聖誕祭
聖誕祭を祝う教主による聖典の布教活動のような説法と祝いの挨拶等が無事に済み、祭りの始まりとなる。
豪華な白い法衣に身を包んだ教主は、下品にならない程度の色とりどりの宝石があしらわれている大きな白いバルーンのような帽子を被っている。
こういうことを考えると無礼なのかもしれないが、私の父とは違い、同じヒゲ面で年は老いていてもかなり上品な顔立ちをしているなと思う。
滞りなく開幕の式典は終わり、そこで人々は催しを見る為に宮殿の前の大広場から移動し、催しの行われる会場へと足を運ぶ。
毎年であればこの広場で行われる催しも、今年は幻獣の歌姫の用意した湖に浮かぶ巨大な競技場のような建物で行われることになっている。
ドワーフ印の建物なので安心だと説明し、半年掛けて了承は得ている。
実物は見せられないので、確認に来た役人には幻術でお帰り願った。
何故ならこの建物はドワーフの建築力とエルフの魔法によって、僅か1週間で魔法のように建てられたものだからだ。
魔獣数千匹で運んだ資材、人員はこの為であった。
真都パンドラから物資と共に聖都近くの人目の少ない湖の畔に運び、建て始め、2日前俺達がここに来ると同時に水の精霊の力で本物をここまで運んできた。
聖都から会場までの大きな橋はこの2日で仕上げている。
実際建てた者達は「死ぬかと思った」「人使い、いや獣人(&ドワーフ&エルフ)使いが荒すぎる」とかなり憤っていたという。
まあエルフやドワーフ達には申し分けないが、獣人たちにとってはかなりの文明開化がなされたと思われる。
この1年というもの、真都パンドラでエルフの魔法を覚え、ドワーフの建築術を学び、私からも歌等を教わった。
これだけの知識と技術があれば、少しはこれからの人間との共存生活が始まった時に役に立つだろう。
教国各地の街に設置された巨大な水晶にも、祝辞の儀式からこの会場に映像が切り替わり、こちら状況が映し出される。
ラヴァーロに潰される心配がなくなったので、空を飛ぶ鳥達にもファミリアーを掛け、その眼に映るこの会場を逐一映像化させて送信している。
鳥達は地上だけでなく、空からも自由自在に撮影してくれる優秀なカメラマンなのだ。
まずは挨拶。
この会場を用意した「俺」がすることになり、滞りなく行われる。
挨拶のときの俺の衣装は、いつもより豪華な白に金の刺繍を施したコートを羽織り、清潔な白いシャツに真っ白なズボンだ。
競技場に設けられた10万人を収容できる客席は埋まり、衛兵に守られた貴族や教主様達のために設置された豪華な桟敷席に向かって、笑顔を振りまきながら祝辞を述べるのはかなりのプレッシャーだった。
しかしそれも無事に終わり俺は退場する、そしてすぐさま本番。
誕生際催しの開幕は「私」の歌で始まる。
競技場の中心に設けられたステージの真ん中が開いて、中から私を乗せた床が競り上がり、私は歌を詠いながら昇ってくる。
純白のドレスに身を包み、花の冠を黄金の髪の中にちりばめ、銀色に光るアクセサリー類が光を放ち、金色の瞳がそれらを束ねる。
感嘆の溜め息があちらこちらで漏れる。
それと同時に色とりどりの光の精霊が競技場を取り巻くように光り輝き、鳥のような風精霊達が飛び交う。
私の姿を模した炎の精霊が会場の空中を踊り、空飛ぶ水の花が咲き乱れ、さながら夢の世界にでも迷い込んだかのように人々は感動に胸を震わす。
ドワーフの技術とエルフの魔法、精霊達の力によるこの世界で誰も見たことが無いような派手な演出が人々の心を捉える。
そして私の歌がそれに加わり、さらに人々を幻想の世界に誘う。
私が歌うのは自愛の歌。
至高神ナーブル・ワンズの教えを受ける教国の人々にも馴染みのある聖典の一説から少し引用した歌。
不敬と取られなければよいが、まあこの様子からはそんな事もないと思われる。
教主や貴族、人々が私の歌に酔いしれる。
魂に響く歌とでも言うのか、人々の目には涙が伝う。
夢のような時間がしばし続く……。
だが、歌が最後のサビに入ったときにそれは起こった。
一人の男が貴族の席からステージの真ん中に降り立ち、私の前に立ちはだかる。
歌が止み、人々の心が夢から覚めて何事が起こったのかとステージに注目する。
「何をしておるか!ラヴァーロ男爵!気でもふれたか!」
貴族達から怒りの声が上がる。
そう、私の前に降り立ったのは神官ラヴァーロ。
人々はざわめき、事の次第を見守る。
教主も夢のような時間を潰されて怒りを覚えているのか、椅子から立ち上がり、聖誕祭の催しを邪魔する不届きな男に怒りの眼を向けている。
「衛兵!何をしておる早くあやつをつまみ出せ!」
教主がたまらず貴族達よりも先に衛兵に命令してしまう。
「「「ハッ!」」」
衛兵達がその命令に従い、貴族達の守りを最低限残して、ステージに向かう。
「カカカカカカカカカカ愚かなる人間どもよ、皆死ぬがいい!」
ラヴァーロが声高らかに笑い狂う。
彼の体がものすごい勢いで膨れ上がり、巨大な黒いアメーバーの様な姿になる。
顔のあった部分にはフクロウのような白いマスクが生え、体中から狼のようなキバの映えた触手が無数に伸びて私を含め、四方八方に襲い掛かる。
誰もが歌姫の死を予感した。
その時、歌姫の前に降り立つ3つの影。
一人は、二本の長い角を生やしたフルフェイスのマスクにメタルブルーの全身鎧、巨大な大剣を片手に持った蒼。
一人は、一本の長い角を生やしたフルフェイスのマスクにメタルレッドの全身鎧、腰の黒鞘の刀に手を添えている紅。
一人は、真っ白なドレスに身を包み、長く白い髪に透き通るような肌の美女。手には先端が花のようになった銀色の杖を持つ白。
その頭には狼耳は見えない。
ヴァイスやシンは獣人であるので、人間の前に出る時は耳だけを隠す簡易な幻術を施して行動しているからだ。
「あれは俺達の村を救ってくださった蒼の剛騎士アスール様だ」「あちらは私達の街を救ってくださった紅の柔騎士ルージュ様よ」「儂達の街を救ってくださった白の重魔術師ヴァイス様もおる!」
地方より来た観客や、各所に設置したモニター水晶の前で人々の口に3人の事が話題にのぼる。
巨大な剣を振り抜き、何本もの触手を叩き斬る蒼。
さながら蒼い竜巻のように辺りのステージごと触手を破壊していく。
チチチチチという音と共に見えない斬撃繰り出し、黒い刃の刀で触手を切り裂く紅。
これが北の帝国か南の連合国ならこの音や戦い方で、戦争当時を思い出し震え上がり怒り狂う者達もいたかも知れない。
ただ、幸か不幸かルージュことナイチンゲールは西の戦線に配置されたことが無かった。
故にこの地ではナイチンゲールは知ってはいてもどんな戦い方をするのか知るものはほとんどいないし、彼女の手による被害者もその家族もいなかった。
体の周りにある銀の輪が紋章を描き、歌姫と自分を囲み守る白。
そして花のような銀色の錫杖を掲げて呪文を唱え出す。
彼女の呪文が唱え終わると襲いかかる触手達が氷の柱になって崩れ落ちる。
はじめ、これは派手な演出だと思ったに違いない。
あまりにも現実離れした出来事が目の前で起こると、人は自分の思考の範囲で物事を決め付けようと脳が働く。
単純で、しかも一番自分に害の無い出来事に思ってしまうのだ。
しかし無造作に襲い掛かる触手が客席に牙を向いたとき、それが演出等では無いことに気が付く
「守りの防御魔法をもっと強くかけろ!」「「はい」」」
観客席に襲い掛かった触手は人々を傷つける前に、予め客に混じっていたエルフ達が風の防御結界を張り、各所で防いでいる。
ようやくこれが演出ではないことに気が付いたのか、人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。
衛兵達も恐怖のあまりステージに近づけないでいる。
そこで、私は再び歌い始める。
喉を強化し、魔力のこもった私の歌はそんな状態の人々の心にすら届く。
私が詠い始めたのは「勇気の歌」。
その歌に込められた思いが人々の心に響く。
『人よ負けるな、これはあなた達の闘いだ。
私が付いている。
人よ闘え。
自分達で傷つけあうのではなく、本当の敵が誰であるかを見極めよ。
自らの心に問え、自らの良心に従え、流されること無く。
勇気を出せ!
子供達の未来のためにも!!』
逃げ惑っていた人々は次第にその場に立ち止まり、逃げずに闘いを繰り広げているステージに眼を向ける。
自分達を守るために、世界を守るために闘う戦士達の姿をその眼に刻む為に。
まるでこの闘いの行く末が、人の未来であるかのように人々は固唾を呑んで見つめる。
白に金の刺繍を施したコートを羽織った「俺」は、教主がいる席に姿を現す。
ステージを見ると歌を詠い続けている「私」がいる。
教主は椅子にもたれかかり、まるで椅子から滑り落ちたような体制で固まっていた。周りの貴族や衛兵達も同様にあまりのことに動けないでいる。
「お初にお目にかかります教主様」
俺は極上の笑みを浮かべ頭をたれる。
「これはどうなっておるのだ。歌姫が二人?」
目の前で繰り広げられる悪魔との戦いに、まだ怯えているようだ。
「教主様あれが悪魔です。
あの男は教主様たちに掛かっている呪い(ファミリアー)を解いたのではありませんか?」
「何故呪いの事を知っておる!?それは極秘事項だ!!」
それはそうだろう、教主他国の重要人物が操られていたとなると冗談ではない話だからな。俺は微笑みながら話す。
「それは罠です。
悪魔は教主様達に取り入る為に、自らが掛けた呪いを解いたに過ぎません。
この国に病を流行らせ、皆の心を貧困からの戦いに借り出したのは彼ら悪魔の仕業なのですから」
「あれも悪魔の所業だったと?」
「はい。
私はその時もこの国に、天より使わされたのですよ?」
『神様、もういろいろと嘘一杯でごめんなさい』
俺は心の中で懺悔する。
「金色の瞳……。そなたはあの黄金の聖女……黄金の天使様であられたのか!?」
『黄金の天使……チョコ○ールの金の天使を思い出すな。ああ、久しぶりに食べたいな』
そんなことを一瞬思っていながら、そんな素振りも見せずに肯定するかのようににっこりと微笑む。
「さあ、手を」
教主の手をとり、この場にいる人々に、そしてモニターの水晶の向こうにいる人々全てに映像を送りながら俺は語りかける。
「この国に住まう全ての人々よ。お聞きください!
我らが神ナーブル・ワンズ様はおっしゃりました。
この地を悪魔が狙っていると!
されど恐れることはありません!!
今こそこの大地に住まう全ての生きとし生ける者達が手を取り合い、悪魔達に立ち向かうのです!
私はその為に天より教主様の元に使わされたのですから!!」
『さ~て、そろそろ魔人には退出してもらおうか』
俺は教主を立たせてから手を離し、脚力を強化し、空高く舞い上がる。
「ヴァーミリオン!」
俺の手の中にメタリックオレンジに光り輝くヴァーミリオンが現れる。
「ヴァーミリオン・スターダスト!!」
魔人アンドラスに無数のヴァーミリオンが襲い掛かり、貫く。
といっても高速で投げては戻しを繰り返しているだけなのだが、端から見れば早すぎて残像が無数の剣となって襲い掛かったように見える。
これがヴァーミリオンの使い方だ。
使う場所が限られる為、使い所が難しい武器だ。
「おのれ!?馬鹿な、こんなことが~~~!?」
魔剣で無数に体中に穴を開けられては流石の魔人も断末魔の叫び声を上げながら崩れていく……。
と言っても姫の黒雪で斬られまくって、魔力を殆ど失っていなければ、これでも死ななかったかも知れないが。
俺は劇場の真っ只中に降り立つ。
俺の周りには蒼、紅、白、そしていつの間にか元の姿に戻った黒が来る。
一瞬の静寂が場を支配するが、次の瞬間人々の歓声が巻き起こった。
だが俺は人々の歓声を制し、語り始める。
「私は神よりこの世界を救うために天より遣わされたと言いましたが、その証拠に、こちらにおりますのが」
俺は蒼を手を向けて紹介する。
「天より共に駆けつけましたる英雄王ウォーレン・ガーランド様!」
蒼は兜を取る。
ざわめく人々。各地に絵画や彫像もあり、この教国の聖書にすら載っている古代の王。
彼を知らないものを探すほうが難しい。
「そして共に手を携え、世界の為、共に悪魔と戦う為にこの国を救うために使わされた王国の第1王女アーネット・リード様!」
紅は兜を取る。
そう、ルージュとは姫だったのだ!
はい?知ってたって?まあ、ね……。
「そしてこちらに居られるのは獣人族の姫、レイア・ルー・モアス様!」
幻術を解き、白い狼の耳をピコピコと動かし微笑む白。
俺は桟敷席にいる教主を振り返り、手を差し伸べるように掲げる。
「教主様、我々と共に力を合わせ、悪魔達と闘ってはいただけませんか?」
それは広く隣国や獣人達と手を結ぶということ。
それを数多くの国民が見ている前で教主に誓わせようというのだ。
ここで誓い、もしその約を違えることがあれば、まさしく神を裏切る行為になると全ての国民は思うだろう。
教主は桟敷席に繋がる階段を降りて、ステージにいる俺の前に立つ。
そして教主は両膝を着き、俺の手を優しく包み込むように手に取る。
「黄金の聖女、神の使いよ。私を含む教国全てのものがあなたと共に歩むことを至高神ナーブル・ワンズに誓います」
今このとき、歴史的な一幕を教国の人々は目にした。
巻き起こる大歓声が教国全土に響き渡る。
こうして長い長い教国における俺の闘いは幕を閉じた……。
『ご主人様~いつからわたしの術が解けてたんですか?
まさか昨晩のゴニョゴニョ……』
アリスことノワールが念話で話しかけてくる。
『さ~て、いつからかな~?
それよりも、言っておくが俺にはもうお前の暗示は掛からないからな。
今回のことについて、お前とは家に帰って落ち着いてから、じ~~~~~~っくり話し合おうな!』
俺は今回のことを教訓に、脳の中に記憶のバックUPといつも決まった時間におかしなところが無いかチェックする魔力回路を設けた。
そう、ウィルス対策を施したのだ。これで安心安心大明神と(意味不明)。
『にゃ~~~~~~~!?』
アリスの顔色が白から青を通り越してまさしく黒に変わっていた。
~エピローグ~
それから一ケ月と経たずに、教国と獣人族、そして王国との平和条約は滞りなく行われた。
奴隷制度を廃止し、人員不足は相手の了承の元、雇用契約への切り替えが完了する。当然法整備も整える。
王国の豊富な物資の格安販売により、教国は今まで以上の安定を取り戻し、しばし安息の日々が訪れることとなる。
今、俺は家に帰ってきている。
しかし、今だ髪型は戻っていない……。
何をしているかと言うと……
「ねえねえ、ご主人様~こっちはどう?」
「いや、こっちの服のほうがいいだろう?」
「いえいえ、やはりこちらの赤いドレスの方が私はいいと思うの」
姫とアリスの俺への「男の娘」扱いはまだ続いていた。
最悪なことに俺の母を巻き込んでだ……。
「はあもう、アリスちゃんには感謝だわ~。
私、実は娘が欲しかったのよね~。それなのにこの子ったら。男の子とはいえ折角可愛い顔に生んであげたのに、いっつも変な髪型にして!
でもやっとオシャレに目覚めてくれて、念願叶ってお母さん嬉しいわ!」
母はハンカチを眼に当てて嬉し涙を流しながら俺に向かって微笑む。
『すいませんね、いっつもムサイ頭してて……』
俺は母には逆らえない。例えどのような仕打ちを受けたとしても……だ。
クッ、卑怯だぞアリス!
『「誰か助けて~~~~~」』
俺の声にならない声が屋敷に木霊する、そんな日々がまだまだ続くのであった……。




