伝説の男?再び
キンキンと高い金属音が鳴り響き、俺は乗っていたバイクを降りる。
バイクと言っても前の世界のようなタイヤ付きではなく、数十センチ空中に浮かんで走る風の精霊の力を推進力としたホバーバイクのようなものだ。
俺のバイクにはサイドカーがつけてあり、そこには一人の少女が乗っている。
彼女は頭から黒い布を被り、サイドカー席に座ったまま降りようとしない。
俺はかまわずバイクを止めた先にある店の扉を開けて入る。
ここは連合国の中央付近に位置する広大な砂漠地帯。
砂漠、といっても荒野の砂漠地帯で、高い瓦礫の山と乾ききった大地、たまに生えているサボテンが色を添えるぐらいしか目に付くものが無い。
どうしてこんな辺鄙なところにいるかというと、ギルドからトップランカーの俺に「至急の依頼」があったからだ。
「翼人族の姫が誘拐された救助を求む」という確かに至急で、そこら辺の低ランカーには任せられない任務。
軍を派遣すればいい?確かにそうだ。
しかし無闇やたらと探せば良いってものじゃない。
この辺りは砂漠。誘拐したのも砂漠の盗賊達かもしれない。
街中は軍に任せ、外は信頼の置ける有能で情報に富んだ「冒険者」に依頼する。
賢い選択だ。
かも知れないとは誘拐しておきながら、未だに身代金等の要求が届かないからだ。
攫われてから1週間。流石に要求が届かないのはおかしい。
俺に依頼があったのは2日前、何処に居るかは既に見当が付いている。そしてその目的も……。
そんな訳で俺は今、目的地目指して砂漠を渡っている。
ここは寂れてはいるが、旅人の喉を癒す為にあるかのような酒場だけはある小さな村の一つ。
立て付けの悪い木製の開き戸を押しのけて中に入ると、柄の悪い連中が昼日中から酒を飲み屯しており、空気を濁している。
そんな連中を無視してカウンターに足を向けた俺は、マスターと思しきハゲ頭の男の前に腰を下ろす。
「ミルクを1杯。砂糖たっぷりで」
俺は声も低く銅貨を1枚カウンターに置いて注文する。
「「残念ながらうちには酒しか置いてない。帰んな」とあんたは言う」
「残念ながら……って分かってるならとっとと帰りやがれ!」
俺がマスターが言うであろうセリフを先読みすると、ハゲ頭を真っ赤にして怒るが、それも想定内。
俺はさらに後ろを振り向かずに言う。
「そして俺の背後に酔っ払った粗野な男が来て、「なんだ~ここはガキのくるところじゃね~んだよ。ミルクが欲しいなら帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」ってな」
俺の後ろに立って何かを喋ろうとした、酔っ払ったヒゲの大男が固まる。
「な、なんだ~てめえは気持ちの悪い野郎だな」
俺は座ったまま振り返り、男を見て笑う。
「当たってたか?」
男は顔を真っ赤にして怒り、腰の短剣を抜く。
「いい加減そのフードを取って顔を見せやがれ!とらね~ってんなら剥いてやっても良いんだぜ?」
男はナイフを舐める。
「フードね。目立つからあまり取りたくないんだが……それよりいつも思うんだがそうやってナイフを舐めるのってさ、ナイフにハチミツでも塗ってるのか?おいしい?」
「馬鹿にしやがって!!」
あっという間だった。
周りの仲間や店のマスターが止めに入る間も無く、酔っ払って激情した男はあっさりとフードを纏った男にナイフを突き立てる。
『ああ、やっちまった……』と誰もが思ったが、ナイフを片手に突っ込んだ男は、そのまま刺した男のマントに飲み込まれるようにして消えた。
辺りが一瞬静寂に包まれる。
「おおおおお、おい!てめ~ガンドルをどうした!?」
ヒゲ男の仲間と思しき男達が立ち上がり、消えた男の名前?を叫んで近づいてくる。
ただ、やはり怖いのか2~3歩離れた位置で止まり、それ以上近づこうとしない。
「別に、かなり酔っているようだったから外の空気でも吸いに行ったんじゃないか?」
「外だ?適当なことを言って……」
外から微かに先程のヒゲの男の声が聞こえる。
「お~~い誰か助けてくれ~」
仲間達は慌てて外に飛び出して行った。
「で?当然ミルクはあるんだろう?」
俺が振り返り、ハゲマスターに言うと、あたふたと奥の方に行き、10ℓは入っている大きなミルクのビンを持ってきた。
「砂糖も、だろ?」
再び走って取ってきたのは砂糖の入った革の袋。
俺は両方担いでその店を後にした。
代金は銅貨1枚……十分だろう。
「全くこの世界は「お客様は神様です」って言葉を知らん」
俺は憤慨しながら店を出てバイクに乗る。
サイドカーに乗っている少女にミルクと砂糖の入った袋を渡し、エンジンをつける。
店の前では、酒場の屋根の上の風見鶏に捕まって必死になって助けを請うている男を助けようと騒いでいる必死な男達がいた。
俺は無視してバイクを発進させる。
数秒でバイクは町を離れる。
「ミルクと砂糖だ。砂糖を口に含んでミルクを飲めばお前の欲しがっていたものになるだろう?」
そういってチラリと横を見る。
「おかわり」
「はあ!?」
俺は慌てて急ブレーキを掛けてバイクを止める。
横を見るとフードをした少女が口の端を袖でぬぐい、カラになったでかいミルクのビンを持っている。
砂糖の袋もいつの間にか空になっていた。
「おいおい……万国ビックリショーかよ」
(かなり古い表現ですいません。この人の中身がもう歳も歳なんで……)
俺は溜め息をついてバイクのハンドルに突っ伏する。
「次の街まで待ってくれ。大きな街に着いたらたらふく飲ませてやるからさ」
少女はビンと砂糖の入っていた袋をサイドカーから外にほる。
「ご主人様のものでもいいわよ?」
ペロリと口からピンク色の舌が出て、小さく可憐な唇を舐める。
「その冗談笑えね~。流石に君を満足させられる程持ち合わせてはおりません」『干乾びてしまうわ!』
俺は身震いしながら再びバイクを走らせ始めた。
早く目的地に着いてささっとクエストこなして街に帰らねば……俺が死んでしまう……。
------------------------------
荒野にある巨大な渓谷。
二つの月が照らし出す、巨大な谷の影の中。
その奥に隠された遺跡と巨大な神殿があった。
悪魔信仰を掲げる狂信者達の宴の地。
そこでは今サバトが開かれ、生贄が捧げられようとしていた。
一人の翼を生やした少女が猿轡をされた上、裸で鎖に繋がれ、石の祭壇に貼り付けられている。
その横に立つ黒いマントに黒い三角のフードを被った男が今、ナイフを横にいる信者から受け取り掲げる。
少女の目は大きく見開かれ、何かを叫んでいるが口を塞がれていては声になっていない。
祭壇の位置は遺跡の中央、少し高くなったピラミッドのような石造りの山の上にある。
高さはそれ程高くは無く、いいところ10m程だ。
「魔王よ、我らあなたのしもべたるもの達は、ここににっくき天使の命を捧げます」
そして意味不明の呪文を唱えた後、男はそのナイフを翼の生えた少女に振り下ろそうとする。
しかしすんでの所でナイフを持った男の右腕に金色のロープが絡みつき、その動きを止める。
金色のロープは祭壇の遥か下、祈りを捧げる信者達の中から伸びている。
「そこまでだ!」
上空から声が響き、祭壇の上にフード付きのマントを羽織った男が降り立つ。
「ミーア姫。ご無事ですか?」
男は裸の姫の上をまたぐ様に祭壇の上に立ち、少女を見下ろす。
少女、いやミーア姫の瞳が喜びの色に染まる。
「貴様!神聖な儀式を邪魔しおって!何者だ!!」
金色のロープで右腕を引っ張られながらも、儀式の中心人物と思われる男が聞いてくる。
「俺か?」
ミーア姫を拘束していた鎖が目に見えない力で弾け、契れ飛ぶ。
男は自由になった裸の姫を引き起こしてその腰に手を回し、猿轡を外しながら抱き寄せる。
ミーア姫の背中の白い翼が広がり、宝石のように輝く羽が辺りに舞う。
「あるときは歌姫、あるときは聖女………あれ?タンマ、チョット今の無し、おかしい、こんな時は過去の偉業をなした時の仮の姿を語るところだが……女の子の姿限定?あれ?それってただの変態じゃ……」
俺はその場で軽く落ち込む。
「ええい、どうでもいいわ!誰かこのロープをなんとかせい!」
フードを被った一人の信者の格好をした金色のロープを持つ小柄な者。
周りの信者が今更ながらハッと気がついて、取り押さえようとする。
しかしその手をするりと逃れた小柄な者は金色のロープを手繰り寄せる僅かな反動だけで10mもジャンプし、クルリと回転しながら祭壇の上にネコのように降り立つ。
被っていたフードが途中の空中で風に攫われ飛んでいく。
手繰り寄せて1本の金色の剣に戻った魔剣レーヴァテインを構え、メイド服を着た精霊、アリスがその姿を現す。
「この世に悪の栄えた試しなし!
愚かなる子羊達よ、私が冥土(メイド)に送ってさしあげますわ!!」
向上を述べてポーズを決める。
「お、俺の立場が……登場シーンが……ええい!!」
俺は羽織っていた黒いフードを毟り取るように脱ぎ捨て、アリスと二人でミーア姫を守るように立つ。
そして腰の後ろから左右に伸びた剣の柄を、両方の手を交差するように掴んで引き抜く。
月明かりに輝く真っ白な髪を斜めに流して片目を隠し、残った左目は金色に輝く。
紅のサーコートを羽織り、両方の手には逆手に持った禍々しいギザギザの刃の黒い剣が2本。
「俺の名前はアンブロシウス!悪魔信者共よ、地獄に行って魔王に伝えておけ!姫は必ず取り戻すとな!!」
「え?あの~わたしまだ生きてます。地獄に行ってませんけど?」
隣で裸のミーア姫が手で前を隠してモジモジしながら俺に疑問子を投げかけてくる。
「あ、違ってミーア姫のことじゃなくってあの…………俺の登場もうグダグダだ~~~!!」
俺の悲痛な叫び声が月明かりの渓谷に響き渡るのであった。




