世界の変革と鉄の巨人
-エレジア帝国-
険しい山々に囲まれた帝国は鉱物資源には富んでいるが、とにかく平地が少ない国であった。
帝国が保有する平地といえば、エレノア高地と呼ばれる山々に囲まれた盆地のような農耕地帯ただ一つ。
この農耕地帯で帝国の食料の約7割を生産していた。
ユーロン王国と戦争をすることになった理由も、平地や農耕地帯を自国の領地とする為であった。
そして運の悪いことに、この農耕地の真下にはドワーフの地下帝国真都ドンドルマがあった。
悪魔達の採掘、魔王の放った強力な魔力の為ドンドルマは崩壊し、当然その上にあった農耕地帯は壊滅状態に陥る。
この農耕地帯を失えば帝国の維持存続などできようはずも無く、帝国は完全に国としての形態を失うのは目に見えていた。
物資確保を外交手腕でどうにかなるような状態ではなく、それこそ天井知らずの財源がなければ明らかに不可能な程の損失で、残された手段は帝国の全戦力を持って領地獲得の為王国との最終戦争を行うか、王国に対して完全降伏の下、帝国という存在そのものを亡くしてしまうかどちらかの選択に迫られる。
当然帝国の王侯貴族達は自らの地位を失うことを畏れ、一部国を裏切り、亡命するものを除いて全面戦争を支持すると思われたが、驚くべきことに帝国はあっさりと1500年に及ぶ歴史に終止符を打った。
そう、王国に対して完全降伏という選択をしたのだ。
その様はまるで帝国要人達全てが神の手で操られているかのようであった、と後の賢人が語ることになる。
これには王国も驚いたが、教国の助けもあって、なんとか帝国を併合する条約制定に漕ぎ着けた。
現帝国王侯貴族のユーロン王国での身分の補償、帝国軍の一部反乱を鎮圧後、王国軍への再編成、教国聖職者の派遣による帝国国民の思想誘導等、様々な方策の末、無事王国と帝国は一つとなった。
これにより王国は大陸最大の巨大国家になり、南のソムネリア連合国は即時和平交渉を打診。
帝国崩壊より5年、皮肉にも悪魔の起こした災害により、この大陸より戦争というものが無くなった。
大陸にかつてない平穏が訪れたわけだが、その5年の間にも様々な他の問題が起こっている。
別に悪い意味の出来事が起こったわけではない。
幻の民エルフが再び大陸に精霊都市アヴァロンを地上に降ろし、人間との交流を打診してきたのだ。
エルフ達にとっても実に3000年ぶりの会合であった。
理由は物資の不足。
エルフ達は人口減少により滅びの一途を辿っていた。
しかし「あるもの」により、近年爆発的に人口が増え、元々の精霊都市周辺に浮かぶ農耕用の空中庭園では食料が不足してきたのだ。
交渉の末、帝国にできた巨大な農耕地の残骸のようなクレータに精霊都市を浮かばせ、その巨大な穴地を永遠にエルフの領地とする取り決めが決定する。
王国にとっても利用価値の無い土地であったので、様々な魔法の開示を条件にだしてくるエルフ達の旨い話に飛びついた訳だが。
しかし人間側はエルフ達の魔法力を見誤っていた。
なんと穴の開いた大地に精霊都市を下ろした後、地の精霊の力でエレノア高地を復活させてしまったのだ。
エレノア高地が復活し、当然埋もれていたドワーフ達の真都ドンドルマが地下に再び出現する。
そしてドワーフの地下帝国はもともと天然の洞窟では無いので、その大半を占めていた7階層ドンドルマが一時崩壊したことにより、そこにはびこっていた闇が消滅した。
そして闇が無くなりモンスターのいなくなった彼の地に、再びドワーフ達が故郷の真都復活の為に戻って来たのだ。
約800年ぶりの新大陸よりのドワーフの帰還。
当然王国に対してはドワーフの最先端技術の提供という条件がもたらされ、もともと迷宮であった地を失うことになんのデメリットもなかった王国は再びその条件を受諾する。
そして戦争もなく、完全なる安定を得た人間達はこの5年の歳月で、エルフ&ドワーフとの魔法及び技術により、未曾有の文明開化に突入する。
エルフの都市を浮かべていたエーテル石という精霊が尤も力を得ることの出来る物質を新エネルギーとした動力炉が開発され、ありとあらゆる生活形態が変革される。
まずは乗り物。そして町中を照らす灯り。エーテル製品と呼ばれるありとあらゆる生活必需品。
さらに精霊との簡易契約により、生活をサポートする程度ではあるが、殆どの人が精霊魔法を行使できるようになる。
その普及はすさまじく、古代ヨーロッパ時代から一足飛びに現代科学を飛び越え、未来世界のような様相を呈する事になってしまった。
空飛ぶ鉄の船が国と国の間を行き来する、といえばその発展の馬鹿馬鹿しさが分かってもらえるだろうか。
これが現在のユーロン王国いや、世界の現状だ。
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「あまりにも増えた多種族との交流を支援する為に、多種族連合というものが発足され、大陸最大の王国の三大貴族の娘であり、天才剣士であり天才魔法使い、そして美少女であるわたしが事務局長に選ばれたわけだ」
いやいや人を見る目がお有りだ。
「まあ仕事という仕事でも無いのだが、各地で起きる種族間の取り決めや抗争を把握し、王国や教国に解決を打診するという業務を行っている(部下が)。
実はわたしには別にこれといって仕事はない。
会議でも座ってニコニコしていれば勝手に議長が会議を進めてくれるしね。
まあ名誉会長のようなものだ!!」
「一体誰に話されているのですか?リーンお嬢様」
「ん~?手鏡に~。暇なんだよ~」
黒ことシン・シスがわたしの斜め前の机で、書類の束に埋もれながら聞いてくる。
ここは連合本部の会長室、つまりわたしの部屋だ。
これといってすることがない。
むやみやたらと豪勢な執務室。赤い絨毯が敷き詰められ、重さ何百キロあるかわからない豪勢な大理石の自分の机に鏡を置いて喋っていた。
わたしの今日の服装は白のカッターシャツに黒のミニスカート、白ののロングソックスに黒い靴とゼブラ風に白黒アレンジしてる。そして見逃せないのがこの絶対領域というもの!
ミニスカートとロングソックスのこのスキ間でわたしは男達を魅了して……いや、よく考えたら魅了されてこられてもわたしは5歳。
ある意味魅了されて来る人間はハッキリいって範疇外指定区域のイキモノ……。
まあこの服装、見た目可愛いから着替えるまでも無いか。
椅子の背もたれに体を預け、足をぶらぶらとする。
「ひ~ま~だ~~~~」
ああ、言い忘れていた。この間ドラゴンから取ってきた「命の花」を煎じてお母様に飲ませたところ、嘘のように元気になり、今では毎日ストレッチ運動等をしている。
別に太っているわけではないのだが、病気がちだった為に落ちた体力や筋力を戻す為だそうだ。
そこまで元気になるとは思わなかった。いいんだが……。
「お暇なら散歩にいかれてはどうですか?私は忙しいので変わりに他の者を護衛をお付けいたしますので」
「散歩に行くのに護衛なんかいらないよ~」
「いえいえ、万が一何かあっては、私が奥様や旦那様にお叱りを受けますので」
「はいはい。じゃ、そういうことで」
「あ、お嬢様!?」
わたしは執務室のバルコニーに通じる両開きの扉を開けると外に飛び出した。
「チョッチ走ってくるね~。護衛なんて監視役はいりませんから~」
そう、叫びながらバルコニーの手摺りを飛び越える。ここは地上15m程の三階建ての建物の三階にあるバルコニー。
勢いよく飛び出したわたしは、くるりと空中で前回りして噴水の見える連合本部の正面玄関の石の屋根に飛び降り、そのままさらにバック転して石畳の地上、玄関前に降り立つ。
「10っ点満点!!」
両手を挙げて一人でアクロバット選手(自分)を採点する。
『あ、しまったミニだった!?』
慌ててめくれ上がったスカートの裾を手で押さえる。
誰も見てないよね?周りを見渡す。正面玄関の入り口の奥。
扉の前に赤い服を着たガードマンが2人いたが、横を向いて見なかったことにしてくれている。
『お心遣いありがとう、バレバレですけど……』
赤面して固まっていると、騒がしい声が3階の方から聞こえてくる。
どうせわたしを追いかけろとか言ってるに違いない。
慌てて走り出す。
身体強化をして走るわたしにはどうせ普通のものでは追いつけない。
「さ~て何処に行こうかな~」
連合本部があるのは王国首都シバリーンの東。
わたしは既に本部の敷地から出て、街中を走っている。
所狭しと街中で浮かんで走るバイクや車、見上げると空には王国内及び教国や連合国を定期的に行き来する帆船のような船がいくつも飛んでいる。
賑やかな街中では携帯電話の様な機能を持つ魔石を片手に会話している人、浮かべた水の固まりに犬を乗せて散歩している人、炎の精霊を使った焼き鳥屋や氷の精霊を使ったアイスの屋台。
観ているだけで楽しくなってくる。
ああ、この世界って本当におもしろい。
しかしある路地の前を通りかかった時、突然にシャツの襟首を捕まえられて引っ張られる。
「キュウウ」
変な声がわたしの口から漏れ、吊り下げられて足が浮く。
「そんなに急いでどこに行く気ですか?この馬鹿弟子は」
「あ、あら師匠お久しぶりです~っていうか何するんですか突然!!」
わたしは首根っこを持って吊り下げられたネコ状態で挨拶をしながら怒る。
師匠は小さな眼鏡を左手でクイッと上げてわたしを睨む。今日の先生は赤い法衣ではなく、普段よく見る黒い神父服を着ている。
「だまりなさい。何をではありません。私も暇ではないんですから手間をかけさせないでください。まったくシュバルツめ、こちらも忙しいのに……」
「師匠、わたしも暇ではないんでお互い忙しいということで離してください」
「なるほど……」
「流石師匠分かっていただけましたか!」
「丁度仕事に出掛けるところで助手を一人連れて行こうと「辞退します!!」」
「話が早くて助かります。ではいきましょうか」
先生はわたしを肩に担ぐ。
わたしは手足をじたばたさせて抵抗する。
「いやだ離してください!?師匠と出掛けると碌な事がないんだから!!」
「それも修行の一つです」
「今わたしは社会勉強という名の修行中です!!だから離してください!!」
「屋台でヤキトリ買って食べようかな~?それともわたあめ買って食べようかな~?などの社会勉強はまた今度にしてください」
何故ばれた!それもわたしの物真似するのはやめてください。
「あなたはエスパーですか!?」
「リーン、あなたは鉄の巨人をご存知ですか?」
わたしは暴れるのも馬鹿な会話もやめて、真面目な顔になる。
「師匠降ろしてください。話は歩きながら聞きますから」
素直にわたしを降ろしてくれた先生はわたしを目的地に先導しながら、話し始める。
急いでいるらしいので、かなりの速さで二人で走りながらになった。
「一ヶ月程前、王国の南の街クレオに3体の鉄の巨人が現れて、街に壊滅的なダメージを与えました。
その後ノーバスやグルミト他、幾つもの街を襲撃し、王国のみならず、教国や連合国でも被害が出ています。
空から現れる鉄の巨人達が何処から来るか分かっていませんでしたが、捜索の網を広げていたところ、滅びの町リドマスの砦にその内の1体が潜伏しているとの情報が入りました」
「現在の状況は?」
「高速艇を飛ばせば1時間もあれば着きますので、王都の軍より先行部隊がいくつか向かかっているとのことです。
逃げられても困りますので、下手に手は出さないよう私の方から命令してはおりますが……どちらかと言えば軍の方が危険かもしれません」
「悪魔ですか?」
「それは分かりません。
ドワーフの伝承によれば鉄の巨人は我々の創生以前、旧古代文明時代の遺産らしいですが、全く動かし方が分からないので柱に封印されていたらしいのですが……。
アスール達は悪魔がそれを持っていくところを見たといっていますし、恐らくなんらかのかかわりがあるのでしょう」
「それで悪魔祓い(エクソシスト)の出番ですか?師匠」
目的地は軍の施設、飛行艇の発着場にわたし達は着いた。
「そうですね。そういう訳で私は急いで追わねばなりません。危険かもしれませんが着いてきますか?」
先程まで無理にでも連れて行こうとしてたのに一応了解を取ってくるあたり、本当に危険なのかもしれない。
しかしわたしは即答する。
「まっかせてください!!鉄の巨人?ドーンと来いです!」
わたしは天才美少女戦士。いや、それだと変身して月をバックにポーズをしなければならないから、天才美少女勇者と名乗ろうかな?
鉄の巨人=ロボット……。
昔、アニメオタクなショウちゃんからいろいろなアニメを見せてもらっていたわたしは、確かその中にそういった話があったこと思い出す。
確かあれはロボット相手に素手で戦っていたはず……なんというタイトルだっただろうか?
忘れたが、確か拳に変な紋章が現れて、ヒゲで中国人のような師匠と共にでっかいロボットと素手で戦っていたはず!
その主人公はたしか、「俺の拳がひねって唸る」と叫んで…いや畝る?だったか?まあどっちでもいい。
「わたしもやってやろうじゃないの!」
久しぶりにワクワクしながら師匠と一緒に高速艇に乗り込んだのだった。




