出現!新たなる転生者?
「いやあああああああああああああああああ」
私は走っていた。
人生でこれ程の走りを見せたことは一度も無いだろう。
もし、これが前の世界、そう、地球であったなら間違いなくオリンピックで金メダルを獲得できただろう。
私は前の世界では短距離ランナーだった。
それもとても優秀なランナー。
国体にも出て、将来は間違いなくオリンピックに出れるだろうと先生や周りの皆も思うくらい優秀なランナー。
その私が体感するこの速度は間違いなく、100mを2秒で走破できる程の早さがでているだろう。
いや、身体強化を使えばもっと早くなるのだろうが、とてもこれ以上の速さで地上に向かって走る気にはなれない。
というかこの速さでも地上に激突すれば無事ではすまないだろうが……。
「お嬢様、そのような声を上げては、はしたないですよ。淑女は如何なる時もおしとやかにあるべきです」
私のすぐ後ろを走る黒はいつもの様な涼しげな顔で私にお小言を言っている。
執事服に身を包み褐色の肌、黒い髪に黒い狼の耳を生やした獣人。
かなりの美形ではある……お小言がうるさいのを抜きにすればいい男なんだけどな~。
「そんな場合じゃな~~~~~~~~」
私の叫び声は最後の方が後方にすっ飛んでいく。
「そうじゃそうじゃ黒よ。そんなことを言ってる場合ではないぞ。このままでは儂らは死んで……」
私と黒の横を最後までセリフを言えずに通り越して落下していく白。
白い豪華な鎧に身を包み、マントを羽織ったヒゲの無いハーフドワーフのおじいさま。
途中までは一緒に走っていたのだが……諦めたらしい……。
実はここにはいないがもう一人、青というブルーメタリックの鎧の戦士がいる。
彼は元から走る気も無いようで、今頃は最上階で居眠りをこいているのだろう。
彼は不死。
例えこの塔がどうなろうと死ぬことは無い、と走ることもせずに「がんばれよ」といって見送ってくれた。
『あいつ、いえいえはしたない言い方だった、「あの者」は今日の晩御飯は抜き決定!!』
今私達が走っているのは「天空の塔」と呼ばれる高さ10kmにもなる成層圏まで届く程の高い塔の……壁面。
この塔には最上階にエレクタードラゴン(塔を建てしドラゴン)が住んでおり、その頭には一輪の花が咲くという。
私のお母様が元々体が強くない上、私を生んでますますお体を悪くされてしまった。
特にここ最近のお加減が悪く、兄の失踪を思い出しては臥せっておられる。
「私がいなくなっても寂しがらないでね。私はあなたのお兄さんのところに行くだけだから」等と私に弱音を吐くしまつ。
そこで私はいろいろな文献を調べたところ、そのドラゴンの頭に咲く花は死者をも蘇らすほどの力を持つ「命の花」であると書いてある書物を見つけた。
流石に個人的なことで軍を動かすことも出来ず、さっそく一人で取りに行こうとしたのだが……止められた。
まあ、そうだろう。
本当かどうかも分からないものを取りに一人で危険な迷宮になっている塔に、今や大陸一の巨大な王国の三大貴族の娘であり、多種族連合の事務総長にあたる私が単独で迷宮に挑む等許されるはずも無く……。
だけど私は負けなかった。
なんとか説得の末、私に着き従う伝説級の四人の者達を連れて行くならと納得させた。
しかし思ったよりも大変だった。
なにせ建てた者の呪いがかかっているこの塔では一切の魔法が使えない。
この塔が立っている地上ですらこの塔を中心に半径10km程は殆ど魔法が使えない。
その上ドラゴンの頭の花を咲かす条件が翼のないドラゴンを塔から離すこと……それも四足歩行だし……何という無理ゲー。
魔法も使わずに重さ何十トンもあるドラゴンを浮かすなんて……というかこの本書いたの誰だ?神様か?
そこで考えたのが塔を倒すという手段。
どういう原理なのか塔は飛び出した崖の上に垂直に建っている。
崖を上手いこと崩せば塔も倒れる。
見事作戦は成功し、空中に投げ出されたドラゴンの頭の花を私は手に入れたのだ……が、帰りのことを考えていなかった……。
ああ、ちなみに塔を倒してから、倒れたドラゴンを取りに行くのは無しね。
ドラゴンが死んでも花が咲いてるか分からないし、花が潰れては意味が無いからね。
傾いていく塔……。
「は、走れ~~~~~!」
私達は塔の中にある迷宮の階段を走って降りてる場合ではなく、塔から飛び出し、仕方なく壁面を走ることにした。
斜めに傾いているのでなんとか落下、ではなく足が壁面に着くので走れるが……と、回想終了。
地上が見えてきた。
倒れる塔の根元、飛び出した崖の先には一つの赤い人影が見える。
ファミリアーでの合図(今回の作戦の為に掛けさしてもらった)で塔を倒してくれた最後のメンバー赤。
赤い法衣を身に纏った懐かしい黒髪黒目に小さな眼鏡を掛け、十字架のような剣を持つ悪魔祓い(エクソシスト)にして我が師匠。
ちなみに塔の崖を崩したのは師匠が火をつけた火薬だ。
ドワーフ達の技術の向上は目覚しく、数年前に発明されたものだ。
まあ今の世界の発展からすれば既に時代遅れの過去のものになりつつあるが……。
『あ、そこで思い出した飛行艇、いや、ここじゃ飛行船用意しとけばよかった~~~~』と思っても後の祭り。
どんどんと地面が近づいてくる。
『こうなったら仕方ない都合のいいことに私の胸から膝にかけてはプレートの鎧。それも魔法の掛かった綿のように軽いこの防具は地面に擦った程度では壊れない。
お尻には流石にプレート入ってないから(もともと入りません)、取れる手段は一つ!』
「地面と塔の角度は160度程しかない!いける!!
秘技、前からスライディーーーーーーング!!!」
塔から崖の地面に向かって勢いよくジャンプ。私は体を地面と水平にする。
「防御」
何故か師匠が私に防御の魔法をすれ違いざま掛けてくれる。
『魔法が使えないんじゃ!? 』
驚き叫ぶ間も無く私と地面がドッキング。
飛び出した崖の地面は丁度ひらけた道が森の方に続いており、私は勢いよく土煙を上げながら腹ばいでスライディングしていく。
防御魔法を掛けてもらったおかげか、体に死ぬほどの甚大な痛みは襲って来ない。
しかしそれでもある程度の痛みとその衝撃は、確実に私の胸を襲い、ガリガリと地面をプレートが擦れてその振動が伝わってくる。
100m程滑ってなんとか生きて着地成功!しかし……。
「胸が~胸が~~~~~~!?」
ブレストプレートを付けてるとはいえ、地面をこれ程派手に胸からスライディングしては私の胸がおろし金でこすったようにジンジンと痛む。
「もとから無いから大丈夫でしょ?」
身体強化を施した訳でもないが、私の耳にとんでもないセリフが聞こえてくる(世にこれを地獄耳という)。
「おい!」
私は次の瞬間音よりも早く師匠の後ろに立つ。
「いくら師匠でも今のは聞き流せないわよ!」
私の手には先が二又に分かれた神槍ロンギヌス。
何処から取り出したって?ナ・イ・ショ。
「まあまあ、お嬢様。彼の口が悪いのは今に始まったわけでも無し、無事だったんですから、先ずはお礼を言わなければいけませんよ」
シュバルツが風の魔法を使ってふわりと私の横に降りてくる。
「魔法……(やっぱり)使えるの?」
「どうやらそのようですね。足の速いお嬢様が私より先にいってくれたおかげです。
彼が魔法を掛けてるのを見て使ってみたら、なんとか使えました」
「へえ、何自分だけ助かっ……、って待て待て、待って!?
なら防御魔法じゃなくて風魔法掛けてくれれば良かったんじゃない!!」
「いやだ、面倒くさい」
私は師匠の胸倉を掴む。
「あんたね~」
「まあまあ、生きとったんじゃし、それぐらいにしとけ嬢ちゃん」
アルブムが地面から生えるように現れる。
土の精霊魔法だ。
「良かった、無事だったの」
私はホッとする。
「今完全に儂のこと忘れ取ったじゃろ?」
ギクッ、痛いところを……はい、完全に忘れてました……。
私は師匠の服を離し、テヘッと舌を出しながら笑う。
「まったく、まあ儂も精霊の声が聞こえたんでな。咄嗟に魔法を使ったら使えたんで地面に魔法を掛けて何とか助かったわい」
「常に心を冷静にして精霊の言葉に耳を傾けろ、と普段から言ってるだろう。
焦って自滅するのがお前の悪い癖だ。
だいたい今回の作戦も脱出について……」
ウッ、今まで私が攻めてたのに、何故か師匠のお説教が始まってしまった。
それからその場で1時間近く正座させられ、私は助かった上クエスト成功+無事を祝い合う事も無く、お説教を食らう羽目になりました……。
ちなみに魔法が使えるようになったのは塔が崖、というか地面から離れた時点で使えるようになったそうです、はい。
遅れましたが私の名前はリーン。
リーン=マキシス(5歳)。
母の血を濃く受け継いでおり、その髪の色は金色、そして何故か瞳の色も金色(ありえない)。
途轍もない美少女!(みたいです。どうでもいいけど)。
0歳にして言葉を喋り、僅か3歳にして魔法と剣を免許皆伝まで習得し、持てる知識と誰のものか分からない多種族の方々に受けるカリスマ(?)で、5歳にして多種族連合事務総長などをさせていただいてます。
といっても役職なんて飾りですけど(某MSの足と一緒です)。
5歳と言っても見た目は14歳くらいには見えます。
何故か私はすごく成長が早く、僅か5歳にして身長150cm。そこそこ胸もあります(ここ重要)。
もともとの年齢が2……いえ、そこそこ若かったですが、魂の形に引っ張られているのでしょうか?。
そう、私は転生者です。
この月が2つもある、とんでもなく魔法文明が進んだ世界(星)に生まれ変わりました。
前の世界に未練は全くありません。
何せ前の世界は……悪魔に滅ぼされたのですから……。




