聖都メサイア
-教国聖都メサイア-
教国は国土の殆どが森林地帯だが、残りの殆どがさらにこの大陸1大きい湖で占められている。
湖の名はトーナダイレ。
その湖を囲むようにいくつもの都市が発展し、そこから伸びる川に沿ってさらにいくつもの街が連なり教国は形成されている。
聖都もその湖の西側の畔に存在する。
聖誕祭2日前にゆっくりと到着したリーン一行は、そこでアスールと合流し、エルフとドワーフ、獣人達は聖誕祭の催し用ステージの用意に現在奔走している。
私はというと何故か国賓扱いのようで、到着すると同時に聖都の役人に伴われ、用意された高級宿に案内されてそこに泊まっている。
そして、聖誕祭当日の朝を迎える。
ここは高級宿にあるリーンの部屋。
『何故このものたちはここにいるのだろう?』
朝、起きたら何故か私のベッドの上で、皆が裸で寝ている。
皆というのはルージュ、ヴァイス、ノワールの3人。
『寝相の悪いことだ。布団を間違えたのかな?』
皆、何故かスヤスヤではなくツヤツヤと満たされた幸せそうな寝顔をしている。
そうして気が付く。
『何故私も裸!?』
寝る前にはきちんと夜着を着ていたはずだったのに……「?」……「?」……「?」……。
裸のルージュの下に私の夜着を発見するが、
『取れない……』
ルージュの胸はとても大きい。
私の夜着は彼女の大きな胸の谷間にしっかりと握り締められている。
自分の胸を見る……。
何故か溜め息。
『男の娘ってなんだろう?』
男でも女でもないというのなら、せめて胸が欲しい。
エルフやドワーフなどは特徴がハッキリしていていい。
モグラのおじいさまは別にして……。
(「クシュン。なんか寒気が走った。風邪か?」注:地下都市よりハーフドワーフのじいさんでした)
まあ気にしても仕方が無い。
密集して寝ていた為、寝汗なのだろうか、体中がベタベタする。
あまりにひどかったので、私は彼女らを起こさないようにソッとベッドを離れ、シャワーを浴びる。
シャワーを浴びてスッキリしたので、着替えた私は思わずいつもの白いコートを羽織って外に飛び出してしまう。
宿では朝食が用意してあるだろうに悪いことをしたなと思う。
今日は聖誕祭。
その為か朝から街中の喧騒がすごい。
今日のいでたちは白のホットパンツに薄いゆったりとしたピンクのシャツ、それにコートを羽織っている。
なんだろうこのワクワクとした落ち着かない気分は……。
作戦最終日だからとかそういう事ではなく……そうか、これはあれだ。
祭りや運動会というものの朝の落ち着かない気分か。
よく聞けば街のあちらこちらで花火か爆竹のような音も聞こえる。
当然か今日は聖誕祭、祭りなんだからあたりまえか。
何故か上機嫌の私は数多く出ている屋台の一つでホットドッグのようなものを買い、それを朝食にすることとする。
人ごみの中で食べるのもあれなので、それを持って聖都の敷地内の中でも少し小高い丘のようになった住宅地の方に足を運び、聖都を高いところから一望しながら食べることにする。
『この辺りでいいかな』
住宅街への坂の途中にある石の手摺にもたれかかり、聖都を見渡しながらさっき買ったホットドックのようなものを口にする。
「リーン様こんなところにおられましたか、捜しましたよ」
「ンンッ。シ、シン・シスか」
胸を叩く。突然後ろから声を掛けられ、もうチョットで喉を詰まらせるところだった。
飲み物も買って来れば良かった。
彼が言うには部屋に行ったらルージュ達がいるだけで私の姿が無く、探し回ったとのこと。
何分目立つ容姿のため、直ぐにこっちの方にいると分かったらしいが。
「あのもの達にはいかな罰を与えましょう?」
どうやらルージュ達のことを言っているようだ。
「寝相が悪かっただけで、罰は必要無いわ」
困ったような顔をして不承不承、承諾するシン。
何か、かなり思う所があるような顔をこちらに向けている。
「あの、もしや黄金の聖女様ではございませんか?」
シン・シスの後ろの方から一人の男が歩いてきて、私に声を掛ける。
黒い司祭服を着て小さな眼鏡を掛け、まだそこそこ若い男性。
懐かしい黒髪に黒い瞳。
だが、神父なのに腰には十字の柄の長剣を下げている。
シン・シスに負けず劣らずかなりの色男だ。
「やはりその金の瞳、間違いない。
覚えておられないでしょうが、疫病の折、地方の小さな教会で一緒に治療にあたっていたものでヘルズ・ミッドガルドと申します」
私は魔力操作で記憶を検索する。
「憶えています。確かニサーラの村の教会でお会いしましたね」
私は微笑む。
「よく憶えておられますね」
彼は一瞬かなり驚いたようだが、その後一人で何か納得したように微笑む。
「天使様なんですから当然ですかね。あなたのことはこの国では伝説となっておりますよ」
「天使?」
「はい。もうあれから5年近くになりますか。
あの当時疫病に苦しめられていた人々を疫病にかかることも恐れず、汚れた人々に手を差し伸べ、何の報酬も受けず魔法で街の者達を次々と癒し、そして一つの街を癒し終わったと見るや歩けば十日程かかる次の街にその日の内に現れ、また同じように人々を救う。
そんなあなたの御姿は、500年ぶりに聖書の新たな章として書き加えられたくらいですからね」
教国が落ち着きを取り戻したとき、役目を終えたかのように姿を消したてしまった彼女(?)を「天使だ」「神の使いだ」と皆は口々に言い、信じた。
あらゆる街から人々が教会を通じてその伝説を聖書に書き記すことを望み、ありえない早さで実現されたのであった。
彼が言うには、彼も私のことを始めは小さな男の子かと思ったが、患者に接するにあたり髪を後ろで結い、顕になった顔を見て少女だとわかり。そして、その瞳の色は金。天使以外の何者でもないとその時思ったそうだ。
(アンブロシウス曰く、「顔を見せたくは無いが、清潔にする為仕方なく髪をくくった。人命には代えられない」だそうだが。)
「黄金の聖女」……そんな二つ名のようなものが付いていたとは……。
各街で私を推薦してもらう為直接歌を聞いてもらいに行ったときに、どうりで皆の反応がおかしかった訳だ。
やけにすんなりと了承してくれたのも気になっていた。
私が聖女であると思いながらも、口に出さないところを見ると反面疫病のような凶兆があるのか疑っていたのかもしれない。
実はこの容姿から10年以上前に引退した母の事を覚えているファンがいて、私の歌を聴いて娘と思って協力してくれているのかと思っていたのだが……。
まあ、一部本当にそれもあるのだろうが「黄金の聖女」とは……。
「私はこの上の教会で神父をしているのですが、どうですか?お茶でも」
先程喉を詰まらせそうになったのを見られていたのかもしれない。
手に持った食べかけのパンを後ろに隠し、少し赤面する。
彼の言う教会とは教主のいるような聖殿ではなく、聖都各所に設けられてあるものの一つだろう。
聖都は広く、街中の至る所に教会が設けられてあり、人々が何時でも祈れるようになっている。
「リーン様」
シン・シスが私に目配せをする。
『わかっている』
「いえ、私は今日の祭典で歌を詠わねばなりませんので、時間が余りありません。申し訳ないですが、また次の機会に立ち寄らせていただきます」
「そう……ですか」
神父は微笑む。
「そういえば今は幻獣の歌姫と名乗っておられるのですね」
祭典で歌を披露するのは歌姫と気が付いたのだろう。
『そんな二つ名も名乗った覚えはないのだけど……』
握手をして私は神父と別れた。
気になったのは握手をした彼の手が歴戦のそれだったことか……。
*************
時間を少し遡る。
リーン達一行が聖都に到着した日の夜のこと。
ここは神官ラヴォーロの屋敷の一室。
そう、ファミリアーを解除してくれた男の館だ。
ラヴァーロは2日後に開かれる祭典の為の業務を帰ってからも自室の机でランプを灯し、遅くまでしていた。
「結構真面目なんだ」
「誰だ!?」
背後に突然人の気配。ラヴァーロは立ち上がり振り向く。
彼ともあろうものが全く気が付かなかった。突然そこに現れたかのように……。
「誰と言われると、あなたが捜している者というべきかな?」
そこには白いコートを着た一人の少女がいた。
ランプの光だけの部屋の為、少女の顔ははっきりとは見えないが、薄暗がりの闇の中でその金色の瞳だけが輝いている。
「お前は……そうか、お前だったのか」
ラヴァーロは教国中に放った使い魔を徹底的に潰してくれた。要人だけではなく、彼が眼にするあらゆる使い魔を殺す。
そして人のいない処でラヴァーロは本当の姿をさらし、使い魔を食いながら彼は使い魔を操っている私に向かってこう言ったのだ。
「出て来い、来なければこの国は私のものだ」とね。
「お望みどおりに来たよ。で、どうするの?」
「お前には我が王の下に来てもらう」
ラヴァーロの中から何かおぞましいものが溢れ、膨れ上がるように感じられる。
しかし次の瞬間少女の姿が消える。
「何!?」
ラヴァーロの背後から首元にオレンジの光を放つ剣が当てられる。
「まさか!?人が転移魔法を使うというのか!?」
「違うよ。ただ、私は少し他の人より早く動けるだけ……」
「魔人である私の目でも捉えられぬ速さというのか……」
「魔人?悪魔じゃないの?」
「あんな下等な者達と一緒にしないでもらおう。
我らは闇より生まれしかりそめの存在などではなく、身に持った強大な魔力を使い転生せし肉体を得た悪魔。
「魔人」なのだ」
「へ~、それは私の中にある7万冊の本にも書いてなかったな~。
まあそんな事より、実は私のお願いを聞いてもらいたいから姿を見せたんだけど?」
「お願いだと?そんな剣一つで私をどうにかできるとでも?」
ラヴァーロはクククと笑う。
少女はかまわず話す。
「私が指定する場所、時に私達と戦って欲しいの。
もし聞いてもらえるなら約束するわ、私はお前達の王に必ず会うと。例え…あなたに勝ってもね。
でないと私は姿をくらますわよ?お前達では私を捉えることは一生できないかもね」
少女は自信満々に微笑む。
ラヴァーロは悩む。先程の速さを見せられては流石に少女の言うことが本当に思えてしまう。
「……分かったお前の案を受け入れよう。
但し、私と契約をしてもらう。それが条件だ」
「契約?」
「呪いと言っても良いな。万に一つも無いだろうが、発動条件は私が死ぬこと、そして解除条件は我が王に会うことだ。
もしこの呪いが発動すれば呪いはお前ではなく、お前の血に繋がる者に死の呪いが掛かる」
「それが罠でないという保証は?」
呪いを掛けておいて約束を違われてはたまらない。
「我の本当の名。魔人アンドラスの名に掛けて誓おう」
前に倒した悪魔ベイモルドの狂った目とは違い、この者の眼からは種としての存在に「誇り」すら感じる。
このものの言うように彼らはモンスターとしての悪魔ではなく、魔人と言う種族なのだろうか?
「分かったわ、掛ければいい。
どうせあなた達の王には一度は会わねばと思っていたところだしね」
父と母の姿が一瞬頭の中をよぎるが、ここで断れば計画が狂う可能性がある。
もしそうなれば戦争が起きるのを止められないかもしれない。
それだけは避けなければならない。
契約か……。
呪いであれば私の全魔力を使えば解除出来ないことはないだろうが、契約となると……。
少女は剣を引き、ラヴァーロの前に立つ。
ラヴァーロはそこで初めて少女の顔をハッキリと確認する。
美しく流れるようなプロチナブロンドの肩まであるストレートの髪、以下略。
「催しを取りまとめている者から話には聞いている。噂の幻獣の歌姫だったか」
「幻獣のかどうかは知らないけど、催しでは歌うわね。それで戦う日時と場所なんだけど……」
ラヴァーロはどうせ彼女自身が彼の王の前に来ればこの国の事などどうでも良いのだろう。
彼女の案を、「それも良かろう」と受け入れる。
「今宵が満月であるから、もし私が死ぬようなことがあれば、契約は約一月後の満月の夜に発動する。 それまでに王に会いに行け。場所は……」
ラヴァーロの手の平から紫の紋章のようなものが浮かび上がり、少女の手の甲に張り付き、消える。
「契約成立だ」
「話は変わるけど、私はあなたを前に帝国で見たことがあるような気がするのだけど?
姿は違うようだけど雰囲気というか……」
「私は帝国ではヴォードと名乗っていたことがある」
『ああ、そうか。それで納得した。これでこいつを倒すことになんの気兼ねもいらない……』
-ヴォード男爵-
帝国の戦術指南という役職についていて、王国からさらった人々を洗脳し、兵として使った中心的人物。
姫の心を壊す原因となった男……。
その当時は姫のことを知らなかったのだが、かなりの危険思想の持ち主だったので、帝国の内部をファミリアーでかき回したときに、この男の禁止薬物等の不正取引を暴露し排除させてもらったのだが……。
まさかこんな所で姿を変えていたとはな、ファミリアーでも捜せないはずだ……。
「俺」は来たときと同じように、神官ラヴォーロの前から姿を消した。




