる状態ではないのか返事が無い。
結論ご主人様は王国にはおられない。
こうなれば世界中を捜さねばならない……。
でも、もう私の方が我慢の限界だ。
1ヶ月。ご主人様がお生まれになってからそんなに離れたことは一度も無かった。
それに生きておられるにしても念話が未だに通じないところを見ると、危篤状態が続いているのかもしれない。
我慢の限界が来た私は自分の霊力のほぼ全てを使って自分の分身を作る。
ただ、もしご主人様を見つけることが出来たとしても、私の寿命はもう長くは無いかもしれない……。
精霊としての霊力の全てを使いきれば私は消滅する。
魔力とは違って、この力は寝たら回復するという手合いのものではない。
世界を見渡すことの出来る分身。
そんなものを作れば私という存在は消えてしまうかもしれない。
作ってしまった……。
衛星アルテミス、月と一緒にこの星をめぐる私の分身。
月程も大きくはなく、月のような引力も無い霊力の塊。
なんとか消滅を逃れた私はそこから世界中を見渡す。
そして私はご主人様を発見する。
おかしな動きをする動物達。その先にご主人様が居る!
ご主人様がおられるのは連合国荒野の翼人族領地。
その崖の中、昔の神を祭る泉のある洞窟の奥にご主人様はいた。
私はもう人の形を保てないながらもそこに駆けつける。
ご主人様のお姿を発見して、私は震えが止まらなくなる。
喜びからではなく、あまりのお姿に動揺したからだ。
ご主人様は、手も足も崩れたようにボロボロで壊れた人形のように自分で立ち上がることすら出来ず、あれほどお綺麗だった金色の髪も、どれ程の恐怖をお受けになったのか真っ白になり、右目はどす黒くなって濁り、精気をまったく放っていない。
右目はもう見えていないのかもしれない。
近くにある泉からもれた泥水を飲み、ファミリアーで操った小動物にわずかばかりの野草等の食べ物を口に運ばせる。
後で聞いた話、そんなボロボロな状態で1ヶ月近くも何をしていたかといえば、帝国要人を操作して王国への降伏計画の打診等、戦争回避の手段を裏から講じておられたらしい。
「何をしておられるんですか!そんなお姿で!!」
「ア……リ……ス……カ」
あのお美しかった声すら枯れ果てて、言葉を出すことも出来ないぐらい憔悴しきっておられる。
『馬鹿だ、馬鹿だ。この人は馬鹿だ!』
涙が止まらない。
「今、誰か王国の者を呼んで参ります!」
人の姿を取れず、ネコの姿の私ではこの状態のご主人様を運ぶことも、介抱することもできない。
それにここは連合内地、未だ小競り合いを繰り広げる敵地だ。早く誰か助けを呼ばなければ!
『待て!!誰も呼ぶな!!』
私の頭にご主人様からの命令が念話で届く。
使い魔の私はそれに逆らえないで体が硬直する。
「なぜです!?」
『俺は、しばらく国には帰らない。俺のせいで姫をさらわれ、もう少しで帝国と王国が全面戦争になるところだった。
そんな俺がおめおめと「怪我したんで帰ってきました」もないだろう。
俺は父や王に合わせる顔が無い……』
「そんな!あれはご主人様のせいではありません!全て 『悪魔のせい……か?』」
「そうです!分かっておいでじゃないですか!さあ、意地をはらずに帰りましょう!!」
『違うんだよアリス……違うんだ。あれは悪魔のせいであって、俺のせいでもあるんだ』
「?」
『分からないだろうがそういうことなんだ』
「分かりません!
でもご主人様が今にも死にそうだって言うのは分かります。お願いですから助けを呼びに行かせてください!お願いですからっ!!」
『待てって、アリス。もうじき、いや、もうチョットなんだ……』
「なにがですか!」
もう訳がわからない。一体この上何を待てというのだ。
私が激情に駆られてさらにご主人様に詰め寄ろうとした時、ご主人様の体を黒い影のようなものがジワジワと覆っていく。
「闇!?」
そう、あの迷宮の闇……魔物を生み出す原始の時代からの謎の存在。
それがご主人様の体に、まるで動けない獲物を捕らえたかのように纏わり付く。
「ご主人様!?」
苦しそうに呻くご主人様。
しかし次の瞬間、ご主人様の髪の毛が黒く染まり、そして……。
「傷が…治っていく……これは!?ご主人様!魔力が戻ったんですか!?」
ご主人様はニヤリと笑い立ち上がる。
先程までとは違い、ご主人様の身体に精気が蘇るのが分かる。
手足の傷が完全に塞がり、ご主人様の気が洞窟に満ちる。
「俺は手に入れたぞ。悪魔達が使う、闇の力を手に入れたぞ!!!フハハハハハハハ!!」
そしてご主人様の周りから闇が消える。
白髪に、光る金色の隻眼。
右目だけは黒いまま戻らない。
「アリス!これが、失ってしまった魔力の代わりに、俺が手に入れた新しい力【ソロモン】だ!!」
私は生唾を飲み込み喉が鳴る。少し緊張しているのが分かる。あ、体の自由が戻っている。
「ソロモン……すごいですご主人様!ご主人様って本当に天才だったんですね!!」
私はご主人様の足元に駆け寄る。
「ん~と、実は偉そうに言ったがまだこの力の1%も使いこなせてないんだよね~。
だからさ、もうちょっとここで修行したいんだ。
完全に俺の力とするにはもう少し時間がかかるし、それにこの力は前の魔力みたいに自由に使えるものではないんだ……。
まあ、後それにこの奥におもしろいものも見つけたし。
というわけでこの力だけに頼れないんで、遅いけど今からでも剣の修行もしようかなって思ってる。
だからアリス、ここでチョット修行して、その後また2人で一緒に旅しないか?昔みたいにさ。今度は修行の旅!!」
「ええ、ご主人様。アリスはどこまでもお供いたしますわ」
『ご主人様が、前みたいに元気に笑って過ごされるのでしたら、何処まででもご一緒に……私のこの命が尽きるまで……』
余談ですが私が念話で話しかけてもご主人様が答えてくれなかったのは、私を呼べば王国の皆が付いて来ると思ったからでした。
きっと其れだけではなく、私が来たら、心が折れて泣き叫んでいる自分のお姿を見られたくなかったのかもしれません。
確かにそうですけど……私の気持ちも考えてください……本当に馬鹿です。
まあ私も人のことは言えませんが……あの月どうしましょうかね……。
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そして今、私達はバイクという乗り物に乗って連合国から逃げ出そうとしています。
何故って?
それは指名手配されているからです。ご主人様が……。
「参った参った。あの姫さんもうちの姫に負けず劣らずしつっこいね~」
「ご主人様、当然だと思いますけど?それに私は言いましたよ?ミーア姫が放してくれないって……それなのにノコノコ王宮にまで行って、王様にでもなりたかったんですか?」
「冗談!俺はまだ14だぜ!まだまだヤリたい盛り!!一所になんか落ち着いてられますかっての!」
そう言って私達が乗った乗り物は崖から飛び出す。
一面に見える水平線。ここは海。
この乗り物はもともと地面を走っているわけではないので、水面でも同じように走っていける。
「何処へ行かれるんですか?ご主人様。王国に帰るって言いませんでしたか?」
「帰るよ!取り合えず、直接王国への国境越えたらややこしいことになりそうだから、まずは竜人の国へ行こう!そして中立国、帝国、教国を周って王国に行こうかな?」
「ハアッ、先は長そうですね……」
私はフードを上げて潮風を浴びながら、これから待ち受けているであろうご主人様の女難の相に溜め息をつく。
子供の頃とは違って絶対女性達が放してくれませんよ?ご主人様。
今ご主人様がお口にされた行く先々で、まさしく口を開いて待っている女性達の顔を思い出して、私は肩をすくめる。
ご主人様が世界中で指名手配にならないよう祈ってます……。




