日常 その2
俺は夢を見ていた……。
昔の夢……。
俺がまだ18才、高校生の山田金次郎だった頃の……。
「おばちゃん、何時もの大盛りね」
俺は懐かしい黒の学ランを着て、懐かしい学生食堂でいつもの昼飯を注文する。
優等生とは程遠い俺は学ランの前をとめず、よれたシャツも第二ボタンまで外してラフな格好をしている。
学ランを着ているのは単に冬なので寒いからだ。
アンブロシウスとは違い、この頃の俺の顔はワイルドだ。
ザンバラな髪に三白眼と言ってもいい形の細い眼と小さな眼球。
細面の顔に少し高い鼻。
この顔、いや目つきのおかげで今まで一体どれだけのいかつい野郎共に絡まれたか憶えていない。
それこそ毎日のように喧嘩三昧……全て穏便にお帰り願ったが。
おかげで最近ではめったに俺に喧嘩を売る奴なんかいない。
学生服が黒いのもあってか俺の眼が怖いのもあったのか、いつの間にやら悪魔なんて呼ばれる始末。
「ジロー。こっちこっち」
「お、いつもすまね~」
俺は大盛りカレーを片手にスプーンを咥えて俺を呼ぶ男の方の席に移動する。
優等生よろしく首のカラーまでとめたチョット茶髪のクウォーターの美形の男。こいつの名前は草薙ショウ。俺を怖がらない数少ない同学年の俺の友人だ。
取ってくれてあった4人がけの机、ショウの正面の席に座る。
「ジロー。スプーンを咥えて歩かない!いつも言ってるでしょう?」
俺の隣に座り、サンドイッチを片手に俺を怒るのは黒いセーラー服に白のカーディガンを羽織ったアキラ。
俺の近所に住んでいる一応幼馴染で、1年生にして全学年のアイドルトップをぶっちぎりで獲得した短い黒髪の美少女、光路アキラ。
本人は人気等気にしてはおらず、今は陸上の記録の方が気になる全国でも指折りの短距離ランナーだ。
「へいへい」
こいつも昔と変わらず俺に接してくれる。
ありがたい説教を俺は全く気にせずカレーを口にする。
まあ、俺から喧嘩を売ったことは殆ど無いから単に皆が怖がって近づかないだけで、おれ自身あんまり昔と変わってはいないんだが。
『ウマウマ』
ここの学食のカレーは天下一品だ。俺はこれを食う為だけに学校に来てるといっても過言ではない。
なんせ家ではじいさんと二人暮らし、出る料理といったら精進料理のようなものばかりで洋風(?)なものを口にすることが無い。
まあ、事故で死んじまった両親の変わりに育ててくれてるんだから文句を言ったら罰が当たる。
じいさんの年金だけの生活じゃあそれ程暮らしも楽じゃないしな。
「ねえ、食後に皆で屋上に行かない?」
「屋上?」
「実は私クッキーを焼いてきたの。屋上で食べようよ」
俺はショウと目を合わせる。
「イタタタタ突然に腹痛が……」
「カレー食べながらそれ言うのやめてくれる?」
ショウは普通にAセットを食べてながらおもむろに懐から薬のビンを取り出す。
心ここにあらずといった表情でビンの蓋を開け、ドレッシングのようにご飯に乗せて食べる。
「ショウ!胃薬はおかずじゃないんだから水で飲みなさいよ!」
天はニ物を与えず。
アキラの料理は壊滅的なダメージを周りに与える。
美少女の作ったものだからどんなものでもおいしいって?
ハハハハハハハハハハハハハハハハハ食べてから言ってみろ。
前に食べた時はショウと二人そろって1ヶ月入院した。
プロレスラーのような男にボディーブローを受けて3日程尻の穴から血が出たが可愛いもんだ。
こいつの料理を食べたら尻の穴から魂が出たわ。
最近はそれに懲りて料理等と口にすることも無かったのに……何があった?
「もう、冗談よ!お母さんが焼いたの!「ジロー達にも」っていうから誘ったのよ!傷つくわ~」
「傷つくわ~じゃね~よ。今俺達はお前の冗談で命の危機を感じたわい!」
「じゃあいらないのね?」
俺は食堂の床に土下座する。
「いります!地元の三ツ星職人といわれるアキラ様のお母様のクッキーをこの愚か者に食べさせてください!」
アキラの母はケーキ屋を営んでいる。
とんでもなくおいしいケーキはいくつもの雑誌に取り上げられているほどだ。そのお方が焼いたクッキー、そう洋菓子。
普段甘味料を使ったお菓子など口に出来ない貧乏な私目には天上の果実。
いただきましょう絶対に。プライドを捨ててでも。
「うむ、よかろう。苦しゅうないおもてを上げて、三遍回って、私はアキラ様のしもべです一生付いていきますと言え」
「ハハーッ」
俺はその場で回ろうとする。
「冗談よ、冗談!一緒に食べましょう」
アキラは笑って俺の肩を叩く。
『ああ、天使様がここにいる』
「それぐらいにしない?かなり目立ってるよ僕達……」
周りでは俺達をよけるように遠目に眺める学生達。
ショウが胃薬を更にダイレクトに口にほりこみ、ボリボリ食べながら言う。
お前って本当に精神的に胃腸弱いな……。
食事を終えた俺達は3人そろって予定通りに屋上に向かう。
いつもの昼休みなら学生達で賑やかな雰囲気の屋上も今日は何だか様子が違った。
及びでない野郎共がたむろして、屋上の扉を開けて入ってきた俺達を睨む。
「ここは貸しきりだ。どっかいきな」
下っ端Aが俺達に睨みを利かしながら近づいてくる。
「何が貸きりよ!ここは皆の憩いの場でしょ!あなた達こそ出て行きなさいよ!」
アキラが全く空気を読まずに反論する。
「やめなよ。アキラちゃん行こうよ」
胃に手を当てながら青い顔でアキラの肩に手をやり、諌めようとするショウ。
でももう遅いよな~啖呵切っちゃったし……。
「あんだと~こら!」
下っ端Aが更に凶悪そうな顔になりアキラに向かってくる。
「よしな」
俺が仕方ないと下っ端Aとアキラの間に割って入ろうとしたとき、下っ端Aの後ろから声がかかる。
「え?大門さん。しかしこいつら」
「やめろといっている」
下っ端Aに睨みを利かしながらこちらに向かってゆっくりと歩いてくるのは180cm以上はあろうかという巨漢。
「金のじ、か」
「ああ、なんだスケさんか」
男の名は大門輔三郎。
俺と同じく古風な名前で俺のじいさんが昔やっていた空手道場の門下生だった男だ。
「久しぶりだな元気だったか?」
「まあな。てか同じ学校同じ学年で会わない方がおかしかったんだがどこか行ってたのか?」
「全国武者終業の旅だ」
「さいですか」
俺は半ば呆れながらあいづちをうつ。
こいつならありえる。何せ世界最強などと子供の頃から目指し、小学生でありながら山の中に熊を倒しに出掛けて本当に倒してきた伝説を持つ男だ。
こいつの背にはその時の熊の爪痕がまだ残っているはずだ。
まあ正直、眉唾物のその話が真実であるのを伝えたのは俺だ。
何故ならその時俺も付き合わされて、血を流しすぎて動けなくなったこいつを担いで山から降りてきたのが俺なんだから……。
「おい、行くぞ!」
大門は他の野郎共に声を掛け屋上から出て行こうとする。
「でも、この生意気な野郎らは!」
しつこい下っ端Aはまだ食い下がろうとするが、
「バカやろう!こいつは俺の命の恩人にして俺の師匠だ!
それにお前らが何人束になったところでこいつに勝てるかよ!
「悪魔の金さん」を知らないわけじゃないだろうが?」
「悪魔の……あ~~~!?こいつ!?」
俺が睨む。
「いえ、このお方は確かに「悪魔の金さん」であらせられる」
敬語にしようとしてるのかも知れないが普段使わない言葉使いしようとするから完全におかしいぞ、お前。
「金さんと呼ぶな!!俺の背中に桜吹雪は無い!お前もだ!」
俺は大門を指差して言う。
「わかったわかった」
大門はゾロゾロと金魚の糞のように不良共を連れて屋上から去っていった。
「なんか、お芝居見てるみたいだったね~」
「だね~」
いつの間にかアキラとショウが離れた場所で屋上に備え付けられたベンチに座り、こともあろうに俺のクッキーを二人で食べていた。
「おまえら!?」
俺は慌てて駆け寄る。
「残念。これが最後の一つでした」
アキラはそう言うと俺の目の前で手にした最後のクッキーを口にほり込む。
「アムアム、おいし~~~♪」
幸せそうに最後の1個をほおばるアキラ。
「嘘だろ……この悪魔~~~~~~!」
俺の地を裂くような叫び声が屋上に木霊した。
懐かしい夢を見た……。
そう言えばこの後アキラに一生下僕でかまいませんからと誓ってクッキーをもう一度お母様に作ってもらい、頂いたのだが……。
『あれ?何か忘れてるような……10年がどうとかって誓って……。完全に忘れたな、元の体(脳)だったなら魔力で記憶検索できるが、この体じゃ覚えてる以上の記憶はな~。まあいいか』
俺は布団の中で伸びをする。
その勢いで布団がめくれる。
横を見るとスヤスヤと幸せそうな寝顔のアリ……スじゃない!?
「姫!?
なんでここに!?それもまた裸!?」
よく見ると俺も裸だった。なんかデジャヴュ。
「ンン~」
悩ましい声で姫が寝返りをうつ。
姫の胸には巨大な2つのプリンが形を崩さず重力に逆らってプルンプルン上向いて振動してますが!?
「あ、おは~よ~」
姫が目を覚まし、寝ぼけた目で俺を見つめる。
どうやら刀を持っていないようだ。
「おは~よ~じゃないです!前隠してください!前!?」
俺は叫ぶ。
俺が目をつぶるか、後ろを向くという選択肢は無い。
それは無理だ。
「前?」
姫、いやアーネは自分の胸を見下ろす。
俺達は最近自我がしっかりしてきた彼女のことを「アーネ」と呼ぶことにした。
アーネットに成りきれていないから短くしてアーネ。
まあ、ただの愛称になってるがな。
アーネは慌てて両手で胸を隠すが、大きすぎて手じゃほとんど隠れてませんから……。
「あ、アンブロお兄ちゃんのエッチ~。
またおそわれっちゃったんだね~。もうお嫁さんにしてもらうしかないよね~」
『お兄ちゃん!?それに「また」ってなんだ!?俺は襲った記憶なぞ……あれ?
なんかひっかかる……。
それに俺もさっきアーネ(姫)の裸見て「また」って叫んでたような……さて?』
アーネはこの2年近くでかなり流暢に喋るようになった。
もともとの年齢に近づこうとしているのか、普通よりも早く精神が成長している。
憶測だが今は14歳くらいにはなっているような気がする。
恥じらいを憶えた感じからして姫よりもよほど女性らしい。
俺はなんとなく気恥ずかしくなり、視線を外してしまう。
外した先、ベッドの足元の方で別の視線とバッチリ目が合う。
二つの頭と二つのネコミミ、4つの目……。
「何をしてるんですか?アリス、それと母」
「オホホホホ、何って、ねえアリスちゃん」
「いえいえ、それはもうお母様ホホホ」
アリスと母の側には何故かベビーベッドにベビーカー、その上に積まれた山程の新品の産着やオムツ……。
母は立ち上がり、真面目な顔で俺の横に来て肩に手を置く。
「アンブロシウス。私は孫が欲しいの。それも女の子の。解ってくれる?」
「わかるか~~~~!俺はまだ9歳だ!」
もうじき10歳だが……。
「反抗期なの!?お母さんどうすれば」
「お母様。このアリスがなんとかいたします。
ええ、そしてアンブロシウスお坊ちゃんには元気で可愛い女の子を産んでもらいますわ!」
「俺が産むの!?」
「さあ、お坊ちゃん。
私が調教……コホン、もとい、教育したアーネ様との間に可愛い孫を!
ああ、作り方ならご心配には及びません。
お坊ちゃまにはわたしが暗示中に覚えていただいた48の技を思い出していただければいいだけのこと。
さあ、私の目を見てください!」
「冗談じゃない!?」
俺のウィルス検索は毎日お昼の空腹時に発動する。
つまり逆に言えばそれまでは洗脳され放題とも言える。
その間に子作り命令なぞされたら……。
俺は真っ青になって部屋から飛び出す。
「待ちなさ~~い」
「ま~~て~~~」
アリスとアーネが俺を追いかけてくる。
「い~や~!おかされる~~誰か私を助けて~~~」
あ、女言葉になっちゃった。
-後日談-
始めオムツやベビーベッドなど俺をからかう為に冗談で買って来たのかと思っていたら、本当は母が“おめでた”だった。
最近生命力が溢れてきたと思ったらそういうことだったんですか……「母は強し!」だな。
生まれてくるのは妹か弟か、少し楽しみだ。




