オ・フ・ロの巻
アソロの父が経営する高級宿は正しくお城のような豪華な宿だった。俺達は元々ここに泊まる予定だったが竜神族の城でここ数日を過ごしていたため、そういえばチェックインすら済ましていなかった。だが、必ず来るはず、いや連れ込む予定でアソロが俺達がチェックインをせずとも予定の部屋を空けてくれていた。良かったのか悪かったのか。
まあ、おかげで風呂にも入れるしよしとする。
さっそく部屋から浴衣のようなものとタオルをもって大浴場へ。あれ?今普通に皆で部屋に入り、部屋から一緒に大浴場に向かっているが、よく考えたら部屋1つ?
ま、まあ気にしないでおこう。
俺と姫とアリスは大浴場入り口に着く。アソロは先に用事を済ませてから来るという。
入り口の暖簾に「男湯」と「女湯」の文字が書いてある。
「じゃあ、ここで」
俺は迷わず一人で男湯のほうに入ろうとする。
「待て!」
「へ?」
姫が顔を近づけてくる。クンと鼻を鳴らす。
「汗クサッ!」
鼻を押さえて姫が叫ぶ。
「お前何時から頭を洗ってない!」
「ん~?」
俺は考える。1~3~5日?
「なんで洗わないんだ!?そういえばお前、今日1日海にすら頭をつけていなかったな!」
姫が鬼の形相で記憶を辿る。
「いいんだよ!俺はこのボサボサ頭でいいんだ!!水に浸かったら髪形変わっちゃうじゃないですか!」
「貴様、洗わぬ気か!今日は一緒の部屋で寝るのだぞ。そんな頭で私と同じ部屋など許されん!!」
「姫様フレフレ~!もっと言ってやってください!」
アリスが姫の肩を持つ。
「いつも頭の上に乗ってる私の身になってよね!」
成程、至極御尤もな御意見です。
「こい!私が洗ってやる!」
「え?やめて下さいよ姫!そっちは女湯です!俺は男ですよ!」
「毛が生えてもおらぬものを男とは言わぬ」
『グッ、痛いところを!当たってるが……』
しかし俺はハタと気がつく。
「ん?っていうか何処で見たんですよ!?」
「勘だ!」
さらりととんでもないことを言う。
「勘だけで勝手なこと言わないでくださいよ!」
しかし俺は女湯に引っ張っていかれた。
「いや、本当にマズイですって~姫~~!?」
ここは女湯の脱衣所。俺は何故か半笑い。顔がニヤけるのを押さえられない。
『入ってしまった……。
え、俺どうする?どうしたらいいの?ねえ神様。これって許されるの?俺が八歳だから?子供だから?』
俺は鼻から血の涙を流す。
『男の人生の夢が叶った。我が人生に一片の悔い無し!八歳でよかった。神よ、俺がこの日この時八歳であることに感謝いたします』
「さって、風呂に入りますか」
脱衣場には残念ながら(?)姫とアリスしかいないので未練は無い。
俺は意気揚々と、腰にタオルをしっかり巻いて、スキップしながらフロへの扉を開ける。
「た~のも~~」
カッポーン(女風呂そして何故か鹿威しの音。)
皆さん、お風呂は豪華です。
天井は遥か高みにあり、曇りガラスが張ってあります。
所々に南国を思わす木々が、でかい岩と共に植えており、さらに奥には巨大な竜の石造の口からお湯が煌々と湧き出し、でかい風呂に満たしています。
だけど……、誰も入っていません。
俺はその場で崩れ落ちる。
「なぜだ~~~!?」
頭の中の記録を検索する。
ありました。
貴族達は豪華な浴槽をわざわざ自分の屋敷からこっちに運んでこさせ、自分の部屋で入る。
この世界では古代ローマ帝国みたいに大衆浴場に入ってお互いに肌を他人にさらしたりしないということだった。
『そうだよね、ここって一応貴族中心の娯楽施設だもんね。誰も入ってるわけ……いや、待てよ。なら何故ここが存在する?
あ!?今は時間が早いからあれだけど、貴族達が連れてきているメイドさんとかが、主人が休んでから入るんじゃ……』
「姫。やっぱりフロに入るのは後にしませんか?それか後でもう一回入りに来るとか」
「私は、今だけ、入る!」
区切って言わなくても良いじゃないですか……。
「そう……ですよね……シクシク」
残念ながら後で一人で来て女湯に入る度胸は俺には無かった……。
ちなみに俺の前でタオルを右手で肩にかけ、平然と裸で仁王立ちをしている姫。左手には黒雪(黒雪は鉄ではないので錆びません)。
そしてその後ろでタオルで前を隠し、少し恥ずかしそうにしているアリス。
『姫。あんたネコ以下だよ』
その後頭を洗うことでひと悶着あった。
俺の頭を勝手に洗おうとする姫の手から何とか逃れ、俺は自分で洗ってすぐさま火の精霊で頭を乾かし、何時ものボサボサ頭に戻る。
「よし!綺麗にはなった!」
これでいいだろっと姫に見せ、俺は湯船に向かう。
大きなフロの真ん中には女神の彫像があり、彫像が手にもった瓶からも湯が出ている。
「ふう。いい湯だ」
頭に絞ったタオルを乗せ、女神像に向かって頭をぬらさないように平泳ぎで近づく。
『あれ?』
煙ではっきりと見えないが女神像の後ろに人影が見える。
姫とアリスは……後ろを振り向くと2人はまだ体を洗っている。
「誰かいるの?」
俺はつい不躾にも声を掛けてしまう。
「ハヒッ!?」
煙の中から一人の女性が勢いよく立ち上がる。
何故か彼女は俺の前で大事な部分を一切隠さず、両方の手で耳を押さえていた。
「あれ?ティアさん?」
そこにいたのはエルフのティア・ルーン・ミラーン(?歳)さんだった。
そう、精霊都市で俺とアソロ達を出迎えてくれたあのエルフだ。
両手を耳に当て、その腕の隙間を縫うように美しい銀色の髪が濡れて輝く水滴の付いた白い体に張り付き、切れ長の緋色の瞳を命一杯驚きに広げて俺を見る。
『綺麗だな~』
俺は念願の女風呂で女性の裸を見たが、エルフの美しさに感動の方が勝ってしまった。
「アンブロシウス…様?」
「ヨッ、久しぶり」
俺は声を掛ける。
彼女は俺が本物のアンブロシウスだと解ってホッして耳から手を下ろす。現れるエルフ耳。
そして自分の体を見下ろし、ここが風呂で自分が裸なのを思い出した。
「キ.」
「き?」
「キャアアアアアッ」
彼女は顔を真っ赤にして後ろを向いて湯の中にしゃがみ込んだ。
長いエルフ耳の耳たぶまで真っ赤だ。
「ここは女湯ですよ!?」
アリスと姫が何事かとこっちを振り向く。
「なになに?」「な~に~?(←姫は体洗ってるので刀もってません)」
「なんでもないよ、知り合いがいただけ」
俺が声を掛けると関心を失ったのかアリスと姫は自分の体を洗う作業に戻る。
「ほら、俺って子供だから」
俺はエヘヘと笑いながらティアさんに子供であることをアピールする。
「嘘言わないでください!あなたが子供なわけないでしょう!私達と同じで見た目と年齢が合ってない。そうでしょう?」
『するどいね~』
俺はそこから離れるために、風呂の中で立ち上がる。
「あ、ごめんなさい。やっぱり人間なんだから。そんなことないわよね。子供…だもんね」
ティアさんは突然に俺が子供であると理解してくれる。
俺はティアさんのチラチラ見ている視線の先、自分の体を見下ろす。
タオルは頭の上……。
「キャアアアアア」
風呂場には俺の悲鳴が轟いた。
『もう、お婿にいけません』




